「ありました!洞窟です!ここがそけっとが言っていた洞窟ですよ!!こめっこおおおぉぉぉー!!返事をしてくださーーい!」
「ちょ、ちょっとめぐみん!大声出さないでよ!バレちゃう!私達が来たことが怪物にバレちゃうからっ!?」
私達がめぐみんの案内で辿り着いた川沿いを上っていくと、上流付近の斜面に小さな洞窟が確かにあった。
川が近くにあるだけあって地面が少し湿っているため、私達とは違う大きな足跡がここを行ったり来たりしていることから、ここで間違いないだろう。
探索隊の報告では、ここは最初の頃に徹底的に捜索し、そのときにはこんな足跡はなかったと大人達が驚いていた。
……そして、その大きな足跡とは別の小さなーーーまだ子どもくらいの足跡が残っていた。
「ゆんゆん!ゆんゆん!こめっこの足跡が!こめっこがこの中に!!」
「う、うん!分かってるわ!よ、よし!それじゃあ行こう、めぐみん!みなさん、よろしくお願いします!!」
「おうよ!任せな!なーに、こめっこちゃんは生きてるさ!」
「そうそう!あの愛らしくて逞しいこめっこちゃんに限って、死んでるなんてありえないよ!」
「あぁ!もし仮にこめっこが危ない目に遭っていたとしても、俺たちが助ける!最悪、俺がしんがりを務めて絶対にお前たちを里に無事に帰してみせるさ!…………それに………………別にその怪物のことを、倒してしまっても構わないのだろう?」
「こんなときに、いつものお約束みたいなセリフは要りませんから!!それ、フラグって言いますから!!」
私は若干不安になりながらも、めぐみんと一緒に大人達の後ろに並んで、洞窟の中に足を踏み入れて行ったのであった。
洞窟の中はずっと一本道になっており、私達は足跡を追うまでもなく、また特に何かある訳でもなく最奥に辿り着く。
そこは一本道の狭さと比べると空間が少し広がっており、怪物が寝床にするには十分なスペースがあった。
最奥を一通り探索すると、怪物がベッドにでもしているのか葉っぱを敷き詰めたような場所と、洞窟の壁の小さな窪みには木の実やキノコの類が大量に置かれている場所があった。
……てっきりあの見た目からして、主食は獣の肉を丸齧りしているのかと思ったんだけど。意外だわ……
私は、恐らく怪物が普段食べている食糧を見て、思わずそんなことを思ってしまった。
「ゆんゆん!こっちの辺りを一通り調べてみましたが、こめっこはいませんでした!も、ももももしかしたら、も、もう、あの怪物に、た、食べ……」
「ううん。多分、大丈夫よ?ほら、これを見て!あの怪物、普段は木の実やキノコを食べていたみたいだし、こめっこちゃんのことを食べるとは思えないわ」
「で、でも!それなら、こめっこは一体どこに!?洞窟の前についていた足跡は?!あれがこめっこのものなら、何故足跡はこの洞窟に入るときのものはあって、ここから出るときのものはなかっ…………!!」
そのとき、洞窟の入り口の方から響く足音が聞こえてきた。
どんどんとこちらに来る音からして、怪物が帰ってきたのだろう。
「「こっちだ!めぐみん!ゆんゆん!!」」
小声で私達を呼ぶ方を見ると、大人達が固まって手招きをしていた。
私とめぐみんが音を立てないように近寄り、大人達と手を繋いで
「「『ライト・オブ・リフレクション!』」」
姿隠しの魔法を使用して、息を潜めた。
怪物がもし、こめっこちゃんを捕まえていた場合、隙を伺ってみんなで奇襲を行い、助ける。
私達はお互いに目で会話して意思を統一してから、怪物が来るのを待つことにした。
ゆっくりと足音が近づいてくる。
耳を澄ませてみると、あの怪物の唸り声と、それから少女の楽しそうな声が聞こえてきて……………
