予期せぬ来訪者。
刃は火花を散らせ呼吸は荒々しく吹き荒れる。
これは奇跡ではなく。
必然の痛み分け。
紅梅色の髪の異国風の衣装を纏う上弦の参。
今まで対峙してきた下弦の鬼とは違う殺気。
油断すれば全滅する。
その通りだと、その場の鬼狩り達は本能で悟った。
******
停車した汽車から下車し上弦の参と対峙する煉獄とハスミ。
炭治郎達は客車の乗員乗客を守る為に柱の権限で待機命令が下された。
「下弦の壱を囮にして来て見れば柱が二人も居るとは……好都合だ。」
「囮だと?」
「奴はあの方の裏切り者…下弦などいくらいようともお前達に勝てないのでは無用の産物でしかない。」
「…(成程、無惨とジ・エーデルは完全に敵対したって事で確定か。」
上弦の参の会話は続き、私はある事を告げた。
「それで…お連れ様はどちらに?」
「クジョウ、どう言う事だ?」
「客車に取り付いた巨躯の鬼…奴は既に虫の息だった。」
「何だと…?」
「取り付いていたのは肉体の前半の部分で後半の部分は綺麗に切断されていた。」
あれだけの巨体を一撃で迷いもなく一刀両断した。
それはかなりの手練れであると言う証。
「他の柱が苦戦している巨躯の鬼を一撃で切断出来る存在と言えば同じ鬼位でしょう。」
「ほぅ?良き見解の眼を持っているな…眼帯の女子よ。」
上弦の参の背後より現れる侍風の鬼。
その顔には六つの眼が付いており、上弦の壱と眼に刻まれていた。
まるでその場に既に存在していた様に現れた事で煉獄らは冷や汗を流した。
「上弦の壱…だと?」
「…(気配で分かる、奴はとてつもない手練れだ。」
まさか、上弦が二体も現れるなんて…
想定していたとは言え、分が悪い。
上弦一体に付き柱三名で漸く対等に戦える相手。
炎柱を守りつつ戦うにしても限りがある。
炭治郎君には念の為、上弦の参に割り込みが出来る様に合図はして置いたけど…
上弦の壱次第で状況は変わってしまう。
「女子よ、貴様があの方の元へ差し出すに相応しいか見極めさせて貰うぞ。」
「ご指名どうも、こちらも敗北確定のままにされるのは虫唾が走りますので。」
「クジョウ。」
「炎柱、上弦の参の相手は任せる。」
「承知した。」
互いに戦う相手が決まると相手の元へと移動する。
ハスミは琴箱から刀を抜いた後、地面に箱を置いて刀だけで戦う選択をした。
理由は手練れで在れば銃器など相手にとって無意味であるからだ。
「鬼殺隊・炎柱、煉獄杏寿郎。」
「十二鬼月・上弦の参、猗窩座。」
「鬼殺隊・鋼柱、クジョウ・ハスミ。」
「十二鬼月・上弦の壱、黒死牟。」
深夜の荒野に一迅の風が吹く。
それを合図に互いの肉体が得物が動き始めた。
それは眼では負えない移動速度。
何処かで火花が散り、何処かで一瞬動きが止まる。
強者同士が生み出す世界。
「強いな、杏寿郎!」
「鬼相手だが…光栄の極みだな。」
「その強さを失わせるのは勿体ない。」
「何が言いたい。」
「鬼に成れ、杏寿郎。」
猗窩座は告げた。
鬼に成れば、永遠に高め合う事が出来る。
ここで失わせるには惜しい存在だと。
「断る!命は限りがあるからこそ尊いのだ!!」
煉獄は命の尊さと限りある時間の中で強く輝き続けるのだと叫ぶ。
命の本質と限りある輝きの強さを知っているから答えられるのだ。
「女子よ、何故…完全な鬼と化す事を拒否する?」
「成る必要もない、私は私のまま…ありのままの自分で在りたい。」
「ならば、言葉通りに全てを受け入れる事に鬼と化す事を受け入れぬ?」
「必要がないからだ。」
「…」
「永遠の命とか若さとかどうでもいい…私は生まれた種族のまま、命ある限り精一杯生きる!」
「尚も拒絶するか…」
「永遠に生きる事は永遠の孤独と喪失でしかない。」
「!?」
「鬼と同様に永遠を生き…その過程で心と精神を病み、限りある命を妬む者を大勢見てきた。」
永遠の命の代償は完全な死を失う事。
次の生へと導かれずにただ現世を彷徨う亡者と成り果てる。
人を喰い、ただ時間だけが過ぎる存在に何の意味がある?
「逆に鬼と化して何を得られたのか?答えて見せなさいよ!」
「っ!」
黒死牟は言葉の意味に対する返答が出来ずに怒りだけを剣先へ向けた。
心の何処かで理解はしているものの鬼が全て正しいと塗り替えられる。
返答をしないのではなく出来ないが正論だろう。
「それ以上……言わせはせんぞ!」
「!?」
声が彼ではなく別の存在へ変異する。
弾かれた日輪刀。
黒死牟の刀はハスミの心を貫いた。
「ぐ……。」
鼻を突き抜ける鉄の臭いと口元に溢れる血。
「終わりだな。」
「どちらが…?」
「!?」
ハスミは戦闘中に刀の戦輪を上空に移動させ、黒死牟に直撃する位置へと移動させたのだ。
それが黒死牟の頭部に突き刺さる。
「…油断したのはこちらだったな。」
黒死牟の頭部に突き刺さる戦輪。
頭部の一部を損傷しても動ける生命力。
それも上弦の鬼ならではの事なのだろう。
「貴様の戦術に免じてこの場を去ろう……次に相対する時は鬼と化すか死を覚悟するのだな?」
黒死牟は戦輪を振り落とし、刀を抜くと血液を振り払い刀を鞘に戻した。
「鳴女。」
ベン!
