現実は現実。
優しい夢に惑わされず。
残酷な現実を歩め。
前回の煉獄杏寿郎の食事が終えてしばらく経ってからの事。
彼の第一声がこれである。
「す、済まなかった。」
下らない理由であるが、説明の為に少し遡る。
******
鋼柱ことハスミは炎柱・煉獄杏寿郎に対し告げた。
「人目を気にせず食事をする……それは別にいいんですけどね。」
ハスミは冷めた目で答え始めた。
「その声の音量…何とかなりませんか?周りに迷惑ですけど?」
杏寿郎の心に一撃目。
「それに任務前なのに腹八分目所が満腹以上になって動けるんですか?」
杏寿郎の心に二撃目。
「はっきり言いましょうか?貴方のそのデカい声と弁当の買い占めで鬼殺隊に苦情が殺到しているんですよ?」
杏寿郎の心に三撃目。
「我が強い人でしょうからすぐに直せとは言いませんが…せめて公共の場での迷惑行為は止めませんかね?」
杏寿郎の心に四撃目。
「貴方は柱なのでしょう?柱じゃないんですか?」
杏寿郎の心に五撃目。
「柱なら他の隊士の見本にならなくてはならないのに…何で恥を晒しているんですか?」
杏寿郎の心に六撃目。
「貴方の行動一つで柱の品格どころか鬼殺隊の品格を落とす事になるんですよ?」
杏寿郎の心に七撃目。
「柱の自覚があるなら直せるところから直すべきでは?」
杏寿郎の心に八撃目。
「こんな事ではお館様に示しが付きませんね?」
杏寿郎の心に九撃目。
「そう言う行動が『鬼殺隊はガサツで品格のない組織である』と言われ続けるのですからね?」
杏寿郎の心に十撃目。
「「「…」」」
ハスミの毒舌説教により煉獄杏寿郎・撃沈。
その様子を静聴していた炭治郎らかまぼこ隊も唖然を通り越して冷や汗状態。
周りの客からは称賛の声が上がっていた。
「いいぞ、姉ちゃん!」
「本当にこの人うるさくてねぇ。」
「ええ、寝付いた子供が起きてしまうわ。」
「元気がいいのは構わないが時間を考えて欲しいものだね。」
こういう理由である。
時は、最初の発言に戻る。
「…(煉獄さんが真っ白に燃え尽きている。」
「…(こえぇ…ハスミさんの連続毒舌。」
「…(ギョロ目が燃え尽きている。」
ハスミは燃え尽きた煉獄を放置し座席に座った炭治郎君達へ夜食を差し出した。
メニューはおにぎり、から揚げ、卵焼き、いんげんと人参の煮物、漬物。
おにぎり以外は全て爪楊枝で取れる様に一口大の大きさになっている。
無論、食事中も静かにと念を押して。
「先程はすまなかった、柱として礼節がなっていなかった。」
「…以降は注意してくださいね。」
「うむ、肝に銘じる。」
声的には地獄公務員の五秒で射殺の人なんだけど、イメージが崩れるわ。
炭治郎君との会話の邪魔をしちゃ悪いし、仕込みだけしときますかね。
「…」
ハスミは誰にも気が付かれない様に服の裾から小型の機械を起動させ、各車両へ移動させた。
その機械は通路を通り過ぎた乗員や乗客に引っ付いて別の車両に移動するなどして誰にも気が付かれずにひっそりと下準備を進めた。
引き続き、話をしている煉獄と炭治郎。
「黒刀か、それは出世が見込めないな……何処の系統を極めればいいのかわからんからな。」
「そうですね…」
「若しくは新しい呼吸を生み出す可能性も秘めていると思いますけどね?」
「クジョウの呼吸は系統が不明とされた鋼の呼吸だったな。」
「その系統に関しては独自解釈もありますけどね。」
「と、言うと?」
「鋼は岩から生まれ加工され炎と水で鍛えられ風によって人の手に持てる温度へと変えられるからです。」
「…成程。」
「その話は後で…炎柱、貴方の家系は鬼殺隊に深く関りがある家系だとお館様よりお聞きしました。」
「それがどうしたんだ?」
「何処かの時代で鬼殺隊から抜けた隊士が居たりしませんでしたか?」
「ふむ、聞き覚えがないが我が家の記録書に遺されている可能性があるが…」
「炭治郎君の家系は何世代か前に呼吸を使う鬼狩りの剣士に救われ、それ以降…長男が代々ヒノカミ神楽として舞を継承したとあります。」
「それが、竈門少年が使っていた剣術に由来すると?」
「はい。」
「やはり、記録書を読み返さなければ俺もはっきりとした事は言えんな。」
「そうですか…」
答えは判っている、それでも証拠がない限り炭治郎君の呼吸が『日の呼吸』と断定される事はない。
周囲を認めさせる為の証拠と結論を知らしめなければ…
「切符を…拝見。」
そうこうしているうちに車掌さんが切符を切りに来たので各自切符を切って貰った。
パチン。
切られたのと同時に車内の電灯が一瞬消えかかり、また点き始めた。
そこに現れたのは複数の眼を持つ巨漢の鬼。
「車掌さん、火急の事にて帯刀を許して頂きたい。」
乗客達が奥の客車へ避難する。
