『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第九十五話

 昼頃を見計らい協会へ突撃、窓際の木漏れ日に当たっていた筋肉を確保。

 そして……

 

「筋肉……私を弟子にして。いや、弟子にしてください」

「断る」

「38……」

「筋肉……私を弟子にして。いや、弟子にして」

「断る」

「39……」

「筋肉……私を弟子にし」

「断る」

「40……もういい加減諦めたらどうですか? マスター」

「おう、本当にな……!? 待て、何故俺が諦めないといけないんだ」

「だって以前嘆いてたじゃないですか、助手になってくれるようなのがどこかにいないもんかって。ここ最近『崩壊』の発生数も増していますし……」

 

 助手。

 もちろん戦い方を教えてくれるのなら仕事の手伝いくらいしよう、きっとそれも経験になる。

 そうなれば必然、彼へ私のスキルについても教えることになるだろうが……きっと嫌なことはしないはず。

 

「うんうん、私ならお得。言うこと何でも聞く」

 

 後ろで何やら数えていた園崎さんがすっと横入りして来る。

 しかし彼女の説得も何のその、渋い顔で決して首を縦に振る様子がない。

 何もない私にポンっとお金を払ってくれたり、全くあてにならなかったとはいえ攻略情報を教えてくれたりと動いてくれた彼に似合わない行動。

 

 どうしたものか、これは頑として認めてくれなさそうだ。

 だが私にも教わりたいほど強い人といえば彼しかおらず、あまりここで譲歩はしたくない。

 仕方ない、次の一手を考えるか。

 

「わかった……」

「おう」

「勝手についていく」

 

 もし教えるのが苦手だったとしても、後ろについて戦っているのを見れば学べることはあるはず。

 それに気の良い筋肉のことだ、直に認めてくれるだろう。

 

 

 

 筋肉の朝は早い。

 まだ日も高く昇っていない頃、服の下からでも大胸筋をぴくぴくとさせながら電車を降り、静謐に包まれた街をゆっくり歩いて協会へとやってくる。

 

 都会じゃセミは夜でも鳴くらしいがここらじゃ決してそんなことはなく、薄暗く涼しいこの時間にはまだかすかに聞こえるのみ。

 こうしてブロックの裏で奴が来るのをじっと待っていようと、日差しに体が焼けることもない。

 

 そんなとき、視界の端で輝く何かを捉える。

 筋肉のスキンヘッドだ。

 

「む……こんな朝早くに奇遇」

「隠れてただけだろ」

「な……!? しょ、証拠がない。お前の発言に私の心は深く傷ついた、詫びとして弟子にすることを要求する」

「当たり屋みたいなこと言うなよ……ブロックの端からバットが見えてんだよ、もう少し隠す努力をしろ」

 

 なんと。

 まさか相棒(カリバー)が私の隠密行動を妨げていたとは、思わぬ伏兵であった。

 だが私は寛大な持ち主、一度の失敗で怒ることはない、うむ。

 

 私が相棒をなでなでしている間に筋肉は脇をすり抜け、すたすたと協会へと向かっていく。

 もちろんちょっとしてから私も気付き、今度は別に隠密する必要もないので後ろに張り付いている。

 

 その時ふと気付いたのだが、筋肉は足音が全くしない。

 軽い衣擦れとかすかにアスファルトのカスが蹴られる音だけ、どうやってるのかは謎だが特に意識をしているわけでもなく、その歩き方が完全に身についているようだ。

 これはきっと戦闘でも役に立つだろう、耳の良いモンスターなら足音で気付かれてしまうかもしれないし。

 

「こうか……?」

 

 見よう見まねの歩き方。靴底が地面へ擦れない様垂直に下ろし、ゆっくりと上げてみる。

 

 ダメだ。

 

 多少はマシになったがしかし、やはりはっきりと音が鳴ってしまった。

 物の少ないアスファルトの上ですらこれなのだから、きっと砂利の多い場所や落ち葉の上ではもっと派手に響いてしまうに違いないだろう。

 いや待て、そもそもそういった場所は出来る限り避けるのも対策の一つなのか?

 

 ううん、考えることが多くて頭が痛くなる。

 

「かかとから付けるんだよ、かかとからつま先にかけてぴったり地面に這わせてみろ」

「なるほど……こうか……!?」

 

 背後でいつの間にかにやついていた筋肉。

 

 おかしい、前を歩いていたはずなのに。

 気配のなさはともかく彼の指示は的確で、実際にかかとから足をつければ意識せず歩いていた時とは段違い、確かに足音はめっきり聞こえなくなった。

 だがこれは……普段使っていない筋肉に刺激があるようで、非常に足が攣りそうな予感がする。

 

「じゃあ俺は先に行くから、頑張れ」

「ちょっと……待ってああああああぁぁ?」

 

 攣った。

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