「「「「「「えっ!?」」」」」」
「あれー!?姉ちゃん、ゆんゆん!どうしてここにいるの??」
「■■■■■!」
そこには、驚いて思わず魔法を解いてしまった私達を見ながら、これまた驚いた声を上げたこめっこちゃんと、彼女を肩に乗せた、あの怪物がいた。
「……つまり、こめっこちゃんは数日前から、この怪……大男さんと遊んでいたの?」
「うん!そうだよ!毎日ね、ごはんくれた!!」
「そ、そうなんだ…………」
あれからこめっこちゃんに、何故、あの怪物と一緒にいたのかと聞くと、ここ数日一緒に遊んでいたお友達だからと答えられて、頭の中がパニックになりそうなのを必死に抑えながら話を聞いていた。
こめっこちゃん曰く、めぐみんとこめっこちゃんが私の家に泊まりに来た次の日に、めぐみんの家にこめっこちゃんを送って行った後。
彼女は昼ご飯を食べようと台所を漁ったが、まともに食べらそうなものがなく、母であるゆいゆいさんは仕事で忙しそうだったからと、いつものように食糧を確保するために森に入って行ったのだとか。
そして、森の中を探索しているときに喉が渇いたらしく川の水を飲もうと、前日にめぐみんと遊んだ場所まで行ったところで、怪物……彼と会ったらしい。
しばらくは、彼に向かって威嚇していたこめっこちゃんだが、彼が何もしてこないことから敵意がないと分かり、そこから会話を試みたらしい。
彼はこちらが言っている言葉は分かるらしく、こっちの質問は理解出来るのだとか。
問題は、言葉は分かるのに彼が言葉を話せないらしく、どうしても会話が一方通行になってしまう。
しかし、紆余曲折あって彼と会話を成立させる手段を思いついた彼女は、昼に彼の元に会いに行っては一緒に遊び、暗くなる前に家に帰る日々を過ごしていたのだそうだ。
……ちなみに、何故、怪物のことを彼と呼んでいるかというと、彼女が怪物に何者なのか聞いてみると、怪物は人間で男である答えたからだという。
……前日に怪物からあんなに怖い目に遭わされたのに、まるで動じないこめっこちゃん凄すぎだわ………………
そして、そけっとさんの占いで『こめっこちゃんのピンチ』と言っていたものはというと……
「……それで、今日は彼と川魚を食べようと思って、川の上流の奥の方に行き、取ってきた魚を洞窟に持ち帰って来たところに…………」
「うん!姉ちゃんとゆんゆんがいるからビックリした!ねっ!」
「■■」(コクっ)
未だに、ここが私の定位置だ!、と大男の肩から微動だにしないこめっこちゃんと、彼女を肩に乗せた彼が、同意するように頷いた。
こめっこちゃんを乗せた肩の反対側の手にはバケツがあり、中には大量の川魚が泳いでいた。
この川魚には微量の毒性があり、生で食べると死にはしないが、3日間は必ずお腹を壊すため、食べる際には毒抜きをしてから『焼く』か『茹でる』かをして、調理しないといけないものだ。
こめっこちゃんと大男は、どうやらこれを生で食べる気だったらしい。
「は……はは、ははははは…………」
あまりにもしょうもない理由に、めぐみんはさっきから渇いた笑いしか浮かべていなかった。
あんなにも自分の妹を心配して、危険かも知れない場所に飛び込んだのにこの仕打ちである。
その姿を見て、ちょっと可哀想だなと私は思った。
もう日が暮れ始め、辺りが暗くなってきたので、私達は今里に帰るために川を下っている。
……大男も一緒に。
とりあえず、この大男は別に危険な存在ではないから、厳戒態勢を解いても大丈夫だと里のみんなに伝えるため、彼にもこのまま里に来てもらうことになった。
……こめっこちゃんが、彼の肩から全然降りてこないからっという理由もあるが……
余程、居心地が良いのだろうか……?
