鋼の魂と共に   作:宵月颯

3 / 78
呪いと祝福は表裏一体。

願うのは明日のみ。

だから人は抗うのだ。

目処前の理不尽だろうが宿命だろうが。


己の足掻きと鋼の意思

一瞬の一撃が空しく引き抜かれ、ハスミの衣類は鮮血でジワジワと流れ出した。

 

貫かれた場所から焼けるような痛みとボタボタと落ちる血。

 

内臓を痛めたのか喉元へ逆流する血反吐。

 

 

「ハスミさん…」

「私の事はいいからっ早く禰豆子ちゃん達の所へ…うぐっ。」

「は、はいっ!」

 

 

私は茫然とした炭治郎君の声を最後に口元を抑えて地面に膝を付いた。

 

 

「…」

 

 

何、これ?

 

身体が焼ける様に熱くてめくれ上がる様に痛い。

 

それにこの毒々しい負念は?

 

怨嗟や憎悪と言った負念が全身の血管を巡る様に這いずっている。

 

息が苦しい…痛くて熱くて気持ちが悪い。

 

 

「っ!?」

 

 

視点が定まらない視界を遮る冷たい手の感触。

 

耳元で奴の声が聞こえる。

 

耳障りな卑怯で残酷な…嫌な声。

 

 

『どうだ?人でない何かになる気分は?』

「…」

『これから貴様は肉体が耐え切れず肉塊となるか?このまま太陽に焼かれて死を迎えるか?夜明けを迎える前に鬼と化して守った者を屠るか?』

「…」

『どれも貴様が辿る結末だ……さあ、目処前の結末にどう抗う?』

「…」

『運良く鬼となったのなら貴様を手駒として使ってやるぞ?』

 

 

ああ、奴は怯えているんだ?

 

やっと倒せた相手を屈服させようとしている。

 

何処まで絶望し狂気に堕ちるのかを観客席から歓声を上げる様に。

 

でも、残念ね?

 

 

「私は何度でも抗う……可能性の全てを使ってでも抗って見せる!」

『くっ!?』

「さっさと私の中から出ていけ……この黒ワカメ頭っ!!」

 

 

私が屈服する事は在り得ない。

 

私が膝を付き従う相手はただ一人だけ。

 

あの人ならこう話すだろう。

 

 

 

 

_どんな事があろうとも足掻け!お前は俺が認めた女だ!!その程度で膝を付くお前ではないっ!!_

 

 

 

 

私の中で彼の声が脳裏に響いた。

 

 

「…バカな、私の支配から抗ったと言うのか?」

 

 

鬼舞辻無惨は驚愕していた。

 

目処前の光景に。

 

 

「…(まさか?」

 

 

確実に細胞破壊を引き起こす致死量を超えた血を与えた筈なのに。

 

その女は私の支配に抗った上に細胞崩壊を迎えていない。

 

雪空に指す僅かな日光に晒され身体を焼かれようとも…

 

いや、反動で肉体が動けないのか?

 

ならばいい、このまま鬼と化し日光に焼かれて消滅するだろう。

 

 

「鳴女。」

 

 

ベン!

 

 

「貴様の抗いも無駄な行為だったな?」

 

 

鬼化した禰豆子の飢餓を止めている炭治郎とその家族。

 

先に夜明けを迎えた場所で膝を付いたまま動かないハスミ。

 

その光景を目にした後、無惨は琵琶の音と共に現れた襖の出入口から撤退した。

 

その筈だった…

 

 

「これは?」

 

 

ゴロン。

 

 

己の本拠地に撤退した無惨の足元に転がる物。

 

知る者なら即座にその場を離れただろう。

 

無惨が入ったのと同時に封鎖される僅かな隙間にハスミは投げ入れたのだ。

 

ピンが抜かれた手土産式・収束手榴弾(別名、ポテトマッシャー六本巻き)を。

 

 

「…手土産位は持って行って貰わないとね?」

 

 

血だらけの腹部を抑えて立ち上がったハスミの言葉を最後に襖は閉ざされた。

 

 

「あの女ぁああああああ!!?」

 

 

無惨は閉ざされた襖を最後に硝煙と爆発音に巻き込まれた。

 

 

 

******

 

 

 

「…あ、どうせならC4爆弾と破片手榴弾も括り付けておけばよかった。」

 

 

今度で遭ったらマジで保有している重火器全部を撃ち込んでやろうかな?

 

あの人達もゾンビだろうがBOWだろうが容赦するなって言っていたし。

 

まさかこの世界でも鬼と遭遇するとは…

 

こういう事に関しては縁が在ると言うか何と言うか?

 

 

「…明るいな。」

 

 

自身の肉体が日光によって焼ける匂いも音もしない。

 

ただ、雪雲の隙間から出ている光は程良い温もりと暖かいと感じる。

 

振り向けば、泣いて炭治郎と家族に縋りつく禰豆子の姿があった。

 

母親の葵枝さんに頭突きを喰らって正気を取り戻したらしい。

 

そのお陰か、もう飢餓の状態は去ったようだ。

 

 

 

「後はもう一つの気配が厄介か…」

 

 

 

もう一つの気配、人であるが殺気立っている。

 

恐らくは炭治郎君の話した鬼滅隊の隊士だろう。

 

それも手練れである柱。

 

 

「ハスミさん、避けて!」

 

 

こちらへ向かってくる人物の匂いに察したのか炭治郎の声の後に一瞬の剣戟が弧を描いた。

 

だが、それを遮る様に刀と刀が衝突し合う音が響いた。

 

 

「いきなり攻撃とは…無粋ね。」

「…自我があるのか?(それに飢餓状態でもない?」

「だったら何だと言うの?」

「…」

「あのね、そこは黙る所じゃないと思うけど?」

 

 

聞いてた通りだけど本当に主語とか大事な部分が抜けてるし。

 

これじゃ余計に誤解を生むでしょ?

