ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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第二試合。ついでにリリの秘策。(破綻済)

 次の試合はケイブンだった。

 ケイブンはおじいちゃん剣士で、元騎士団長だった人だ。

 年齢はたぶん60歳を越えていて白髪混じりなんだけど、背筋はシャンとしている。

 この人、剣の達人ということで、たぶんうちのばあちゃんよりも強い。

 魔物だらけの世界で生きていたわけだからな。

 ちょっと膝に矢を受けて一戦をしりぞいていたらしいけど、いまではわたしの回復魔法で元気に跳ね回っています。というか――ピオラをつかって加速するとマジですげえな。

 

 わたしも加速した世界に参入しなければ、目で追い切れないレベルです。

 

 対するは、こっちは30代くらいのおじさんって感じの人。

 騎士の鎧を着ていて、レムリア王国の紋章がついている。

 ユユルに誰なのか聞いてみたら、なんとこの国の現騎士団長らしい。いままで影が薄かったのはわたしが興味がなかったせいだ。

 名前はさっき聞いたんだけど忘れた。まあ別にいいだろう。

 イオちゃんの脳内リソースは有限なのだ。

 

 それにしても新旧対決ってやつか。

 騎士団長のほうも当然魔法の付与はおこなわれている。

 だから、一方的な試合にはならない。

 

 それどころか――、両方がピオラをかけたらどうなるのか。

 人間並みのピオラはそれでも、はぐれメタル並みのスピードは出るからな。

 剣速なんかもっと凄まじい。

 

 で、結果としてどういうことが生じるかというと――。

 

 互いに剣を構える。

 

「いくぞッ!」

 

「うむ」

 

 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!

 

 わたしは嘘をついていません。

 

 速すぎて描写ができないんですね。

 というか、何をやっているのかよくわかりません。

 むしろ迫真の描写だと思う。だって、音しか聞こえないんだもんな。

 達人クラスがピオラとか使ったらいかんよ。ヤムチャ視点になる。

 

 少しばかりして――、たぶん何合も撃ち合ったのか両者の姿が現れる。

 インターバルってやつなのかもしれない。

 

「成長したようだな」とケイブン。

 

「師匠こそ衰えも見せず、あいかわらずの妙技です」と騎士団長。

 

 そして姿が再びかき消え――、

 

 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!

 

 わたしもピオラをかけてみれば、なにやってるかくらいはわかるんだろうけど、あえてそこまでする必要はなさそうだった。「たたかう」コマンドにはそこまで興味はないのだよ。

 

 これが今回の大会でも初めての魔法を使った戦闘なんだろうけど、しかし地味だな。

 もっとメラとかギラとか使ってもいいのに。

 あるいは一対一の戦闘だったドラクエⅠでは、ラリホーが結構厄介だった。

 昏睡させて殴るのって凶悪だしな。大会では禁止されてたりするんだろうか。

 

 なにやってんのかわからん戦闘が続く。

 

 やがて、膝をついた騎士団長の姿と、それを見下ろすケイブンの姿が見えた。

 ケイブンが手を差し出す。そしてグッと力をこめてそれを握る騎士団長。

 男どうしの熱い友情ものって、悪くないなと思います。こんなことを考えるのも、イオちゃんの女子力があがってきた証左でしょうか。

 

 それにしても、つええな、じいちゃん。

 

 続いて、アレクの試合だけど割愛でいいか。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「お姉さま。がんばってくださいね」

 

 わたしはユユルを激励する。

 次の試合は、ユユルとケイブンだった。

 試合前だけど、どういう試合になるかは予想はできる。

 まあなんというか、この世界の戦い方はハッキリ言って脳筋なんだよな。

 見ててわかったんだけど、せっかくの魔法を補助魔法に極振りしてて、ベギラマを使ったりとか、メラで牽制したりとか、ホイミすら使ってない。

 

 魔法を付与してまだ間もないからしょうがないとはいえ、基本的には剣でぶった切るのが主体だ。

 これは、わたしみたいに魔法主体の戦闘というのを実際に目の当たりにしていないせいだろうと思う。わたしはマンガなりアニメなりで十分に熟知していますからね。

 

