それは変異の証。
存在しない者が存在する事はその流れもまた変わる。
鬼殺隊にて地獄の修行が行われている頃。
とある場所にて。
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ベン!
ベン!ベン!
「…」
美しい黒髪の女性が琵琶をかき鳴らす。
複雑に位置する座敷と通路が入り組んだ場所。
灯篭の灯りのみの薄暗く何処までも長く広い空間に響き渡る。
「…」
ベン!ベン!ベンベン!!
「ここは…」
いつの間にかこの場所に現れた鬼の青年が言葉を漏らす。
琵琶の音が複雑に鳴るのと同時に上下左右が反転し入り組んだ場所に複数の男女が現れた。
彼らも鬼であり、その眼には文字が刻まれていた。
『下弦』と…
今宵、この場所に集められたのは『下弦の鬼』。
そんな事が出来るのはたった一人だけだ。
複数回、琵琶が鳴り響くと下弦の鬼達は一か所に集められた。
「「「???」」」
琵琶を鳴らしていた女性の傍に立つ黒い芸妓風の女性。
その眼は血の様に赤い鬼の眼。
何が起こったのか分からない下弦の鬼達は動揺したまま。
芸妓の女性…いや、声は男性の声色で答えた。
「首を垂れてつくばえ、平伏せよ。」
その場の全員が悟った、目処前の芸妓は鬼舞辻無惨であると…
「お許しください、お姿が普段のものと似ても似つかなかったので…」
恐れながら下弦の肆と刻まれた少女が答えるが気に喰わない様子で無惨は告げた。
「誰が喋って良いと言った?」
「!?」
「貴様らの下らぬ意志でものを言うな?」
少女は額に冷や汗が滲み出て手元を濡らした。
余りの恐怖に身震いするかの様に。
「私に聞かれた事のみ答えればよい。」
無惨は語った。
累…下弦の伍が殺されたと。
裏切りを犯したものであったが、子供ならではの残虐性を気に入っていた。
どうして下弦の鬼はこんなにも弱いのか?
「…(どうしてもと言われても俺達に。」
「判らないと?」
「!?」
下弦の陸の思考を読み、答える無惨。
それが無惨の逆鱗に触れた。
「お、お許しください!?」
下弦の陸は無惨の一部である肉塊に生きたまま咀嚼された。
「もはや十二鬼月は上弦だけで良いと思っている…故に今宵を持って下弦の鬼は解体する。」
続けて、いつも鬼狩りから逃げ出す下弦の肆、保身の為に無惨の血を欲した下弦の弐、その場から逃げ出した下弦の参を順に粛清した。
集められた場所を染める血飛沫。
それをうっとりと見つめる洋装の優男の姿の下弦の壱。
「私は貴方に殺される事、それは夢見心地に御座います。」
目処前に迫る死を歓喜し本心で答える下弦の壱。
彼の元から持つ嗜虐的で変態要素の入り混じった性質がそうさせている。
根っからのサイコパス気質な彼は己の死すらも喜んで受け入れていた。
その本心を読んだ無惨は肉塊を使って彼の頸に己の血を流し込んだ。
「気に入った、私の血をふんだんに与えてやろう。」
血を注ぎ込まれた下弦の壱はその場で痛みと苦しみにのたうち回っていた。
更なる鬼の血に順応出来なければ死、出来れば更なる力を得る事が出来る。
無惨は未だ足元に転がる下弦の壱・魘夢に告げた。
「花札の様な耳飾りを付けた少年を生け捕るか殺せ…そうすれば更に血を与えてやろう。」
告げ終わると琵琶の持った鬼の女性に指示を出し、血反吐を吐き続ける魘夢を無限城より退場させた。
同時に無惨は元の青年の姿に戻るといつの間にか控えていた侍風の男性に声を掛けた。
「黒死牟…来たか。」
「ここに。」
「貴様に命ずる、眼帯を付けた成り損ないの女を生け捕りにしろ。」
「成り損ない?」
「どうやったかは不明だが、二年前に私の支配を断ち切り鬼に成り損なった女がいる。」
「…」
「その女は片目だけが鬼の眼となっている故、常に眼帯で隠している。」
無惨は更に告げた。
花札の耳飾りを引き継いだと思われる小僧と同様に私を追い詰めた存在。
あの塵芋の様な男の思惑でこちら側から裏切り者が数多く出た以上、更なる鬼の素養を持つ者が必要だ。
奴らを釣る為の餌は撒いた。
時を見て襲撃を掛けよ。
「仰せの通りに。」
無惨の指示を受けた後、黒死牟と呼ばれた鬼は琵琶の音と共に姿を消した。
同じ様に続けて鳴る琵琶の音と共に無惨は夜の街へと舞い戻った。
「さて、お前はどう動く……夜天の零よ?」
無惨の呟きが夜風に掻き消されるのと同時に。
別の場所で月を眺めている人影が夜の森へと姿を消した。
=続=
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)