『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活! 作:IXAハーメルン
ツカツカと、静かな月明かりの元、砕けた道なき道を行く。
ひっくり返った家やコンクリートは次第に姿を失って、枯れた草が微かな風に揺られ物悲し気に葉擦れの音を立てる暗い草原が姿を現した。
思えばこの一年、私を取り巻く何もかもが変わった。
お金もなくて、家族もいなくて、家もなくて、友達もいなくて。それでも目の前の事を必死にやって、気が付けば欲しかったものが全て手に入っていた。
嫌なことはいっぱいあった。戦って、死んで、何度も死にかけて。
そして、良いこともいっぱいあった。いい人に出会えて、いい体験をして、ここまでこれたのはきっと、私の運がよかったから。
運良く良い人と出会えたからこそ、私は今を生きていられる。
「私は幸せだった、この一年」
「ならその幸せを噛み締めていればいいでしょう! どうしてその幸せから離れて、わざわざ危険な道を行こうとするんですか!」
普通の暮らしをして、普通に生きて、普通に楽しい毎日を送る。
それで済むなら……私も、それが一番だと思う。
でも、残念ながら現実は安穏と生きる道を選ばせてくれなくて、まあ、思い通りに行かないのも人生なのかな。
惜しい。
思い出を失うのが惜しい。ママを失うのが惜しい。今まで出会った人を失うのが惜しい。惜しい、惜しい、惜しい。
あれも、これも、嫌な思い出も、いい思い出も、全てが全て今までの経験で、その一切がゴミ屑みたいに消え去るのが惜しい。
勿論そこには琉希もいて。
「だから守る、この幸せを。誰かが繋いできた今を、私を救ってくれた幸せを守る。わざわざ離れてるんじゃない、その危険な道の先に私の幸せはあるから」
「……っ」
この道に、分岐や退路はない。
「琉希、ごめん。戦うなって言うのは守れそうにないし。琉希は戦いたくないなら戦わなくていい。でもこの戦いは避けられないから、見なかったことには出来ないから、誰かじゃなくて私がやるよ」
思えば琉希には苦しい役目を任せてしまった。
カナリアと私の関係から始まる、異世界や魔蝕、そしてダンジョンシステムなどの複雑な問題を知り、きっと彼女なりの苦悩などもあったのだろう。
私に危ないからと止めてくれるのは嬉しい。
でも、ならはいそうですかとやめることはもう無理だ。私が私の考えで決めたこれを覆すことは、私ですら出来ないから。
「ええ、きっと貴女ならそう言うと思ってました。でもその選択肢、あたしには受け入れられません。だから……」
「……やっぱり、こうなるか」
そして、私が戦うと誓っている限り、琉希の願いが叶うことはない。
地面が揺れる。
宙を舞う草や飛び散る土の独特な香りと共に、地面から巨大な壁がせり上がって来た。
いや……これはまさか……剣!?
その高さは、そこらの木を軽く超えていた。
その上、大の大人が二人手を広げても足りない幅広さは、その即興で作られた剣を壁と勘違いしてしまうほど。
さながら土で創り上げられた巨人の剣。
しかし土と侮ることなかれ、彼女のユニークスキルに操られる万物は不壊となる。
薄い紙切れは鉄をも切り裂く鋭利な刃に、そこらで売られている下敷きすら絶対の盾へ早変わりだ。
さらに恐ろしいのはそれが次々に、合計六本もが地面から生えてくると、翼でも生えているのかと思うほど自由に宙を舞い、ぴったり空に浮かぶ彼女の傍らへと待機したことだ。
「だから、貴女が諦めるまで止め続けます。あたしは本気で行きますよ」
嘘でしょ……
いつの間にあの膨大な質量を操れるようになっていたのか。
「くぅ……っ!」
「」
「戦わないと守れない、背負わないとダメならなんでも背負ってみせる!」
「貴女が苦しむ必要なんてない!」
「私以外に誰がやるの!?」
「誰かがやるに決まってる!」
「誰かがやるんじゃない! 誰かがもうやって、私たちはこの今までずっと守られてきた! だから、誰かに守られるのは終わりで、私が皆を守る番なの!」
「確証もない希望に縋りついて失敗したら!?」
「確実な未来なんてない!」
「なら貴女が行く道が正解だとも限らない!」
「失敗が怖いから皆に死ねって言うの!?」
「そこに貴女自身を労わる心がない! そんなの間違ってる! 自分から死にに行くなんて狂ってる!」
「狂った程度でみんなを守れるならどれだけ狂っても構わない!」
「だからぁ……そうやって! 自分を捨てて! そういうのがダメだって言ってるんですよ! ずっと、ずっと、死ぬのが嫌だって言ってる人間が、どうしてそうやって苦しい道に踏み込むんですか!」
「戦わないとみんなが死んじゃう! 琉希の言う通り戦わなかったとして、結局皆が死ぬなら何の意味もない!」
「そんなことは分かってる!」
無茶苦茶だ……
「琉希の言うこと無茶苦茶だよ!」
「人の心が一言で表せるわけないでしょう!」