そけっとさんの家に向かっている間、私はめぐみんが立てた作戦の内容を聞いていた。
「この7日間、痕跡は見つかるのに里の探索隊が怪物と遭遇していないことから、怪物はもしかしたら何らかのスキルを使ってこちらの動きを察知しているのかも知れません」
「そんな便利なスキルだと……思い当たるのは『敵感知』のスキルとか?でも、あの怪物が移動するときに響く足音からして、探索隊に気づかれる前に察知できるとしたら、かなり離れた距離から、既にこちらの動きに気づいてるってことになるわよ?そんなに便利なスキルだったかしら、あれ」
私が学校に通っていたときに授業で習った『敵感知』スキルの特徴を思い出しながら、私はめぐみんに疑問をぶつけてみた。
『敵感知』。それは近くにいる敵の気配を感知し、その数も同時に把握することが出来る。相手を敵だと考えていれば、モンスターだけでなく人間も感知可能と言う非常に便利なスキルで、バランスのとれた冒険者パーティの中で斥候役の人が必ず習得しているスキルだった。
モンスターの中でも、非常に五感が優れているモンスターは、自然とこのスキルを持っているものだ。
私達人間がこれを習得するには、『人や物音に敏感に反応出来るようになる』という訓練のもと、才能ある人は自動的に習得出来るし、才能がない人でもスキルポイントを使えば簡単に習得可能である。
冒険者の職業によってスキルポイントを使って習得する際に必要なポイントの量が変わる中でも、比較的どの職業でも割と使うポイントは少ない方だ。
そんなスキルだが、使ってみると実際は意外とシビアなもので、『敵感知』のスキルに引っかかるための範囲はそんなに広くなく、才能がない人なら効果範囲の拡張が出来ても精々半径50mくらいだったはずだし、才能ある人でも精々が1kmだ。
そもそも、相手側に『敵感知』スキルを無効化するようなスキルを使われると、範囲内にいても感知されなくなる。
過信し過ぎると痛い目に遭うスキルだった。
「えぇ。まさに『敵感知』のようなスキル、もしくはそれに近い何かを使っているのでしょう。もしかしたら、その上位互換のような、独自のスキルか何かを持っているのかも知れません」
「そこで!あの怪物がいる拠点の場所と、その拠点にいるタイミングをそけっとに占ってもらいます。あの怪物だって生きているのですから、四六時中常に気を張っている訳じゃないはずです」
「拠点にいる間は休息をとっているはずなので、一番怪物が気を抜いているベストタイミングで奇襲をかけることが出来るはず。そうなれば後は、直接目的を聞き出してそれを叶えてやれば!あとはこの里から離れるように交渉出来るはずなんです!」
「な、なるほど!さすがはめぐみんね!抜け目ない作戦に脱帽だわ!!」
「ふふんっ♪そうでしょう?そうでしょうとも!!」
私の褒め言葉に気を良くし、すっかりと自信満々な態度を取り戻しためぐみんと私は、そけっとさんの家に到着し、彼女にその作戦を簡潔に伝えた。
「……なるほど。考えたわね。……よし、分かったわ!今からその二つについて占ってあげる」
そけっとはめぐみんの作戦を聞いて感心したように頷き、そのまま水晶玉に手をかざすと、そこに魔力を送り込み始めた。
魔力が注入されていくにつれ、水晶玉が淡くそして暖かく光始めた。
「あ。一応言っておくけど、私の占いはそこまで万能じゃないわよ?私だってまだ占いを極めたわけじゃないからね。過去のことを覗くのだって出来るときと出来ないときがあるし。未来を占うのだって、必ず当たるとは限らないわ」
「おや。今更、弱腰になるとは。あれだけ煽っておいて外れたときの言い訳なんて、カッコ悪いですよ?」
「めぐみん!?お願いしてやってもらってる立場なんだから、煽らないでよ!!す、すみません、そけっとさん!!」
「ふふっ。いいのよ、ゆんゆん。別に気にしてないから。……それに、めぐみんの言う通りなんだし。でも、所詮は占いでしかないから。里のみんなも言ってるでしょ?『未来は自分で切り拓くもの』って。私もそう思うわ」
「……なら、何故。あなたは占い師なんかになったのですか?」
めぐみんの失礼極まりない質問に嫌な顔をせず、そけっとさんは優しく微笑みながらこう言った。
「……ほら、人にはさぁ、長い時間を生きていると、もうどうしたらいいのか、自分では分からなくなる時ってあるじゃない?そんなときに、誰かの為に……誰かの未来を支えることが出来るような仕事が、とても素敵に思えた。だから、この仕事をやっているのよ」
「「…………………………」」
その優しさ溢れる思いを聞いて、私は友達欲しさに悪魔召喚をしようとしたことを思い出した。
ーーーあんな馬鹿なことをする前に一度、そけっとさんに相談すればよかったのかな……
で、でも!あの恥ずかしい出来事があったからこそ!まためぐみんとこうしてお話し出来るようになったのだし!
