『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第二百五十八話

 カナリアによって打ち上げられた魔法の輝きが、煌々とテントの下を照らす。

 その下に並んでいるのは私、園崎姉弟、魔法関連の識者としてカナリア、そして偶然こちらへ避難してきた何人かの町内会の役員の人など。

 皆忘れているもののきっと筋肉が手回ししてくれたおかげだろう。どうやら地震前から事前に情報が出回っていたらしく、私の姿を見て軽い驚きはするものの、しっかりと話を聞いてくれた。

 

「協会からの連絡が恐ろしく少ない、一斉送信のものすらまばらだ。自治体や国は動いているようだが」

「大学と小学校の方は水が足らないらしいわ」

「明日崩れた店から在庫を引っ張り上げる予定だけど……それでも食料足りねえぞ」

 

 情報を纏めていたカナリアや園崎姉弟が次々に声を上げる。

 

「じゃあ大学と小学校の方には水の魔法使える人三人と戦闘向きの人四人ずつ、あと一応回復魔法使える人も一人。なるべく希望する人から集めて」

 

 毎日は流石に負担になるとして、それでも二日か三日に一度は他の避難所でも問題がないかの連絡もつけたいか。

 

 この震災で一番の幸運は、回復魔法ならば怪我人にも効くことだろう。

 カナリア曰く、ポーションは体内の魔力に宿る記憶からの再生、回復魔法は身体の治癒能力を引き上げる。

 二つは過程が異なり、ゆえに回復魔法ならば探索者でなくとも効果がある……らしい……?

 

 まあ効くならなんでもよし。

 

「連絡に関しては後で考えるとして、一番は食料だね……」

 

 五分ほど時間があったので数キロ先までぐるりと走り回ってみたが、道路も無残なものであった。

 盛り上がり、削れ、砕け、道路というにはあまりに茶色の面積が大きすぎる場所、崩れた橋、どこもかしこも原型をとどめていない。

 

 勉強は苦手だが流石に私だってここまで道路があれな状態じゃ、流通だってままならないのは分かっている。

 

 今この避難所にいるのは二千人と少し、本来の許容量の二倍だ。

 水は魔法でどうにかなるにしても、こうも流通がボロボロになってしまっては、どこかから食料を調達する……というのも難しい。

 確かに探索者なら『アイテムボックス』で多少は多く運べるものの、一体何度往復することになるやら。いや、そもそもその調達先すらここまでの地震でボロボロになってしまえば怪しい。

 

「これもダンジョン内で……最悪希望の実かな」

「わしらにそんなものを食わせようとするのか!」

 

 私が口にした瞬間、今まで静観していた壮齢の人がいきり立つ。

 しかしそんな彼の前へ手を広げ制したのは、馬場さんという一人の老人であった。

 

「わしが話そう、君は配給の手伝いを」

 

 彼の名は馬場、町内会の役員らしいが、過去に探索者としても登録していたことがあったらしい。

 相談役として避難者の中から募ったところ彼は町内会の中でも比較的落ち着いた性格であり、協会や探索者にも詳しいということで、周囲の推薦もあってここに座っている。

 

 ほんの少量で一日分の栄養やカロリーを補え、かつどこのダンジョンで、いくらでも採取できるあれはうってつけだろう。

 しかし馬場さんが苦々しい顔で首を振った。

 

「味……しかしそれ以上に未知の存在を口にしたくはない、といったところでしょうな」

「でも若い人には実を、老人には普通の非常食を、なんて出来ないわ。絶対に不満が溜まるもの」

 

 ダンジョンの存在自体、この世界に現れてからまだ三十年しかたっていない。

 若ければ若いほど、生まれた時から存在するそれに比較的馴染んでいて拒否感などは覚えないが、歳を取っている人ほどやはり忌避することが多い様だ。

 

 今は小さな不満でも、それが溜まって行けば些細な事で爆発しかねない。

 しかし食料の不足はどうしようもないものだ。

 

「ええ、ええ、分かっております。しかし初めから全て置き換えれば反発は抑えきれない、明日から一食ずつ置き換えていけばなんとかなるかもしれませぬ。あとはどうにか話を付けるしかないでしょう、わしがそれは担いましょうぞ」

「え、いいの……良いんですか?」

「敬語は結構、無理に使って意思の疎通が出来なければ意味がない。なに、老人というのは同調圧力に弱いもの、理解の早い者から説得していけば自ずと頑固者も頷きましょう」

 

 明日は朝食だけ、明後日は朝と昼を、以降は支援物資などの状況を加味しながら三食全てを置き換える。

 しかしあまり硬いものはわしも苦手でね、どうにかして頂けないか?

 

 肩をすくめる馬場さんへ、その点に関しても一応考えていたのでコクリと頷く。

 

「砕いてから丸めて、飲み込みやすいように小さく成型するとか……固められなかったら粉にして水で流すしかないね」

「飲んだら腹いっぱいになる薬、か。まるで近未来ディストピアの飯だな」

 

 誰もが思っても口にしなかったことを平然としゃべり、嫌そうに顔を歪めるウニ。

 園崎さんが彼の背中を突くなりしたのだろう、すぐにその顔は痛みで一層のこと歪んだ。

 

 たっぷり水を使える、材木もダンジョンから集められるから暖も取れる。

 比較的マシな環境は整えられているのかもしれないが、それでも私たちの頭を悩ませる物事が多すぎた。

 毛布も流石に足りなかったので、分厚いものとはいえ二人で一枚を共用している人だっている。ドラム缶の焚火は良い交流の場になっているものの、地面からの冷気をどうこうできるわけではない。

 

「精神面も不安ですな。故意ではないのかもしれませぬが、他の県や地域の情報を吹聴して不安を煽る者もおるようで……あまり動かないこともあって鬱々とした考えが巡ってしまうようですな」

「そういった奴らは作業を手伝わせればいいだろう、運動はストレス発散の基礎と言える。ついでに参加自由のラジオ体操でも実施したらどうだ?」

「ほう……妙案ですのお嬢さん」

「私は七十八だ、貴様よりも年上だぞ。敬え」

「はっはっは!」

「おい爺貴様何笑っている! 何がおかしい! おい!」

 

 年齢はカナリアの方が上らしいが、どうにもおじいちゃんと孫娘にしか見えない二人をちらりと見ながら思考を巡らせる。

 

 地震が起こった今日こそ、支部長代理である私が指揮を取ったものの、やはりどうしても見た目による影響が大きかった。

 特に普段協会と関わっていない人は猶更……せめてもう少し身長が高ければいいのだが、この小学生並みな体はどうしようもない。

 

 どうやらこの馬場さん、相当名を知られている人でもあるようだ。

 先ほど食って掛かった人も、彼の言葉にはすんなり頷きこの場を去った。

 正直知識不足や気配りが完璧にできているとは自分でも思っていないし、経験豊富そうな彼に任せる方が説得力も増すだろう。

 

 いきなりで悪いが、と馬場さんに頼み込んでみれば快い返事。

 

「しかし、それだけではなさそうかな?」

 

 気付かれたか、首を捻る彼に頷く。

 

 無数に現れたダンジョン、蒼の塔の不気味な変化、そして協会からの連絡も少ない。

 当然怪しい、確認するしかないだろう。

 それに道路の状態や他の避難所、人々の動き、加えて出来ることなら自治体の倉庫などへ向かい、非常食の確保だってしたいところ。

 

 瓦礫の山だろうが何だろうが容易く踏破できる、高レベルの探索者こそが一番向いているだろう。

 

「二人を信じてるから。私は……明日の朝から協会本部に行こうと思う、カナリアも大丈夫?」

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