「え、本当に!?こ、こんなに絶望的な状況なのに、どうにかなるって言うの?!っていうかこの状況から、どうしてそんな結論が導き出せるのっ?!?!」
「……落ち着いてください、ゆんゆん」
めぐみんの、いつも通りである自信満々な態度に、この状況が何とかなるのかと思わず舞い上がった心が落ち着いていき、深呼吸して、私はめぐみんが次に言う言葉を待った。
落ち着いた私を見てから、今から順序立てて説明しますね、っとめぐみんが前置きした。
「まず、さっきのゆんゆんから聞いた話と、私が昨日体験したことを一つ一つ箇条書きにしてみましょう。そうすることで、何故私がなんとかなると考えた理由がわかると思いますので」
「う、うん!分かったわ!!」
めぐみんはゴソゴソと、自分の机から数枚の紙とペンを探し出した。
「今から書く事にあなた自身が体験したことで、間違いがないか確認してください」
「りょ、了解!」
めぐみんがさらさらと、出した紙に私が話した内容を、簡潔にまとめていく。
・ゆんゆんが友達欲しさに、悪魔召喚の魔法を行使しようとした。
・その為に、ゆんゆんは学校の図書館に忍び込み、そこにある禁書から、召喚魔法について学んだ。
・しかし、途中で正気に戻り、悪魔召喚の魔法を途中で中断した。
・その際に、確かに魔法陣の輝きがなくなっていくのを見て、魔法の行使がきちんと中断されたことを確認している。
・目を閉じて、気持ちを切り替えためぐみんの目の前に突然現れた怪物を見て、ゆんゆんは何も出来ずに気絶した。
「これで、あなたから聞いた情報は以上です。何か間違いがありますか?」
「ううん。これで間違いないわ!…………なんか、事実だけ並べられると余計に落ち込むわね、これ……」
「我慢して下さい。自業自得です」
バッサリと切り捨てられた私は、また涙が出そうになったが、自分で蒔いた種なので、流れそうになった涙を静かに飲み込むことにした。
「……落ち着きましたか?では、次に私が体験したことを書いていきますね」
さっきの箇条書きした紙とは別の紙を取り出して、今度はめぐみんが体験したことをまとめていく。
・めぐみんとこめっこは川で仲良く遊んでいたとき、重く響くような足音が聞こえ、急いで草むらに隠れた。
・しばらくすると肩にゆんゆんを担いだ、巨人と見紛うほどの巨躯でありながら、身体中に筋肉が浮き出ている人の姿をした怪物が見えた。
・怪物はゆんゆんを草がある地面に下ろして、怪物はそのまま川まで歩き、水を手で掬って飲み始めた。
・ゆんゆんを助けようとしためぐみんとこめっこは、草むらの中とはいえ、たった一歩歩いただけで居場所を見抜かれてしまう。
・逃げようとしためぐみんとこめっこに対して、一瞬で距離を詰めることが出来るスピードを怪物は持っていた。
・その場から動けなかった、めぐみんとこめっこを見て、怪物は短く雄叫びを上げ、ゆんゆんを置いたまま去って行った。
・めぐみんはゆんゆんを背負って、こめっこと急いで里に帰り、ゆんゆんの自宅に行き、族長に起こった出来事を話した。
・事態を把握した族長は、里の男達を何人か集めて森の中を捜索した。
・そして、ゆんゆんが描いたであろう魔法陣が、次の日に発見されたという知らせがあり、ゆんゆんは参考人として族長達に呼びだされた。
・そして、こめっこを家に送り届けためぐみんが、里の男達が集まってる緊急招集された場所へ様子を見に行った。
「以上が、私が昨日から体験したことをまとめたものですね」
「……こうして見ると、たった一日くらいしか時間経ってない中で、いろいろなことがあったのがよく分かるわねぇ…………」
書かれたメモを並べながら、私はめぐみんの話を聞いた。
「まず、この怪物なのですが、こいつが魔王軍の幹部が呼び出した悪魔ではないことは明らかですね」
「う、うん。だって、いきなり来てもいない魔王軍が、近寄ることすら嫌がるのに、冷静に考えてみると、突飛な発想よね。……それに、魔法陣描いたの私だし」
「そうですね。しかも、ゆんゆんはこの魔法陣を使った召喚魔法を途中で中断してます」
「うん。確かに途中で止めたわ。それに、魔法陣から出る光が消えていくのもちゃんと確認したし」
「なるほど。あなたが魔法を中断し目を閉じて、気が抜けたあとに目を開くと既に怪物がいた。これであってますか?」
「うん。もういきなり現れたからビックリしたわよ」
「ゆんゆん、気絶したことをビックリしたで終わらせないように…………。ふむ。なるほど、なるほど。やはりここで一つ、議論をする上で言っておかないといけない事があります」
「え?今までの話でなんか大事な話ってあったっけ?とりあえず、事実確認をしていただけだと思っていたのだけど……?」
今の話から必要な話とは何かさっぱりわからず、めぐみんに直接聞くと
「……それは、今の話とこのメモに書いてある箇条書きから、あの怪物が必ずしも悪魔であるかどうかは、まだ判別出来ない、と言うことです」
と、めぐみんは言ったのだった。
……え?あれって悪魔じゃないの?あんな見た目してるのに?