……うん。今度何か悩み事が出来たときは、私もそけっとさんに占ってもらおうかな……
「…………そろそろ占いの結果が出るわ。2人とも、暗い顔をしてないで話を聞いてね?」
「は、はい!」
「………………はい」
慌てた私とめぐみんの返事を聞いて、占いの結果を教えてくれる。
「…………これは、川ね。どこかで見た川……ちょっと思い出せないのだけど、その川を辿っていった先……そこの近くに洞窟があるわ。そこの洞窟に住んでいるわね……。もし、奇襲をかけるとしたら………………!?こ、これは?!」
「ど、どうしたのですか?一体、何が見えたんですか!?」
めぐみんの問いかけに、水晶玉を覗き込んでいたそけっとさんは顔を上げてこう言った。
「今からすぐに森の中へ向かいなさい。すぐ出発すればまだ間に合うわ」
「何が?!一体何が間に合うというのですか?!」
「も、もう少し詳しい説明をお願いします!!」
「そんな時間はないわ!これは一刻も早く怪物がいる場所を探さないと、大変なことが起こるわよ!」
「「えぇ?!?!」」
何がなんだかわからない私とめぐみんは、『ほら急いで急いで!』と急かされながら、そけっとさんの家を追い出された。
「ど、どうしたのですか?!さっきまでは、あの怪物は危険ではないと言っていたではないですか?!」
「そ、そうですよ!!そんなに慌てて、一体これから何が起こるっていうんですか!?」
私達の文句に対して、『いい。よく聞いて。その理由を手短かに説明するわ』と言って。
「このままだと、こめっこちゃんがピンチよ」
真剣な顔で、そんなことをそけっとさんは言ってきた。
「えぇ!?な、何でこめっこちゃんの話が?!怪物の居場所の話でしたよね?!と、とにかく、こめっこちゃんを探さないと?!行くわよめぐみん!!…………めぐみん?」
「こ、ここ……こめっこ……こめっこが…………」
「め、めめ、めぐみん落ち着いて!おおおっ、おっ、おちおち、落ち着いて!?」
そけっとさんの言葉がショックで、体が左右にフラフラと揺れ始めためぐみんの肩を、私は掴んで揺さぶった。
「…………こめっこがああああああああああぁぁぁぁぁ!」
「落ち着いてったら!もう!!しっかりしなさいっ!」
「ヘブッ!?」
こんなに動揺しているめぐみんは、あの時以来だ。
そのおかげで、私は冷静になることが出来た。
まるで普段の私みたいなパニックを起こすめぐみんを正気に戻すため、私はめぐみんに一発ビンタをした。
……結構いい音がしたけど今は仕方ない、後で謝ろう。
「こめっこちゃんが危ないんでしょう?!なら、今こそ姉であるあなたがパニックになっちゃダメじゃない!!しっかりしてっ!」
「……ハッ!?た、確かにそうですね!こうしてはいられません……!ゆんゆん!私と一緒にこめっこを探しに森の中に行きますよ!中級魔法使いのゆんゆんがいれば、最悪戦闘になっても時間稼ぎくらいは出来るはずです!ほら、モタモタしてないで急ぎますよっ!」
「えぇ!?ま、待って待ってしっかりしろとは言ったけどいきなり早口で喋らないで背中を押さないでちゃんと走って行くからああぁぁぁー!」
「気をつけて!まずは、あの川を見つけなさい!私も里にいる他の大人達をかき集めてすぐに行くわ!!」
私はそけっとさんの言葉を聞きながら、めぐみんと一緒に森に向かって走って行った。
「……ぶふっ!も、もう、ダメ!た、耐えられない…………!あはははははっ!」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……!め、めぐみん落ち着いて!あてもなく探し回ってもキリがないよ!」
