『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第百四十八話

「以前の大規模な消滅がおよそ一年前、フォリアちゃん、貴女はきっとこの一年以内になにか特異な体験をしているはずよ」

 

彼女の人差し指がビシッと私に向く。

 

 うーん、一年以内か。

 一年以内に変わったことがなかったかと言われれば、勿論ある。

 しかし特に探索者になってから半年、本当に色々なことがあったので、特定のどれだとかびしっと言い切れるかと言われれば、なかなか難しい。

 

 

 ふむ、こういう時は総当たりで行くべきだろう。

 最初から一つ一つ上げていくか。

 

「じゃあまず最初に……えーと、学校生活は普通……ではなかったけど、特異って程のことはなかったし、やっぱり探索者になってからかなぁ。その、なんというか……一回死んで生き返った」

「絶対それじゃねえか!」

「それ以外あり得ないわ!」

 

 さあ吐けと肩を掴まれ揺さぶられる。

 二人して間違いないと口をそろえるが、しかし私的にはちょっと違う気がしているのだ。

 

「でも私以外にも死んで生き返ったのもう一人知ってる。昨日あったばっかだけど、特にロシアの消滅について何も言ってこなかった。もし覚えてたら絶対なんか言ってくると思う」

 

 そう、泉都琉希。

 彼女も一度私の目の前で真っ二つになり、なんか復活していた人間の一人だ。

 

 思えばあの時琉希は下半身が生えてきたんだよね……もしそのシーン見てたらトラウマになっていたかもしれない。

 いや目の前で血まみれの真っ二つになったのも結構衝撃映像だったけどさ。

 う、あの黄色い脂肪の纏わりついた断面は……あああ、思い出すのやめとこ。

 

 勝手に思い出して気分の悪くなる私をよそに、筋肉は話を勝手に進めていく。

 

「ほう、他にもいたか。もう一人について今から連絡は取れるか? 確認するだけでもいいんだが、一応覚えていた上で周りには明るく振舞っている可能性はある」

「わかった」

 

 そうか、確かに彼女は出会ったときも虚勢を張っていた。

 感情がすぐ出てしまう私と比べそういったところは本当に強い、もしかしたら一人で悩んで解決するために頑張っている可能性もある。

 

 確かめる価値はある、か。

 

「もしもし、私だけど」

 

 電話をかけてから二度のコール、忙しいかと掛け直すことを考えるより前に、聞きなれた彼女のやかましい声がスピーカーから流れだした。

 

『ハローハロー! そちらから電話をかけてくるなんて珍しいですね! どうしました?』

「あーうん、えーっと……ロシアって知ってる?」

 

 単刀直入。

 問いかけた液晶の向こうで、少女が息を呑むのを感じた。

 

『うそ……もしかしてフォリアちゃん……!?』

「――っ!? 琉希もそうなの!? いつから!?」

 

 躊躇うような探り。

 心の中に隠していたものがズバリと言い当てられ、驚愕と混乱に何を言えばいいのか戸惑う様子。

 

 まさか、死んで生き返ることも条件の一つなのか!?

 もしそうだとしたら、園崎さんは一度向こうの世界か、或いはダンジョン内での復活を体験している……?

 

『実は丁度フォリアちゃんと出会うちょっと前から……今もそれについて考えていました。こんな偶然があるんですね、いや、まさか本当は偶然じゃないとしたら……』

 

 どもる言葉がじれったい。

 その探りは私も同じなのか確証もなく、しかし万が一にそうだとしたらという心の葛藤か。

 

 会いたい。

 あって話したい、一体どこまで覚えているのか、どこから覚えていないのか。

 

 スピーカーから僅かに聞こえる彼女の独り言、何が嘘でどれが誠か分からない琉希の悩みが、私と通話しているにもかかわらず忘れてしまうほど深いものなのを物語っている。

 一々探っり合うのももどかしく、私の物言いはストレートなものとなってしまった。

 

