二つの戦いは拡大し広がっていく。
水に広がる波紋の様に。
引き続き、鬼殺隊本部・産屋敷邸にて。
前回のカメラ紛失の件で話し合い(物理)をし冨岡さんを締め上げた私ことハスミ。
抜刀はしていないので隊律違反ではないだろうと思いたい。
だが、大事な情報を潰した事に関しては怒ってもいいと思う。
******
「予備のネガを持っていたから良いものを…貴重な情報を。」
「…不可抗力で。」
「と、なると…写真を現像する店選びを失敗したとか?誤ってネガ入れの蓋を開けてしまったとかですか?」
「…(コクコク」
「後で炭治郎君に説明した上で謝罪するなら大目に見ます。」
知り得る限りの関節技を叩き込んだせいか、ズキズキと痛みで背中を摩っている冨岡さんに対して発言するハスミ。
彼女の後光には鬼神様が降臨した様な気配を漂わせていた。
「ちゃんと本音を出して話してくださいね?ややこしいので?」
「…(ブンブン!!」
先程の連続関節技を喰らいたくないのか頸を縦に振る速度が異様に早かったのは気にしないで置く。
富岡さんの声って某山猿様に六つ子の長男だったり極度のヘタレと親友を裏切りそうな声とかに聞こえるからどうしようもない。
「妹弟子に叱られる兄弟子…情けない。」
「まあまあ、伊黒さん…本人の前で本当の事を言わないで上げてくださいよ。」
「胡蝶、お前も人の事言えねえぞ?」
「…(あの冨岡さんにお説教、何時もの冨岡さんっぽくなくて可愛い。」
伊黒と呼ばれたオッドアイに続き、しのぶ、不死川達が今の惨状に突っ込みを入れていた。
一人感性が違うピンクっ子がいるが、気のせいと思う事にする。
「そう言えば、クジョウ…鬼を相手に鉄砲使ったって言ってたな?」
「ええ、それなりの対処は必要でしたから…」
音柱・宇髄天元に話かけられた私は彼に答えた。
「…鉄砲だけで仕留めたのか?」
「いえ、頚斬りに日輪刀と撹乱に爆薬も使いましたよ。」
「通りで、微かだがお前から硝煙の匂いが漂っている。」
「那田蜘蛛山でも使用しましたので。」
あの状況下で援軍の到着は見込めなかった。
最善策として手の内を出したまでよ。
「お館様の許可を頂き、弾丸に再利用出来ない日輪刀の欠片を使用してますから殺傷力は高いですよ?」
「…鬼を仕留める為の銃弾って訳か。」
「ちなみに薬莢にも藤の花を加工して作った毒薬も仕込んでます。」
「まあ、それは興味深いですね。」
「時と場合に寄りますが…卑怯な相手程、逃がす必要はないのでは?」
被害拡大を最小限に。
そして連鎖的に引き起こされる騒動を沈める為に。
喰う者、喰われる者。
生きるか、死ぬかの瀬戸際に立たされた時、人は生き残る為の選択をする。
その相手が鬼だろうとゾンビだろうと得体の知れない者だろうと変わりはしない。
「鬼と同族のお前が言う事か?」
「半分は…ですが?」
「お館様が認めようが俺は認めねえからな?」
彼こと風柱・不死川実弥の言葉はもっともだ。
何処から現れたの不明な成り損ないの私が鬼を倒す事が認められないのだろう。
だが、それはこちらも同じ事。
「認めなくても…私も貴方の事、認めてないので。」
「はぁ!?」
「そちらが手を焼いているとぼやいていた巨躯の鬼を倒せないのなら足手まといと言っているのよ?」
「テメェ…!」
「…相手に文句を言うのなら巨躯の鬼を二十や三十位倒してから言う事ね。」
声だけに〇〇王とか呼ばれそう。
正直、明鏡止水開眼後のキング・オブ・ハートやフルメタな高校生の方がまだ性格的にマシだわ。
ついでに言えば、戦闘能力と戦術構築にも天と地の差があるし。
「この女ぁ…!」
「不死川、止めとけ。」
「止めんなぁ!伊黒、宇随!!」
「…あの冨岡に説教して屈服させる相手だぞ?」
「口で勝てねえ相手に喧嘩を売るのは止めとけよ。」
「うむ、口先で不死川に勝てるとはすごいぞ!!」
「煉獄、不死川を煽るな!?」
伊之助君といい勝負よ、この激怒風柱が…
まあ、実力不足である事を認識させる事は出来たから良しとしますか。
霞柱はどうでもいい的な雰囲気で、岩柱は喧嘩仲裁出来なくてずっと泣いているし。
本当に仲間同士の連携が完全に出来ていない。
後…炎柱、横でピーピーとうるっさい!!