 なお、使える魔法はレベルと適性に依存するみたいだけど、わたしが覚えている限りの魔法名はユユルに伝授していた。ドラクエでは、少なくとも発動キーとなる魔法名を唱えないといけないからな。わたしが魔法名を教えない限り、その魔法を唱えることはできないというわけだ。当たり前だけど。

 

 そしてそのすべての魔法名を記した巻物は、国宝として宝物殿に祀られているらしいです。

 

「姫様。いきますぞ」

 

「お手柔らかにね」

 

 ユユルに積んである補助魔法は、主に防御特化とほんのひとつまみのバイキルトだけだ。

 ピオラは自前のものにしてもらってる。なにしろ常時二倍のスピードとかだと日常生活に支障をきたしてしまうからね。だからピオラは人並みであって、ケイブンとほとんど同じ。

 

 例によってキンキンキンと剣劇の音のみが響く。

 会場にいる観客のみなさんはその圧倒的スピードについていけてない。

 

 いや、たぶんだけどケイブンのほうが速いんだろうな。

 姫様の剣はケイブンに習ってきたわけで、いわば師匠と弟子の関係だ。

 性差もあるだろう。年齢差で言えば、そろそろケイブンは引退の年だろうけれども、身体的不調はわたしがとりさってしまったわけだし。

 

 しかし、追いついている。ユユルも負けていないように思う。

 さっきどんな試合だったかまったく意味不明だったわたしは反省し、少しはわかるように努力することにした。

 

――レミラーマ。

 

 探索魔法を使って、空間認識する。

 こうすればピオラを使うことなく、日常的なスピード感覚のまま、剣の動きを認識できるみたい。

 

 ちょっと前にミサイルがどこから来るかとかも、この魔法で明らかになったんだから当然だ。ミサイルの飛翔スピードは剣速より速いわけだし。

 

 この魔法を使って剣の軌跡を追えば、ユユルが必死にくらいついているといった感じか。

 力の差はたぶんユユルのほうが強い。素のスピードも。でも技量はケイブンのほうが上か。

 

――ダモーレ。

 

 ステータスを閲覧する呪文をかけてふたりの力量を見比べてみる。

 

 やっぱり姫様のちからのつよさと防御力は半端ないな。

 まあ、わたしが魔法をかけたせいですけどね。

 

「姫様。強うおなりになりましたな」

 

 感無量といった感じに言うケイブン。

 

「強くなったというより魔法のおかげなんだけどね」

 

「それでも使いこなされている。それは姫様の力といってもよいでしょう」

 

「まあそうなんだけどね」

 

 言い淀むユユル。

 

 もしかしてだけど、魔法をバンバン撃たないのは、わたしが補助魔法を積みまくったせいもあるかもしれない。わたしの魔法はこの世界の住人にとってはチートクラスだからな。地球でもそうだったけどね。与えられた力に罪悪感を覚えるのが普通の人ってことらしい。

 

 わたしの場合は、神さまに与えられたものだろうが、もうわたしのモノって認識だけどね。

 

 ユユルが魔法を使えるようになったのはたった一か月前。

 まだ魔法を自分のモノって思えないんだろう。

 それで、おそらくだけど、ユユルは補助魔法以外の魔法を使わないつもりなのだろう。

 

 こういったシチュエーション覚えがあります。

 

 その昔、ドラクエⅣのピサロという魔族が魔界武術会みたいなところで戦ったときも、魔法を使わないで勝つというふうにセルフ舐めプしてたんだけど、後の護衛であるピサロナイトに負けそうになって、魔法をぶっぱして勝つという恥ずかしいプレイをしていた。

 

 姫さまについては、わたしの推しであるのは間違いない。

 その姫様が負けるなんて正直なところ嫌です。

 

「姫様。魔法使って魔法!」

 

