この世で最も恐ろしいのは人間であると…
お前達は敵に回してはならない存在を敵に回したのだ。
時は戻り、お仕置き&強制修行を行っていた頃。
鋼屋敷の郊外に設置された修行場にて…
「この屑共、ゆったり走らない!!」
毎朝の事ながら怒声が響き渡る。
「全く持って何と言う様でしょうか?」
話し方は丁寧であるが、心を槍で突かれる様な毒が染み出ている。
「貴様らは塵!屑!蛆虫!この世で劣った壁蝨以下の存在よ!!」
人を人として扱わない発言にげんなりしている隊士達。
そんな彼らは逃げ出す事も出来ずに修行を続けていた。
「よく聞け!糞蟲共!!私の目的は貴様達の中から根性のないひねくれものを見つけ出し楽しむ事よ!!」
「「「…(え!?楽しむ!?」」」
「赤子の小指程度の物しか付いていない根性無し共!!根性があるなら今の課題を終わらせな!!」
「「「…(はぅ!?」」」
「それともそんな事もこなせないのかしら?人間以下の屑のロクデナシ?そんなのだから彼女すら出来ないのよ……塵蟲さん達?」
冷ややかな目で修行中の隊士達を罵る私ことハスミ。
大半の隊士達がピンポイントで本当の事だったらしく項垂れていた。
その後も心根を折る発言から男の尊厳を奪う発言によって打ちひしがれる状況が続いた。
「貴方達、他の柱達から何て言われているか知っているかしら?」
休憩時間中、真っ白くなって体育座りを始めた隊士達にハスミは答えた。
「質の悪くて使えない隊士ですって、前線で戦っているのは柱だけではないと言うのにね?」
ハスミはクスリと笑った。
「だから、貴方達が柱を超えて見たいと思わない?」
布石を落とす、高みへ向かう為に戦うべき相手を自分の手で倒せる様に仕向ける。
反逆の意志を持たせ、強く在れる様に。
「勿論、今のままでは柱に近づく事は出来ない……より過酷な試練を受けて貰う。」
柱以上に特訓を重ねて、鬼すらも恐怖させる存在へと至る。
ハスミは改めて訓練中の隊士達に答えた。
「今の立ち位置を変える覚悟はあるか!?」
「「「あります!!」」」
「より強い鬼を怯えさせ、強敵と戦う覚悟はあるか!?」
「「「あります!!」」」
「ならば答えは一つ!状況を把握し!どんな困難にも抗え!!」
「「「はい!!」」」
これから一か月後、彼らは毒舌と暴言に生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされる修行を叩きこまれた。
この経緯は後の『長月の悪夢』の要因であり、鬼殺隊に遺された設立史上最悪の戦闘記録と化す。
******
修行開始から一か月後。
某所にて鬼が集団で人を喰らう事件が発生。
急遽、鋼柱率いる修行隊士達が実地試験をかねて任務を受ける事にした。
「…」
草木も眠る丑三つ時。
任務を受けて被害が発生している現地へ向かったものの…
既に村一つが襲われ、村人が一人残らず食い殺されていた。
生き残りも居ると予想され鬼の逃げた先へ向かう事となった。
「諸君、私達の目的は何だ?」
「「「鬼抹殺。」」」
「では、行動を開始する……各自、速やかに配置に付け。」
鬼の集団が根城にしていると思われる廃寺跡地。
それを見降ろせる場所に鋼柱らが集結した。
だが、隊士達の様子が一月前と変わっていた。
その眼は無慈悲に獲物を狩る眼だった。
隊士達を配置に付かせた後、ハスミは一人呟いた。
「容赦はしない、雑魚鬼を差し向けてこっちの力量を見定めようとしたお前にはもう慈悲はない……黒ワカメ頭が。」
タバコでも嗜んでいれば一本位は吸っていただろう。
しかし、私は煙草が苦手で匂いが駄目な方である。
理由は余程の事がない限りは止めて置けと知り合いに言われた事が切っ掛け。
その代わり、酔わない程度に酒は嗜んでいる。
「やはり、駄目だったか…」
ハスミはサーモグラフィー付きの双眼鏡で廃寺の内部を観察する。
観察の結果、動いている影は全て鬼。
残りの村人は全て喰われた後で生き残っている者はいない。
申し訳ないが鬼共と共にご遺体を火葬させて貰う。
「自分達が消し炭にされるのはどんな気持ちかな?」
ハスミはSMAW・ロケットランチャーを取り出すとサーモバリック弾を装填。
廃寺に目掛けて発射した。
ここしばらくは乾燥した風が続いていたせいかより燃えやすくなっている。
まさかの襲撃に鬼達は廃寺から飛び出し逃げようとしたが、壁伝いに隠れていた隊士達によって頸を斬られていた。
「一匹残らず潰せ!!」
「こっちに居たぞ!」
「クソっ!まだ生きていやがるぜ!」
「鋼柱様の奇襲で相手は動揺している!どんどん数を減らせ!!」
殺気だった隊士達は喰われる恐怖など物ともせずに頸を斬った。
反撃される前に目と手足を捥ぎ取れ、襲われる前に口を潰せ、喰われる前に頸を斬れ。
