彼は願った。
彼は戻っては巡る。
何度も巡り巡って未来を変える為に。
その手を繋ぐ手を増やす為に。
その願いは強欲なのだろうか?
いや、私が言えた事ではないが…
変えた結末への代償
津々と降り注ぐ雪。
山々を覆っては雪と氷に閉ざされようとしていた。
冬の訪れ、動物は冬眠し草木は春を迎えるまで土の底へ。
尚も白い白い景色だけが周囲を包んでいた。
******
山から麓の村へ流れる川。
その川の水汲み場に一人の女性が倒れていた。
「…」
寒さのせいではないが体が思う様に動かない。
酷く頭痛がして考えが纏まらない。
私は何故、ここにいる?
「…」
ここへ来る前に声が聞こえたのは覚えている。
男の子の声だった。
悲しい声で悲しい思いを抱えて叫んでいた。
何度も何度も繰り返していた。
この輪廻を終わらせたいと願っていた。
掴み取れなかった手を繋ぐ為に繰り返していた。
それは大きな願いであり呪いでもある。
どんな願いでも代償は支払わなければならない。
それを彼は理解しているのだろうか?
「あのっ…大丈夫ですか?」
「ぁ…」
動かない体を余所に物思いに耽っていた私の前に現れた少年。
彼は籠を担ぎ、昔ながらの防寒具に深靴と呼ばれる草鞋を履いているのが判った。
声を掛ける少年に対して私は出来得る限り首を上げて相槌を打った。
「動けないんですか?」
「…(コクリ」
「この近くに俺の家があるんでそこへ行きましょう。」
「…(コクリ」
少年に支えられた私は厚意から彼の家で休ませてもらう事となった。
申し訳ないと思うが体の回復に今は努める事にする。
<数時間後>
雪雲は晴れる事無く降り注いでいた。
先程よりも暗くなり始めていたので恐らく午後三時から四時位の時間だろう。
彼の家…山小屋に辿り着くと夕餉の準備をしていた彼の家族の姿が見えた。
「兄ちゃん、お帰り…ってどうしたの!?」
「竹雄、悪いけど禰豆子達と一緒に布団の準備を頼めるか?」
「兄ちゃん、この人は?」
「水汲み場で倒れていたんだ。」
「行き倒れ?」
「分からない、ケガをしている様には見えなかったけど…」
「炭治郎、どうしたの?」
「母さん、この人が水汲み場で倒れていたんだ。」
「こんな寒空に?分かったわ、早くその人を家に。」
しばらくして囲炉裏に似た独特の匂いが漂ってきた。
私は漸く目が覚めた様だ。
先程の頭痛やこわばりもなく動ける様になったのは有難い。
目が覚めた私に幼い男の子が顔を覗き込んでいた。
「にいちゃん、さっきのひとがおきたよ。」
「…」
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ…ここは?」
私はこの家の住人である竈門家の人達が利用している水汲み場で倒れていた事。
竈門家の長男である炭治郎君にここまで運んできて貰った事。
今は吹雪で外に出られないと言う説明を受けた。
「そうだったのね。」
「所でどうしてあの場所に?」
「水筒の水を補充しようとして川沿いに寄ったの、その時に気分が悪くなってしまって…」
「そうだったんですね。」
「助けて頂きありがとうございます。」
私ことクジョウ・ハスミはお礼を告げた後、自身の自己紹介をした。
自分は細工師で出稼ぎに出かけた所、路銀が少なくなったので近くの村に細工物を売ろうと立ち寄る予定だった事を話した。
恐らく本当の事を話しても理解出来ないと思ったからだ。
「まあ、まだ若いのに…」
炭治郎君達の母親である葵枝さんから関心の声を受けた。
彼の他の弟妹達は私の話を信じてくれた様だが、炭治郎だけは嘘を付いていると確信していた。
後で説明して置こう。
私は一宿一飯のお礼として細工物の一部を無償で提供した。
ちりめん細工の簪や七宝焼きのブローチは葵枝さんと娘さんである禰豆子ちゃん、花子ちゃんに。
木工細工の玩具は息子さんの竹雄君、茂君、六太君に。
炭治郎君は長男だからと拒否していたが、もしもなら売っても構わないと話して細工を施した短刀を渡して置いた。
刃先が鋸になっているので山仕事でも使える代物である。
この時代の農村…炭売りで家計を支える農民は最下層の中で困窮に陥った職業であると歴史の授業で学んだ事がある。
理由は昭和恐慌による煽りが原因。
まだその波が来たわけではないが、いずれ身受けなどで農村の人々は自身の娘を売らなければならない程の困窮が待っているのだ。
