このぼっちな少女と狂戦士に祝福を!   作:一雪氏

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第3話

 

 

 

 「よし、今日の授業はここまで!昼休憩を挟んだ後、午後は『体育』の授業からなので、全員、校庭に集合するように。解散!」

 

 

 

 4時間目の授業が終了する鐘の音が鳴り、担任が教室から出て行った瞬間に、私達の待ちに待った昼休みの時間が始まる。

 

 

 クラスメイト達は各々自分のグループを形成して、そこで弁当を食べ始める中、私とゆんゆんは用事がある為、教室から出て行こうとした。

 

 私達が教室から出て行く際に、何故かクラスメイト全員がこちらをチラッと見てきた気がしたが、気のせいだろうか?

 

 

 

 

 「めぐみん。今日、お昼ご飯は食べなくてもいいの?」

 

 「えぇ。今日の朝ご飯はイノシシ肉を使った焼き肉でしたので、お腹はあまり空いてないですね」

 

 「朝から『焼き肉』って重すぎないっ!?」

 

 「朝から『何も食べない』よりマシでは?」

 

 「極端すぎるわよ!栄養バランス考えなさいよ!……ねぇ、めぐみん。ちなみに、ここにめぐみん用に作った弁当があるって言ったら、どうする?これ、たまたま、そうたまたまなんだけど!今日の私の弁当の余りで作ったものがーーー」

 

 「いただきます」

 

 

 

 『バーサーカー事件』が終わってから今まで、毎日弁当の余りが出るなんてあり得るはずがないのに、照れ隠しなのか毎回そんな言い訳をしながら、彼女は私の分の弁当を持ってきてくれるようになった。

 

 彼女から挑まれる『勝負』に勝ってから、彼女の弁当を強奪していた頃もあったが、食生活が改善されたため、最近は純粋にお互いの勝敗を比べて一喜一憂する健全な関係になった。

 

 まぁ、全て私の全勝だったが。

 

 

 よって、わざわざ彼女が私の弁当を作ってくる必要はないのだが……。

 

 

 

 「……ふぅ。ご馳走さまでした。美味しかったですよ」

 

 「ほ、本当!?よ、よかった〜!今日の卵焼きは自信作だったの!ど、どうだった?」

 

 「えぇ。いい塩加減でした。また腕を上げましたね」

 

 「え、えへへ♪ありがとう、めぐみん!」

 

 

 

 

 私は図書館のすぐそばにある小さなベンチで、ゆんゆんお手製の弁当に舌鼓を打ち、それを彼女に返した。

 

 前は弁当箱を返す際は、常にすすり泣いていた彼女だったが、今は満面の笑みを浮かべている。

 

 

 これもまた、最近のいつもの日常の風景になった。

 

 

 

 

 「さて、腹ごしらえはしましたし。そろそろ入りましょうか」

 

 「うん!」

 

 

 

 

 弁当箱を片付け終えたゆんゆんと一緒に、私達は図書館の中に入った。

 

 この図書館は、魔法使いを多く輩出する『紅魔の里』の学校の中にあるだけあって、ありとあらゆる種類の本が相当数、貯蔵され、管理されている。

 

 

 怪しげな『お伽話』が載っている本から、『ハウツー』本の類、果ては『禁書』と呼ばれるものまでもが、この図書館内にはあった。

 

 まぁ、『禁書』関係の本はかなり厳密に管理されていて、生徒がそれを読む場合は、先生立ち会いの元に行わなければならない。

 

 故に、『バーサーカー事件』の衝撃のせいで誰もが忘れてしまったようだが、ゆんゆんが描いた『悪魔召喚の魔法陣』に関連する書物は、本来なら閲覧禁止の棚にある。

 

 

 これを勝手に読んだ生徒は学校内だけでなく、里の中でも厳しい罰を受けるハメになるのだが。

 