そして、今までの騒動にドッと疲れながら私達が里の門まで帰ってくると、そこには里のみんなと彼等を集めたであろう、そけっとの姿が。
彼女の占いはある意味では当たっていたし、こうして里のみんなを集めていたことから、悪気はなかったのだろうと思い、心配してくれた彼女達に手を振ろうとして。
「おーーい!みんな!さっき、そけっとから面白いものが見れると聞いて集まったんだけど……って、デカッ!?お、おい!後ろのやつは一体なんだよ!?」
「あれが、噂の怪物?!」
「い、いや、待て!あのデカいのの肩に乗っているのは……こめっこじゃねーか?!」
「本当だ!!てか、なんでめぐみんとゆんゆんが外に出てるんだ??」
「おい!面白いものってのは後ろのやつか??てか、なんでこめっこちゃんがそいつの肩に乗ってんの??」
野次馬だった彼等に振ろうとした手をそのまま下ろして、この状況を作った女性へと視線を向ける。
『計画通りっ!!(ニヤッ) 』
そんな顔で私達の方を見ていた彼女が、今回の件において確信犯だと分かり、私とめぐみんは額に青筋を立て、『よし、殴ろう。もちろんグーで!』とそけっとに掴みかかりに行こうとして。
「我が名はこめっこっ!!紅魔族随一の魔性の妹にして、知性ある巨神を従えし者!!」
「「「「お、おぉ!!カッコいい!!!」」」」
こめっこちゃんが大男の肩から飛び降りてビシッとポーズを決め、紅魔族特有の名乗りをあげながら、近くにいた彼についての自己紹介を興味深そうに聞いている里のみんなを見て。
私とめぐみんは、なんだかもう、どうでもいい気分になった。
「と、言うわけで。あの怪物……大男さんは人間で、こちらに危害を加える存在ではなかったのですよ」
「そうなの、お父さん!だから、もう安全だよ!」
「うーむ……しかしなぁ……。彼が人間っていうのはこめっこちゃんが聞いたって話だけだし、彼が嘘をついている可能性もあるよ?」
「……うちのこめっこは、あのように賢く、そして逞しく育ちましまた。ですが、あれでもかなり寂しがり屋なのです。それに、まだ小さいですが人を見る目を持っていると私は思っています。そんなあの子が、彼の肩にずっと乗っているんです。……信じてみてもいいかと」
「うーむ…………。せめて、何か彼が人間であるという、確かな証拠があればなぁ……」
私達は場所を私の家に移し、こめっこちゃんと大男を連れて来た経緯を話し、もう安全だと族長である父に説明しているのだが、やはり里の長としての責任があるのだろう。
あんな人の形をしたモンスターみたいな見た目をしていることが、どうしても引っかかるらしい。
……証拠…………証拠かぁ…………
「あっ!!」
「ん?どうした、ゆんゆん?」
「何か思い当たることがありましたか?」
「『冒険者カード』を見せてもらえばいいのよ!ほら、一撃熊とかオークとかを倒せるんだから、昔は冒険者をやっていた可能性は十分あるわ!」
「「あ、確かに!!」」
人間で、お金さえあれば誰でも必ず発行できる『冒険者カード』があれば、それ自体が証拠になる。
私達は期待を込めて彼に『冒険者カード』を持っているか尋ねると、一瞬驚いたような顔をして
「■■、■■■■…………」(フルフルッ)
と、顔を横に振って持ってないと教えてくれた。
「そう……。だったら、『冒険者カード』を作りに行けばいいのよ!そこで彼に自分の個人情報を書いてもらえば、彼が人間であることの証明にもなるし、彼が何者なのかも分かるわ!」
「良い案ですね!そうしましょう!」
「うむ!そうと決まれば、今から発行してもらいに行くか!こう言うのは早い方がいい!」
「えぇ!?も、もう夜も遅いし、今から行ったら迷惑だよ?明日にしよう?」
外はもう真っ暗であり、大男の肩に乗っていたこめっこちゃんがウトウトとし始めたので、大男と一緒に私は自分の部屋のベッドに彼女を運んでもらった。
今はもう、ぐっすりと眠っている。
「むう……だが、私はすぐにでも彼のことが知りたい!人間なのに言葉が話せないこととか、彼の肉体からしてステータスはどうなっているかとか、とても興味がある!」
「あ、実は私もです!……ゆんゆん、あなたもでしょう?」
「えっ!?ま、まぁ、確かに気になるけど……」
「大丈夫だ、ゆんゆん!私はこの里の長だからな!!多少は無理も利くさ!」
「……もう、しょうがないなぁ。えっと……そういうことなので、今から『冒険者カード』を作りに行くに行こうと思うんだけど…………」
「■■■!」(コクッ)
私達の提案を受け入れてくれたように頷いた彼とともに、私達はもう辺りが真っ暗で、まだお店の灯りがついているところがチラホラとある里の商店街に向けて、私達一行は家を出発したのであった。