『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第五十一話

「ま……まだ……?」

「大丈夫ですよフォリアちゃん……もうすぐ……かはっ」

 

 カリバーとさっき拾った剣を杖代わりに、ふらふらと歩く私たち。

 目も霞むし、歩いた後には点々と血が垂れていた。 周りの人々も異様な私たちの姿に何か感じているが、通報するべきなのか、探索者の出来事に巻き込まれないように遠目で放置するべきか戸惑っている。

 テンション高く花咲ダンジョンから抜け出した私たちであったが、そもそも多少回復魔法を使ったとはいえ全身ボロボロ、あまりの苦痛に呻きだすのはすぐであった。

 アドレナリンが切れた後はただの地獄、息をするのすらおっくうだ。

 

 しぬ……しんでしまう……

 薄く塞がってはいるがぱっくりと斬られた胸元がジンジン痛むのを抑え、ようやく目の前に見えてきた協会の扉を睨みつける。

 正直もう歩きたくない……あっ。

 

「琉希……協会に岩投げて人呼んで……」

「あ……それいいですね……はは、『覇天七星宝剣』……」

 

 ビュンと猛烈な勢いで飛んでいく岩。

 ああ、これはまずいな。ぼんやりとした思考の中、速度の出過ぎた岩を眺めてそう思ったが、止める言葉が上手く喉から出てこない。

 疲労困憊が極まっているせいで、思考や行動がちぐはぐになってしまう。

 

 その時、協会のガラスを突き破って、一人のハゲが飛び出してきた。

 

 筋肉だ、筋肉がやってきた。

 彼は別段焦った様子もなく岩の射線上に立ち、何気ない様子で踵落としを決めた。

 その瞬間岩は土を巻き上げ地面へめり込み、すべてのエネルギーを失う。

 

 レベル1000を超えた探索者の一撃、それを止めたにも関わらず特に身体を痛めたこともなく、誰だ岩なんて投げてきたのは! などと茹蛸の様に顔を赤らめ怒っていた。

 

「もうむり……」

 

 限界ギリギリであった体。

 ついでに筋肉のパワーを見せつけられ、私は気絶した。

 

 

「ん……」

「おう、起きたか」

 

 霞む視界、魔灯の柔らかなオレンジの光。

 ふんわりと温かいベッドの上で寝転がっていることに気づく。

 そして横から伸びてくる暑苦しい顔、筋肉だ。

 

「事情は大体この子から聞いた」

「フォリアちゃんおはよーございまーす!」

 

 ついでにもう一人、黒髪の少女の顔も伸びてきた。 琉希だ。ここは協会の二階にある、職員の仮眠や緊急時のベッドらしい。

 私が寝ている間にダンジョン崩壊の件については聞いていたらしく、今回の岩投擲に関しては不問となった。

 よく食い止めたと、後でもう少し細かい話が聞きたいから、起きたら降りて来いと言って筋肉は部屋から去る。

 

 相変わらず話の分かる奴だ。

 

 ベッドのそばにはリュックが置かれていて、ペンダントや魔石もそこから頭を覗かせている。

 魔石はさっさと売るとして、ペンダントは正直よく分からない。

 私が見たあの映像は一体何だったのか気になるし、一応とっておこうと思う。

 ……もしかしたら本やネットで調べてみたら、案外私と同じような体験をした人が居たりしてね。

 

「大丈夫ですか?」

「まあまあ、そっちは?」

「私はほら、リジェネがある程度残っていたので!」

 

 力こぶを作り、にかっと笑う琉希。

 ふと胸を触ってみれば、そこに傷はもうなかった。私の傷も治っている。

 恐らく協会の回復術師に治されたのだろう、費用は預金から勝手に引かれているのだろうか。

 

 壁へ供えられた時計が示すのは六時。

 窓の外は若干薄暗くなっているので、もう直に夜の帳が下りるだろう。

 

 毛布を下ろしリュックを背負う。

 この時間帯は受付が混む、さっさと並ばないと相当待たされることになる。

 もういいんですか? と首をかしげる琉希に頷き、私達は一階へと向かった。

 

 

「んー……魔力が少ないな。これなんかに使ったとかじゃないか?」

「ちゃんとさっき戦って取ってきたやつ、その機械壊れてるんじゃ?」

「そんなことねえよ。崩壊寸前のボスで1000レベルだろ、本当はこの数百倍あってもおかしくねえ」「おかしい、絶っ対おかしい。筋肉はうそをついている、うそつきんにく」

「まあまあフォリアちゃん落ち着きましょう、ね? 取り敢えず調査に送りましょう! はい決定! 終わりでーす!」

 

 琉希が件の魔石を取り上げ、ぽいっと送付用の箱へ放り込んで蓋をしてしまう。

 

 白銀の騎士、その特徴や技などを筋肉が聞き取り書き終えた後、どれくらいの魔力があるか測ってみようという話になった。

 内蔵されている魔力量によってどれくらいで売れるかもわかるし、モンスター自身の指標にもなる。 そして筋肉は天秤のような機械を引っ張ってきて魔石を乗せたのだが、途端に顔をゆがめた。

 

 話と魔石内の魔力が釣り合わないというのだ。

 

 勿論そんなわけない。

 確かにあの白銀の騎士は化け物みたいに強かったし、レベルに見合ったステータスをしていた。

 魔石だけがカスみたいな魔力だなんて、あまりに奇妙過ぎる。

 

 しかしこれは事実だと筋肉は言い張り、二人睨み合うことになった。

 別にお金が欲しいわけじゃない。

 ただ信じていた筋肉がこんなくだらない嘘を吐くというのが、私にとっては何よりも気に入らなかった。

 

「はいじゃあ剛力さん後はよろしくお願いしまーす! さあフォリアちゃん、ラーメンでも食べに行きましょう!今日は私が奢っちゃいますよー!」

「筋肉、うそつきはいつか後悔することになる」

 

 結局筋肉は過ちを認めることなく、話はお開きになる。

 ずりずりと琉希に引きずられ、無理やり協会から出されてしまった。

 

 

「……いや、本当のことなんだけどなぁ……ぶっ壊れちまったんかな」

 

 機械を滾々とつつき、軽く状態を確認する剛力。

 傍らにあったCランクの魔石をのせてみれば、やはり正しい数値を示す。

 壊れているわけでもなく、本当にこの『グレイ・グローリー』の魔石だけが明らかに魔力が少ないようだ。

 量にしてゴブリンリーダーと同じ位、数千円程度の価値しかない。 

 

 彼女らの話が本当なら、絶対にありえない数値だ。 魔石は死後モンスターの魔力が固まったもの、それこそモンスターの身体を構築している魔力まで吸い取られたなどでもなければ、そう減るものではない。

 

「……まあ、しゃあないな。ないもんはない」

 

 箱をしっかり封じ込め、上にモンスターの特徴などを書いた紙を張り付け、嘆息する。

 

 ダンジョンは毎日奇妙な出来事が報告される。

 一々そんなことを気にしていたようでは、協会支部のトップなど務まらないのだ。


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