「一体何が…?」
治療から戻ってきた炭治郎が眼にしたのはどうでもいい修羅場。
富岡はどんよりオーラを出しつつ隅の角で体育座り、不死川はイライラと殺気で鬼を二、三体切れる勢い。
その不死川を止めている伊黒と宇随。
相変わらずの炎柱こと煉獄。
と、他を除いての修羅場が展開されていた。
「炭治郎君、お帰り。」
「ハスミさん、ただいま戻りました。」
「腕の傷は大丈夫?」
「はい…それと善逸と伊之助にも会ってきました。」
「そう言えば、二人とも怪我してたものね。」
「屋敷の人に尋ねたら回復には暫く掛かるそうです。」
こちらへ向かう途中…二人の状況を聞いたが善逸は毒、伊之助は両腕と喉の負傷。
完治までには時間は掛かるだろうと思っていた。
「所でハスミさん、これは一体どう言う事なんですか?」
「ちょっと、色々とね?」
「色々ですか?」
「そう、色々。」
ハスミさんのあの笑顔は絶対に聞いてはいけない合図だ。
匂いでも判る、これは関わってはいけない。
「炭治郎君、そんなに冷や汗をかかなくても大丈夫よ。」
「だ、大丈夫です。」
「炭治郎君は正直だから顔で嘘だって解るわよ?」
「…うう。」
嘘つけない性分な為か顔に出てしまう炭治郎。
申し訳ない表情で唸っていた。
「炭治郎君、まだ会議もあるけど…もう少し頑張れる?」
「大丈夫です。」
私は真っ直ぐ過ぎる答えを出した炭治郎君に対して無理をしている事を理解した。
我慢する時としない時の判別が鈍いのだろう。
「ハスミさん…?」
「辛かったらちゃんと言うのよ?」
「はい。」
頑張った事を褒める相手が居れば別だろうに。
私は頭を撫でている炭治郎君の健気さに心配する事しか出来なかった。
******
その後、柱合会議が再開。
産屋敷邸の一室にてお館様とご子息様、柱全員が集合していた。
私は炭治郎君と共に鬼舞辻無惨の能力、姿、浅草での状況を説明した。
「成程、月彦と言う偽名で人の世に入り込んでいたんだね。」
「はい。」
先に炭治郎君が浅草の通りで遭遇した無惨の状況を説明。
人の姿に化け、人の妻子を騙して家族を装っていた事。
その後を追えない様に別の場所で騒ぎを起こして姿を消してしまった事。
柱になる前の一隊士にそれ以上の行動は自殺行為と認識して貰った。
続いて、私が浅草に滞在中に手に入れた情報を開示した。
「無惨は月彦の姿では青年実業家と言う触れ込みで商いを行っており、政財界にも幅広い縁を持っている様です。」
「政財界か…」
「この事から無惨の拠点は帝都内の何処かまでは絞りましたが、下手に手を出す事は出来ないと判断しました。」
「理由は?」
「この鬼殺隊が政府非公認組織だからです。」
鬼殺隊が政府非公認である事はその戦力は鬼を滅する為のものであり、戦争や人殺しの道具ではない事。
別の角度から見れば産屋敷一族が無惨に対抗する為に使役する私兵団とも言える。
もしも…鬼殺隊が政府公認であれば、その力を手に入れようとするだろう。
「成程、無惨は何も知らない人間達を利用し守りを固めているのだね?」
「はい、潜入した夜会で主に貿易関係の政府高官や帝国陸軍に海軍の上層部にも繋がりを持っている事は判明しています。」
「それは…厄介な事だね。」
「その通りです。」
「えと…どう言う事なんですか?」
お館様の納得に私の説明で混乱する恋柱・甘露寺蜜璃。
恥ずかしがりながら解り安い説明を求めていた。