この子供達が大人になって家族を持つ頃にはそれが訪れているだろう。
そして…二度目の世界大戦に晒される。
絶望の時代が迫っていようともこの人達はこの地で生き続けなければならない。
気休め程度にしかならないが、不作になっても食料を確保出来る術を伝授しておこうと思う。
<その夜>
竈門家の人々が寝静まった頃、私はふと眼が覚めたので厠へ行こうと起き上がると炭治郎君の姿がなかった。
丁度、外にある厠へ出ると積もった雪に足跡があったので厠を済ませた後に足跡を追ってみた。
暫く足跡を進むと炭治郎君が木の棒で素振りをしていた。
足音に気が付いたのか炭治郎君がこちらへ顔を向けていた。
「ハスミさん、どうしてここに?」
「厠に行く途中で貴方の姿が見えなかったからどうしたのかと思って。」
炭治郎君は昼間の仕事と終えて家族が寝静まった後にこうやって鍛錬を続けていたと話してくれた。
理由は話せないと答えて…
そして同じ様に私も質問を受けた。
「あの…ハスミさん、貴方は何処から来たんですか?」
「多分、話しても信じて貰えないと思うけど…」
私は炭治郎君に真実を告げた。
私は異なる世界から来た者で戦いの最中にここへ落とされた事。
元の世界に戻る為の条件を探している事も話した。
「私は何か理由があってここに落とされた、それは間違いないわ。」
「切っ掛けとか変わった事はありませんでした?」
「そうね、声が聞こえた事位かしら…」
「声?」
私はここへやってくる前に聞こえた声の事を話した。
『鬼舞辻無惨、必ずお前は俺達が…鬼殺隊が倒す!!』
少年の声で怒りと悲しみが入り混じった声が聞こえた。
「!?」
「それは貴方の声に似ていた。」
「ハスミさん…」
「竈門炭治郎君、貴方は同じ時間を巡り…未来の記憶を保持する者。」
「…」
「貴方はその輪廻に囚われてしまっている、私はその輪廻を崩す為にここへ呼び寄せられたと思う。」
何度も繰り返して救いたい命を救う為に輪廻に囚われてしまった。
何度も繰り返そうとも失敗し挫けそうになっても進む。
その流れを変える為の兆しが訪れた。
「貴方との出会いも偶然じゃないわ、流れを変える為の兆しが訪れたと感じるの。」
貴方の持つ嗅覚と同じく私の感覚が貴方に引き寄せられた。
貴方と一緒に事を成す事が私が貴方と出会った理由であると話した。
炭治郎君は雪が積もった場所で正座し声を上げた。
「お願いします、俺に力を貸して貰えませんか?」
「勿論、そのつもりよ。」
放ってはおけない。
私は救える命があるのなら救うと決めた。
生きる世界は違えともこの必然に感謝したい。
だから、精いっぱい足掻こう。
私も雪の上で正座する炭治郎君に伝えた。
******
翌朝、私は葵枝さんに路銀が貯まるまで数日間滞在の許しを得て竈門家に滞在する事にした。
表向きは路銀稼ぎだが、本来の目的は炭治郎君の仇敵である鬼舞辻無惨を倒す為に協力する事。
その襲撃が一週間後に迫っていたので炭治郎君と共に路銀稼ぎと夜中の鍛錬に勤しんでいた。
襲撃後、鬼舞辻無惨を倒すまで住処を追われる事となるので道中の路銀は多いに越した事はないだろう。
日中は竹雄君と炭の材料にする木材を切る作業を手伝いながら細工物を作って売り物を増やした。
細工物と言っても飾り物だけではなく日用品で使える便利道具の作成も含まれている。
麓の村で炭と一緒に売ったら物珍しさで完売したので売り上げは上場だ。
生活の知恵とは便利なものである。
<一週間後>
無惨襲撃の日、私達は麓の村へ下りずに売り物を作るふりをしていた。
売り物がなければ麓の村へ下りる理由も無い為だ。
その日は天候も悪い事も重なって不信に思われなかった事も幸いだった。
そして運命の夜を迎えた。
「…」
吹雪の吹きすさぶ音が響く中、悪意の念がジリジリと近づいてくるのが解る。
炭治郎君も類まれな嗅覚で感じ取った様子だ。
彼に促される形で葵枝さん達を起こして奥の部屋の襖の中へに避難する様に説明。
その様子を悟った葵枝さんは子供達を襖の奥へ避難させてどんな事があっても絶対に出てこない様にしてくれた。
事前に麓の村で聞いた『人食い化け物』の噂には助かった。
「炭治郎君、守りは私に任せて。」
「分かりました、家族の事は頼みます。」
小声で話す中、コンコンと戸を叩く音が響く。
その相手が悪意の念の大本であると察した私は炭治郎君に相槌を打ち、奇襲へと移った。
「!?」