 わたしは手のひらでメガホンを作り、声を張り上げる。

 わたしの声はセナハによって、よく通る。雑然とした中でも届いたはずだ。

 ユユルはふっと笑って、こちらを見た。

 それからケイブンと対峙する。ケイブンもユユルの成長に嬉しそうに目を細めた。

 

「いきますぞ!」

 

「ライデイン!」

 

 ライデイン――、この魔法については特別感がある。

 

 天候の一部をあやつる雷撃の呪文というだけでなく、実をいうと一部の作品では"勇者の証"だったりもするんだ。勇者は職業でもあるので、勇者だからどうしたって話でもあるんだが、少なくとも勇者適性が高いことをあらわしている。

 

 そして、当たり前のことだけど、人体のほとんどは水分でできている関係で、雷撃を躱す方法はほとんどない。

 

 このまま魔法を撃ち放つのかと思ったけど、そうじゃなかった。

 ユユルは剣を掲げて、雷雲からの一撃をその切っ先に受けた。普通なら感電死まったなしだが、魔法的な謎の処理のおかげか、まったくの無傷。

 

 この一か月の間、わたしはドラクエの魔法を実演してきた。

 その中で、ダイの大冒険の必殺技とかも当然披露してきたわけです。傘とか箒とかを逆手に持って、『アバンストラッシュ』とかね。勇者の先生が編み出したこの必殺技は構えが独特なせいか、結構真似する人がいたという。ちなみにイオちゃんは地球では一回もそんなことしたことはありません。小学生女児がするには少々やんちゃに見えすぎますしね。わたしはこう見えてお嬢様ですので。

 

 この世界では普通の剣があったんで、そういう技もあるよというふうに伝えていた。

 ちょっぴり恥ずかしいけど、実演もしていた。

 

 それをたぶん覚えていたんだろう。

 

 この世界の住人だったら、もしかしたら魔法だけでなくて特技も使えるんじゃないかという考えもあった。その結果が、いま結実しようとしていた。

 

「ライデインストラッシュ!」

 

 姫様が逆手に持ち替えて一閃する。

 逆手ということは順手に比べると、相手に到達するまでの距離が長い。

 現実的に考えれば、振り下ろされる剣によって両断されるはず。

 ある種の特攻技であるのは間違いない。

 でもそうはならないのは、神速といっていい速さがあるからだ。

 ケイブンの身体は真一文字に切り裂かれた。

 

 やべっ。これ死んじゃわない?

 

「ベホマ!」

 

 わたしはとっさに回復魔法をかける。

 あまりにもタイミングが絶妙すぎたせいか、ケイブンはまったくの無傷のように見える。

 

「な、何が起こったんだ?」「ミス?」「いや完全に切り裂いていたように見えたが」「イオ様が何か魔法を唱えてらっしゃったぞ」「これは奇怪な」

 

 みんながざわついている。

 試合中に手を貸したから無効試合とかにはならないよね。

 ど、どうすれば。

 

 当事者であるケイブンは自分の切り裂かれたところが何事もないのを確認し、わたしのほうをチラリと見た。そして静かに目を閉じ剣を収めた。

 

 ユユルのほうは困惑気味だ。

 

 あいもかわらず会場は雑多な声で満ちている。

 

「降参?」「姫様の攻撃すごかったもんな」「イオ様が立ち上がったときのあんよ」「いやここであんよは関係なくね?」「イオちゃん様がおろおろしている!」「オッズ3倍だけどあの爺さんに賭けてたんだけどな」「まあ一番人気は姫様だしな。順当順当」

 

「静まれいっ!」

 

 怒号を発したのは、このところ影の薄かった王様だった。

 言うまでもないけど、この国の最高権力者の一言は効いた。

 会場はシンと静まりかえり、王様は厳かに声を発する。

 

「今の試合は、ケイブンに命の危険があるということでイオ様が回復魔法を撃たれたのだ。それで間違いありませんかな。イオ様」

 

「そうです。姫様の放った一撃は死に至らしめる可能性があるものでしたから」

 