「下手に無惨に奇襲を掛ければ、政府高官を利用し…鬼殺隊そのものを国家反逆を企てる賊として扱う事も可能って事よ。」
「そんな…」
「在り得る話とは言え、守るべき人が敵になる…これは鬼殺隊にとって屈辱でしょう。」
今後の行動次第で守るべき人が自分達を追い詰める敵となる。
長く鬼滅隊に所属している柱達はやり場のない思いや感想を述べた。
「成程な、こっちが無惨の姿や拠点を発見して絞れても軽はずみな奇襲は出来ないって事か。」
「…胸糞悪ぃ。」
「ああ…人の思い込みがそうさせてしまうのだな。」
「面倒くさいね。」
「鬼は姑息、だが…これ程までの姑息な手段、無惨はもっとも卑劣である事は明白だ。」
「そうですね、私達も策を練る事も視野に入れないといけません。」
「うむ、正々堂々と戦えんのは仕方がない。」
「寧ろ…姑息な存在で陰湿、陰険、臆病者、干物隠居爺の黒ワカメ頭に正々堂々は無理でしょう。」
「ハスミさん…相当根に持ってますね?」
「…二年前、奴の撤退先にもっと爆薬追加しても良かった位よ。」
「一升瓶六本分の火薬を仕込んだ爆薬を使って置いてですかー!?」
「米俵三俵でも足りないわよ。」
「ええ…(もしも、使ってたら俺の家どうなっていたんだろう。」
顔芸祭りも程々にハスミは話の議題を戻した。
「話を戻しますが、その無惨の正体を知り協力関係を結んでいた人間がいます。」
「無惨の協力者?」
「はい、その人間が今までに発生した巨躯の鬼を生み出していた存在です。」
「君はその存在を知っているのかな?」
「…嫌悪すると言う程に。」
「名は何と?」
「その者の名はジ・エーデル・ベルナル……私が追っていた宿敵の一人にして狂気の科学者です。」
ジ・エーデル・ベルナル。
優れた科学者であるが、己の出す研究結果に酔いしれ人を人とも思わない狂気の存在。
奴の研究によって滅ぼされた国は数知れず、被害者は億を超えるだろう。
そして奴は倒れたとしても長年の研究で己の精神を自身の精神と波長の合う人間に憑依する事が出来る方法を発見してしまった。
肉体の死は在っても精神の死は無く、何度でも蘇る事が出来てしまう。
長年追っていた身としては最悪の敵の一人である。
「歴史上に存在しない若しくは消えた国や技術の名残は奴の関与があったとされています。」
「…それは無惨以上の敵と見てもいいかな?」
「はい、下手をすればこの国どころか世界そのものが奴の手によって滅びを迎えるでしょう。」
事実だ。
奴の行動で私の居た世界も滅ぼされかけた。
今はこの世界の制約が架せられた以上、お手製の起動兵器群は使用出来ない。
奴は代替品として巨躯の鬼を生み出した。
更なる被害が出る前に捕縛し倒さなければならない。
「それ程の相手を君は追っていたのだね。」
「はい、その道中で無惨の鬼の呪いを受けた次第です。」
「ハスミさん。」
「那田蜘蛛山を縄張りにしていた少年の鬼はジ・エーデルと接触していた…そして無惨への裏切りも答えていました。」
「自らが生み出した鬼に無惨が裏切られると?」
「はい、今後も無惨の生み出した鬼達の中から裏切り者や巨躯の鬼が出現するでしょう。」
無惨による統率の取れなくなった場合。
首輪を外された鬼達は見境なく人間を襲うだろう。
日を克服した鬼が出てくる前に奴を仕留めなければならない。