私はその疑問を、目で訴えるようにめぐみんへとぶつけてみると、言いたいことはわかる、というように一回頷き
「まず、ゆんゆんが目を離した隙に、しかも魔法陣の上に現れたことから、中断した悪魔召喚の魔法が何らかの影響を受けて誤作動し、現れた悪魔があの怪物だと見るのが、一番分かりやすく、筋が通りそうな話になると思います」
「うん。私も、その可能性をずっと考えてたから、気まずかったわけだし……」
「まぁ、そうでしょうね。あれだけの巨体に、ゴツゴツした筋肉を持ち、しかも人型をしていることから、いきなりあれを初めて見た人のほとんどは、あの怪物を悪魔だと思うでしょう」
「しかも、私とゆんゆんが怪物から聞いた声らしきものは、ものすごく響く、まるで獣のような雄叫びのみ」
「確かに、あれは迫力があったわね……。今でも思い出すと身震いするもの」
「そうですね。で、このことから、怪物と会話が通じるかどうかは分からないため、現状では直接悪魔かどうかを聞いて確認出来る保障はありません」
「ですが、今までの話から考えると、あの怪物が悪魔だと考えるには、不自然なことがたくさんあるのですよ」
「えっ?!そ、それって、何?!不自然なことって一体何のことなの、めぐみん!!?」
私の疑問に対して、ふーっと、喋りっぱなしだっためぐみんは、一呼吸おき
「…………それは、悪魔の存在理由から考えると、もしあの怪物を悪魔として仮定した場合、致命的な矛盾が起こるからです」
……致命的な、矛盾…………?
「……いいですか?ゆんゆん。悪魔というのは、自分を召喚した召喚者から叶えたい願いを聞き、悪魔がそれに応じて契約するこで、初めて召喚者の願いを叶えるのです。その代わりに、契約したことへの対価を召喚者自身に必ず要求してきます。ここまではあなたも知ってますよね?」
「う、うん!学校でも習ったし、禁書の本にも最初のページに載っていたもの。私が叶えて欲しい願いも、私と友達になって欲しいって決めてたし。その為ならどんな対価でも払う覚悟があったわ。でも、それが何…………か…………!!?」
「……その覚悟を決める前に、一言相談して欲しかったんですが…………。まあ、今はいいです。その顔は気づいたみたいですしね」
私の反応から、自分と同じ結論に辿り着いたのだと察して、めぐみんがニィっと笑顔を浮かべた。
……そ、そうか!もしあの怪物が悪魔で、魔法陣が誤作動して召喚された場合、召喚者は私ってことになるから……
「もし悪魔なら、召喚者である私に何もしてこないのはおかしいし、ましてや私を置いて立ち去ること事態がおかしいんだ!!だって、まだきちんと契約もしてないんだから!」
めぐみんの言いたいことが分かったわ。確かに矛盾している。
どうしてこんな、簡単なことに気がつかなかったのだろうか。
この様で学生時代はめぐみんの次に優秀だったとか、自分のことながら聞いて呆れちゃうわ……
「……ま、まぁ、ゆんゆんは被害を受けた当事者で、しかも後ろめたいことをしたという意識があったから、冷静な判断が出来てなかっただけだと思いますよ?」
「うぅ……。めぐみん…………!」
めぐみんが優しく慰めてくれたおかげで、私はなんとか立ち直り、話を元に戻す。
「そう。悪魔としては、召喚されたこちら側に留まる為には、召喚者との契約が不可欠のはず。にもかかわらず、ゆんゆんを放置して去って行くことへの、悪魔側の利点が全く思いつかないのですよ」
「確かに、その通りだわ!……じゃあ、めぐみんは、あれが悪魔じゃないとしたら、一体なんだって言うの?あの雄叫びの感じからして、新種の魔物だって言いたいの?」
私の新たな疑問に対して、めぐみんは首を横に振った。
「その線も十分ありえるのですが、そうだったとしても、今度はまた新たな疑問が生まれるんですよ」
「え、今度は一体、何が不自然になるっていうの??」
「ゆんゆんならすぐに分かると思いますよ。ヒントは、怪物の移動手段です」
「???……………………………!あ、あぁ!!」
めぐみんの言いたいことが分かったわ!
