「ーーーさて、それではさっさと帰ってから、肝を換金しに行きましょうか」
「そうね。……あの、大丈夫ですか?ぶっころりーさん」
「……まだ、ダメそう……」
「全く、情け無い。女の子が一発殴ったくらいで、そこまでダメージを負うとか、男として恥ずかしくないのですか?これだからニートは……」
「不意打ちで人の鳩尾にボディブローかます奴の方が、女としてどうかと思うんだがっ!?」
ゆんゆんが一撃熊の死体の処理を終え、後は里に戻って商店街でこめっこのお土産を買いに行こうと急かす私に、ぶっころりーが文句を言ってくるが、知ったことではない。
人が弱った所をからかうから、こうなるのだ。
私は悪くない。
ニートの戯言を無視して、私達は里に戻るため森の中を歩いていると。
「おっ!あれ、カモネギじゃないか?今日はついてるな!」
森の生活を悠然と歩いている、1匹の鳥ーーーカモネギを見て、ぶっころりーが興奮したように、それがいる方向へ静かに駆け寄っていった。
カモネギとは、常に手にネギを持っている魔物であり、そのネギを使って作った料理や薬は、病気の治療効果を増大される為に非常に貴重な存在である。
また、カモネギは何故か他の魔物が近くに居ても襲われないという特殊な性質を持っているため、紅魔族の中でもその性質について研究している人がいるという話を、私の担任が授業で解説していた。
つまり、カモネギは高値で売ることが出来る相手が、この里には居る訳で。
「やりましたね、ぶっころりー!これでしばらくは、占いに通い詰めるためのお金も貯まるんじゃないですか?」
「あぁ!よし、挟み撃ちにして捕まえよう!めぐみんは前から頼む。俺は背後から攻めるから!」
「了解です!………………。……ッ!よし、捕まえましたよ!」
「でかした、めぐみん!」
思わぬ臨時収入に、興奮が隠しきれない私とぶっころりーが喜んでいると、ふと、さっきから一言も口にしていないゆんゆんが心配になり、彼女へ目を向ける。
すると。
「わ、わぁ!か、可愛い!」
私が捕まえたカモネギの、無駄に愛嬌のある姿にすっかりメロメロになっているゆんゆんがいた。
「……ゆんゆん。カモネギは一応、魔物です。どんなに可愛くても、これと友達にはなれませんよ?」
「そんなことはないわ!『目と目を合わせて、相手の言いたいことを理解すれば、鳥とだって友達になれる。大切なのは、分かり合おうとする心と根気だ。』って、本に書いてあったもの!」
「貴方、この間の図書館での本をまだ読んでいたのですか!?」
そして、何度も言いますが、それは鳥にではなく、まず人間相手にやりなさい。
「とにかく、魔物である以上は危険だってあるのですから、見逃すことはしませんので、諦めて下さい」
「……ちょむすけがいるのに、めぐみんがそんなことを言うの?」
「…………」
「ねぇ、ちょっと。顔を逸らしてないで、私の目を見なさいよ、ほら!」
「2人とも、何の話をしてるんだ?」
「「な、何でもありませんっ!!」」
「???」
私とゆんゆんが小声で話をしていたのを不審に思ったぶっころりーを、上手く誤魔化しておく。
「と、とにかく!このカモネギは連れて帰りますよ!別に、カモネギ自体は殺す訳ではないのですから、どうしても会いたいなら、売った人の所へ会いに行けばいいじゃないですか」
「そうだぞ、ゆんゆん。別に心配することはないさ」
「あ、そうなんですか?何だ、私はてっきり……」
「『てっきり』?『てっきり』、何ですか?」
私達の説得に安堵した表情を浮かべるゆんゆんに、私が彼女が思ったことを聞いてみると。
「てっきり、カモネギのネギを売り捌いた後は、絞め殺してめぐみんの家の晩ご飯にするのかなって……」
「以前ならともかく、今はそんな可哀想なことはしませんよ。バーサーカーのおかげで、食事で困ることも無くなりましたしね」
「そっか!それなら良かっ……。待って。今、前なら晩ご飯にするって言わなかった?」
笑ったり真顔になったりと忙しいゆんゆんに、ぶっころりーも私のフォローをしてくれた。
「そうそう。カモネギがいくら倒すと大量の経験値が得られるレアな魔物で、しかも料理にすると凄く美味いからって、流石にめぐみんだってそんなことはやらないさ」
そう言って、ぶっころりーがフォローを……。
……………………。
「そ、そうですよね、ぶっころりーさん!ごめんね、めぐみん。私ってば、お金は手に入るし、レベル上げも出来るし、ご飯にもなるしで、そんないろいろな意味で美味しい存在だからって、流石に酷いことはしないわよね?めぐみんにも、可愛い生き物を愛でる心ぐらいはあ『キュッ!』………………」