「判った、ハスミ…君には引き続き無惨の情報収集と巨躯の鬼討伐専門の任に付いて貰いたい。」
「御意。」
「炭治郎も通常の任務が入るだろうが彼女の力になってくれるかい?」
「判りました。」
「他の皆も今後の鬼の行動に注意しながら討伐に励んで欲しい。」
他の柱達もお館様の新たな指示に従った。
「最後に無惨が配下の鬼を使って現在も捜索しているものがあります。」
「探し物?」
「はい、それは『蒼い彼岸花』と呼ばれるものです。」
「蒼い彼岸花?」
「それが無惨を鬼へと転じさせたものだと……奴の血を受けた際に流れ込んで来た情報です。」
それが文字通りの植物なのか別の物を指し示す物なのかはっきりと明確になっていない。
通常では存在しない蒼い彼岸花。
「逆にこれが鬼となった人を人間に戻す事が出来る代物ではないかと思っています。」
無惨に対抗する為の力。
鬼を人に戻す事が出来る可能性の代物。
「お館様、この情報は引き続き…私の方で調査を続けます。」
「判った、情報が入り次第…鎹鴉で連絡を送ってくれるね?」
「はい。」
その後は各柱からの報告を受けて柱合会議は終了した。
炭治郎君が危惧した事件まで残り二か月。
救う為の下準備を進めなければならない。
悲劇を繰り返させない為に。
=続=
=呪いの矛先=
その夜。
私はお館様から直接呼ばれた。
理由は産屋敷一族に掛けられた呪い。
私は無惨の過去を垣間見た事を鎹鴉でお館様に伝え、産屋敷一族に掛けられた呪いに別の意図があるのではないかと告げた。
「では、君は私達の一族に掛けられた呪いは別の思惑が絡んでいると?」
「はい、呪われるべき存在は産屋敷一族だけではありません…鬼を生み出すきっかけとなった薬師も呪われる対象ではなかったのか?と推測しています。」
「確かに…産屋敷一族から鬼が出たと言う事のみが古い文献に残っている。」
「だからこそ、その者にとって好都合だったのです。」
産屋敷一族から鬼が出た。
恨み、怒り、憎しみの全てを産屋敷一族が背負わせよう。
そうする事でその者達…薬師の一族は上手く逃げおおせたのです。
これにより一族を根絶やしにする短命の呪いは産屋敷一族が背負う事となった。
「無惨の悪行によって培われた千年以上の呪い全てを覆す事は出来ません。」
「…」
「ですが、説得する事で和らげる事は可能かと思います。」
無惨によって奪われた何千人もの命が帰ってくる訳ではない。
私はただ、出来得る限りの事をするまでだ。
私の…ガンエデンとしての巫女の浄化の力。
その力でお館様の呪いを出来得る限り、浄化しようと試みた。
結果、お館様は眼に光を取り戻す事が出来た。
だが、呪いの根源となった人達の答えは産屋敷一族の総意を持って鬼をこの世から滅する事が条件だと告げた。
それまではむやみに一族の命を奪う事はしないと答えた、
これはご子息達の命も保証する事も盛り込んでいる。
「彼らは今後産屋敷一族の者達の命を奪う事はしないと告げました。」
「そうか…」
「ですが、産屋敷一族が『鬼をこの世から滅する。』事を放棄した場合…呪いは産屋敷一族を再び蝕む事になります。」
「肝に銘じて置こう。」
私も調べなければならない。
薬師一族の生き残りを探し当てなければならない。
奴が関わっている以上、好き勝手にさせない為に。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)