第1話
「『エクスプロージョン』!!」
ーーー轟音。
『それ』は、私を追いかけていた、ただひたすらに巨大で、漆黒の毛を生やした魔物を、なすすべもなく吹き飛ばすほどの圧倒的な力だった。
膨大な魔力を注がれて発動した魔法による影響は、熱を伴った突風として辺りに吹き荒れ、放たれた場所が深く抉れるほどに凄まじい。
ーー今の魔法は、一体何なのだろう?
私が住んでいる里の大人達でも、あれほど圧倒的な、『理不尽なまでの暴力』を形にしたような凄い魔法を使っているのを、私は見たことがなかった。
「お嬢ちゃん、怪我はない?」
振り返れば、先程の魔法を放ったであろう野暮ったいローブを被った、それでいてその中身が巨乳であることが分かる程の、とてもプロポーションの良い女性が立っていた。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
さっきの魔法の衝撃と、ローブを被った女性の胸に、目が釘付けになっていた私は、その声にハッとして彼女の顔を見る。
その顔は、綺麗な赤色をした髪に、猫を連想させるような目をした美人なお姉さんだった。
私はそのお姉さんの質問に、慌てて答える。
「めぐみんです」
「……そ、それはあだ名かしら?」
「本名です」
「……そ、そう」
一瞬気まずそうな顔をしたお姉さんは、やがて気を取り直した様に私に言ってきた。
「ねぇ、お嬢ちゃん。あなたの他に、ここに大人はいなかったかしら?」
「いえ、見てません。」
「そう……。おかしいわね。私が解放されたということは、邪神のお墓の封印を解いた人がいるはずなのに……」
「???」
「あぁ、ごめんなさい。気にしないで。お嬢ちゃんには難しい話だったわ」
お姉さんはそう言うと、彼女が魔法で作ったクレーターの真ん中に歩いていき、そこで瀕死になっている黒い獣の頭に手を置くと。
「……眠りなさい、我が半身。あなたが目覚めるには、まだこの世界では早すぎるから」
そんなことを呟くと、彼女の手が突然輝き始め、それに合わせて獣の大きさがドンドンと小さくなっていく。
やがてその獣が子猫ぐらいのサイズになると、それは霧のようにスーッと消え失せた。
「……さて。それじゃあ、お嬢ちゃん。私はもう行くわ。あなたも、こんな場所に近づいたらダメよ?里の大人の人からも注意されてたでしょう?なら……」
「そんなことより!どうしたら、お姉さんみたいな人になれますか!?」
私はお姉さんへのお礼の言葉も忘れて、彼女にそう問いかけた。
あの強烈な魔法が、圧倒的な力が周囲に及ぼす『凄まじい光景』が頭から離れない。
ーー使ってみたい。私もあの魔法を使ってみたい。
私は手に持っていたパズルのピースを握り締めながら、期待の目を向ける。
「そ、そんなことって……。まぁ、いいわ?そうね……。たくさん食べて、たくさん勉強して、大魔法使いになれば、私みたいになれるかも、ね?」
大魔法使いになれば、お姉さんみたいにあの魔法を使えるようになれるのか……。
「だから、あなたもこんな危険な場所で遊ばずに、お家に……。あら?お嬢ちゃん、手に持っているものは何?」
「これですか?これは私が最近遊び場にしているお墓にあったパズルの欠片です。今日やっとパズルを解けたと思ったら、あの魔物が急に現れて襲ってきたんです。あっ、お姉さん、さっきはありがとうございました」
「どういう事なの……?!」
私が聞かれたことに対して答えると、お姉さんがいきなり上擦った声を上げてきた。
「そ、それ、古の大魔法使いや、当時『賢者』と言われていた大人達が作った、最高傑作と言われる程の『封印』なのよ!?普通の人がこの仕掛けを解くのだって、一体どれだけの時間がかかるか分かったものじゃないのに……。あ、あなた、この封印された地にはいつから来ていたの?」
「大人が『入っちゃダメ』とか『ここには何もない』とか言われている場所には大抵、金銀財宝が眠っているから、一儲けするには狙い目なんだと、お母さんが言っていたので毎日来てました。私の家は貧乏なので、お金の足しになれば良いなと思って」
「本当にどういう事なのっ?!?!」
何故だかお姉さんが彼女自身の頭に手を当てて、頭痛を堪えるような仕草をした後、私の隣まで歩いてきて、ポンっと頭に手を乗せた。
「……とりあえず、お嬢ちゃんにお礼を言わなきゃいけないわね。ありがとう。ねぇ、お嬢ちゃん?あなた、何か願い事はあるかしら?」
「願い事?」
「そう、願い事。私ね、こう見えて、凄い力を持った大魔法使いなの。お礼に私が、お嬢ちゃんの願い事を何か一つ、叶えてあげるわ」
優しく微笑みながら、私と目線を合わせながら、そんな事を言ってきた。
……ふむ。
「なら、私の願い事は……」
「お嬢ちゃんの願い事は?」
「世界征服です」
「…………。ご、ごめんなさいね?さっき言ったことは訂正させて?私はそこそこの力しか持たない魔法使いだから、そこそこのことしか叶えて上げられないかな?」
