第1話
アクア様に異世界に飛ばされて最初に見たものは、とても可愛いらしい少女だった。
その少女は黒髪で一見素朴な見た目をしているが、よく見ると『癒し系』と呼ばれる顔付きで、全体的にスラリと整った体型をしている。
おまけに発育も良い。
随分と小柄に見えるが、それは女神様に聞いていた通り俺の身長が高くなっただけで、見た目通りの年齢なら標準的な身長だろう。
間違いなく美少女に分類されるだろう容姿をしていた。
そんな目の前にいる少女は、何やら目を閉じて、
「こんなことしてちゃ、ダメだよね……。よし!明日こそ、明日こそ頑張る!!私は明日こそは頑張るんだ!」
と独り言を言っている。
その少女の他に俺が首だけ動かして見た光景は、木で囲まれた中にぽつんと空いた空間が広がっていて。
俺を囲うようにして、ファンタジーでお馴染みの『魔法陣』らしきものが描かれており。
そして、少女の他には誰もいなかった。
……異世界に転送された場所が林?森?の中で、異世界人とのファースト・コンタクトが、こんな場所でひとりぼっちで独り言を喋っている少女とは、女神様は一体何を考えているのだろうか?
そりゃあ、女神様に「なるべく人のいない場所に転送してください」とは言ったけど、この状況は意味不明すぎる……
そんなことを考えていると、彼女は
「明日、もう一度めぐみんに会いに行って……また勝負を挑んでみよう……」
「何だか、最近はずっと避けられている気がするけど……。気のせい、だよ……ね?…………うん!絶対そうだわ!!」
「だ、だって!めぐみんが、私のことを嫌うなんて、あるはず……ないし……」
「……うん…………明日には、きっと、前みたいに……うん。頑張るぞっ、私!!」
と未だに意味不明の独り言を、ボソボソと口から漏らしていた。
やがて少女は自分の思いに折り合いがついたのか、しきりに頷いて満足したし、やっと顔を上げて目を開いてくれた。
……よし。ハッキリと言って延々と独り言を言っている姿は少し怖かったけど、なんだか人の良さそうな雰囲気ももっているし、試しにコミュニケーションを取ってみよう。
『こんにちは、はじめまして。ちょっと邪魔して悪いのだけど、ここは一体何処ですか?』
そう社交的な感じで少女に質問しようとして、
「お、おおお、落ち着くのよ、私!れ、冷静になって考えるの!だ、だって召喚魔法は完成させてないんだから、いきなり何かが出てくるなんてありえないわ!!……そ、そうよ、これは幻覚!と、ととと友達が欲しくて欲しくてたまらなかったからって、げ、幻覚を見るなんて、私ったら、もう!」
……何故か目の前の彼女は、顔をゆっくりと上げて俺と目線があった瞬間に、いきなり錯乱し始めた。
少女の体がしきりに痙攣を起こしたように震え始め、目線があちこちに泳いでいる。
片手でほっぺたを力強くつねっている姿が、まるで『ここは現実じゃない、悪い夢なら覚めてくれ!』と言わんばかりだった。
……この子、ちょっとヤバい子なのだろうか?