「足音ね!」
「正解です。ゆんゆん」
もしあの怪物が悪魔じゃないと仮定したとき、私の描いた魔法陣はなんの関係もない、ということになる。
つまり、あの怪物は、召喚魔法で呼び出された訳じゃないのであれば、一体何処から来たのか。
「あの怪物がもし新種の魔物であったとしたら、移動手段は一体何だったのか。もし、それが自分の足で来たのだとしたら、あなたがいくら気を抜いていたとしても、目の前に来るまでには足音から、異変を察知出来るはずなんです」
「なのに、実際は怪物が目の前に現れるまでゆんゆんは近づかれていることに、全く気づけなかった。ならば、あとは他にどうすれば、気づかれずにあの怪物がゆんゆんの前に立つことが出来るのか」
めぐみんと同じように、私も残りの考えられる手段を推理した結果
「 [ テレポート ] のような魔法を用いた、名前も知らない第三者からの転移で送られてきた可能性!!」
これだ。これしかない。
あらかじめ登録した場所へワープさせるという、上級魔法の一つ [ テレポート ] のような魔法で転送されたのなら、怪物がいきなり目の前に音も立てずに現れたことへ、一番矛盾せずに説明出来る。
「私もそう思いますよ、ゆんゆん。 [ テレポート ] によく似た、もしくは、その派生型のような魔法またはスキルが使われた。これが一番しっくりくる説だと思います」
めぐみんが同じ結論に辿り着いたことに満足そうにしている。
「……もっとも、今の説が正しいのだとしたら、あの怪物が別に魔物に拘る必要がなくなるのですがね」
少し困ったような顔をしながら、何故なら、とめぐみんが前置きして
「もし 何かしらの手段で転移が可能で、第三者がそれを使ったのであれば、上級悪魔を向こう側で召喚し、契約を第三者がした状態で転移させれた可能性も出てきますからね」
「た、確かに!…………ん?じゃあ、今までの議論は一体何だったの?」
これまでの議論の意味が分かなくなった私に
「話を始める前に言ったではないですか……。『あの怪物が悪魔かどうかは判断出来ない』っていうことですよ。まぁ、その結論に辿り着くまでが長かったので、忘れても仕方ありませんけど、覚えておいて欲しかったですね……」
当たり前のように返された返事に、そう言えばそうだったと思い出す。
他に何か引っかかるところはないかとめぐみんに聞かれ、少し考え込んでいると
「……あれ、そういえば………………」
「どうしました、ゆんゆん?」
「あのね、めぐみん。もし第三者からの転移であの怪物が送られてきたとしたら、その第三者って、魔王軍の幹部の可能性もあるよね?何でめぐみんは最初にその可能性は無いって言ったの?」
「あぁ、それはですねぇ…………」
そのとき、めぐみんのお腹がグゥーと鳴り、ちょっと気不味い雰囲気が流れた。
……確かに、お腹空いたなぁ。
チラッと窓の外を見て見ると、もう日が暮れていた。
もうそろそろ家に帰る時間だろうから、私もそろそろ帰らなくちゃいけない。
「……この続きは、晩ご飯を食べてからにしましょうか。ゆんゆん、あなた、今日は私の家に泊まって行くのでしょう?」
「え?!い、いいの、めぐみん?!お泊まりしてもいいの?!」
「別に、家に泊まりに来るくらい、いつでも構いませんから。そんなに嬉しそうな顔をしないで下さいよ……」
「だ、だだだ、だって!こんな機会滅多にないんだから!ちょっとくらい、はしゃいでもいいでしょう?!」
「はいはい。まったく、ゆんゆんはいつまでも子どものままですね。私を少しは見習って欲しいものです。学校はもう卒業したのですから、もう少し大人になったらどうですか?」
「ひ、酷い!酷いわ、めぐみん!私達同い年でしょう!?何自分だけ大人ぶってるのよ!?体型なら私の方が大人…………あ、ごめん」
「おい、今体型に関して私に言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
いつもやっていたように、私とめぐみんはお互いに罵倒しながら、好き放題言いあう。
こんなめぐみんとの関係が嬉しくて、私は好意に甘えてご飯を食べようと、めぐみんと一緒にリビングへと足を運んで行ったのだった。
私の中のめぐみんは、爆裂魔法への欲求が抑えられていれば、かなり賢いイメージです。