悪魔の囁きに屈したゆんゆんと一緒に『とりあえず様子を見てから、どうするか決めよう』という結論になった。
要するに、ただの問題の先送りをしただけだったが、私は頼りになる共犯者も出来たことで心が若干軽くなり、ゆんゆんはちょむすけに癒されることが出来て、まさに一石二鳥というやつである。
それから、立ち入り禁止である邪神の墓には、頃合いを見てから、一度見に行って確認することにした私とゆんゆんは、とりあえず、昨日の約束したぶっころりーの『片想いを応援する』為に、これからぶっころりーの家へ向かうことにした。
「それでは、留守番よろしくお願いしますよ、こめっこ。今日は母も父も仕事で出かけていて、家に誰もいませんから、大人しくしておくように。帰りに何か、お土産を持って帰りますからね?」
「またね、こめっこちゃん!」
「分かった!バイバイ、ゆんゆん!」
玄関まで見送りにきたこめっこに向かって手を振り、私達はぶっころりーの家の前まで歩いて行き、彼の父親に部屋にいるニートを呼んでもらった。
「オラァッ!!いつまでも家でゴロゴロと寝てんじゃねーぞ!!」
「ひいいっ!」
……もうお昼時なのですが、まだ寝ていたのですか。
『ああいうダメ男を恋人には絶対したくないな』と心の中で静かに思っていると、悲鳴を上げながら、寝癖がついたままのぶっころりーが2階から駆け下りてきた。
「酷いじゃないか、めぐみん!親父に『この変態バカ息子がぁっ!』って怒鳴られて叩き起こされたんだけど!一体、親父に何を言ったんだ!」
「実はお宅の息子さんから、『一生を左右するかもしれない大切な、それでいて君達にしか出来ない相談事があるんだよ……はぁ……はぁ……!』と伝えましたが?」
「悪意がありすぎるっ!?俺に何の恨みがあるんだっ!!」
『ストーカーは死すべし』と思っているだけです。
「そもそも、人と約束をしておいて、今まで寝ている貴方の方がおかしいのですよ」
「そうですよ、ぶっころりーさん。早く寝癖を直して、着替えて来てください」
「君達、俺に辛辣すぎないっ!?」
「ほら、さっさと準備して、とっとと行きますよ!」
「分かった、分かったから!」
全く、この人ときたら、だらしないことこの上ないですね。
……まぁ、ご近所のよしみですし、『バーサーカー事件』のときには世話になったので、今回だけはお手伝いしますよ。
私は、また2階に上がってドタバタと準備を始めたぶっころりーを待ちながら、今日の作戦について考えていた。
とりあえず、一番手堅く関係を深めるためには、ぶっころりーの片想い相手であるそけっとの占いの店に通い詰め、常連になってから、彼女に『ぶっころりーの未来の恋人』を占ってもらうのはどうか、と私達は提案した。
もし彼女の占いをする為の道具である水晶に、そけっとの姿が映ればそれで良し。常連になるまで関係を深めた後なら、告白を省いてそのまま恋人になればいい。
逆に、もし別の女性が映ったとしても、そけっとには縁がなかっただけで、別の女性とは恋人になれる希望が生まれるので、傷は浅く済むはずだと。
そう提案した私達に、あのニートは『占いをしてもらう金がない』とか宣(のたま)いやがったので、仕方なく占い代を工面するため、今日はぶっころりーと一緒に『冒険者の真似事』をしに行くことに決めたのだ。
着替えを済ませたぶっころりーと共に向かったのは、一件のお店。
「いらっしゃい!おぉ?めぐみんにゆんゆんに、ぶっころりーじゃないか。お前さんがここに来るなんて珍しいな」
「ご無沙汰してます、ぺぷちどさん!」
「おう!ゆんゆんも元気そうで何よりだ!」
着いたのは、『紅魔の里の観光案内』だけでなく『簡易的な冒険者ギルド』のような仕事をしているぺぷちどの店だ。
彼の店に貼られている依頼の中には、里の外の人達からの依頼で、この里の近くにある森の奥の方に生息する、並の冒険者では遭遇するだけで命が危なくなるような手強い魔物達の毛皮や内臓を、高値で買い取りたいというものがある。
普通なら、誰も好き好んで受ける依頼ではない。
だが、世間一般に紅魔族は『戦闘力が高い魔法のエキスパート』という認識であり、実際にこの里の大人は必ず『上級魔法』を習得している為、これらの依頼は、ただの小遣い稼ぎや、レベルを上げるための経験値稼ぎをする為のものでしかない。
それくらい紅魔族は、他の種族の人達と比べても強いのである。
寧ろ、そんな人達と戦って、そのほとんどを一方的に倒すバーサーカーがイレギュラーなのだ。
「ぺぷちど、今は依頼で、魔物を倒して手軽に稼げるものは何かありませんか?」
「ん?何だ、今から森に入るのか?まぁ、ぶっころりーがいるし、大丈夫だとは思うが、少し注意するんだぞ?何しろここ最近は、頭に角が生えている、見た事もない魔物が時々ウロウロしているって噂があってな」