とりあえず、あまりにも恐怖を露わにした彼女を落ち着かせようと慌てて声を掛けようとして。
「■■■■■ーーー!!」
まるで雷鳴が轟くかの様な、威圧感ある咆哮が自分の口から飛び出したことにまず驚き。
そして、彼女がほっぺたをつねった格好で立ったまま白目を剥いて気絶していることにさらに驚いた。
……あの、女神様。確かに代償は凄いと聞いていたけれど、想像とちょっと違うんですが……
今はもう会えない女神様に、何だかなぁ、とため息を吐きながら、俺は彼女が立っている地面を見て。
……とりあえず、この子を人がいる場所まで運ぶか。
流石にこのままにしておく訳にはいかないしな……
俺は自分で望んだ、しかし想像以上に筋肉質で色黒な体を眺めて、再度ため息を吐きながら、彼女を肩に担いで歩き始めた。
「■■■……■■……」
……ちょっと……これは……うん、気にしない、気にしない……
彼女を支えるために足を持っていた自分の片手に、若干生暖かい液体が触れた気がしたが、うん、これは汗だと思うことにする。
ズシンっ、ズシンっと地鳴りのような足音を立てて、俺は森の中を歩き進んでいく。
とりあえず、具体的な目的地がない状況で、俺は何処かに川が流れていないか探し回っていた。
川を発見し、あとはそれに沿って下っていけば、もしかしたら人が住んでいる場所の近くに出られるかもしれない。
最悪、森の中で1日を過ごすとしても、水の確保は必須だ。
異世界に転送されて早々に『脱水症状で死にました』なんて酷すぎるしな。
そうしてあてもなく歩き回っていると、奇跡的に水が流れる音が聞こえてきた。
「■■■■■……!」
俺は肩に担いだ少女が落ちないように気を配りながら、音が流れる場所へと歩みを進める。
無事に川に辿り着いた俺は、未だに気絶したままの彼女を寝かせても大丈夫そうな場所を探し、ちょうど草むらが生い茂っている場所へとゆっくり、慎重に肩から降ろした。
……ずっと彼女を担いで歩いていたのに全く疲れていない。
前の世界から考えると、比べ物にならないくらいの体力の多さに改めて驚き、手を握ったり広げたりして感動を噛み締めようとして。
……手、洗うか…………
自分の手の平がべっとりとしていることに気づき、若干げんなりした気持ちで川に近づき手を洗おうとして。
……そりゃあ、あの子も気絶するよな…………
そう川に写った自分の顔を見て納得した。
そこには巨人と見紛うほどの巨躯を持ち、肌は色黒で、体中の筋肉はまるでそれ自体が鎧であると言わんばかりなほどムキムキとしていて。
一応人の原型を保ってはいるものの、明らかに顔付きが人間のものではないくらい、厳ついものだった。
こんな姿をした奴が前の世界にいたら、誰だって即、警察に通報するだろう。
俺だってそうする。
俺は脳内で、この姿のままどうやって人と最低限のコミュニケーションが取ればいいのか考えたが、時間の無駄だなと切り捨てた。
そもそも、他人とはもう関わりたくないと思ってたし、その考えがあったからこそ、あの時、数ある選択肢の中からこのスキルを選んだのだから。
頭を振って気持ちを切り替え、俺は川に手を突っ込み、冷たい水の中で手を洗う。
……それにしてもこの川、水が凄く綺麗だな……
試しに汚れていない方の手で川の水を掬いながら飲んでみると、蛇口の水道水のような鉄の味が全くしない。
これがいわゆる『水本来の甘さ』と言うやつか。
自然の水の味というものに、俺は感動していた。
そのとき。
ガサッ
!?