ダメか。世界征服したら、ありとあらゆるものが手に入るのだから、明日から家族で食べるものだって豪華になると思ったのだが。
ーーそれなら。
「ーー私を、お姉さんの弟子にして下さい」
そして、『私に、さっきの魔法を教えて下さい』と頼み込んだ。
それから成長して、私はこの里にある魔法学校に入学する。
そこは、この里の子供達が一般的な知識や、魔法に関する専門的な知識をある程度学べる場所であり、この里の昔からの『しきたり』である、12歳になるまでに『アークウィザード』として『上級魔法』を習得するためのサポートをするためにある。
ここ『紅魔の里』では、この『上級魔法』に位置する魔法を習得することで一人前として見なされるのだけど……。
もう私は、それらの魔法には一切興味はなくなっていた。
私が目指すものは『最強』。
あのお姉さんに弟子入りし、短い時間の中で学んだあの魔法こそ、私の心が追い求めているもの。
ただの魔法には既に私の眼中にはない。
なので、この退屈な学校の授業も、『紅魔族随一の天才』である私には別に受ける必要もないのだが、成績優秀者に配られる『スキルアップポーション』が必要なため、真面目に出席し、好成績を取り続けなければならなかった。
私達が『スキル』を覚えるためには、地道な訓練や実戦といった経験から自分を鍛えて覚えるか、魔物を倒したりして『冒険者レベル』を上げるか。
もしくは、この希少な『ポーション』を飲んで『スキルポイント』を増やし、『習得可能スキル』にあるものをポイントを使って習得するかのどれかである。
私は、学校に入学する前に作った自分の『冒険者カード』を見る。
ーーーーーー
<name (名前) >
『めぐみん』
< adventurous level (冒険者レベル):>
『1』
<the profession of an adventurer (職業) >
『アークウィザード』
< Status (ステータス)>
・Strength (筋力):○○
・Health (生命力):○○
・intellectual power (知力):○○
・Magic pow (魔力):○○
・Dexterity (器用度):○○
・Agility:(敏捷性):○○
・Luck (幸運):○○
ーーー
< Passive Skills (パッシブスキル)>
・毒耐性(微)
・悪食
< Active Skills (アクティブスキル)>
・nothing(なし)
< learnable Skills (習得可能スキル) >
・初級魔法
・中級魔法
・上級魔法
・爆裂魔法
< History of subjugation (討伐履歴) >
・nothing(なし)
< Skill Points (スキルポイント) >
『7』
ーーーーーー
入学して間もないが、私自身の優秀さと努力により、既に『スキルアップポーション』をいくつか教師から貰っている私の『スキルポイント』はカードを貰ったときよりは増えていた。
それでも、『爆裂魔法』のスキルを習得する為に必要なポイントは『50』。
まだまだ習得するには時間がかかるが、それでもお姉さんーー師匠が唱えた、『究極の破壊魔法』を手に入れるためなら、私はどこまでも頑張れる。
そして、いつかは今も元気にどこかで旅をしている師匠に、私の魔法を見てもらうのだーー
「めぐみん!分かってるわね?今日も勝負よ!!」
「いいですよ。あ、ゆんゆん。先に弁当を下さい。今日は朝ご飯を食べてないので、お腹が空いてしまって」
「え?そ、そうなの?なら、先にこれを食べて……って、違う!違うわ!これはあなたが私に勝った後に上げる商品よ!さぁ、あなたも『スキルアップポーション』を机の上に置きなさい!今日こそは、私が勝ってみせるんだから!!」
いつもの学校の日常。授業が終わり、少しでもカロリーの消費を抑えるために机の上で居眠りをしようとしていると、紅魔族の族長の娘にして、文武両道の優秀な学級委員であるゆんゆんが、毎日何故か私に勝負を仕掛けてくる。
彼女はこの学校で私に次ぐ優秀な生徒だが、紅魔族にあるまじきセンスの持ち主でもあり、他人との会話になると何故か挙動不審になりがちな、所謂『ぼっち』な子である。
そして、私の自称『ライバル』でもある。
この子は確かに優秀だが、それでも私の足元にも及ばない、私としては毎日勝負を挑みに来る『弁当配達係の人』という表現の方がしっくりくるのだが、本人は常に『ライバル』であることを強調してくる。
まぁ、弁当の配達は割と助かっているので、文句はない。
今日もいつも通り勝負して、ボコボコにしたらゆんゆんが泣いた。
……他の人とも話せばいいのに。
他の同級生の『上級魔法』以上を覚える意欲も欠片もない、ハッキリ言ってレベルの低い人達とは、あまり深い仲になる気はない私でも、相手に不快感を与えないよう、表面上は仲良く当たり障りのない会話が出来るのに、里の次期『長』となるものが、『ぼっち』なのは大丈夫なのだろうか?