「で、ですが……!こ、こめっこ!こめっこがああぁぁぁ!」
「あなたまだ正気に戻ってなかったの?!落ち着いてったらっ!」
「これが落ち着いていられますかっ!!こめっこが危ないかもしれないのですよ?!は、早く助けに行かないと!!」
私達は今、そけっとさんが言っていた川を見つけるために森の中を当てもなく走り回っていた。
「こめっこーーーー!」
「こめっこちゃーーーーん!何処にいるのーーー!?」
「返事をして!こめっこちゃーーん!」
「おい!こめっこちゃんはいたか?!」
「いや、全然見つからねぇ!!」
本当は私とめぐみんでこっそりと奇襲をかけるつもりだったのが、状況が状況だったので、里の周辺の警備をしていた大人達数人に森の中に入ろうとしたところを見つかり、だったらと事情を説明して、こめっこちゃん捜索を手伝ってもらっていた。
めぐみんは私の中級魔法のことを信頼してくれてたけど、私1人で戦うよりも魔法使いとして優秀な、上級魔法を使える人達がたくさんいた方がいいという判断だ。
もしかしたら、私がやったことがみんなにバレるかも知れないが、『こめっこちゃんの命』と『私が族長になれるかどうか』を天秤に掛けて、どっちが大切なのか考えるまでもなかった。
大人達に事情を説明している間、めぐみんが私の行動に目を見開いて驚き、そして俯いていて動かなくなったのは気がかりだったが、しばらくしてこめっこちゃんを探す方が先だ、と言わんばかりにめぐみんが走り出したので、そのことについて聞くタイミングを逃した。
まだ捜索し始めて1時間も経っていないだろうが、そけっとさんの占いによる「こめっこちゃんのピンチ」のタイムリミットが正確に分からない以上、体力はともかく精神的な疲労がドンドンと溜まってくる。
「というよりっ!川を探せってアバウトな指示だけじゃあ、どの川なのか分かりませんよ!もう探索してない場所の中にある川沿いは全て調べましたが、近くに洞窟なんて見当たりませんし!」
めぐみんが空に向かって絶叫している中。
「……ねぇ、めぐみん。もしかしたら私達、勘違いしていたのかも知れないわ」
「勘違い??い、一体何に気づいたんですか、ゆんゆん!!」
私はそけっとさんの言葉を思い出して、気づいたことを言った。
「あの怪物を大人達が探索するときに、効率よくする為にって、1日事に調べる範囲を決めたじゃない?同じところを何回も探索しないように、それこそ入念な計画を立てて」
「……何が言いたいのですか、ゆんゆん?」
「つまり、つまりね?一度、徹底的に調べた場所をもう一度探すなんてほとんどしてないでしょ?なら、あの怪物が一度身を隠して探索隊をやりすごし、いなくなり次第、調べ終わった場所に潜んでいたとしたら…………絶対に見つからないわ」
「ッ!?」
「……それに、そけっとさんが言ってたじゃない?『あの川を探せ』って」
私の言葉にハッと気づいためぐみんに一回頷いて。
「わざわざ『あの』ってつけるくらいだから、私達にとってこの件で関わったことがある川なのよ。で、『あの川』って言われて最初に思いつくのは……」
「「あの怪物と私(めぐみん)が初めて遭遇した川っ!!」」
私達はお互いに頷き合って。
「めぐみん!!その川まで案内して!」
「分かりました!!任せてください!みなさん、こめっこが居そうな場所が分かりました!一緒に来てくださいっ!!」
「「「「ッ!?了解!!!」
私達はめぐみんの案内のもと、件(くだん)の川へと向かっていった。
ーーー待っててね、こめっこちゃん!!今、助けに行くからっ!!