 そんなことを承知で、『友達が欲しい』という理由だけで、ここに忍び込んで『禁書』を読み、悪魔を召喚しようとしたゆんゆんの精神が、異常をきたしていたのが分かるだろう。

 

 

 ……まぁ、その原因の大部分が『私のせい』なのだろうが。

 

 

 

 

 「めぐみん。今日は、この棚の中から探していこうと思うんだけど……」

 

 「分かりました。なら、私は今日はこっちの棚から探していきますね」

 

 

 

 今日の目当てである本を、私とゆんゆんは手分けして探すことにする。

 

 棚に並べられた本のタイトルを、指でなぞりながら探していると。

 

 『マイナースキル:完全網羅集<物理スキル編>』

 

 お目当ての本のタイトルを見つける。

 

 本棚からその本を抜き出し、中を開いてその内容を読み。

 

 

 

 「……これにも、載っていませんね」

 

 

 私達が知りたかった事が書かれていなかった為、その本を元あった棚に戻した。

 

 私達が昼休みを利用して、図書館で探していることはただ一つ。

 

 

 

 『魔獣化』とは、一体何なのか。

 

 

 

 

 「……あれから1ヶ月近く探しているのに見つからないとか、本当に何なのでしょうか、あのスキルは……」

 

 

 

 

 1ヶ月前、バーサーカーの『冒険者カード』に載っていたあのスキルの正体。

 

 族長であるゆんゆんの父親や、簡易冒険者ギルドみたいなこともしているぺぷちどが知らないとなると、どれだけマイナーなスキルなのか分かったものではなかったが。

 

 まさか、2人がかりで図書館内にある書物から、それに該当するスキルを探しても見つからないとか、そろそろ『この場所』で正体を探すのは、お手上げになりそうだった。

 

 後は、『禁書』の棚の欄から探すしかないが、こちらは族長やぺぷちどが探すと言っていたので、恐らく見つからなかったのだろう。

 

 

 

  ちなみに、バーサーカーの『魔獣化』のスキルについては、私とゆんゆん、族長にぺぷちど、それから私の両親以外には里の住人は知らない。

 

 『プライベートのことだし、彼にも理由がある筈だから、あまり事を荒立てないように』とは族長の言葉だ。

 

 私の家の近所にバーサーカーが引っ越して来たのだって、私の両親が、今は『全く売れる商品が作れない貧乏魔道具職人』だが、昔は『凄腕の冒険者』だったからというのも、引っ越し当時にバーサーカーには伝えてない理由の一つだった。

 

 

 

 もし、バーサーカーが里の住人に危害を加えるような事があれば、即座に『鎮圧』出来るようにしたかったらしい。

 

 

 

 ……まぁ、この1ヶ月の間で、彼が私の妹であるこめっこにあちこちと連れ回されている姿を見て、里の住人全員が、『彼は悪い人ではないのだ』と受け入れていた。

 

 今では、彼も立派な紅魔の里の住人である。

 

 

 

 

 よって、今、彼の『魔獣化』のスキルについて調べているのは、単純に『私達が気になるから』という理由だけであった。

 

 

 

 

 「ゆんゆん。そちらには目ぼしい本はありましたか?」

 

 

 

 

 私はさっきから静かになっている彼女がいる所に足を運んでみると、真剣な表情で本を読んでいる姿が見えた。

 

 その本のタイトルの名は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『鳥類だって友達になれる禁断の書』

 

 

 

 「………………ゆんゆん?」

 

 「はわぁっ!?め、めめめ、めぐみんっ?!ち、ちち、違っ!違うの!こ、これはね、その!」

 

 

 「いえ、いいんですよ?私が目当てのものを探している際に、あなたが気になる本があれば、それを読むのを怒ったりはしません。ですが、なんなんですか?その本のチョイスは。タイトルが酷すぎですよ?酷すぎ……。………………これは酷い」

 

 