「おお、なんと慈悲深い」「予選でもベホマズンかけてくれた慈悲深きお方よ」「ベホマズンってなんぞ」「知らないのか。全体回復魔法だよ」「かわいい(直球)」

 

 かわいいのは当然ですけどね。

 ちなみに予選で傷ついた皆様を癒したのもわたしです。

 時折、わざと傷ついてわたしにベホマかけてもらうやつとかもいたけどな。

 

「今の試合はユユルの勝利とする」

 

 歓声が沸いた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 リリは控室にいた。外からの歓声が聞こえる。どうやら勝負がついたらしい。

 そうしたらいよいよアレクとの戦いだ。

 

 この都市に入ってから、魔王ドゥアトはおとなしい。

 マホカトールの威力がドゥアトの力を削いでいるのかもしれない。

 あるいは、毒針の一撃に向けて力を蓄えているのかもしれない。

 

 アレクの身体にしかけられたという爆弾。

 火薬というものについては発明済みであるが、ダイナマイトのような大それたものは存在しない。

 しかし、爆発という現象自体は知られている。

 

 イオが魔法で人を生き返らせたということはリリも知っていた。

 ドゥアトがアレクを殺したとしてもイオの魔法で蘇生できる可能性はある。

 しかし、あくまで可能性だ。

 イオの魔法をつまびらかに知るよしもないリリには、可能性に賭けるのはあまりにも怖い。

 他方で、ドゥアトの命令に従うのも恐ろしい。

 イオという最大の戦力を失った人類は、そのまま魔王に蹂躙されるかもしれないからだ。

 ドゥアトは世界の半分を与えるなどとうそぶいていたが、そんなことはどうでもよかった。

 

 しかし――、アレクが死ぬのは怖い。

 

 この都市に入る前、ドゥアトは言っていた。

 武術大会で優勝すれば、イオの目の前に近づける。

 そこで毒針を使えと。

 

 もしも毒針で害したとなれば、結果はどうであれリリは許されないだろう。

 火あぶりになるか、断首されるかはわからないが、行きつくところは同じ。

 つまり、死ぬ――。他の人間が黙ってはいない。

 

 リリには情報が足りなかった。

 特に魔法については、いまだに断片的な情報が流れてくるのみ。

 おそらくレムリアン側の情報規制がひかれている。同じ国とはいえ、都市国家群の共和制に近いこの国では、戦後のことを考えないことは無い。イオという規格外の存在が突然舞い降りたことで、人間にはある種の余裕が生まれている。

 

 だから、リリは知らない。

 魔法で生き返らせるとしてもどの程度まで可能なのか。

 ただ明らかなこともある。

 毒針という卑劣な手段を用いることでしか、イオを殺すことはできないとドゥアトは判断している。ドゥアトよりもイオのほうが強いということだ。

 

 そして、もうひとつ。

 ドゥアトはリリの中にいる。正確にはリリの闇の中にいるといっていた。

 そうしなければ、聖邪両面の性質を持つドゥアトであっても、容易に侵入できないとも。

 つまり、死ねばよい。

 

 リリが死ねば、リリの中にいるドゥアトは陽光の下にさらけ出される。

 もっとも確率が高いのは、即死すること。

 たとえ魔王であっても、リリが死ぬという事態には混乱するはずだ。少なくとも依り代を失ったヤツは、アレクを爆発させる余裕はないはず。保身の心が強いから、イオによって撃滅させられる前に逃げるのではないか。

 剣筋も剣の癖も知りぬいているアレクであれば、こちらが合わせることで即死も可能ではないか。

 イオの目の前で、死ぬ。これが最善。

 だから、アレクと戦うときまで待っていたのである。

 

 けれど、リリは知らなかった。

 控室にいたため、さきほどイオが即死攻撃の寸前に完全回復魔法で回復させてみせたことなど知る由もなかったのである。




ちょっと微熱が出て、大事をとって休んでました。
どうやら大丈夫そうなので、執筆速度アップを目指します。
やっぱり現代編を書きたいんで、唐突に番外編ぶっこむかなとか考えたりも。

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