私がカモネギの首を絞めてた時に出た小さな悲鳴を上げたと同時に、ゆんゆんは笑顔から絶句した表情に変えて、そのまま固まった。
私が自分の『冒険者カード』を取り出して見てみると、何と一気にレベルが2つも上がり、『スキルポイント』の欄が、前見た時よりも2ポイント増えていた。
そんな私を未だに『信じられない』と言っているような表情で固まったゆんゆんに、私は戦利品とカードを自慢気に掲げて。
「ーーーめぐみんは、レベルが上がった」
「めぐみんの馬鹿あああああああああーっ!!」
「これはひどい」
大粒の涙を流しながら襲い掛かってくりゆんゆんと、呆れた様な顔をしてこっちを見てくるぶっころりーを置いて、私はさっさと里に帰るために走り出したのであった。
決して、ゆんゆんから逃げているのではない。
「ひどい!ひどいわ、めぐみん!あんまりよ!そんなことをしていると、今にバチが当たるからね!」
「わ、悪かったですって。つい出来心で……」
「出来心で即座に絞殺が出来るとか、めぐみんには人の心ってものが無いの!?」
さっきから謝り続けているのだが、ゆんゆんは私のことを許してはくれなかった。
「おーい、カモネギスレイヤー、ゆんゆん。店の中だから、少しは大人しくしてくれ」
「おい、その喧嘩買おうじゃないか。ドラゴンスレイヤーに語感が似ているからって、私が喜ぶとでも思ったのですか?ならば、その理由について、じっくりとその貧相な身体に聞こうじゃないかっ!」
「何をする気だっ!?」
このニートとは、どちらの立場が上か、ハッキリとさせる必要がある。
そうして、私達が戯れあっていると、ぺぷちどの店のカウンター前が空き、私達の順番が回ってきた。
「おう、お疲れさん!肝は無事に取れたかい?」
「あぁ、バッチリさ。よっと……。これで良いだろ?」
「おう!一撃熊の肝が2つに……。これは、カモネギのネギか?なら、これも買い取るぜ!ほら、依頼達成の報酬と追加の分の金だ。確認してくれ」
ぶっころりーが代表でお金を受け取り、その額が正しいか確認してから、私とゆんゆんにもお金を分配してもらった。
結構な額になり、非常に大きな満足感を私達が得ていると、店の入り口から今朝見たイケメン顔の剣士と、その彼が子どもに見えるくらいの圧倒的な体格差を持つ男が入ってきた。
「ただいま帰りました。店主さん」
「■■」
「おぉ、お前さん達もお疲れ様!で、調査の方はどうだったんだ?」
「それが、今日は何一つ収穫はありませんでした。噂の魔物とも遭遇しなかったですし。……まぁ、強いて言えば、今日はバーサーカーさんが如何に優れた戦士だってことが分かったことが収穫でしたね。……やっぱり、僕と共に、魔王を倒して世界を救いに行きませんか?貴方が居てくれるだけでも、凄く心強いんですが……」
「■■■」(フルフル)
「そ、そうですか……。残念です。もし気が変わったなら、また僕に会いに来てくださいね」
「■■■…………」
まだあの自称勇者は、バーサーカーの勧誘を諦めていないらしい。
強面な顔が、少し困っているように歪んでいたので、私とゆんゆんは助けに入ることにした。
「おや、貴方達も今帰って来たのですか?奇遇ですね」
「おかえりなさい、バーサーカーさん!」
「■■■■!」
「あぁ、今朝のお嬢ちゃん。君達も依頼で森の中に入ったのかい?……ということは、お嬢ちゃん達も魔法使いなのかな?」
「いえ、私はまだ魔法は使えません。そっちのぼっちとニートが魔法使いです」
「「今何でわざわざ悪意ある言い方で紹介したんだ(の)っ!?」」
「仲が良いんだね」
私達が騒いでいると、剣士が微笑ましそうに見てくる。
「僕の名前は『御剣響夜(ミツルギ・キョウヤ)』です。職業は『ソードマスター』で、王都では『魔剣の勇者』って呼ばれてます。よろしくね、お嬢ちゃん達」
キラッと輝いているかの様な笑顔で私達に挨拶してくるミツルギにあわあわしながら『こちらこそ、よろしくお願いします』と自己紹介しているゆんゆんと、『ケッ!』みたいな顔をしているニートを見て、ミツルギが彼に苦笑をしながら握手をしようと手を出していた。
……やっぱり、どことなくこのスカした感じが気に入りませんね。
顔がイケメンなだけに、実に残念な人と私は思った。
「そういえば、さっきバーサーカーのことを『頼りになる戦士』とか言ってましたが、2人は今日は何をしていたのですか?」
私がキツルギに気になったことを質問してみると。
