『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第二百五十四話

 やっぱり筋肉は誰かに殺されたんだ……!

 

 そう焦る心を、どこか冷静な自分が押し留めた。

 

 確かに、こうやって情報を一つ一つ合わせていくと、筋肉が誰かに殺されたかのように見える。

 でも誰が、どうやって? 彼を殺すのなんて、そう簡単に出来ることではない。

 事実、カナリアと戦っていた過去の筋肉は、三度ともクレストの討伐に成功しているのだから。

 

「大雑把な点はあったが、奴はそれほど恨まれる性格をしていたわけでもない。となればやはり……」

「クレストに殺されたに決まってるわ!」

 

 カナリアの言葉へ追随し、園崎さんが叫んで机を殴った。

 

「私もそう思う……」

 

 筋肉は滅茶苦茶強い。

 レベルもそうだが、一緒にダンジョンに潜った時、次から次へと出てくる生きるための知識など、様々なレベルで高水準なものがあった。

 

 たとえ彼を恨んでいたとして、一般人や普通の探索者が殺そうと行動に移すのはあまり考えられない。

 成功にまで導ける存在など猶更。限られたごく一部の存在たりえる、その上彼を心底憎んでいる存在などクレスト以外にはいないだろう。

 

 だがなんだこの違和感は。

 私たちは何か一つ見落としている。決して見落としてはならぬ一点を、何かとても大事な何かを。

 

 必死にそれを考えていた時、突如として地面が小さく揺れ出した。

 

 

『……っ!?』

 

 

 爆音。

 ポケットの中で地震の警戒アラートが鳴り響く。

 

「な、なに!?」

「デカいぞ!」

 

 まるで天地がひっくり返ったかのような、激しい上下左右への揺れと凄まじい地響き。

 机は吹っ飛び、壁などに飾られたものは地面へと叩きつけられる。

 壁がピシバシと嫌な音を立て罅割れた。

 

 どちらにせよ壊れるか……

 

「『ストライク』! 二人は訓練所に避難してて、私はウニたち回収して来るから!」

 

 執務室の横、訓練所が見える壁を殴って吹き飛ばす。

 カナリアが頷き魔法陣を展開したと同時、『アクセラレーション』を発動して部屋を飛び出した。

 

 加速した世界に地面の揺れなど存在しない。

 扉を叩き開け、机の下に隠れていた芽衣や、窓を開けようと駆け出したウニを確保し、『アクセラレーション』を解く。

 

「今窓あ……け……!?」

「え!? ちょ、何!? 何なの!? フォリっち!?」

「二人共舌噛まないでね」

 

 芽衣が困惑した様子で問いを投げてくるが、何が起こってるのかなど私にも分からない。

 ただ一つ分かることがある。避難所としての側面もある協会がこれほどダメージを負っているということは、並大抵な災害ではないということ。

 このまま中にいたら私やカナリア以外はぺっちゃんこだろう。

 

 幸か不幸か、跳ね上がったレベルがこの救出に一役を買った。

 蹴り一つで壁を弾き飛ばし、手を振り払えば風圧で前の物が吹き飛んでいく。

 ちょっと二人が反動で参ってしまったが、こんな状況なので許してもらいたい。

 

 屋根をぶち抜き訓練場へ着地。

 

 周りを見回せば、ぞろぞろと協会内へたむろしていた探索者が、そして必死に逃げてくる一般人の姿もあった。

 

「二人とも怪我してない?」

「めちゃんこ首痛いっす……」

「おい結城! 地震は揺れが収まってから逃げろって学校で習っただろ!」

 

 ウニは無視して、痛いと泣く芽衣の首へそっとポーションを塗る。

 ついでに余った分のポーションはウニの口へ。

 

「ごめん……正直私もパニックだった」

 

 かなり抑えていたつもりだったが、これでもまだダメか。

 

 芽衣は探索者だ。私と違ってスキルの恩恵がないからレベルは低いが、それでも一般人より遥かに耐久力の面で優れている。

 彼女ですら怪我をしてしまうのなら、探索者ではない一般人相手にはもっと気を使わなければならない。

 