炭治郎君によって逃げ遅れた乗客の安全確保が出来たのと同時に煉獄は刀を抜いた。
「炎の呼吸・壱ノ型、不知火。」
炎のうねりが鬼を焼き尽くすかの様に切り裂いた。
同じ様に別の客車に現れたナナフシの様な鬼をも倒し、炭治郎達に称賛される煉獄。
そこで全てが途切れる。
「…」
こんこん、ころり、こん、ころり。
ようこそ夢の世界へ。
******
現実の世界では炭治郎君らかまぼこ隊と煉獄、ハスミが座席で眠りに就いていた。
先程の鬼の被害は無く、他の乗客達も眠りに就き…誰一人動く者は居なかった。
例外を除いて。
「命じられた通り、切符を切りました。」
車掌らしき男はある存在に懇願する。
『夢』を見させてくれと。
「ご苦労様、でも…もう少し手伝ってもらうよ?」
「!?」
「人数が足らないんだ、判ってくれるね?」
眼と口が付いた手の存在は男に告げた。
同じく、手の後ろに控えていた男女四人にも同じく指示を出した。
「前と同じ様に鬼狩り達の『無意識領域の核』を壊すんだ。」
進められていく敵の先手。
深い夢に誘われる炭治郎達。
その夢の中に他者が入り込んだ。
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「お兄ちゃん!」
「にいちゃん!」
「にいちゃ!」
家族に囲まれて何時もの仕事を続ける炭治郎。
父の病気は治り、一緒に麓の町に炭を売りに行くのだ。
「善逸さん、私…泳げないの。」
川を飛び越えられない禰豆子を背負って桃園を駆け巡る善逸。
好きな女の子と過ごす時間は格別だ。
「俺達、洞窟探検隊!!」
伊之助は子分になったポン治郎、チュウ逸、ウサ子と共に大ムカデになった昼寝中の列車を洞窟の主として戦おうとしていた。
「お帰りなさいませ、兄上。」
何時もの任務を終えて、屋敷に帰宅する煉獄。
帰りを待っていた弟と全てに嫌気が差し拒絶する父親。
いつもの日常を体験していた。
「…黙れ、この糞野郎が!!」
若い女性に乗り換えた最初の恋人に裏切られたハスミ。
もう男を愛さないと誓い、復縁を申し出た恋人を張り倒した。
男の尊厳も微塵もない言葉を吐きかけ大事な所を蹴り上げる。
「…!?」
この光景を見ていた車掌は思わず手で抑え込んでいた。
青褪めた顔で周囲を散策し無意識領域への道を探し出す。
先程の手の存在に渡された錐で空間を引き裂き、中へと入っていく。
「ここは一体…?」
そこにあるのは何処までも続くアンティーク調の図書館の書庫。
それは長々と続いており、何処に核があるのか不明だった。
だが、目印の様にビロードの絨毯が行き先を指し示していた。
ゆっくりと絨毯が敷かれた先へと進む。
そこにあった核は不思議な色合いだった。
まるで夜空を閉じ込めた様な印象を残す核だった。
「これを壊せば…!」
車掌は持っていた錐で核を壊そうとしたが、足元が突然宙に浮かんだ。
そう、開き戸の様な蓋が地面に開いて車掌が落ちて行ったのだ。
「あ、あああああ…!?」
蓋が閉じられるとそこに書いてあったのは『連続スーパーイナ〇マキックへの入り口』。
本棚の間から本来居る事が出来ない存在が現れる。
「夢の中に入ってくる敵の対処の仕方位は周知しているよ。」
彼女は答えた。
夢は夢を見る本人のイメージが具現化したもの。
ならば、もっとも危険な核の周囲に罠を張るイメージをすればいいだけの事。
「…念動者を甘く見たわね。」
時計の音と共に彼女は自身の腕に炎が揺らめいたのを確認すると眉間に銃を突き付け撃った。
現実へ舞い戻る為に。
炭治郎は己の頸を刀で斬り、善逸は転んだ拍子に頭を岩に撃ち付けて、伊之助は暴れまくりすぎて谷底へ落ちて、煉獄は父親が投げつけた徳利から弟を庇って。
それぞれが偶然もあるが、夢の中で死へ直結する行為を起こった。
******
「さてと、こんなものかしらね。」
先に目覚め、自分達の夢に入って来た鬼の協力者達を縛り上げて威嚇射撃を続けるハスミ。
先程の男女三名と車掌は銃で至近距離スレスレで撃たれ続けたのでもれなく失神中。
炭治郎君の夢に入った男は敵対行動を取らなかったのでそのままに。
「えげつない…」
「人の夢の中を覗き見たのだからまだマシな方よ。」
「ついでにアイツらの髪の毛全部抜いてやろうぜ。」
「後に取って置きなさい、それよりも…」
「鬼ですね。」
「ええ、炭治郎君と伊之助君は鬼の捜索…残った私達で乗客の安全を守るわよ。」
「よもや、よもやだ…柱として不甲斐なし。」
「穴が在ったら入りたいと?」
「そうだな!」
「穴に入る前にやる事をやってからにしませんか?」
「そうだな。」
いざ、反撃の時。
夜明けまであと六刻。
=続=
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