「いつ会える? できれば今すぐ会いたい、協会で待ってる」

『そう、ですね。偶然ではなく運命だったのかもしれません、フォリアちゃんと私の考えが一致するなんて。ええ、ロシアへマトリョーシカを買いに行くんですよね? いつ行くんです? 私も同行しましょう』

「切るね」

 

 行くわけないでしょアホ。

 

『え!? ちょっ、な、なんで!? 切らないでくだ』

 

 無駄に考えて損した。

 そして残念ながら彼女は関係がなさそうだ。

 

 固唾をのんで待っていた二人へ振り向き、緩やかに首を振る。

 

「やっぱり知らないって」

「そうか、これで記憶の保持については振り出しだな……この件については一旦保留にしておこう。何か気付いた点、忘れていた点があったらまた教えてくれ」

「あい」

 

 その後私がこの半年であったことをずらずらと並べていったのが、そのどれもが筋肉の確認してきたものと一致……要するに記憶保持とはかかわりのないものばかり。

 

「あとは……私レベルアップがめっちゃ早い、普通の百倍くらい」

「え、百倍!? すご……でも、それもまあ関係ないと思うわねぇ、私レベル1000もないもの」

「と、なるとやはり相も変わらず現状は平行線だなぁ。せめて記憶が保持できる条件さえわかれば、それから情報を広げていくことが出来るんだが……」

 

 皆空を仰ぎ、うつむく。

 国や島単位での消滅。文字で表せば数秒で終わる単純な出来事だが、現実はあまりに大きく、一個人や数人で解決するには手に余る。

 

 重い空気に耐え切れなくなった園崎さんが席を立ち、麦茶を入れてくると言い残した。

 

「――細々とした出来事はいろいろとあるが、俺達が調べたことはおおよそ話した。正直ここ二年ほどは話が全く進んでいなくてな、諦め気味だったんだよ。滅ぶなら何もしない方が幸せなんじゃねえか、ってな」

「……うん。でも仕方ないと思う、どうしようもなく出来ないことってあるし」

 

 台風、噴火、地震。

 人の手にはどうしようもない天災っていう物はやはり必ずあって、昔から人々はそれに抗うことは諦め流され、安全なところへ逃げ隠れ全てが過ぎ去るのを待った。

 一つの災害すら基本的には受け身な私たちが、星丸ごと、或いはそれより大きな範囲で起こっているかもしれないこれに立ち向かうなんて、私にすら無謀すぎる出来事だろうと分かる。

 世界の消滅、これも抗いようのない天災の一つで、私たちにはどうしようもないことなのかもしれない。

 

 少なくとも二人は出来る限りのことをやってきて、その上でどうしようもないと投げたのなら、誰がそれを咎められるだろうか。

 私も頭に血が行き過ぎて世間に公開するなんて怒鳴ったが、正直何が正解なのか分からない。

 立ち向かうべきなのか、諦めて『崩壊』が起こる度安全地へ逃げるべきなのか。

 

「はっきり言って現状俺達が出来ることは変わらん、これまで通りお前にはダンジョンの崩壊を食い止めることに協力してもらいたいんだが……」

「うん。それしか今の私には出来ないし……何もしないのも後味悪いから」

「すまん。本当はこんな事誰も巻き込みたくなかったんだが、お前みたいな小さい子は特に」

「元々自分から弟子になったんだし、別に大したことじゃない。それに私15、大人だよ。」

「子供さ、世間一般からしたらな。そして古今東西変わらず、大人は子供を守るものだ」

 

 離しながら勝手に人の頭をわしゃわしゃと撫で始めたので、ぺしっと払いのける。

 完全に子ども扱いだ、失礼な奴め。

 

「ただ……今まで一人しかいないと思っていた存在が、まさか二人いるとは思っていなかった。結城、お前の可能性は希望になるかもしれん」

「え?」

 

 思ってもいない言葉に耳を疑う。

 私の存在が希望?

 

「世間への公開については考えていないが、日本の探索者協会トップには話を通してみよう」

「それって……!?」

「ああ。もしかしたらお前以外にも探索者か、ひょっとしたら一般人の中にも覚えている人間がいるかもしれん。裏からそれを調べてる価値はある」


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