 流石に一度にレベルが上がり過ぎたせいで調整がうまく効かないか。

 

 しかし身体能力について、今はどうこうしている暇がない。

 忙しくなる。

 

 再び『アクセラレーション』を発動し協会の中へ飛び込む。

 中の様子は(私が破壊し)ボロボロになった壁や、地震の衝撃でへし折れた柱など酷い有様だ。

 鍵束、どうにか生き残っていたノートパソコン、電源、電話、街の地図などその他もろもろ必要なものをぽいぽいと『アイテムボックス』へ放り込む。

 

 こういう時にやるべきことは、あの勉強漬けの日々で完全に覚えた。

 思い出そうと必死にならなくとも全て暗唱できるほどだ。

 

 再び協会を飛び出し道具をシートの上に広げたところで、非難してきた人々の不安げな瞳が私へ突き刺さる。

 視界の端でどこかから上がった火事の煙がちらついた。

 

 カナリアへ地下室への鍵束を投げ渡し、見えやすいように協会の屋根へと上って大声を上げる。

 

「協会支部長代理の結城です!」

 

 自信だ。

 こういう時、指揮を執る人間が不安だと、それは人々へも伝わっていく。

 私に従えば大丈夫だと冷静に、自信をもって指示すればいい。

 

 羽織った協会のコートをばさりとたなびかせ、ゆっくり、はっきりと伝わる様に大声で話す。

 

「協会には非常時に備え、ある程度の備蓄などが準備されています! これより支給等の準備を進めるので、手伝える方は……芽衣とウニ!」

「……こういう時くらい本名で呼べよ」

「こちらの……頭が尖った人の元に集まってください! 探索者の方は全員私の元へ!」

 

 ウニウニ言い過ぎて名前を忘れたので、いい感じに誤魔化して呼ぶ。

 

「協会職員の園崎鍵一です! 怪我人はあちらの美羽へ!」

 

 咄嗟の役割分担であったが、どうにか上手いこと別れることが出来た。

 

 ウニと芽衣はそこそこ身体能力が高いので避難所の準備を。

 ポーションが効かない一般人のけが人の手当ては園崎さんが。

 

「電気が繋がったぞ!」

「うん、じゃあ電話とパソコン繋いで。カナリアは情報収集と電話の受け手お願い」

「うむ。これは無線だ、恐らくこの町の内側程度なら通じる」

 

 指示が終わった丁度その時、地下室からコンセントを引いてきたカナリアが飛び出した。

 彼女が大ぶりのトランシーバーをごとりと手渡してくる、業務用の大型無線機だ。

 

 同時に小型の、数百m程度まで電波が通じるものが大量、これは後で探索者に手渡そう。

 

 未だ協会本部からは何の連絡もなかった。

 ネットの回線も、電話もパンク状態でまともに通じそうになく、この巨大な地震の被害や程度すら確認で来ていない。

 

 先ほど私が部屋から持ち出した各支部に置かれている電話、あれは一般で使われている物とは別回線なので、普通の物と違って繋がらないってことはないはずなのだが……ちんたらと連絡を待っている暇はない。

 町から上がる煙や焦げ臭い香り、火事が起こっている。

 次々に上がるサイレンが、警察や消防が既に動き回っていることを知らせるものの、ここまで大きく、一斉に起こってしまっては対処しきれないだろう。

 

 私の支持で集まったのは五十人ほどの探索者達。

 その中には穂谷さんなど、かつてお世話になった人もちらほらと見える。

 

「魔法、特に回復と水関係の物を使える人は右に! 戦闘系の身体能力に優れている人は左へ! 攻撃的な魔法を使える方は右へ集まってください! これより、右から順にA、B、C班と呼び分けることにします!」

 

 声が震える。

 

 果たしてこれが的確な指示なのか、次はどうすればいいのかと様々な思考が脳裏を過ぎり、パニックになりそうだ。

 しかし筋肉のいない今、ここでのトップは私。

 泣きつける誰かなどいない、むしろ私が泣きつかれる側の人間なのだ。

 

 兎も角、私の出来ることをするしかない。

 

 焦る視界の端で、七つの蒼い塔(・・・・・・)がちらついた。

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