まぁ、私が悩むことでもないか。
そうして、いつものように弁当箱を空にしてから、私はそれを未だにメソメソしているゆんゆんに返した。
「ねぇ、めぐみん?あなた、もう『上級魔法』を覚えるための『スキルポイント』は貯まっているはずよね?どうして魔法を覚えないの?」
ある日、私が教師から貰っていた『スキルアップポーション』の数を数えていたのか、ゆんゆんがこんなことを聞いてきた。
……ふむ。まあ、ゆんゆんならいいでしょう。
少し「ぼっち』を拗らせてはいるが、族長を目指しているのだから口は固いと思うし、何より自称『ライバル』の秘密を周りにバラすような子ではない。
私は、彼女に自分の夢を語った。
ーー私は、爆裂魔法を覚えるつもりだと。
ーー周りからは『ネタ魔法』なんて言われているが、『本物』を見れば、そんなことは些細な問題であり、全て覚悟の上であること。
ーーそして、私は学校を卒業したら旅に出て、師匠に必ず私の爆裂魔法を見てもらうんだということ。
私の夢を最後まで聞いてくれたゆんゆんは、私のことを応援すると言ってくれた。
ーー思えば、このことを他人に話したのは、ゆんゆんが初めてだ。
長く毎日勝負をしていたからか、情が移ったのか、いつしか私はゆんゆんのことを少しずつ認めていたのかもしれないと思った。
その日も、私にとって普段と何ら変わらない日常の一部だったはずだった。
こめっこと『森の中で遊ぼう』と家を出て歩いていると、暇を持て余してたゆんゆんとばったり会って、そのままいつものように勝負を仕掛けてきた彼女と一緒に森の中に入って。
こめっこが私達がよそ見をしているときに、側から逸(はぐ)れてしまった。
慌てて私とゆんゆんで彼女を探し、そしてこめっこを見つけたときには。
ーー魔物に襲われていた。
ーーなんで、どうして、この周辺には魔物が寄り付かないように、里の人達が駆除していて、いつもはこんな場所に魔物は来ないはずなのに。
「めぐみん!早くこめっこちゃんを助けないと!」
「ッ!?そ、そうですね!助ける方法を考えないと……」
ゆんゆんの声に正気になり、私は自分の懐から『冒険者カード』を取り出して見る。
そこには『スキルポイント』が『36』と書いてあり、『上級魔法』習得が『30』なことから、私が『上級魔法』を覚えれば解決する。
しかし、私は迷った。
迷ってしまった。
ーーこれを覚えたら、『爆裂魔法』を覚えるのが随分と先になってしまう。
そうして、わたしが『大切な妹のこめっこの命』と『叶えたい自分の夢』とを天秤にかけて迷っている間に、こめっこが『見たこともない頭に角が生え、目が赤く充血した魔物』に攻撃されそうになっているのを、私はただ見ていることしか出来なくてーー
「『ライトニング』ーーーーッ!」
私は、その声の主に目を向けた。
そこには、いつもオドオドして頼りないと思わされるような姿ではなく。
仲間を守るために立ち上がって戦う、立派な未来の『族長』の姿をした、ゆんゆんの姿だった。
ーーーー
「……ハッ!……何だ、またこの夢ですか……」
私は自室の布団に寝たまま頭だけを動かして窓を見る。
そこから差し込む光から、朝になったのだと私は感じた。
布団から身体を起こし、立ちあがろうとするとき、目から一筋の涙が溢れてきて、慌てて袖でそれを拭きとる。
ーーもう、自分では立ち直ったと思ったのですが……。
意外と自分の心は繊細だったのだろうか。
ハァーっと溜め息を一回吐いて、『よし!今日も学校に行こう!』と気合いを入れて準備を始める。
布団を畳み、服を着替えて、顔を洗っていると、外からいい匂いがする。
『お隣さん』と私の家のご飯を作っているだろうその匂いに、フラフラと外に出て、そこに居た人達に私は朝一番の挨拶をした。
「おはようございます。こめっこ、バーサーカー」
「あ、姉ちゃん、おはよう!朝ごはんのお肉食べる?」
「■■■■!」
「えぇ、いただきますよ」
私は前までとは比べものにならないくらい改善された食事を、こめっこと『彼』と一緒に食べることにした。
第1章開幕から長文になってしまいましたが、これからゆっくりとストーリーが進んでいく、はずです!
早くアクセルまで辿り着くように頑張っていきます!
あと、いつも誤字報告ありがとうございます。
まだまだ文章が安定しない未熟者ですが、是非お付き合い下さい。