「……つまり、こめっこちゃんは数日前から、この怪……大男さんと遊んでいたの?」
「うん!そうだよ!毎日ね、ごはんくれた!!」
「そ、そうなんだ…………」
俺の肩の上に乗っているこめっこさんに、何故彼女が俺と一緒に行動をしているのか、その理由について質問している少女ーーーゆんゆんを見ながら、俺は地面にあぐらをかいて座っていた。
この世界に来て最初に出会った少女2人と大人3人の黒髪の集団が、俺の目の前に何の音もなく、前触れもなしに、突然姿を現らわした後。
俺達ーーー主に肩に乗っているこめっこさんを凝視しながら驚きの声を上げた後、彼等は瞬時に身構えた。
恐らく俺がこめっこさんを捕まえたと勘違いし、彼女を救うべく、俺と戦闘を始めようとしたのだろう。
特に、大人達の動きを見て、その切り替えの早さに、彼等は普段から戦い慣れていることが分かった。
そんな彼等を見て、俺の肩から「すとっぷ!!」とこめっこさんが制止の合図を出した。
「大男の人は悪い人じゃないよ。わたしとね、ずっと一緒にあそんでくれたの!!」
そんな彼女の言葉に、黒髪の集団はまたギョッとしたようにこめっこさんを見て、ようやく戦意を収めてくれた。
……危なかった。
いくら洞窟の奥であるこの場所が広い空間はいえ、こんな閉鎖されたところで、相手を殺さないように戦うには、今の俺の戦闘経験からは厳しい。
異世界での戦闘で、俺は全力で戦わなくてもモンスターはほぼ即死させるほどの過剰火力を、まだ制御できていない。
下手を打って、恐らくこめっこさんのことを探しに来たのだろう人達を殺してしまうのは避けたかった。
……それに、前にこめっこさんに聞いた話で、『紅魔族は魔法のエキスパート』だと言っていたことから、戦い始めて相手の強さを肌で体感したら、また我を忘れてしまうかもしれない。
この世界に来て、一番お世話になっている肩の上に乗っている彼女の知り合いの人達や、俺が我を忘れた為に彼女のことを傷つけてしまうかもしれないことが、俺は怖かったのだ。
こめっこさんの合図により、俺と黒髪の集団とは一時休戦の形でひとまず落ち着き、彼等の中から代表として、ゆんゆんが事情をこめっこさんに聞き始めたのだ。
その結果、俺に敵意がないこと、俺が人間であることを彼等に知ってもらい。
「……それで、今日は彼と川魚を食べようと思って、川の上流の奥の方に行き、取ってきた魚を洞窟に持ち帰って来たところに…………」
「うん!姉ちゃんとゆんゆんがいるからビックリした!ねっ!」
「■■」(コクっ)
今日はこめっこを連れて、川魚を獲りに行っていただけであることを理解してもらうと、『なんだ、そうだったのか』と大人達には安心してもらえることが出来た。
……最初にこめっこさんに会ったときに一緒にいた少女、恐らくあれが『姉ちゃん』なのだろう少女は、話の途中にチラチラと俺とこめっこを何度も交互に見ていたし、俺達が捕まえた川魚が入ったバケツを見て、「は……はは、ははははは…………」と乾いた笑い声を出し始めたときは、若干怖かったが。
それだけ、妹であるこめっこさんのことが心配で堪らなかったのだろう。
優しいお姉さんなんだなっ、と俺は未だに目が若干死んでいる少女を見て思ったのだった。
ーーーそんな姉を心配させたくなかったのだろう。
こめっこさんが俺と出会った経緯を説明しているときに、『食糧を確保するために森に入っていき、森の中を探索していたら喉が渇いので、川の水を飲もうと前日に俺と会った場所まで行ったところに、また俺と出会った』みたいなことを言っていたが。
俺とこめっこさんが2度目に出会った場所は、前日に俺と会ったときに流れていた川とは、別の川であるし。
何より、俺を見つけた途端に小走りで近寄ってきながら、『見つけたっ!』と言わんばかりに指を差してきたことや、『地図の予備を持っていた』こと。
以上のことから、さっきのこめっこさんの話を聞いて、やはりどう考えても最初から、彼女は『俺に会いに来た』のだとしかもう思えなかった。