「角?それって、ゴブリンとかじゃなくて?」
ぶっころりーの疑問に対して、ぺぷちどが腕を組み、頭を捻りながらそれに答える。
「それが、なんか奇妙なんだよ。見た目は大柄のゴブリンに似ているんだが、眼が俺たちみたいに紅く光るし、明らかにゴブリンとは雰囲気が違うらしくてな。しかも、そいつを倒すと霧のように消えてしまうんだと。今日、『魔剣の勇者』って兄ちゃんとバーサーカーが一緒に来て、さっきの話をしたら、その魔物を調査してくるって言ってたぞ?」
「「えっ!?」」
「ん?お前さん達、何か知っているのか?」
「「い、いや、別に、何もないです!」」
「「???」」
私とゆんゆんは、2人を何とか誤魔化すことに成功し、彼等がその魔物についてや依頼書の話をしている間。
「……ねぇ、めぐみん。さっきの話って……」
「えぇ。恐らく、あの時の……」
私とゆんゆんの関係がぎこちなくなる前、こめっこが森の中で襲われたときに見た魔物の姿と、さっきの噂の魔物の姿が似ていることに私達は気づいた。
ゆんゆんは私のことを気遣って、あのときの出来事を族長に話していないらしく、私もまた、あれはあのとき偶々出会った新種の魔物であり、それ以降は目撃されたという話は聞こえてこなかった為、誰にも話をしていなかったのだが。
何故今頃になって、またあの魔物が姿を現したのだろうか。
「よし。めぐみん、ゆんゆん。依頼を受けてきたぞ!さぁ、行こうか!」
「あ、は、はい」
「は、はい……!」
私達の後ろで、『気をつけて行ってこい!』と見送ってくれるぺぷちどに挨拶をしながら、私とゆんゆんはこの話を彼等にするべきか悩んだが、『魔剣の勇者』とやらとバーサーカーが調査しているのであれば、その内に何事も無く事態が収束するだろうと思い、今は様子を見ることにした。
ーーー思えば、ここが分岐点だったのだろう。
この後、私達は自分達の今までの行いに対して、その報いを受けることになる。
「さて、今日の獲物は『一撃熊の肝』だ。さっさと済ませて帰ろう!」
森の中に入り、私達の先頭を歩いていたぶっころりーが気楽にさっき受けた依頼内容を口ずさみながら、周囲にそれが近くにいた痕跡を探していた。
一撃熊の肝は、『マジックポーション』類を作成するときに使う貴重品である物の一つで、里の外では高額な買い取り価格がついているものだ。
占い代として稼ぐお金としては、申し分ない。
しばらくすると、ぶっころりーが『待て』と指示を出しながら、彼がゆっくりと自分の視線を向けている方向へと指を差す。
その先には、木の根をほじくり返して、そこにいる虫を食べている1匹の一撃熊の姿があった。
「よし、それじゃあやるか!2人ともここに隠れて居てくれ。すぐ終わらせる。…………。『ライト・オブ・リフレクション』」
ぶっころりーが小声て呪文を唱え、光を屈折させて姿を見えなくした後、ゆっくりと近づいていき……。
「??…………ッ!?グルァッ!?」
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!!」
一撃熊が近づいてきたぶっころりーに気づいた時には、彼が無詠唱で発動させた、自分の手刀に沿って光の斬撃を繰り出す魔法により、袈裟斬りされていた。
切った断面がゆっくりとズレていき、やがてそのまま崩れ落ちた『一撃熊だったもの』を確認してから、非常に満足そうにしているぶっころりーを、私達は見て。
「……ねぇ、めぐみん。今のぶっころりーさんの姿を、そけっとさんに見せれば、恋人になれる可能性あるんじゃないかな?普段のあの人を見るより、よっぽど男らしくてカッコイイと思うのだけど……」
「確かに、普段のニートっぷりを見せるよりかはまだマシですが、そけっとは修行と称して冒険者家業も嗜(たしな)んでいると聞きました。きっと、普段から家でゴロゴロしているニートよりも強い筈なので、その期待は薄いですね」
「そっか。ぶっころりーさん、ニートだもんね」
「えぇ。ニートですから、きっとダメでしょう」
「君達、ニートニートうるさいよ!褒めるか貶すかどっちかにしてくれっ!」
私達の冷静な分析にケチをつけながら、ぶっころりーは死体から肝を抜き取り、残った部分の死体処理をしていた。
死体をそのままにしておくと、その死体の血の匂いから他の魔物を呼び寄せてしまうためである。
私達は、しばらく彼の作業を眺めていると。
「そういえば、ゆんゆんはだいぶ『中級魔法』の使い方が上手くなってたよな。なぁ、ゆんゆんも一撃熊、狩ってみるか?」
「えぇっ!?わ、私がですか?」
「あぁ。是非、ゆんゆんの魔物との戦いっぷりが見てみたいね。大丈夫!危なくなったら、俺がフォローするから!」
「……。じゃ、じゃあ!そ、その、お言葉に、甘えて……一回だけ」