突如、現れた襖へ黒死牟は移動し撤退して行った。
「…(何が免じてだ?次遭ったら脳味噌かち割って消し炭にしてやる!!」
先程の負傷で衣服に染みわたる血液。
半分鬼である以上は回復力は普通よりも早いが、塞がるまでの血液の流出はどうしようもない。
「炭治郎君…」
炭治郎君の声が聞こえる。
「お前の好きにはさせない!!」
致命傷ではないが負傷しつつある煉獄を庇って猗窩座と対峙する炭治郎。
その呼吸は水ではなく全てを焼き尽くす太陽の炎。
心は当に決まっている。
「俺はお前達を許さない!!」
ヒノカミ神楽・㭭ノ型 飛輪陽炎。
「なっ!?」
それは陽炎の様に。
それは蜃気楼の様に。
見えない剣先と焼ける様な痛み。
己の血鬼術でも認識出来ない闘気の流れ。
猗窩座は見えぬ剣戟によって右肩ごと腕を切り裂かれた。
「…(何だ、此奴は?柱でもない奴に俺が負けるのか!?」
「下等生物に負ける気分はどう?」
「お前は…上弦の壱が撤退したのか!?」
「さっさと尻尾を巻いて逃げる事ね?梅干し頭君?」
毒舌めいた言葉を告げるハスミ。
その言葉に怒りを露わにする猗窩座だったが、既にタイムリミットは近づいていた。
同時に明るく成り始める夜空。
夜明けの光を察して猗窩座は目晦ましに土煙を上げ、近くの森へと撤退した。
「竈門少年……君は?」
「煉獄さん、良かった…生きて。」
「竈門少年!?」
炭治郎はそのまま技を使用した反動で気絶し地面に倒れた。
一撃に呼吸を集中させた為に体への負担が一気に来たのだろう。
下弦の鬼にも同じ呼吸を使い、上弦の参を相手にするのにも同じ呼吸を使用した。
その呼吸は水の呼吸ではなく、未知の呼吸。
「紋次郎!?」
「炭治郎!?」
客車の護衛に呈していた伊之助らも炭治郎に駆け寄ってきた。
「紋次郎は?無事なのか!?」
「大丈夫だ、恐らくは呼吸の使い過ぎだろう。」
「よ、よかったぁ…よかったよぅ。」
禰豆子の入った箱を背負った善逸は泣きじゃくり、伊之助も無事である事に安堵していた。
「炎柱、苦境は乗り切った様ね。」
「その様だ……!?」
ボタボタと出血が止まらずに衣服を血で染めるハスミがゆっくりと歩み寄ってきた。
普通の常人ならば、出血多量で死亡しても可笑しくない血液を流している。
「これ?…かすり傷だから安心しなさい。」
「いや、いや、いや、かすり傷超えてるんで!??」
「見た目だけでしょ?」
「うむ、血を流し過ぎて認識が甘くなっているみたいだな。」
「だ・れ・が・馬鹿になった…ですって?」
ハスミ、善逸の両こめかみに拳でグリグリを炸裂。
「いだだだだ!!!!???何で俺!?」
「言い出しっぺだから。」
「酷っ酷過ぎるーーー!!!」
しばらくしてから善逸を開放。
ハスミは出血の割に何故無事であるのかを説明した。
「上弦の壱に刀で刺される直前に中の内臓の位置を移動させたのよ。」
肉体内部の内臓の位置を任意で動かすには相当の鍛錬が必要になってくる。
伊之助の関節を外して行動出来る方法の更に上位の荒業だ。
あくまで危機を脱する為の方法なので素人がすれば死に至るだろう。
「一歩間違えれば内臓損傷は免れなかったわ。」
「どんだけ修行しているんですか、貴方は?」
「そうね、子供の時から死ぬ気でかしら?」
修行の難易度が違うのよとハスミは付け加えて置いた。
その後、隠の到着で負傷者が運ばれる中。
「一番の負傷は炎柱と炭治郎君、とっとと連れてく!言われたら動く!!ちんたらしていたらその尻を蹴り上げて鉛球をぶち込むわよ!!」
隠の殆どが男性だったので言葉の意味が解ると馬車馬の様に行動を開始。
寧ろ、血液をボタボタ流して拳銃で威嚇射撃している鋼柱の姿にドン引きしている様子もあったりした。
後に鎹鴉の伝達で各所に通達が行われた。
「カァアア!!」
汽車の事件で下弦の壱と接触し竈門炭治郎が討伐。
並びに、上弦の壱と参が出現。
炎柱、鋼柱が応戦し撤退。
炎柱、竈門炭治郎の両名が中傷。
鋼柱、瀕死の重症だが本人の指示により中傷者の移送を最優先。
列車の乗員乗客は全員生存・被害無し。
「カァアア!!」
願いの元に史実は書き換えられた。
だが、痛み分けの勝利と敗北であった事に変わりはないだろう。
=続=
無限列車編・その4(終)。
<余談>
撤退する猗窩座。
その後、無惨の折檻と元の任務への指示を受けて任務へ戻る時。
背中に何かが貼られており、引き剥がすとこう書かれていた。
『次に会ったら持てる火力を持って消し炭にする、鋼柱より。』
と、宣戦布告の言葉が綴られていた。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)