鋼の魂と共に   作:宵月颯

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断ち切る為に全てを燃やす。

進む者達。

死と恐怖で繋がれた家族。

だが、何処にでも裏切り者はいる。






燃える山と裏切り者の襲撃

前回、那田蜘蛛山に入山した私達。

 

移動道中で善逸が肩に引っ付いた蜘蛛にビビッて何処かに走り去り迷子になってしまった。

 

流石に追う事が出来ず、蜘蛛の巣が張り巡らされた場所の奥へと向かう。

 

そこに誰かを支えて膝を付いた隊士を発見。

 

炭治郎君が階級と名前を告げて声を掛けた。

 

 

「応援に来ました、階級・癸の竈門炭治郎です。」

「癸!?癸が何人来ても一緒…へ?」

 

 

無言でハスミが周囲に張り巡らされた蜘蛛の巣を火炎放射器で焼き払っていた。

 

この時代の少し先の火炎放射器は背にタンクを背負う物が主流となっている。

 

が、ハスミが使用しているのはアサルトライフルの様に簡単に携行しカードリッジタイプの燃料タンクを交換する方式に改造を施したものである。

 

サーモバリック弾を使用する事も可能だが今回は害虫駆除が目的の為、上記の火炎放射器を使用している。

 

その為、木々の間に張り巡らされた蜘蛛の糸だけを処理する事が可能。

 

因みにこの熱気で蜘蛛の巣の処理だけでは無く足元にいた小さな蜘蛛が逃げていっている。

 

目処前の光景に村田と言う名の隊士が唖然としていた。

 

 

「えっと…」

「ああ、すみません…あの人はクジョウ・ハスミさん、同じ癸の隊士です。」

「あれで癸?」

「炭治郎君、その隊士にもあの薬液付けて置いてくれる?」

「は、はい。」

 

 

ハスミから携帯噴霧器を渡された炭治郎。

 

使い方は事前に説明を受けていたので村田の隊服に薬液を噴霧する。

 

 

「これって藤の花の匂い?」

「藤の花の成分を抽出した液だそうです。」

「それを付けていれば、鬼に襲われずに山を下山出来るでしょ?」

 

 

退路は入山の際に作って置いたので跡を辿れば降りられるとハスミは付け加えた。

 

 

「ああ。」

「下山する前に何が起きたのか説明して貰えると助かりますが?」

「そうだな、実は…」

 

 

村田の話によると自分を含め十名が入山。

 

山中に入って少ししてから突然隊士同士で切り合いを始めてしまい、既に何人かが切り合いで殺られたとの事。

 

先程、救助した隊士の話と照らし合わせるとこの一個隊と行動していた隊士だろう。

 

夜間で相手の姿が判らずに固まって行動したのが原因。

 

もしも今回の手の様な鬼でなければ生存率が少し高かったと思う。

 

 

「下山出来た隊士が一名、村田さんと気を失った隊士で合計三名。」

 

 

ここで他の隊士三人が死亡している。

 

残りの四名はもっと奥か…

 

 

「反対側から入った隊士達とも連絡が取れないし…もう柱を呼ぶしか。」

 

 

絶望しきっていた村田に対し伊之助が何時もの暴力で対応。

 

村田の様子から喝を入れる必要があると思い、今回の伊之助の行動に関しては放っておいた。

 

 

「テメェ、オレらが弱えってか?あ!?」

「何だよ、この猪頭は!?(そもそも俺の方が先輩なのに。」

「彼の事は仕方がないですが、私達も戦う為にここへ訪れた訳ですし…弱いと一蹴されるのもどうかと思いますが?」

「う…(猪頭は兎も角こっちの女性は同い年かな?正論すぎて調子狂う。」

 

 

気を取り直してハスミは伊之助に声を掛ける。

 

 

「伊之助君、鬼の位置は解る?」

「そん位、晩飯前だぜ!」

「…それを言うなら朝飯前だからね。」

 

 

ハスミは伊之助の言い間違いをさり気無く訂正。

 

気にせず、地面に刀を突き立てた伊之助は獣の呼吸・七の型を発動。

 

伊之助の研ぎ澄まされた触覚が鬼の位置を探る。

 

 

「居たぜ、この先に鬼がいる。」

「流石ね。」

「フハハハハハ!!俺様に掛かればざっとこんなもんよ!」

「炭治郎君、先に進むわよ?」

「分かりました。」

「村田さんは負傷した隊士を連れてこのまま下山してください。」

「判った、気を付けろよ。」

 

