『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第十九話

 恐らく一体倒すだけでレベルが1上がったので、このトンボは相応の強敵だったのだろう。

 勿体ないことをした。

 一々『対象変更』と宣言しなければ変えられない現状は、なかなかにして面倒だ。

 どうにか短縮して発動、それか意志だけでの変更が出来ないだろうか、戻ったら試行錯誤するべきだろう。

 

「ケホッ……ステータスオープン」

 

――――――――――――――

 

結城 フォリア 15歳

LV 40

HP 12/92 MP 150/200

 

――――――――――――――

 

 無理やりスキルを使ったからだろう、死にかけだ。

 

 切り裂かれたわき腹と、無理が祟ったのだろう、胸や足がジンジンと痛い。

 手を当てて咳をすれば響く鈍痛と共に、喉の奥から生臭い鉄の風味がせり上がってくる。

 眉を顰めてそれを吐き、流石に戦闘の継続も厳しいので協会へ戻ることにした。

 

 辛い。

 心の中で誰かが、もう十分レベルは上がっただろうと、バイト生活に逃げても良いんじゃないかと甘く囁く。

 バイト生活が嫌だとして、ナメクジを倒すだけでも一日数万円と、十分以上のお金が稼げる。

 無理に先へ進もうと戦い続けなくとも、最強を目指さなくても良いんじゃないか。

 

 私の足を止めようと吹き込んでくる悪魔、それを薙ぎ払う様にカリバーを振り回す。

 弱気になるな、一度足を止めたら二度と立ち上がれないぞ、私。

 拾ったトンボの魔石を握りしめ、折れそうな心へ活を入れる。

 

「帰る前にナメクジ殴っておこう……」

 

 痛む身体を引きずりながら、トンボの後だと癒しに感じる蛍光ピンクな奴らを思い出す。

 遅くて、サンドバッグになって、HPも回復出来て、お金にもなる最高な奴ら。

 これはストレス発散じゃない、HP回復のためだ。

 本当だよ。

 

◇

 

「魔石」

「ちっ、なんだお前……!? お前身体どうしたんだよ!?」

「なんだっていい、戦うなら怪我するのは当然。換金」

 

 今日も受付にいたのは園崎弟、たしか園崎さんはキー君とか言っていたか。

 HPは半分ほど回復して傷口もある程度塞がり、鈍痛も薄れているとはいえ服がボロボロなのは変わらない。

 相変わらず入り口の水道で洗ったとはいえ泥汚れも残っているので、それを見て驚いたのだろう。

 

「大丈夫な訳ねえだろ! 回復術師の人来てくれ!」

 

 頼んでもいないのに、勝手にお抱えの回復術師を呼ばれてしまった。

 まあ流石に今日は利用するつもりだったので良いのだが。

 

 柔らかな光に包まれ、全身から痛みが引いていく。

 薄く貼っていた皮膚の下に肉が生まれ、食い千切られたはずの所はしっかりと、周りとの色差もなく元通りに回復した。

 回復魔法と名乗るだけあってさすがの効果量である。私も魔攻があれば使えたらと思うと、口惜しい。

 

「ありがと、千円」

「ああいらんいらん、俺が払っとくから! じゃ、ありがとうございました」

 

 ポケットからお金を取り出すが、園崎弟に押しのけられ、勝手にお金を払われてしまった。

 

 これは困る。

 

 他人に自分の物を渡す分には気にしないが、他人に施されると後で何を要求されるか分かったものではない。

 筋肉から一万円もらったときはお金に困っていたし、良い奴そうだからありがたく頂いて後で返すつもりだが、園崎弟は口が悪いし情けを掛けられたくない。

 園崎弟を手で払って千円を手渡そうと画策したのだが、何度やっても手で遮られてしまう。

 結局今回は奢られてしまった。

 

「だから言ったんだ、ガキは無理しないで帰れって。遊びじゃねえし危ねえんだよ」

 

 相変わらずウニの様に鋭い髪型で、いがぐりの様にツンツンとした言葉を吐いてくる。

 危ないのなんて分かってるし、もう何回も死にかけている、というか一度死んでいる私には今更の話。

 もういい、こいつの名前はウニで十分だ。

 

「うるさい、お前に私の何が分かるんだ」

 

 なおもしつこく寄ってくるウニ、それを無視して協会を出れば、流石に仕事中の奴も追ってくるのは諦めたらしい。

 園崎さんに仲良くしてくれなんて言われたが、やっぱりこいつとは仲良くできない。

 せめて髪型と言葉をもっと丸くしてくれないと、話していてイライラする。

 

 五十三個のナメクジ魔石と、トンボの魔石ひとつ。

 合計二万八千五百円、今日も最高額を更新した。

 報奨金とここ数日の稼ぎを合わせて十万円、そろそろ銀行口座か金庫を用意した方が良いかもしれない。

 『アイテムボックス』が一番安心ではあるのだが、この前見た時は500SP必要だったので、流石に入手するまで遠すぎる。

 

 欲しいものややりたいことは沢山あるが、それにはレベルを上げる必要がある。

 取り敢えずもう昼近いし、ナメクジ肉と希望の実で昼食にしよう。

 そうビニールを開いたが、手が止まる。

 

 火どうしよう。

 

 あいつにお願いしてあの銃を借りるのが一番だが、それはどうも気に食わない。

 

 ふと目についたのが、入り口にマッシブな両親と子供がポージングを決めている人形で有名なコンビニ、ファミリーマッチョ。

 大手チェーンなだけあってこの街にも一件、人の集まるギルドの前に立っている。

 

 きらりと輝く歯を見せる素敵なスマイルを浮かべ、筋肉程鍛えられてはいないが、黒々とした筋肉を見せつける人形達。

 うーん、不気味だけどまあここでいいかな。

 コンビニに入るのは生まれて初めてかもしれない。どんなものが置いてあるんだろう、雑貨品だから多分ライターとかも売ってるよね。

 ちょっとわくわくする。

 

 私は店員の声を受けながら、冷たい空気の零れるコンビニへと足を踏み入れた。

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