「いや、彼は本当に凄いんだよ!調査対象の魔物とは出会わなかったけど、それ以外の魔物とは戦うことになってね!そのときの活躍っぷりったらもう!あれが『八面六臂』、『獅子奮迅』の大活躍って言うんだって実感したよ!僕が魔剣を抜いて構えたときには、目の前の魔物の顔が、一撃で粉砕されていくんだから、最初は何が起きているのかすら分からなかったよ。こんな事は、前に王都でアイリス様と戦ったとき以来だ!」
「■■■……」
『ハチメンロッピ』とはよく分からなかったが、バーサーカーが接近戦で、相手をいつも通りボコボコにしたことだけは、彼の興奮した早口の説明から伝わってきた。
褒められたバーサーカーが照れているのか、小さな唸り声を上げる。
「それにしても、魔法使いを探す為にこの里に来て、まさか君みたいな人に会えるなんて思わなかったよ。最初見たときは、この里はあんな幼女でも『トロール』を飼い慣らせるくらい実力があるのかと思ってしまったよ」
「まぁ、間違ってはいませんね。バーサーカーはこめっこのペットみたいなものですから」
「め、めぐみん?!バーサーカーさんが聞いてるから!そんなことを言ったら……」
「■■■■…………」
「ほらぁ!彼が落ち込んじゃったじゃない!ば、バーサーカーさん、ほら、元気出して下さい!あれはめぐみんが、勝手に言っているだけですから!」
「おい。人に罪を擦りつけるのはやめてもらおうか。ゆんゆんだって、納得してたじゃないですか」
しかも、さっきゆんゆんが言ったセリフからして、『ゆんゆん自身が彼をペット呼びしていたことを知っていた』と自白していることに気づいていないらしい。
「ちょっ!?今それを言う!?あぁっ!バーサーカーさん、気をしっかり持って下さい!」
「お前達、店の中で騒ぎ過ぎだ。ほら、バーサーカーも体育座りしてないで、外に出るぞ。悪いな、ぺふちど」
「別に気にすんな!これくらい賑やかな方が、平和って感じがしていいじゃねぇか。ま、気をつけて帰んな!」
「わざわざ魔王軍だってこの里には攻めて来ようなんてしないんだし、この里が危険な目に遭う訳がーーーー」
そんな、いつもの日常の延長がずっと続いていると錯覚していたのが悪かったのか。
または、フラグを立てた、ぺぷちどとぶっころりーが悪かったのか。
『緊急事態宣言、緊急事態宣言!里の中に、頭に角が生えた、噂の魔物が侵入しました。住人は速やかに、見つけ次第、魔物の駆除をお願いします!』
「「「「「「………………」」」」」」
カンカンという鐘の音と共に、里に流れるアナウンスが聞こえ、店の中にいた全員が一瞬で静かになり、冷や汗を流すことになった。
「『ライトニング・ストライク』!」
「『フリーズ・バインド』!」
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」
「『カースド・ライトニング』!」
「■■■■ーーーーッ!」
「くそっ!キリがないぞ!どっから湧いて来やがるんだよ、コイツら!」
ぺぷちどの店を出て、ぺぷちどやぶっころりー、それからキツルギは他の住人と合流して、即座にいくつかの討伐隊を編成し、侵入した魔物を迎撃しに行った。
私とゆんゆんはまだ学生ということもあり、他の魔法が使えない子どもや妊娠中の女性達を、こういうことが起きたときの為に避難する場所として指定されている『魔法学校』へと向かっていた。
その護衛として、討伐隊に加わらなかった人達やバーサーカーが、襲ってくる魔物を次々と蹴散らしていくが、全く魔物の数が減っている気がしない。
それに、魔物の挙動をよく観察すると、魔物の方から里の住人に直接攻撃をしてくる様子はない。
もし、里を侵略しに来た訳ではないのならば、一体こいつらは何が目的なのだろうか……。
「めぐみん!そろそろ分岐点に着くわ!」
「ッ!分かりました。みなさん、私達はここで離脱して、こめっこを迎えに行きます!バーサーカー、ついて来てください!」
「■■■!!」
「めぐみん、ゆんゆん!気をつけてな!」
「先に行って待ってるから、早く来るんだよ!」
「バーサーカー!しっかり守ってやんな!」
「■■■■■!」
そうして、学校がある場所とは反対にある我が家へと、私達は急いで走る。
……大丈夫。こめっこは5歳とは思えない程しっかりしてるんです。
アナウンスを聞いたのであれば、必ず家の戸締りはしたはず。
私の家が小さなボロ屋なこともあって、わざわざあの魔物がそこを襲ってくるとは思えない。
大丈夫、大丈夫……!
そう自分に自己暗示をかけながら、でも何故か嫌な予感が頭から離れない私は、こめっこの無事を祈りながら私の家へ向かい。
そして。
「………………こめっこ?」
無惨にも破壊された私の家のドアを見て、目の前が真っ暗になった。