突然、川の対岸にある草むらから何か動いた音がした。
……そう言えば、あの女神様からこの世界にはモンスターと呼ばれる存在がいるのだとか聞いた。
今までは運良く出会わなかっただけで、危険なモンスターがたくさんいる世界では人々は生き抜くだけでも厳しいのだと。
……危険は先に排除すべきだ。
この世界に転送される前に選んだスキルとやらでどこまでやれるのか、試してやろう。
「■■■■■■■■■■ーーー!!」
そう思い、俺はすぐに立ち上がって、さっきまでは少女を担いでいたために出せなかった力を脚に込め、地面を蹴ってみると。
たった一歩踏み出すだけで川の対岸まで届いてしまった。
いや凄いな、これ。
流石、女神様が強力と言うだけのことはあるな。
俺は感心しつつ、そのままもう一回地面を蹴って、目の前の脅威になりそうなものを排除しようと、何かがいるであろう草むらに飛び込むと
「あっ……うっ…………ひっ……」
と怯える眼が紅く光っている少女と、彼女に口を塞がれている、同じように眼を紅く光らせた小さな幼女がいた。
……危なかった。あと少し気づくのが遅れたら、そのままこの子達を殴ってしまうところだった。
ちょうどいい。この子達にさっきの子を任せよう。
少しあの気絶した少女より見た目が幼いが、同い年くらいでこっちの方が顔付きはしっかりしてそうな雰囲気だし。
恐らくここで遊んでいたのだろうから、もしかしたら人が住んでいる場所も近いはずだ。
俺を見て静かに逃げようと思うくらいなのだから、やっぱり人がいるところにこの姿で近づかない方が良さそうだしな。
「■■■……!」
俺はそのまま彼女達に背中を向けて、彼女達を怖がらせないようにゆっくりと森の中へ歩き去った。
しばらく森の中で食べ物を探しつつ、俺はさっきの川がある方向を見失わないように気をつけて歩いていた。
かなり歩いたはずなのに、全く食べ物が見つからない。
『脱水症状』の危機はさっきの川まで戻ればなんとかなるが、今度は『飢え死に』の危機だった。
転送されて一日目なのに、生きることがハードすぎませんかね?アクア様……
何とか食べれそうな木の実を見つけ、腹ごしらえをすることが出来た俺は、今度は森で一夜を過ごす怖さというものを思い知っていた。
『辺り一面が、真っ暗闇で覆われる』とはまさにこういうことなのか。
こんなにも、月明かり以外何も見えないとは思わなかった。
この身体になってから、音に敏感になったとはいえ、こんな真っ暗な場所では目に頼るのも限界があるし、出来ればモンスターに襲われるのは避けたい。
もう野宿する場所も見当たらないし、森の中で生えている中でも高い木に登って、じっと唯一光り輝いている月を眺めながら、今日の出来事について振り返っていた。
とりあえず、モンスターとの戦闘は何とかなることを確認出来ただけでも収穫だ。
歩き回っている途中で遭遇した、熊みたいな姿をして、でも熊にしてはやたらと爪が長かったモンスターに襲われたとき、さっきは試せなかったパワーがどんなものか、俺が貰ったスキルはどれほどのものなのかと全力で戦った結果。
「■■■■■■■■■■ーーー!!」
「ギャッ!?」(グシャ)
一発、頭を殴ったら即死した。
戦闘時間、僅か3秒くらいの出来事である。
攻撃される前に熊もどきの頭を殴って怯ませようとしただけなのに、モンスターの頭が、まるで『柘榴(ザクロ)を壁に向かって思いっきり投げました』みたいな惨状になった。
あの熊もどき、見た目からして多分かなり強いモンスターだと思うんだがそれを一撃で倒せる。
自分で望んだことながら、俺はこの過剰なほどのパワーに戦慄した。
……あの子達を殴らなくて、本当に良かった。
さっきの熊もどきならまだしも、人の頭があんな風になる光景は見たくない。
ましてや、相手が少女と幼女とか寝覚めが悪すぎる。
……あの子達は、無事にあの少女と一緒に住んでいた場所に帰ることが出来たのだろうか。
……今日の事がトラウマになっていなければいいが……
……いや、まずは自分の心配が先だな。ここが何処かも分からないし。
「■■■……」
異世界に来て新たな人生を送るつもりだったのにも関わらず、早くも前途多難な状況に、どうしたものかと思いながら、俺はただ夜が明けるのを待ちつつ、これからどう生きていくのかを考え続けたのであった。
というわけで、今回からオリ主である『バーサーカー』くん視点の物語が始まります。
基本的には章のメインは原作組のキャラクター視点で進み、[裏]ではオリ主がどんな風に過ごしていたのか、何を思っていたのかを描いていこうと思います。
なるべくグダグダにならない様に、書いていこうと思っているので、是非お付き合い下さい!