それが鋼柱が隊士達に教え込んだ必勝法だった。
潰してしまえば鬼も再生に手間取るだろう。
鬼も人と同じく異形化前では弱点が残っている。
頸以外に目や口に手足を取ってしまえば攻撃が出来ない。
相手の行動方法を潰し、手段がなくなった時に頸を狩る。
柱は一瞬で頸を狩る事が出来るが、一般の隊士達はそれが出来ない。
だからこそ、改善案として個人ではなく集団で行動する方法を選んだ。
那田蜘蛛山の件の様な事件では使えない方法だが、普通の鬼ならば逃げるしかない。
鋼柱と言う元軍人が隊士達を効率よく行動する集団に仕立て上げた以上、逃走するしかないのだ。
偵察、斥候、前衛、後衛、主力の五点に戦力を纏めて効率よく敵を一掃する。
数が少なくても油断する事を禁じ、より強敵ならば生きる事を最優先し情報を持ち帰る。
適材適所の心得を隊士達に教えた。
「まあ、何処の世界にも部下を置いて逃げる腰抜けがいるのだけどね?」
鬼の集団の頭をやっていたと思われる異形の鬼が逃走を謀り、逃走ルートに待機していたハスミと接触した。
「お前、眼帯の女………お前は…お前は!?」
その頭の鬼は恐怖した。
絶対に敵に回してはならない相手を敵に回した。
鬼舞辻無惨に反旗した成り損ないの鬼。
鬼殺隊に所属する裏切りの鬼。
奴に遭遇したら最後…草木も残らない荒地と化す。
「おやおや、部下を放って置いて自分だけ逃げるなんて…図体ばかりデカくて随分と肝が小さいですね?」
「ひっ!?」
「仏様に懺悔する覚悟は出来ていますか?」
ハスミは頭の鬼ににっこりと笑っていない表情で告げた。
「今まで喰った分の痛みをお前にも味合わせてやるから…ね?」
頭の鬼は恐怖の余りにハスミに突撃したが、至近距離で拳銃を顔面に撃たれ鼻を潰した。
「いでぇえええ!?」
「いやいや、まだ序の口だよ?」
地面に転がる頭の鬼の手足を撃ち抜き、顔面を固定する。
「ゆ、許してくだ!?」
「そうやって、今まで喰った人間の言葉をお前は素直に聞いたのか?」
答えはNOである。
空腹でやっとありつけた餌を逃がす生き物はない。
弱肉強食、喰うか食われるか?
自然の摂理に従えはそれは正しい事なのだろう。
だが、人間は生きる為に抗う。
それだけ貪欲なのだ。
「ふう…」
頭の鬼にありとあらゆる苦痛を味合わせた後、頸を斬った。
本当ならば、四肢を斬って日光に晒す方法も考えた。
が、次の任務が入っているので早期収拾に早期退却を選んだ。
遺体は出来得る限り隊士達と共に墓を作り埋めた。
残りは隠に引き継がせたので麓の町の警官隊が駆け付けるまでには終わるだろう。
>>>>>>
数日後、浅草の茶屋にて。
「おい、不死川…お前何があったんだ?」
「…」
「宇随、隊士達の質が急激に上がり始めたのは知っているか?」
「ああ、その話は俺も聞いているぜ。」
「それを成し遂げたのがあのクジョウだ。」
どんよりしている不死川に代わり宇随に説明する伊黒。
「アイツが?」
「嘘ではない、奴の修行を受けた隊士達は僅か一か月で鬼の集団を無傷で仕留めたらしい。」
「マジか…」
「甘露寺から修行を受けた隊士達が凶暴で強くなりすぎて怖くなったと話していた。」
「で、それが不死川の落ち込みとどう言う関係が?」
「その隊士達は不死川の殺気にすら恐怖しなくなった。」
「ぶっ!?」
「喜ばしい事だか、柱を舐め切った以上…鬼殺隊の指揮に関わる。」
「…そりゃな。」
「不死川がクジョウに反論したのだが…」
『身から出た錆でしょ、あの隊士達は過酷な修行をこなして立派に戦える様になった…それに隊士達の定期訓練をサボって質を下げていた張本人達が文句を言える立場かしら?』
「図星と正論を言われて打ちひしがれている訳だ…既におはぎを十個位やけ食いしている。」
そんなんこんなで不死川の愚痴に付き合う形で茶屋に引っ張られた伊黒は山詰みにされた皿と湯呑を指さした。
「どんな修行をしていたんだ、アイツら?」
「修行を見かけた胡蝶の話では奴らは毎日塵屑以下の扱いを受けて罵倒され死ぬ覚悟で修行をさせられていたらしい。」
「…どんだけだよ、それ。」
「胡蝶が『素晴らしい罵倒用語、今後使わせてもらいますね。』と話していた。」
「蝶屋敷にも犠牲者が増えるな。」
「そうだな。」
本日も顔芸は通常運転です。
=続=
<その頃のかまぼこ隊>
「ハスミさーん!!これも意味あるんですか!?」
「いやーーーしぬー!!?」
「フハハハ!!ビヨーンビヨーンしてて面白いぜ!!」
「ある程度したら、引き上げるからまた飛び降りてね?」
某、渓谷にて川へ直撃スレスレの連続バンジージャンプ中の三人であった。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)