 

気を失った隊士を村田に任せると三人は鬼の気配がする方向へと向かった。

 

進むに連れて張り巡らされた蜘蛛の巣の増えて来ているのが解る。

 

 

「にしても蜘蛛の巣が鬱陶しい!」

「それだけ目的の鬼に近づいている証拠だ。」

「伊之助君、私が燃やすから方向だけ教えて。」

「癪だが、頼んだぜ。」

 

 

ハスミが増えてきた蜘蛛の巣を焼き払い、伊之助が方向を指示し進む。

 

そして糸に捕まった隊士達を発見した。

 

様子から察するに他の一個隊だろう。

 

既に四人の隊士が事切れている。

 

一人は息苦しそうに呼吸をし、もう一人の女性は泣きじゃくりながら『柱を呼んで!』と告げていた。

 

 

「でないと皆殺してしまう!!」

「もう殺させないわ、大丈夫だから。」

 

 

私は周囲に張り巡らされた蜘蛛の糸を火炎放射器で焼き払った。

 

糸から解放された女性隊士に近寄り安否を気遣う炭治郎。

 

 

「大丈夫ですか?」

「あの…私、私。」

「糸はさっき焼き切れました、もう大丈夫です。」

「こっちにも生きている奴がいるぜ?」

 

 

伊之助が発見し解放されたものの両腕を骨折した男性隊士の様子を見るハスミ。

 

 

「内臓に骨が…」

「骨は刺さってないわ、骨自体が肉離れを起こして内臓を圧迫しているだけよ。」

 

 

ハスミは刺さっていると思われる個所を確認すると骨の位置がずれている事が判明。

 

少し体を捻じらせて圧迫していた骨を元の位置に戻した。

 

 

「ううっ!?」

「内臓は兎も角、両腕の骨折はどうにもならない…応急処置はして置くわよ?」

「ハスミさん、また蜘蛛が…」

「伊之助君、炭治郎君を鬼の居る方向に投げ飛ばして!」

「ええっ!?」

「その方が早い、山の王なら出来るわよね?」

「任せろ!」

 

 

伊之助君が渾身の馬鹿力を発動し炭治郎君を上空に投げ飛ばした。

 

 

「行ってこい!紋次郎っ!!」

「炭治郎だっていってるだろぅぅぅ!!!」

 

 

キラーンと効果音を付けたくなるような感じで鬼の居る方向に炭治郎君は投げ飛ばされていった。

 

 

「あの、貴方の名前は…」

「お、尾崎よ。」

 

 

ハスミは携帯噴霧器を取り出すと尾崎に投げ渡す。

 

 

「尾崎さん、その噴霧器の薬液を蜘蛛と周囲に撒いてください。」

「え?」

「突起の窪みから薬が出ます、出す時は窪みを前に小さい突起の頭を下に押すと噴き出します。」

「わ、判ったわ。」

 

 

再び蜘蛛の糸を吐き出そうとする小さい蜘蛛の集団。

 

尾崎は言われた通りに噴霧器の薬液を蜘蛛に向かって噴霧した。

 

薬液を浴びた蜘蛛は痙攣を起こして引っ繰り返り、生き残った蜘蛛は何処かへ逃げて行った。

 

 

「この匂いって藤の花?」

「はい、それには藤の花の成分を濃縮した液体が入っています。」

「それで蜘蛛が逃げたのね。」

「ええ、隊服に噴霧すれば鬼避けになりますので後の事は頼みます。」

 

 

男性隊士の応急処置を終えた私は尾崎さんに噴霧器をそのまま渡して負傷した隊士を預けた上で別れた。

 

そのまま伊之助君と共に炭治郎君の跡を追った。

 

本来で在れば先程の人達は亡くなってしまう運命だったが、何とか数名だけは救う事が出来た。

 

 

「さっきまであった鬼の気配が一つ消えやがったぜ。」

「恐らく炭治郎君がやったのね。」

「ちっくしょう!俺の分も残していきやがれってんだ。」

「いや、まだ潜んでいるかもしれない。」

「何で解る?」

「那田蜘蛛山は規模が大きいし気配がまだ感じ取れないだけで隠れている可能性もある。」

「成程、旨い所は残っている訳だな?」

「そう言う事、その分手強いかもしれないけど。」

「フハハハハハ!!この俺様に敗北はない!」

 

 

…伊之助君、悪い事は言わないがもう少し知恵を付けよう。

 

君はさり気無く私に誘導されているんだが?

