『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第二百四十八話

「――男の名前はクレスト。この世界ではダカールと名乗り、探索者協会の会長としても顔の知れている、異世界の国王だよ」

「ちょっと待って、私はダンジョンの崩壊と消滅をどうにかする方法を聞いてるの」

 

 ダカールさんについては知っている、以前支部長代理として働くため書類へかじりついていた時、当然目にしている。

 協会を真っ先に作った人で、三十年くらい年を取っていないとも言われる若い見た目の男性だった。

 

 しかし彼とダンジョンの崩壊に、一体何の関係があるというのか?

 それに異世界の王? それもあまりに突拍子もない話じゃないか?

 

「もし人類未踏破ラインの崩壊が、人為的に起こされているとしたら?」

「……っ!?」

 

 だが、睨みつける様に細めた瞳で語る、彼女の言葉は信じがたいもので。

 

 意味がない。

 わざわざダンジョンの崩壊なんて起こして、この世界を消滅させる価値は?

 

 わざわざ手間暇をかけて消し去るより、そこにある資源などを使った方が何倍もいいじゃないか。

 

 食って掛かる私の目の前へ広がるカナリアの掌。

 話は終わっていない、落ち着いて聞けと彼女は肩をすくめた。

 

「人類未踏破ラインの蒼の塔、あれは元々異世界に存在する、次元の狭間から魔力を汲み上げるための巨大な装置であるとは話したな?」

 

 頷き。

 

 仮にそれを私以外の人類が知ったとして、きっと放置するだろう。

 外部から解析するにはあまりに巨大で、内部には人類の最高レベルですらゴミのように屠られる怪物がたっぷり詰まっているのだから。

 モンスターが中から溢れる兆候もないとあれば、静観するのが一番だ。

 

 そう、私は思っていた。

 あの日、海外に存在する『人類未踏破ライン』が崩壊し、人々が混乱、恐怖、絶望の中で死に行く様を見るまでは。

 

「狭間の存在を最初に観測したのは私だ、データだって纏めていた。廃棄したはずのそれを回収した奴らは、当然その膨大な魔力を利用するためにあの塔を作り上げた。魔天楼のパイオニアとも言えるだろう、そしてそのアストロリア王国の国王こそがクレストであった」

 

 カナリアを陥れたのも、やはりクレストだったと。

 どこかで見たような話を口にし、彼女は顔をしかめた。

 

「無限に湧くエネルギー源は生活を豊かにする。比較的巨邦ではあるものの、世界で群雄割拠する一国に過ぎなかった祖国は、その時から軍事力、生活水準、なにもかもが飛躍的な成長を遂げた」

 

 異世界では魔石が土地などから産出する。

 時として強大なモンスターを打ち倒し手に入れることもあるが、やはりそれは無限に湧きだすわけではない。

 供給の限られたもので研究を行うのはどうしても制限がかかる。

 

 だが、狭間と魔天楼を手に入れたかの国は、なにもかもを自由に行えた。

 膨大な魔力を扱う研究の前に、多少の技術差などは然したる影響を与えない。

 他国との差は絶対的なものとなりつつあった。

 

「だが当然他国とて何もせず見ているわけもない。金を握らせたのか脅したのか、兎も角魔天楼の構造等の情報を仕入れた諸外国も、アストロリアの脅威に対抗すべく次々に魔天楼を創り上げていった」

 

 初め、人類未踏破ラインの蒼い塔は一本だけであった。

 その後次々に蒼い塔が現れ、ほぼ同時多発的にその他のダンジョンたちも発生したと言われている。

 

 今、真実が明らかにされた。

 

 全ては異世界の国々による開発競争、その影響をこの世界は受けていたに過ぎなかった。

 こちらの世界などみじんも気にせず雑に魔天楼を突き刺し続けた結果、一切の保護を行っていないこちらの世界は穴と罅割れだらけになり、それをどうにか塞ぐためカナリアが『ダンジョンシステム』を創り上げたのだ。

 

 最悪過ぎる事実に握り締めた手のひらで、ぷつりと何かが切れる。

 

「じゃあ……こんなボロボロになった私たちの世界は、ただ他の世界の争いの影響を受けてるだけってこと……!?」

 

 数えきれないほど多くの人が死んだ。

 あれだけたくさん学校の校舎に逃げていた人も、ほんの数秒目を離した隙に、何かを言うことすら出来ず消えて。

 筋肉だって、ダンジョンの崩壊に巻き込まれて死んでしまった。

 

 何もかも消えてしまっているようで、やっぱりその人たちが確かにそこにいた痕跡はあって、悲しむ人がいて。

 

 全てはただ、巻き込まれただけ……?

 これっぽっちも関係のない国々の醜い争いを受けて、なにか自業自得な面があるわけでもなく、ただ悪影響の面だけを押し付けられて死んだ……?

 

「最、悪だ……」

「まだ話は終わっていない」

 

 もう十分だ。

 

 眩暈がしそうになる現実に吐き気が止まらない。

 

 どこまで行っても人の醜い欲望じゃないか。

 異世界だろうと関係ない。いや、むしろ無限の資源なんて恐ろしいもののせいで、こちらの世界ですら聞いたことがないほど大規模の、底なしの欲望だ。

 これ以上何があるって言うんだ。

 

 しかしカナリアは、知りたいと言ったのは貴様だろうと眉を潜め、やはり淡々と彼女が知る事実の続きを話し始めた。

 

「最初の頃、アストロリア王国は、他国が魔天楼を築き上げていることに気が付かなかった。他国もばれぬよう必死で隠していたからな。しかしクレストが行った一つの行為で、奴は全てを知ってしまった」

 

 それは時をおよそ三十年ほど前にさかのぼる。

 

「この世界を訪れたのだ」

 

 もし世界の消滅が、小さなダンジョンの崩壊による消滅だけで進行していたのなら、きっとこの世界はあと何十年、いや、何百年も猶予があった。

 しかしかの男の来訪はその猶予を何十分の一にも縮めてしまった。

 

「好奇心だったのかもしれん、詳しくは知らん。だが奴は狭間を超えこの世界に訪れた。そして目にしてしまったのだよ、誰にも隠されていない、世界各地に突き刺さった蒼の塔を」

 

 初めてこの世界に降り立ったクレストが抱いた感情は、憤怒であった。

 

 あちらの世界では必死に魔天楼を隠していても、こちらの世界にはまるっきりすべてが映り込んでいる。

 要するにクレストは出し抜かれたのだ。

 圧倒的な軍事力や生産性を手に入れ、他国との優位性を確固たるものにしたと驕っていたにも拘らず、自分の知らぬ間に諸外国が己の国の寝首を掻くため、虎視眈々と牙を磨いていることに気付いた故に。

 

「なあフォリア。もし自分だけの最強武器だと思っていたものを、他人も持っていた場合どうする? 力を振りかざして暴れ回っていたのに、もしかしたら自分がやられてしまうかもしれないと悟った時、どういった対策を打つ?」

 

 カナリアの質問、その答えは簡単だ。

 

 鍛える。

 負けそうなら、負けないように鍛えるしかないだろう。

 

「それもありだな、だがもっと短絡的な答えだ」

 

 しかし自信をもって出した私の答えは、彼女そっけなく却下される。

 そしてカナリアは腕を組みため息を漏らした。

 

「ぶっ壊すんだよ、他人のをな。そうすれば自分がオンリーワンになれる」

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