彼女は『俺のことを探すことが目的』だったとお姉さんにバレれば、彼女が今よりも余計に心配することが、こめっこさんには分かっていたのだろう。
……そんな、純粋な、まるで天使に見えるくらい輝いた笑顔を浮かべながら、しれっとみんなに嘘を吐く、そんな小悪魔幼女こめっこさんを見て、俺はなんて末恐ろしい幼女なんだと感心と戦慄の感情を抱いていた。
そんなこんなで、お互いの事情の説明と自己紹介を終えると、外はもう日が暮れ始め、辺りが暗くなってきたので、紅魔族の彼等は里に帰るために川を下ろうということになった。
……俺も一緒に。
俺とこめっこさんの作戦が功を成しすぎたのか、今紅魔の里では俺に対する厳戒態勢が敷かれているらしく、それを解く為に一緒に来てくれと大人達に頼まれたのだ。
自分から蒔いた種なのだから、自分で何とかするべきだろうと思い、未だに俺の肩の上で足をブラブラとさせながら座っているこめっこさんと一緒に川を下って行くと。
「おーーい!みんな!さっき、そけっとから面白いものが見れると聞いて集まったんだけど……って、デカッ!?お、おい!後ろのやつは一体なんだよ!?」
「あれが、噂の怪物?!」
「い、いや、待て!あのデカいのの肩に乗っているのは……こめっこじゃねーか?!」
「本当だ!!てか、なんでめぐみんとゆんゆんが外に出てるんだ??」
「おい!面白いものってのは後ろのやつか??てか、なんでこめっこちゃんがそいつの肩に乗ってんの??」
ーーー視線。視線。視線。
そこには大勢の里の住人が、里の門に集まり、数多の視線をこちらに向けていた。
ほとんどが困惑と好奇心によるものであったが、その中には確かに畏怖の視線もあった。
それらの視線に晒されて、俺の身体は小刻みに震えそうになるのを必死に抑える。
……ここは、前の世界とは違うのに。
誰もが、俺を裏切って、痛めつけ、そしてーーー大切だと思っていた人達からも切り捨てられた、そんなクソみたいな世界とはもう別の世界に来たはずなのに。
さっき洞窟の中では、耐えることが出来たはずなのに。
ーーーまた、拒絶されるのか。
新しい世界に来て、女神様から貰ったスキルがあって。
新しい身体になり、前の世界とは比べものにならないくらい、強い自分になれたはずなのに。
大勢の人から向けられる視線の前に怯えることで、俺は理解した。
ーーー強くなったのは、大きくなった身体ばかりで、心は全く成長していなかったのだ。
そもそも、何故こんなに俺の身体は震えそうになっているのだろうか?
前の世界で、拒絶され、1人ぼっちになることに何の感情も湧かなくなっていたはずなのに。
……いつの間にか、誰かが一緒にいてくれるのが、当たり前に感じ始めていたからでーーー
「まかせて!」
「ッ!?」
耳元に小さく、それでいて力強い、心が安らぐような暖かな囁きに意識が戻り、声のする方を向く。
そこには、たった数日だが、ずっと俺の側にいてくれた女の子が、いつもの笑顔を向けてくれていて。
ピョンッと俺の肩から飛び降り、ビシッと何かのポーズを決めながら、
「我が名はこめっこっ!!紅魔族随一の魔性の妹にして、知性ある巨神を従えし者!!」
「「「「お、おぉ!!カッコいい!!!」」」」
そんな、中二病みたいな、でもとても頼りになる姿で名乗り上げて、
「なぁ、こめっこよ。その人って一体……?」
「ん?この人はねぇ!ーーー」
「ーーーわたしの、『友達』なの!!」
「…………■■■」
そう笑顔で俺のことを紹介してくれる、この世界に来て初めての『友達』の言葉に、俺はなんだか救われた気がしたのだった。
「と、言うわけで。あの怪物……大男さんは人間で、こちらに危害を加える存在ではなかったのですよ」
「そうなの、お父さん!だから、もう安全だよ!」
「うーむ……しかしなぁ……。ーーー」
「友達」である『こめっこ』に、俺のことについてを里の人達へ紹介してもらうことで、あそこに集まった住人に俺を受け入れてもらった後、俺はゆんゆんの案内で、彼女の家ーーー豪邸に招待された。