 「ちょっ!?ちょっと待ってよ、めぐみん!そんな哀れな人を見る目で私を見ないで!ほら、これ見てよ!人間はね、昔から伝書鳩みたいに、鳥と特別な関係を築いているじゃない?つまり、鳥と友達になって毎日遊ぶことだって……!」

 

 

 「鳥と友達になる前に、まず人間と友達になりましょうよ……」

 

 

 この子の『ぼっち体質』の根は深いらしい。

 

 ……どうしたら改善できるのだろうか……。

 

 私はため息を吐き、『あわあわ』と動揺している彼女の行く末が心配になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし!では、これより!『体育』の授業を始める。今日は始めての『戦闘訓練』の授業だ!我々紅魔族は『魔法のエキスパート』である。その自覚を持ち、戦闘の上で最も大切な物は何か。……ゆんゆん!答えは何だ!」

 

 

 

 「は、はい!えっと……。れ、『冷静さ』です!戦闘時における状況は常に変わっていきます!よって、その状況の変化を常に俯瞰して観察し、最適な行動・魔法を選択出来る『冷静さ』が大切だと思います!」

 

 

 

 「うむ!模範的な解答だ。模範的な解答すぎて詰まらん。50点!次、めぐみん!」

 

 「えぇっ!?」

 

 

 

 担任の評価が納得いかないのか、ゆんゆんが驚いた表情で固まっていた。

 

 ふっ、甘いですね。ゆんゆん。戦闘に大切な物なんて、始めから決まっている。

 

 そう!

 

 

 

 「破壊力です。『全てを圧倒的に蹂躙する力』こそ、ありとあらゆる状況を打破出来ます!」

 

 

 

 私が自信満々にそう答えると。

 

 

 

 「70点だな。確かに火力不足による、戦闘時の膠着状態になる可能性は非常に高い。逆に、火力があれば、そう言った状況は全て無視出来る。だが、それでは紅魔族の戦闘における大切なことがまだ足りない!」

 

 「こ、この私が70点、ですと……!?」

 

 「私なんて50点なんだけど……」

 

 「次、あるえ!」

 

 「はい」

 

 

 

 

 落ち込む私とゆんゆんを他所に、左目を眼帯で隠しているあるえが、その眼帯を人差し指で下からクイッと持ち上げて、こう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『格好良さ』です」

 

 

 

 「100点満点だ!流石はあるえだな!よし、『スキルアップポーション』をやろう!諸君!聞いていた通り、私達の戦闘に必要なものは『格好良さ』である!それは何故か……。ねりまき!答えてみろ!」

 

 

 

 「はい!私達が魔法を使う際に、その魔法の『威力』や『精度』と言ったものは、ある程度はスキルレベルや冒険者レベルに依存します。しかし!それ以外にも、魔法を使う前に自らの魔力を練り上げる『練度』というものがあるからです!この『練度』は、普段の魔法の修練だけでなく、魔法を使う際の『精神状態』にも影響を及ぼします。よって!呪文を唱える際に、如何に自らの精神を高揚させるかが重要になるからです!」

 

 

 

 「パーフェクトだ!我々紅魔族が最高の魔法を放つ、その為のベストなコンディションにするためにも、『戦闘時における華』というものは欠かせない!では今から、それを私が実演する。……刮目せよ!!」

 

 

 

 担任が何かの魔法を唱えると、綺麗な青空が広がっていたのが、突如として私達の真上だけ雲が発生し、そこから稲妻が何本か走り始める。

 

 そして、その中で一際大きい稲妻が担任の真後ろに落ちると同時に。

 

 

 「我が名はぷっちん!紅魔族随一の教師にして、やがて校長の椅子に座る者っ!!」

 

 

 「「「か、格好いい!!」」」

 

 

 クラスメイトが全員女子な為か、担任も『彼が考える格好良いポーズ』のまま、満更でも無さそうな顔をしていた。

 

 そんなクラスメイトを見て。

 

 

 「は、恥ずかしい……っ!」

 

