『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第九十一話

 二人が消えてからは驚くほどあっさりと話は終わった。

 淡々と、人の生き死にが決まるだなんて思えないほど非情に、髭を生やしたおじいさんたちは彼女の罪状等を読み上げ、冷酷な判決が下された。

 

 肝心の被告人は……

 

「立て」

 

「い…………嫌だっ! 死にたくない! ああああ死にたくないしにたくないいやだあああっ! はなせよっ! なあおい助けてくれよなあお前たちだってわかってるだろ!? 私が何したっていうんだよ! 変なことなんてひとつもしてない! 悪いことなんもしてないよぉ!?」

「静粛に」

 

 抑えきれない感情でぐちゃぐちゃに歪んだ顔。

 言いたいことは無数にある、だがむしろ多すぎて出し切ることが出来ない……そんな表情はあまりに痛々しくて見ていられない。

 

「お前らが使ってる物だって私が開発したもの多いんだぞ!? 恩恵だけ肖ってちょっと不都合になったら消すなんてずるいだろこんなのさぁ!? ばかあ! あほ! アホ王! バカ王! バカリス! アホリス!」

「黙れ!」

 

 見ていられないと思っていたのに、どうにも発言が微妙な緊張感を掻き消していくのは彼女の性格ゆえか。

 

「い、嫌だ! 黙らない! 黙らないぞ私は!! お前らこの先起きてても寝てる間も夢や脳裏で私のことを思い出して苦しむように記憶へ刻み付けてやる! 人間は嫌な記憶を忘れないように出来ているんだ! あの時助けていれば良かったと一生後悔し続けろ!!」

 

 ずるずると小さな体を引き摺られ両手を振り回し、涙と唾をまき散らしながら姿を消すカナリア。

 この先いったい彼女はどうなってしまうのか、無意識に追いかけようと足に力を入れたところで……

.

.

.

 

 

「ここまで、か」

 

 相変わらず終わりは唐突で、ふと気が付けば私は元通り協会の椅子へと、頬杖と共に腰かけていた。

 

 カナリアが付けられていた真っ黒で簡素な首輪。

 血も何も付着していない、ただつけていた主だけが不在で、恐らく鎖が付いていたのであろう部分にはなにもついていない寂し気な姿。

 彼女は既に死んでいるのだろうか、それともあれは現在進行形で……?

 ダメだ、どうにも見たそれがどこかふわふわとしていて、それこそテレビだとか映画の中の出来事のように思えてしまう。

 

 けど、たった二度しか経験がないけれどそのどちらもが彼女に纏わる出来事の映像だった。

 この首輪も、そして今アイテムボックスに放り込まれたペンダントも彼女の物。

 関係なんて。意味なんてないのかもしれない。ただ偶然私の手元にこれが転がり込んできて、ただ偶然私が『鑑定』をしたからあの映像が見えただけなのかもしれない。

 

 しかし、もし何か関係があるとしたら…………

 

 

『ふみ゛ャっ』

 

「痛っ、お前アホねこめ」

 

 ピリリとした頬に走る痛みがドツボにハマった思考を掘り起こす。

 

 目の前にはあいつ。

 私の不意を付けたことにご満悦な表情を浮かべ、机の上で右手をうにうにとさせて優雅な毛づくろい。

 例えるならば不敵なお嬢様と言ったところか。

 

 相変わらず生意気な奴め。

 そういえば筋肉が首輪、こいつに付けろとか言ってたな。

 

「おりゃ、捕獲」

 

 暴れるネコの鋭い爪を上手い事さばきつつ首輪を装着したはいいが、どこか何かが足りないような気もする。

 違和感があるようでカリカリと後ろ脚を使いひっかく姿を観察しているうちに、欠けたピースに思い当たるものが出てきた。

 

 鈴だ。

 猫と言ったら鈴だろう、鈴付けよう鈴。うんうん。

 

「おりゃ、ちょっとこっち来いアホネコ」

『み゛ぃ!?』

 

 買い物行っている間にどこかへ姿を消されても困るし、ついでにこいつも連れて行けば似合うのも見つけやすいだろう。

 

 脇へ手を差し込みでろーんと持ち上げ、ゴリっとした硬い物体が手のひらに突き刺さる。

 膝へ着地、感覚を頼りに毛を掻き分け見つけたのは黒く小さな石。

 石と言っても本当に爪より断然小さく、人によってはこれは砂の粒だと言うだろう、それほどまでに小さなものが固まっていくつか点在していた。

 

「なんだこれ……」

 

 かさぶた、かな……?

 

 爪で引っ掛けて弄ってみたがどうにもがっつり張り付いていて、引っ張ると痛むのかウナギとなってグネグネ体をくねらせ嫌がる。

 無理に取ってしまうこともできるが、かさぶたはあまりとらない方がいいとどこかで聞いたことがある。ステータスのない動物にポーションを使おうと意味がないし、どうせそのうち治って剥がれるのだから放っておこうか。

 

 まあどっかで喧嘩したとかだろう、猫だし。

 

「また喧嘩してんのかお前らは」

「違う、可愛がってあげてるだけ」

 

 ついでにもちもちと頬を引っ張って遊んでいると、コンビニから帰ってきたのかビニール片手のウニが反目で私と猫の攻防に口をはさんできた。

 ぷすぷすと膝の上から抗議の鼻音が聞こえるが無視だ無視、第一最初に喧嘩売ってきたのこいつだし。

 

「まあいいや……程々にしろよ」

 

 いまいち私の話を聞いていなさそうなウニの反応。

 

「別に喧嘩なんて……あ、ここら辺にペットショップとかある?」

 

 どうせ何言ったって信じてくれないし、さっさとここは退散するに限る。

 あ、こら暴れるなって。


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