彼女は良いところのお嬢様だったらしい。
……そんな子が何故、あんな森で独り言をボソボソと呟いていたのだろうか。
まぁ、彼女には彼女なりの何か理由があるのだろう。
俺は彼女へのそれ以上の詮索はやめた。
それから、俺達がゆんゆんの家に着いた時には、外はもう真っ暗であり、俺の肩に乗っていた「こめっこ」がウトウトとし始めたので、俺はこめっこをお姫様抱っこをして、ゆんゆんと一緒に彼女の部屋のベッドを運んだ。
スヤスヤと眠っている俺の『友達』に優しく毛布を掛けて、彼女の頭を撫でていると、その光景を見たゆんゆんがひどく驚いていた。
……違うんだ、ゆんゆん。俺はロリコンではない。
だからその、信じられない目で俺を見てくるのはやめなさい。
そんなことがありながらも、俺達は今度はこの豪邸の書斎みたいな場所に案内された。
そこで改めて、そこにいた彼女の父親である族長に、『俺は危険な存在ではない』ことをゆんゆんや、こめっこの姉であるめぐみんに説明してもらっていたが、族長の反応は芳しくない。
やはり責任ある立場だと、迂闊な判断で里の住人を危険な目に合わせるようなことは出来ないのだろう。
俺は話を聞くしか基本的に出来ないので、話し合いがどうなるか黙って成り行きを聞いていると。
「あっ!!」
「ん?どうした、ゆんゆん?」
「何か思い当たることがありましたか?」
「『冒険者カード』を見せてもらえばいいのよ!ほら、一撃熊とかオークとかを倒せるんだから、昔は冒険者をやっていた可能性は十分あるわ!」
「「あ、確かに!!」」
……冒険者カード?
そんなものは持っていないと俺が首を振ると、
「そう……。だったら、『冒険者カード』を作りに行けばいいのよ!そこで彼に自分の個人情報を書いてもらえば、彼が人間であることの証明にもなるし、彼が何者なのかも分かるわ!」
「良い案ですね!そうしましょう!」
「うむ!そうと決まれば、今から発行してもらいに行くか!こう言うのは早い方がいい!」
「えぇ!?も、もう夜も遅いし、今から行ったら迷惑だよ?明日にしよう?」
「むう……だが、私はすぐにでも彼のことが知りたい!人間なのに言葉が話せないこととか、彼の肉体からしてステータスはどうなっているかとか、とても興味がある!」
「あ、実は私もです!……ゆんゆん、あなたもでしょう?」
「えっ!?ま、まぁ、確かに気になるけど……」
「大丈夫だ、ゆんゆん!私はこの里の長だからな!!多少は無理も利くさ!」
そう言って彼女達は、俺の冒険者カードのことについて盛り上がっていた。
……さっきの話を聞いていると、もしかしてスキルとかレベルが上がった確認って、このカードが必要なのでは?
……あの駄女神。何でこんな大事な情報を言わないんだ。変なところで横着しやがって。
……あのまま何も分からないまま、どこか人のいない場所に隠居していたら、永遠にレベルが上がったのか分からずじまいだった。
次に奴に会ったときには、タダでは済まさん。
そう沸々と怒りが込み上げて来て、『いけない、いけない、平常心、平常心』と冷静になるために俺は少しだけ瞑想した。
次第に心が本当に落ち着いてくるのを感じて、この訓練やっていて良かったと俺は思った。
「……もう、しょうがないなぁ。えっと……そういうことなので、今から『冒険者カード』を作りに行くに行こうと思うんだけど…………」
フッと目を開けて声のする方を見ると、ゆんゆんが気遣わしげにこちらを上目遣いしながら、そんなことを聞いてきた。
……俺も族長やめぐみんと同じで、自分のステータスとやらが知りたい。
「■■■!」(コクッ)
「よし!決まりです!なら、さっさと行きましょう!」
「ま、待ってよ!めぐみん!置いて行かないでぇー!!」
「はっはっはっ!賑やかだなぁ!よし、君も支度……は、出来てるか。なら、行くぞ!俺について来い!」
「■■!」
3人の提案はまさに『渡りに船』だったので、俺は今から『冒険者カード』を作りに行く意見に賛成し、彼等の案内に従って後をついて行くことにした。