『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第百三十七話

「おい琉希、ユズ、次はどこ行くんだよ」

「私もう疲れたよー、なんでセラちゃんそんな元気なのー? 沢山買ったしもう今日は解散にしようよー」

「そうですねー……?」

 

 炎天下の中、三人の少女の(かしま)しい会話が響く。

 

 

 稲神(いながみ)セラと南条柚葉(なんじょうゆずは)は琉希の友人だ。

 性格は全く違うのだが高校に入ってすぐ、不思議と意気投合しよく付き合う仲となった。

 セラは少し荒っぽい性格だが気遣いが出来、柚葉は何にもとらわれない自由さが良い。

 

 ありゃ、あれは……?

 

 はてさて解散するかと悩んでいた泉都の瞳に、金髪の少女が店先に並ぶプラスチックのちゃちな椅子に腰かけているのが映る。

 彼女の顔はスマホに向かっているようで、どこか虚ろで焦点がはっきりしていない。

 

 あれはフォリアちゃんですね、間違いありません。

 それにしてもどこか……落ち込んでいるような……? いえ、落ち込んでいるというより、戸惑い……?

 

 泉都琉希は適当な性格だと思われがちだが、その実案外周りの感情などを機敏に察し動く人間だ。

 

 幼い頃から彼女は母の手一つで育てられた、よくある片親の家庭。

 母親はいつも明るく振舞っていたが、琉希が部屋から離れれば笑顔が剥がれ、その裏に暗いものを浮かべていることに気付いていた。

 だからだろう、突飛な子供の思考は斜め四十五度の放物線を描き、母親を明るくさせようと思いつく限りの変な行動へ駆り立てた。

 

 何もないところでわざと躓いてみたり、変な踊りを踊って見たり、雨の中をスライディングしながら歌ったり。

 今思えば躓くというのはハラハラさせただけではないかと思うが、当時は自分なりに出来ることをしていたつもりであった。

 そして最初は母のために振舞っていたものが自分の性格として定着し、今に至る。

 

 琉希としてはそれで誰かが笑ってくれればそれでいいし、小ばかにされるでもそれはそれで話題になるので問題はない。

 時としてその性格を嫌われることもあったが、今のところこれをやめるつもりは毛頭なかった。

 

 唯一の欠点といえば、ふざけて転ぶのを繰り返していると、何もないところで本当に躓いてしまいやすくなったことくらいだろう。

 

 あれはちょっと放っておけませんね……!

 

 熱い使命感が琉希の胸に宿る。

 

「あ゛、私用事が今できちゃいました!!」

 

 そう、暗い顔を浮かべた彼女へ絡みに行かないといけないという、とても大切な用事が。

 

「出来たんじゃなくて思い出しただろ、お前また誰かの約束すっぽかしたんじゃねえだろうな」

「ち、違いますよ!」

「どもってんじゃねえか」

 

 妙に厳しいセラの突っ込み。

 誰の約束破ったんだ? と追及を掛ける彼女のシャツをぴんと引っ張り、柚葉がつかれた、早く帰ろうと彼女を急かし始めた。

 

 偶然一致した二人の無駄な連携に、我が強いと自負するセラもたじたじとなってしまう。

 

「助かりました! ユズナイスです! 今度ゆず味のアイスを奢ってあげましょう!」

「私酸っぱいのきらいー、バターアイス食べたいー」

「何の話してんだよお前ら」

「琉希ちゃん早く行っちゃっていいよー、セラも帰ろー?」

「おいユズ服が伸びるだろうが! そんなガシガシ引っ張んじゃねえよ! わーったわーった! じゃあな琉希」

 

 ふぃ、なんとか撒くことが出来ましたね!

 

 

 タンブラーから響く、風鈴にも似た氷の崩れる音。

 

 気が付けば太陽の位置も随分とずれ、先ほどまで身を覆っていたパラソルの影が背後に回っていた。

 真夏の昼間に外で一人アイスティーを飲んでいるのは私ぐらいで、自分が何もせずぼうっとしていたことに気付いて、タンブラーの中身を一気に飲み干す。

 

「んーーっ」

 

 一気に冷たいものを飲み干したからか、キーンと締め付ける頭痛。

 

 このタンブラーという物はすごい。

 金属でできているのに、真夏の外にいても全く中身が融けないし、周りがびちゃびちゃになったりもしなかった。

 まるで魔法だ、一つ欲しい。

 

「あ、もう昼か」

 

 二時間も経ってたんだ……

 

 画面に映し出された時刻は記憶の時間から随分と跳んでいて、自分が全く面白いとも思っていないアプリのゲームを無意識に、延々と遊んでいたことに驚く。

 昨日筋肉に帰れと言われてからずっとこんな感じだ、もやもやとした気分とどう表せばいいのか分からない現状、記憶の齟齬もあって何をしたら良いのやら。

 

 突然何日か休めと言われても、何をしたらいいのか。

 

 昨日は結局何かすることも思い浮かばず、自分のステータスを眺めて何となくポチポチしてしまい、『アイテムボックス』のレベルを10まで上げてしまったところで慌てて閉じてしまった。

 

 することもないし、あてもなく町でも散策しようかと立ち上がった瞬間。

 

「おっすおっす! こんなところで奇遇ですねフォリアちゃん!」

「ぐべっ」

 

 大量の紙袋に押しつぶされた。

 

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