 

 と、顔を両手で覆い隠していても分かるくらい真っ赤にしたまま、俯いて小さく震えていた。

 

 

 ……相変わらず、独特のセンスを持つ子である。

 

 これさえ直せば、優等生のゆんゆんなら人付き合いもマシになるだろうに。

 

 

 そんなことを考えていると、担任が手を叩いて、全員の注意を引いた。

 

 

 「よし!それでは、好きな者同士でペアを組み、お互いに『自分の格好良さ』をアピール出来るポーズを考え見せ合って、最高にクールな「名乗り』を研究するのだ!」

 

 

 担任のその言葉に、クラスメイトは各自で仲の良い人達とペアを組んで練習を始めていた。

 

 と言っても、私達紅魔族は子どもの頃から周りの大人の姿を見て、自分の『名乗り』を既に決めている者が多い。

 

 

 よって、その練習もみんなスムーズに行っていた。

 

 

 

 

 

 「我が名はねりまき!紅魔族随一の酒屋の娘にして、やがて居酒屋の女将を目指す者!……どう?あるえ」

 

 「いいと思うぞ。よし、次は私だな。……。我が名はあるえ。紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!……。どうだ?」

 

 「ばっちしだよ!」

 

 

 

 

 

 

 「よし、やるわよ!……。我が名はふにふら!紅魔族随一の弟想いにして、ブラコンと呼ばれし者!」

 

 「ふにふら……。ブラコンはちょっと……」

 

 「ま、まだ良い名乗りが思いついてないだけよ!!そういうどどんこはどうなのよ!?」

 

 「私?……。我が名はどどんこ、紅魔族随一の……!随一の……。何だっけ……?」

 

 「あんた、私よりよっぽど酷いじゃないっ!?」

 

 

 

 ガヤガヤと楽しそうに練習するクラスメイトを眺めて、さてどうしたものかと考えていると。

 

 

 「め、めぐみん!よ、良かったら、私と……!」

 

 「先生。今日は具合が悪いので、体育の授業を休ませてもらってもいいですか?」

 

 「ん?めぐみんが体調不良とは珍しいな。いいぞ、保健室に行ってこい。おっ?ゆんゆんが1人余るな。よし!私がペアを組んでやろう!お前には前から一度、そのズレた感性を矯正しようと思っていたのだ!みっちり指導してやるからついて来い!」

 

 「了解しました。では、失礼します」

 

 「えぇっ!?ちょっ!待ってよめぐみん!」

 

 

 ゆんゆんが私に手を伸ばして『行かないで!』みたいな顔をしていたが、私は彼女に『頑張れ』と軽く手を振り、そのまま保健室へと向かった。

 

 

 私は保健室の先生に事情を説明して、静かな空間にあるベッドの中に入り込み、布団を首まで引っ張り上げる。

 

 校庭からクラスメイトの声が聞こえてくる中、私は昔考えた『名乗り』を頭の中で復唱する。

 

 

 『我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、爆裂魔道を歩む者!』

 

 

 復唱して、今度は布団を頭まで被った。

 

 

 

 ……私は、この『名乗り』を上げる資格はあるだろうか。

 

 

 

 しかも、ゆんゆん相手に、堂々と。

 

 

 今日の朝の夢がフラッシュバックする。

 

 

 

 あのとき、『大切な命』と『自分の夢』を天秤にかけて迷い、取り返しがつかないことになりかけた、自分の才能に驕っているだけの、ただの『腰抜け』な私は。

 

 

 

 

 ーーー師匠みたいな、格好良くて、凄い大魔法使いになれるのだろうか。

 

 

 

 

 ……いけない。この気持ちには蓋をしたはずだ。

 

 

 

 忘れてしまおう。

 

 次の授業までには頭を切り替えよう。

 

 

 

 

 

 そう自分に自己暗示をかけながら、私は静かに目を閉じたーー。

 

 

 

 

 

 

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