『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第二百七十六話

「にしても変だよね、私が見る映像全部カナリア関係の奴だけだし。他の物に鑑定使っても何も起こらないんだよ」

 

 何も起こらない、というのは語弊がある。

 実際にそのものの説明などは視ることができるし、モンスターならステータスを確認できた。

 しかしながらこの首輪や首飾りなどとは異なり、決して映像が映ることはない。

 

 思い出にでも浸っていたのだろうか? 首飾りを指先で弄んでいたカナリアが、少し気の抜けた声で私の疑問に答えた。

 

「あ? ああ……貴様は覚えていないだろうが、過去の世界で私と貴様は一応顔を知った相手だからな」

「え!? そうなの!?」

 

「考えてもみろ、私は貴様の両親と長年協力関係にいたわけだ。加えてアリアや奏……貴様の父親の人伝を利用していたのだぞ。貴様の事を知っていてもおかしくはないだろう」

「なるほど……」

「とはいえ過去の世界では貴様は探索者ではなかったからな。あくまで顔を見たり、少し話した程度だ。『目標』の達成からすればはっきり言って、取るに足らない塵芥だった」

 

 親しくはない、知人というにしてもあまりに関係の薄い、まさに面識があるという言葉がぴったりの関係だったらしい。

 

 彼女の言う目標とは即ちクレストを倒す事。

 確かに、私はこんな特異なユニークスキルを持っているからこそ半年でのレベリングが可能であったが、一般的にここまで一年であげるのはまず不可能だろう。

 何らかの方法で『経験値上昇』を手に入れていたとしても、それこそ琉希のような狂った方法を取らない限りは。

 

 私自身お金に困っていたり体力が足りないという問題が無ければ、わざわざ探索者になることなんてなかった。

 家族が普通にいるかこの世界なら猶更だろう。

 

 なるほど、確かにクレストを倒す目的の前に、過去の私は取るに足らない存在だと言える。

 

「ねえ、私どんな人だった?」

 

 それはそうとして、今とは別の生活環境で育った私という存在に興味が引かれた。

 

 ママがいて、パパがいて、きっと高校にも通ってたのかな。

 剣崎さんが住んでいたあの家で、こんな地震が無ければママの言う通り、休日にお庭で机を出してお茶会でもして……現実はボロボロの町でお菓子の味も分からない体になったわけだけど。

 

 が、そんな事より聞き捨てならない話が飛び出して来た。

「今とは別物だったぞ、口数も多いし表情も豊かだった。後はそうだな……もう少し身長や胸は発育していたな」

「へぇ……え!? 身長高かったの!? どれくらい!?」

 

 私の身長が高かった!? それってつまり……身長が高かったって事!?

 

 この協会のコートを羽織るようになってからは随分と減った――とは言っても、コートの存在を知らない公共の施設などでは、やはり小学生扱いされる――ものの、特に探索者になる前の私はこの身長に長らく悩まされてきた。

 

 まず前の物が見えない。つま先立ちをしても見えない、ジャンプをしても見えない。

 結局人の隙間を潜り抜けて前列に行くしかないわけだ。

 更に他人から小学生だのいや中学生になったばっかりだなどと言われるが、その時点でもう中学の卒業間近であったり……まあ、虐められたり。

 

 理由も内容も下らない話だ。

 色々体験した今からすれば大したことだとも思わないけど、当時は同じクラスの子からのそれに随分と苦しまされた。

 

「アリアと変わらんほどだったはず。この国では高身長と言われる程度だな、過去の世界で私が出会ったのも丁度今頃だった」

 

 むかむかしてきた。

 

 ママの剣に関しては本人が許すと言っている以上許したが、つまりそれは普通に暮らせていれば、私の身長はもっと高かったということじゃないか。

 せめて理由を詳しく説明してくれたり、あんな別れ方じゃなければ私はご飯をちゃんと食べてたし、明るく過ごせた。

 そうならせめてもう少し身長が伸びていた。そうに違いない、いや、絶対そうだ。

 

「カナリア」

「なんだ」

「殴っていい?」

「駄目だが?」

 

 駄目か。

 

 まあ仕方ない、過ぎたことだ。

 今の私に出来ることは……なんだ? 牛乳でも飲めばいいのかな? でも味も分かんないし、変化した身体で牛乳を飲んでも意味があるのか?

 いや、その前に流通が止まっている。牛乳を飲むにしてもどこで買えばいいのか分からない。保存食の中に赤ちゃん用の粉ミルクはあったが、赤ちゃんに回すから勝手に飲めないし……私の身勝手な理由で飲むなんて許されない。

 

 それにしても……

 

「私とは別の私か……世界の時が戻る前とか何してたんだろ」

 

 住む環境が違う。

 付き合う相手が違う。

 何もかもが違う世界で、しかし同じ存在として生まれ育った『私』。

 

 身長は高く、口数は多いし、表情は豊か。

 それはもはや私と言って良いのか、私の名を冠した別人な気もするが、それはそれでどんな人間だったのか気になる。

 

 そして……今の私のように戦っているパパやママを見て、一体『私』は何を思って、何をしていたんだろう。

 何も気付いていなかったのか? 気付いていて、それでも触れなかったのか? それとも何か行動を起こしたのだろうか?

 六年前の今、つまり時を戻される直前で、私はどう過ごしていたのだろう。

 

「ん? あぁ……」

 

 そんな話を聞けば当然沸いてくるであろう質問に、しかしカナリアは要領を得ない返事を返した。

 まるでどう表現すればいいのか困ったかのように顔を一瞬強張らせ、だが一瞬後にはそれが見間違えだと言わんばかりにふい、とそっぽを向く彼女。

 

「知らん、遊んでたか寝てたんじゃないか?」

「遊んでたか寝てたって……」

 

 なんかすごいバカっぽい。

 嘘でしょ? 前の世界の私そんなアホっぽい感じなの? いや確かに今の私はそんなに頭良くないけど、前の私もそんな、そんな世界の危機を前にして遊ぶか寝てるかしてる感じだったの?

 え、やだ。すごいやだ。せめてパパとママの帰りをはらはらしながら待ってるとかにして欲しい。

 

「二日後の夜、最終調整を兼ねた打ち合わせを行い、三日後の明朝に出発する……やるべきことは終わらせておけよ」

「ちょ……うそ、本当に私そんな感じの人間だったの?」

「知らんと言ったら知らん! 適当に言っただけの物を真に受けるな!」

 

 あまりな言われように困惑する私を置いて、カナリアはずんずんと離れていってしまう。

 

「ねえ! 打ち合わせって、私たち二人しかいないじゃん」

「それ以外にも一つすることがある。今後を左右する問題だからな、しっかり調整(・・)しておきたい」

 

 じゃあお休み。

 

 有無を言わさずカナリアは空をふわりと舞い上がると、こちらの返事すら待たず、あっという間に町の方向へ飛び去ってしまう。

 暗い道の上、意識を失った琉希を抱いたまま、疲労困憊した身体を引き摺り歩く私は、他人から見ればなんとも物悲しい影を纏っていただろう。

 

 ……せめて琉希だけでも連れて行って、先に寝かせてくれればよかったのに。

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