 

円滑に事を進める為とは言え、そういう手を使う私も酷いと思う。

 

鞭を与えつつ飴を差し出すとはよく言ったものね。

 

 

「おい、あれは!」

「鬼?いえ…あれも人形にされた死体ね。」

 

 

移動道中に大鎌を両手に付けた頸のない鬼の様な躯体の残骸を見つける。

 

どうやら炭治郎君が倒した後の様だ。

 

 

「ここに居ねえなら、遁治郎はもっと先か…」

「炭治郎君ね、位置は?」

「ここをまっすぐだ!」

「判ったわ!」

 

 

炭治郎君が通ったと思われるルートには既に蜘蛛が糸を張り直している。

 

私は燃料が残り僅かとなった火炎放射器を蜘蛛の巣に向けて放った。

 

進むべき道を切り開く為に…

 

 

******

 

 

「十二鬼月がいるわ…」

「判っているよ。」

 

 

炭治郎は糸で隊士達と鬼の人形を操っていた女性の鬼の頸を水の呼吸・伍ノ型『干天の慈雨』で切り裂いた。

 

優しい最後を与えてくれた炭治郎に対し、彼女は消滅の際に危険が迫っている事を告げた。

 

 

「十二鬼月…下弦の伍がここにいる。」

 

 

珠世さんとの約束を果たす為にも十二鬼月の血を集める。

 

 

「おーい!紋次郎っ!!」

「伊之助、ハスミさん!」

「炭治郎君、無事の様ね。」

「はい、二人のお陰で糸で操っていた鬼は倒せました。」

 

 

炭治郎と合流した伊之助とハスミ。

 

だが、その喜びを崩す存在が彼らを見下げていた。

 

 

「母さんを殺したのは君達?」

「!?」

「誰だ、テメェ!」

「…(子供の鬼?けど、この気配は。」

 

 

満月の夜だった為に月明かりで相手の様子が互いに見えやすかった。

 

木々の間に細い糸で綱渡りをする様に現れた白い鬼の少年。

 

彼の手にはあやとりをする様に糸が存在した。

 

 

「ふうん、あの方の言っていた花札の少年と眼帯の女って君達?」

「だったらどうだって言うのかしら?」

「あるおじいさんが言ってたんだ、君らは強いから気を付けてねって。」

「まさか…!?」

「僕らは無惨様に媚びる必要もない、だって…父さんも姉さんもこんなに強くなったんだから。」

 

 

現れた二体の異形の巨大鬼。

 

一体は顔は牛と蜘蛛を合わせたもので人の形を保った巨躯の鬼。

 

一体は上半身が女性で下半身が蟹と蜘蛛を合わせた巨躯の鬼。

 

 

「父さん、姉さん、アイツらから僕を守って。」

 

 

襲い掛かろうとする二体の巨躯の鬼達が動きを止めた。

 

 

「どうしたの…!?」

「奴の事を詳しく聞かせて貰いましょうか?」

 

 

ハスミは火炎放射器を仕舞うと背に掛けていた絡繰り箱から刀を取り出した。

 

それは巨大な大剣で中央には戦輪と呼ばれる武器が九枚程窪みに連結されていた。

 

重量など気にもせず、ハスミは片手で振り回し構えていた。

 

 

「…ハスミさんが刀を抜いた。」

「あれがアイツの刀ってバカデケェ!?」

「伊之助、ハスミさんは本気だ。」

「どういう事だ?」

「ハスミさんが刀を抜くのは死ぬ気で戦えって合図でもある。」

「全力か…悪くねえ!」

「俺達も行くぞ。」

「おっしゃあ!任せとけ!!」

 

 

炭治郎と伊之助もまた刀を構え直して巨躯の鬼に向かった。

 

これは鬼殺隊の本部に鎹鴉が到着した頃に起こったの出来事。

 

お館様こと産屋敷輝哉の指示により柱二名が那田蜘蛛山へ向かわせる事となった。

 

だが、柱二名でも驚愕する出来事が那田蜘蛛山で起こる事は誰にも判らなかった。

 

それが起こるのはもう少し時間が過ぎてからの事である。

 

 

=続=

 

刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?

  • 木乃伊事件(不死川、伊黒)
  • 集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
  • 船舶沈没事件(宇随、煉獄)
  • 不在担当地区防衛(時透、甘露寺)

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