『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第百六十三話

「俺サマの史上最高に可愛い妹、芽衣っていうんだけどさぁ、半年くらい前の話なんだけど、折角いい高校入ったってのに一か月でいきなりやめちまった訳。しかも次の日探索者になったって、なんで? ねえなんで? って聞いたらなんて言ったと思います先輩?」

「知らない」

「『強い女になる』ですってよ! ちょ、おま、マジで言うとんの? 強い女ってアマゾネスにでもなるつもりかよ! んでんで当時酒飲んでた俺サマはさぁ、おーやれやれ、やっちまえって言っちまった訳! びっくりしたよ、その後しばらくして忘れた頃本気で学校辞めてきたんだから!」

 

 どうやらこの酷く五月蠅いのの妹、私と年齢が同じようだが相当突っ切ってる人間のようだ。

 そしてこいつ相当妹が好きと見える。色々な方向へ向いていた秩序のない会話が、妹の話をし出してから途切れることない。

 

 最初はうるさくて仕方ないと思っていたが、ここまで突っ切っているとむしろラジオや音楽みたいなものとして割り切れる。

 

「しかも今日このタイミングでここに潜ったらしくてねぇ! まあ俺サマに似て超絶賢い妹ちゃんだから、やばかったらすぐ入り口に逃げてると思うんだけどよ!」

 

 湿り気を帯びた落ち葉、鮮やかな紅葉が映える美しい森。

 はたして外の季節が反映されているのかは分からないが、このダンジョンの季節も秋のようで、腰ほどある大きなキノコなどがあちこちに頭をのぞかせている。

 

 あれだけ大きなものだ、きっと食べ応えがあるだろう。

 キノコの毒はやばいと聞いたことがあるが、ポーションで誤魔化せるだろう……それにむしろ毒キノコの方が旨いらしいし。

 

 一つ、さらに欲張って二つ目を引っこ抜き、アイテムボックスへ無理やり押し込む。 

 これは丸焼きにしてバターとしょうゆをかけよう、毒がなかったらアリアにも食べさせるつもりだ。

 

「仕方ないから最強のお兄ちゃんが迎えに行こうとしたら、元職場のつてからの連絡でもっと強い人が来るって言うじゃない! したら来たのが先輩よ。おいおい冗談じゃないっすよ、こんな不愛想なちみっこに何が出来るんだ? 芽衣より小さいじゃないっすか! って誰だって考えると思いません?」

「殴っていい?」

「結城先輩が殴ったら俺サマ死んじゃいますよ! あいたた、あいたぁ! 突然全身が痛くなっちゃう!」

「まだなんもしてないでしょ」

 

 扉を潜り抜けた先、まず先を歩き始めたのは呉島であった。

 彼曰く少し離れたところに切り開かれたところがあり、恐らくそこに人が固まっているだろうと。

 

 あれこれとうるさい奴ではあるが、地元の探索者であることには間違いがないようで、森の地形にも詳しいのは少しだけ助かった。

 きっと私だけだとそこを見つけるのにも時間が必要であったし、そこらの手際は自ら立候補しただけはある。

 

「……! そのコート、もしかして……!」

 

 一人立ち上がり、叫ぶ。

 

「協会から派遣されました、怪我のある方は?」

「ぃーっす! 芽衣、お前の大好きなお兄ちゃんがやってまいりましたよ! 最高に素敵でイケメンでユーモアセンスもある至極のお兄ちゃんだぞー!」

 

 草の上に座り込み憔悴した人々の顔に、ぱっと小さく明かりがともる。

 人数としては……十二人、流石大きな街近くのダンジョンだけはある、結構な人数だ。

 

 皆大小の怪我を負って入るものの、ダンジョンのレベル上昇がまださほど進んでいないのだろう、どうにか協力してここまで生き残れたらしい。

 とはいえ人によってはざっくりと腕を抉られ、止血だけ無理やりしている……といった人もいる、早めに来れてよかった。

 

「芽衣ー! めいちゃーん!」

「いくつかポーション置いておくので怪我の酷い方から順に使って行ってください。品質もそこそこいい奴なんで足りると思います」

「おお、ありがたい……!」

「そっちの気絶してる奴から順に連れてこい、傷が深い!」

 

 先ほど真っ先に反応した男が指揮を執り、重症者から手当てが始まる。

 我先に怪我を治そうとひと悶着あるか構えていたが、こんな時でも冷静に振舞える人がいてよかった。

 皆文句ひとつ言わずに従っているのは、きっと彼のおかげで皆ここまで生き残ることが出来たのかもしれない。

 

 彼曰くこのダンジョンに潜っているのはこれでほぼ(・・)全員、毎日会うほどなのでみな顔見知りだそうだ。

 

 横でずっと叫んでいるアホのすねを蹴飛ばす。

 忙しい時なんだからちょっとくらい手伝ってもらいたい、何のためについてきたんだ。

 

「ちょっと、うるさいんだけど」

「め、い……? おい、芽衣! どこにいるんだ! ここに向かうって朝言ってただろ! そうだろ!?」

 

 叫ぶ呉島の声は震え、冷たさに固まっている。

 

「ん……?」 

 

 これは陽気なんかじゃない、焼け付くほどの焦りだ。

 直前までの溌溂とした彼の態度とは一転して、怒りや苛立ちの混じった力強い口調に私もあたりを見渡す。

 

 いない。

 彼の言う通りなら、私と同年代なはずの妹の姿がない。

 女性も二人いる……が、どちらももう二回りほど上の年齢。

 

 皆協力して怪我を治し、周囲の警戒をしている中、一人、頭皮の薄い人が落ち着かない様子で、忙しなく手の裏の何かをいじっている。

 呉島はのしのしとそちらへ近づき、無理やり手の中のそれを奪い取ると声を荒げた。

 

「これ……俺が芽衣の誕生日にあげたヘアピンだ、なんでテメエが持ってんだよ、あ?」

「そっ、それは……」

 

 蒼い宝石らしきもののついたヘアピン、確かに髪の薄い彼が持っているのは不自然だ。

 

 元々の顔つきの凶悪さもあり、修羅だとか、悪鬼羅刹の類にまで至った顔つきの彼。

 怯えるおじさんの襟をぎちぎちに握りしめ、首を絞める勢いで激しく揺さぶり、目に血を走らせ鼻息荒く怒鳴る。

 

「おいハゲ、最高に可愛い俺の妹知らねえっスかぁ!? ポニテの切れ長な目をした死ぬほど可愛い子だ、知ってるに決まってるよなぁ! こんなもん持っちまってよぉ!」

 

 傷の手当てをしていた人たちも、へらへらとしながら現れた彼のあまりの変貌に手を止め、固唾を飲んでそれを見守っている。

 苛立ちと不安の静寂の中、彼は渋々と口を開いた。

 

「そ、その子なら……その子ならここに来る前会って、モンスターに追われる中で囮になるって……お兄ちゃんが来るから、これを渡してくれと言われてだね……」

「オイテメェ、男のくせにそれ止めなかったのか!? 男のくせして自分より弱い子に助けてもらってブルブル縮こまってたのか!? アァ!?」

「そんっ、そんなこと言われても! 何か言う前に行ってしまったんだから仕方ない! 私の役目はこれをお兄さんに、君に渡すことでっ」

 

 見開かれた呉島の瞳が限界を超え、目の端から血が伝う。

 

「……っ! 芽衣がそんなこと言いだす前にお前が立ち向かえっつの、そんなんだからハゲんだよ! このっ」

 

 固く握り締められた彼の拳が弓なりに引かれ、突風を纏って正面へと解き放たれた。


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