「よし!なら、もう1匹探そうか!で、もう1匹の肝は、こめっこのお土産でも何か買う為の資金にしたらどうだい?」
「いいですね。こめっことも約束しましたし」
ぶっころりーの思いつきに満更でもないゆんゆんと、出かける前に私の妹とした約束を思い出した私は、もう1匹探すことに決めた。
しばらく探していると、今度は番(つがい)であろう一撃熊を発見した。
「うーん……。よし!片方は俺が先に片付けるから、もう片方をゆんゆんがやってくれ」
「ーー待って下さい。ぶっころりーさん、私に2匹とも任せてもらえませんか?」
「えっ?ま、まあ、いいけど……。無理しなくてもいいぞ?ちゃんとフォローするからな?」
「はい。ありがとうございます!」
さっきのぶっころりーと一撃熊との戦いに当てられたのか、普段より好戦的なゆんゆんが一歩前に出る。
ゆんゆんの存在に気がついた2匹の一撃熊が、彼女を目掛けて突進してくる。
それに合わせて、ゆんゆんもその2匹がいる方向へ、全力で走って近いていった。
「「ちょっ?!危なっ!!」」
隠れていた私とぶっころりーが、『ゆんゆんが危ない』と思い、慌てて出て行こうとしたが、その心配は杞憂に終わった。
何故なら。
「はぁっ!!」
「「ゴルアアアァァァーー!……ッ!?」
先頭を走っていた一撃熊の片割れが、鋭い爪と強靭な前足から繰り出される攻撃で、ゆんゆんを引き裂こうと助走をつけて飛び付こうとした瞬間、ゆんゆんは、その股下を潜り抜けるように身体を滑らせて避けた。
続いて2匹目が、身体を逸らしたゆんゆんに合わせて身を屈め、体当たりしようとしたところを、彼女は両手を後ろに突き出しながら。
「『ウィンドブレス』ッ!」
風を起こす『初級魔法』である『ウィンドブレス』を発動し、一撃熊を大きく跳びこえるようにして、またヒラリと避ける。
ゆんゆんの姿を見失なった一撃熊2匹は、彼女を再度捕捉しようと方向転換するため、一度立ち止まった所を。
「『ピット・フォール』ッ!」
「「グルァッ!?」」
『中級の土魔法』である、指定した場所に落とし穴を作る魔法で、一撃熊2匹がすっぽりと入るくらい深い穴へと落とした。
垂直な縦穴なため、中々脱出出来ない2匹を見ながら。
「『ライトニング』!!」
「「グギャアアァァァーーッ!?」」
「「う、うわぁ……」」
抵抗出来ない相手に、一方的に自身の最大火力が出せる魔法で攻撃しているゆんゆんがいた。
これには、私とぶっころりーも正直、ドン引きである。
あれは、魔法使いの戦い方ではないだろう。
私の母曰く。
『どうして相手の得意な場所で戦わなくちゃいけないの?自分が有利な場所から、一方的に攻撃すればいいじゃない♪』
これが基本方針な母の指導を受けて、『優しくて思いやりの塊』だったゆんゆんは、時と場合によっては、今みたいに随分とエグい戦いをする様になった。
族長やゆんゆんの母は一応母の指導方針に納得済みだが、紅魔族的には『正面から強敵を薙ぎ倒す』ことを美徳に思っている人が多いので、ここまでエグいことをする様になった娘について、私は彼女の両親に対して少し申し訳なく思った。
「あ、めぐみん、めぐみん!見て見て!私、やったよ!」
「……良かったですね、ゆんゆん」
「うん!ありがとう!」
私に褒められたことが嬉しかったのか、『えへへ♪』とだらしなく笑いながら一撃熊の肝を取り出しているゆんゆんを見ていると、横からぶっころりーがボソッと呟いてきた。
「…………随分と差をつけられたみたいだな、『ライバル』さん?めぐみんももう『上級魔法』を覚えられるくらいはポイント貯まってるんだから、さっさと覚えればーーー」
「ふんっ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁあーーーっ!?」
私は、不埒者の鳩尾に渾身のボディブローを叩き込み、呻き声を出すニートを放り捨てて。
「…………はぁ」
私自身の『冒険者カード』を取り出して、『スキルポイント』と書かれている場所の『47』という数字を見つめながら、静かにため息を吐くのだった。
・オリジナル魔法『ピット・フォール』
術者が指定した場所を丸ごと落とし穴に変える魔法。
効果が及ぶ射程距離が短い分、熟練の使い手になると、落とし穴の形や規模を自由自在に変えられるようになる。
ちなみに、魔法名を『クリエイト・フォール』にしようかと思ったが、何かダサいなという個人的な感想と、『クリエイト』って名前になると、どうしても原作から初級魔法を連想してしまうという理由から却下されました。
次回、やっと物語が動きます!
……なのですが、年末年始はどうしても忙しく、もしかしたら毎日更新出来ないかもしれません。
更新出来なかった場合は『あぁ、忙しかったんだなぁ……』と思って下さい。
ですが!一応頑張って更新を試みてみるつもりなので、お待ちください!