『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第二百五十六話

「良かった……皆怪我はないんだ……」

 

 感動の再開、というには数時間程度しか経っていないものの、多少の砂ぼこりに服を汚しつつ怪我一つないママや剣崎さんの姿に胸をなでおろす。

 剣崎さんはフィールドワークでダンジョンに潜ったりしているし多少は身体が頑丈なのかもしれないが、ママはこの前の出来事でレベルが初期化されている。

 見た目通りの一般人、もし何かに潰されでもしたらひとたまりもないだろう。

 

 それにしても、二人はあの館にいたはずなのだが、琉希はよく二人と出会えたものだ。

 私だって場所を知ったのは今日の朝だったのに……

 

「いやぁ、地震の直後から友達の家を回っては回収してたんですけど……」

「アタシが頼んだのさ。電話はパンク状態だけどSNSならギリギリ送信できたから、どうにか場所を聞いてね」

 

 琉希の母、椿さんがママの肩を抱き、ニカリと白い歯を見せた。

 

 どうやら偶然拾ったというわけではなく、わざわざ迎えに行ってくれたらしい。

 

 ともかくみんな無事でよかった。

 この二時間程度で何人も救助をしてきたが、中には酷い怪我で見ていられないほどの人もいた。

 ポーションがあるのに何の役にも立たないのが一々歯がゆい。

 

「フォリアちゃんは中々酷い有様ですね……」

「ん……ああ」

 

 こちらの茶色や赤に汚れたコートをみて琉希が呟く。

 

 最初こそ一応汚れないように気を付けていたものの、結局次から次へと情報が入ってくればそんなことを気にする余裕も無くなった。

 始まって三十分くらいだろうか。ふと時計を見たその時点で、今と大して変わらぬ惨状になっていたのは。

 

「琉希も、皆避難所に運んだら手伝ってくれる? その力ならもっと効率的に動けると思う」

「ええ、勿論!」

 

 

『今しがた琉希が来た、すぐに貴様と合流するだろう』

「うん……ん?」

 

 地震は津波の方が恐ろしい。

 よく言われる言葉ではあったが、どうやらあまりに大きすぎるものの前にはあまり通用する話ではないようだ。

 

 ゴロゴロと、人のこぶし大から私ほどまで様々に転がるコンクリートの塊を軽く飛び越え、なるべく救急車などが向かいにくい場所を優先して移動する中、ふと、ボロボロの町中に似つかわしくないものを捉えて足が止まる。

 

「これは……」

 

 扉だ、その高さ成人男性を軽く超える程度。

 石なのか、それとも金属なのかすら分からないが、周囲の建造物は多かれ少なかれどこか崩れているにもかかわらず、その扉だけは日光を受け新品の如く艶やかな輝きを放っている。

 まるで、今しがた出来たかのように。

 

『どうした』

「町の真ん中にダンジョンの扉がある……こんなところにはなかったはずなのに」

『ふむ……やはりあの変化の影響が各地に出ているとみるべきか』

 

 カナリアのあまり聞きたくない考察をスルーして門をペタペタ弄る。

 間違いなく見慣れたダンジョンの扉だ。

 

 しかしこのまま何もせず放置、というわけにもいかないだろう。

 

 一目でダンジョンだと分かるし、誰かが勘違いして入るなんてあり得ない……とは思うが、何があるか分からないのも事実。

 内部の調査をしている暇もないし、もし内部のレベルが高ければ、それこそ何か勘違いして入った瞬間一般人なら死ぬことだってあるだろう。

 

「ただいま到着!」

 

 空から落ちて来た彼女がすたりと真横へ着地した。

 

「琉希、いきなりだけどこれ埋められる?」

「大丈夫ですよー」

 

 一瞥してそれが何か理解したのだろう、ぐっと親指を突き出す琉希。

 彼女がトントン、と地面をつつくと、レンガほどのサイズになった地面が次から次へと扉を覆い、あっという間に周囲を覆ってしまった。

 

 土で出来たかまくらみたいだ。

 

 あいにくとここら辺では雪がさほど積もらないので本物を見たことがなく、初めて見るのがこんな茶色いものであることに少し悲しみを覚える。

 とはいえ今降られても避難所が大変なことになるので勘弁してほしいのだが、むしろ雪があまり降らない方が今は幸せか。

 

 ああ、寒さ対策もどうにかしないと……水は魔法使いの人がいるから良いとして、食料は……ダンジョンで食べられそうなのを確保するか。考えることがいっぱいで頭が痛い。

 

「ダンジョンの崩壊は流石に抑えきれませんが、誰かが間違って入ることはないと思います」

「ありがとう。カナリア、扉が発生した地点は……」

 

 今はこんなことしか出来ないが、後で細かい調査もしないといけない。

 

 カナリアにダンジョンの位置を伝えている最中、無線越しの彼女の注意が逸れた。

 暫く頷き何かをやり取りする声、漸く帰って来た彼女の返事は……

 

『どうやら他の班も同じくダンジョンの扉を見つけたようだ』

「そっか……やっぱり……」

 

 ダンジョンは世界各地に点在する次元の罅が元になっている、それを塞ぐための覆いとも言えるだろう。

 つまり世界に罅が多く入れば入るほど、限界が近づけば近づくほど、ダンジョンの数も増えていく。

 

 異世界で各国が蒼の塔、魔天楼を次々に建て始めた二十七年前に、こちらの世界でも各地にダンジョンが大量に発生した。

 それ以降、それこそいきなり町の中にダンジョンが生まれるなんて、滅多にあることではなかったのだが……偶然、ではないか。

 

 つい零れたため息に、横から飛んできた心配げな視線。

 へらりと、動きもしない表情筋を稼働して誤魔化す。

 

『北海道でダンジョンが崩壊か!?』

『超常震災、日本各地で震度七を超える大災害』

『震源特定不可、気象庁大混乱!』

 

 ちらりと見たスマホのニュースサイトはひっきりなしに新たな記事が貼られては流れ、各地の混乱が露わになっている。

 この調子では記事を書いている人だって被害にあっているだろうに、仕事熱心な事だ。

 

 彼らの努力をありがたく思いつつスクロールするが、打ち込まれているコメントはどれも混乱と苛立ちに満ちたものばかり。

 こちらはあまり何か拾える情報もなさそうか。

 

 スマホの電源を押し込み、右へ振り向く。

 

 探索者達の協力もあって想像以上に早く救助は進んでいる、上手く行けば今日中にも倒壊した家や怪我人などを運び終えられるだろう。

 

「次の場所、ついでにダンジョンを塞ぐのも一緒にやっちゃおう」

「はい!」

 

 私たちは瓦礫を飛び越え、無線に耳を澄ませながら駆け出した。

 


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