相手が戸を開くと同時に出てきたのは投げつけられた短刀。
相手もそれに察して戸から離れた。
「酷いですね、私は道を尋ねようとしただけなのに…」
「こんな雪山でその恰好はないと思いますけど?」
「お前からは腐った血の匂いがする…何の用があってここへ来た?」
小屋から出た炭治郎と閉じた戸の前で陣取るハスミ。
雪山には合わない洋装姿の男性に対して答えた。
「その忌々しい花札の耳飾り、あの男の子孫は根絶やしにする……それだけだ。」
洋装の男性の背から伸びる刃先が付いた無数の触手。
その触手は炭治郎の持った斧と打ち損ねた触手をハスミが携えていた刀で振り払われた。
「!?」
異能の力を持つ鬼に対して人間がその一手を避けたのだ。
相手は人間の筈、たかが斧と刀ではじき返されると思わなかった。
その赤い眼差しと息の音…少年はあの忌々しい男と同じ気配をさせていた。
女の方も違う…鬼を目処前にして恐怖心と言う欠片が何処にもない。
双方共に共通するのは死地にいようとも生きる事を諦めない意思を秘めていた事。
その意思を屈服させ絶望させたいと洋装の男性こと鬼舞辻無惨は思った。
「余所見は禁物。」
女は隠し持っていた拳銃を無惨に向けて撃った。
あくまで牽制と相手のヘイトを自身へ向けさせる程度の扱いである。
この時代、日本の拳銃と言えば回転拳銃で二十六年式拳銃や自動拳銃で南部式大型拳銃等であるが彼女が使用している拳銃は違う。
後の年号である昭和後期に米国で開発される拳銃・デザートイーグルである。
理由は女性が男性を一撃で怯ませるにはどうすればいいか?
体術を駆使して人間の鍛えられない眼球や股間を狙う方法もあるが、それでは男性側が体術の熟練者の場合に差が出てしまう。
なので護身用の銃で怯ませる方法を取る事にしたのだ。
彼女の場合は得物である刀があればどうとでもなるが、手数は多いに越した事はない。
ちなみに炭治朗は拳銃の音に吃驚し何時もの顔芸を披露していた。
「え…えーーーーーーーー!?」
「炭治郎君、声が大きい……。」
「いや、あの、その!?」
「拳銃に吃驚するのは判るけど、相手が相手だから対戦車ライフルとか重機関銃位持ってこないと殺傷率は低いわよ。」
まあ普通の人間なら当たり所によるけど出血多量で瀕死に出来るわよ?
この時代で対戦車ライフルと言えばマウザー M1918がギリギリ妥当か…
バイオでハザードなロケットランチャーかミサイルランチャーでも撃ちたい気分だわ。
これだってマグナム弾に念動フィールド張って貫通力を上げているからマシだけど。
「貴様…っ!」
「人も日々進化する、肉体だけじゃない知識も応用もまた人の可能性。」
異形の気配がする貴方には解らないでしょうけど?と付け加えて置いた。
ボタボタと血を垂らす触手の一つを拳銃で撃ち抜いたのだから驚くだろう。
…一瞬で再生させられたのは癪に障るけどね。
冬季における日が昇るまで後一時間、それまで足止めしないと…
「フフフ…面白いな小僧に女。」
「…」
「お前達なら素質はある……鬼にならないか?」
出たよ、典型的な勧誘。
まあ、勿論…答えは決まっているけど。
「「答えは断る!!」」
はい、即答させて頂きました。
「…ならば、死ね。」
デスヨネー。
>>>>>>
朝日が昇るまで奴との攻防が続いた。
雪に残る血飛沫と争った跡。
微かに残る血と硝煙の匂い。
荒くなる呼吸の音。
「っ。」
「ふん、如何に強かろうが人間の限界はそこまでと言う事だ。」
無傷で抗っただけマシだと思う。
勿論、守る相手がいなければ二人して突撃していたよ。
それでも今回はお前を泳がせる形で目を瞑る。
いずれ吠えずらかかせる為にも。
「ちっ、もう夜明けか…鳴女!」
「待てっ!?」
「小僧、今しばらくは命は預けよう……だが、女!」
一瞬だった。
神様はいつも残酷だった。
「お兄ちゃん!?」
「禰豆子!出るなぁ!?」
「危ないっ!」
突然の行動に油断をした私は体の方が動いていた。
奴の触手が私の左脇腹を貫き、戸を開けた禰豆子の左側の額を掠ったのだ。
その時、貫かれた場所から毒々しい血の匂いと負念が湧き出ていた。
「あ…。」
「貴様に致死量の血をくれてやる、陽光に焼かれ跡形もなく消えるがいい!」
それが彼と私の代償の始まりだった。
=続=
後で主人公設定をUPします。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)