 

同僚の人達…相当参ってたかもね。

 

 

「はぁ、まあいいけど…」

 

 

そう考えるハスミを余所にとある場所の人々が盛大に噂クシャミを同時にしたのは言う迄もない。

 

 

「所で聞きたい事があるのだけど……貴方、あの男の事を知っている?」

「男?」

「昨晩、この家の人達を襲った洋装の男…相手は鬼だと名乗っていた。」

「!?」

「奴は鬼舞辻無惨と名乗っていた。(名乗ったと言うか勝手に人の精神領域に入ってきたんだけど。」

「お前は…」

「?」

「何故、奴の名を名乗って平然としている?」

「私にも分からない。」

「そうか。」

 

 

本当に話が続かない人ね。

 

どうしよう、炭治郎君に関係がある人だし…あんまり深入りする訳にはいかないし。

 

 

「お前…片目だけが鬼なのか?」

 

 

山風が一度吹き、ハスミの前髪を浚った。

 

鬼になった為に伸びた前髪で見えなかった目元がはっきりしたのだ。

 

そして襲ってきた青年こと冨岡義勇はハスミの眼を見て答えた。

 

今もガチガチと響く刀に映った自分の目元を確認するハスミ。

 

右目はいつもと同じであったが、もう一つの左目だけは変化していたのだ。

 

猫の様に瞳孔が切れている眼である。

 

 

「一体、どうなって…?」

「その腹の血の跡…奴の血を受けたのか?」

「恐らくは、戦闘中に致死量の血が如何とかは聞いていたから。」

「そうか。」

「奴は私を殺すつもりだったらしいけど失敗したって事でいいのかしら?」

「奴の呪いが効かない以上はそうとしか言えないだろう。」

 

 

またややこしい問題が…

 

兎に角、情報を整理しないと。

 

 

「あの、何が起こったのか説明しますので刀を収めませんか?」

「鬼の提案を聞くと思ったのか?」

「半分はまだ人間です。(多分。」

「そうか。」

 

 

会話が続かないと話が出来ないんですけど?

 

もう本当に空気読みなさいよ、この人は!

 

 

 

******

 

 

 

昨晩の惨劇から早朝を迎えた竈門家の山小屋にて。

 

先程の剣士である冨岡義勇の自己紹介と着替えを済ませた竈門家の人々を交えて話を進めた。

 

禰豆子ちゃんはあの後、彼が用意した竹の轡を噛まされて布団に入っている。

 

私と違って太陽の光を浴びたくない様子だったのが理由だ。

 

炭治郎君と私は昨晩に旅の者と装ってこの家を襲撃した鬼の事について説明した。

 

 

「それが今の俺達が解っている事です。」

「次はそちらが説明する番ですよ?」

「断る。」

「ねえ、炭治郎君…彼の頭に風穴開けてもいいかな?(いい加減、話が進まないんだけど?」

「あー鉄砲は駄目ですよ!!絶対に!?」

 

 

炭治郎君、私はまだ優しい方だからね?

 

知り合いの軍曹なら既に威嚇を通り越して自白させる勢いで撃っているからね?

 

 

「まあ、そっちがそうなら別にいいんですよ……その男の写真を運良く撮れたのにね?」

「何!?」

「えーーーー!!いつの間に!?」

「そもそも『人食い化け物の噂』があった時点で襲われた時に正体が判らないと対応出来ないでしょ?」

「確かにそうですけど…」

「そこで君の小屋の周辺にカメラをいくつか設置して戦闘の合間にシャッターが自動で押される様に細工して置いたのよ。」

 

 

戦闘中もカメラが破壊されない様に誤魔化すの大変だったわ。

 

シャッターのライトが反応した時に拳銃で邪魔したし。

 

時代が時代だから白黒写真なのが残念だけと…

 

後、二人ともギャグ顔芸が凄いからね?

 

 

「問題はここでは現像処理出来ないって事かしら?」

「どうしてですか?」

「写真は反転現像処理って方法で撮影した画像を現像するんだけどその機材に薬剤、暗室がないと作業が進まないの。」

「ここで手に入りますか?」

「暗室は兎も角、他は高価なものだし…東京近辺に行かないと専門の店がないから無理そうね。」

「そうか…」

「…それで情報の交換条件はどうされますか?」

 

 

仏頂面で暫く悩んだ後、義勇は提案を受けると告げた。

 

これにより鬼滅隊と判明している鬼の情報などを手に入れる事が出来た。

 

そして竈門家の人々の処遇だが、狭霧山の育手の元へ案内される事となった。

 

ここに居ても鬼にまた襲われる可能性がある為だ。

 

竈門家の人々に荷造りと禰豆子ちゃんを入れる籠を用意して下山準備を進めて貰った。

 

そして必要最低限の物だけを準備して小屋を後にした。

 

途中までの下山は義勇が同行し残りの移動は私と炭治郎君に任された。

 

何やら鴉に手紙を括り付けて連絡を取っていたが、狭霧山に居ると言う人物へだろう。

 

別れ際に義勇に例のカメラを渡して置いた。

 

もしも現像方法が判らなければ連絡する様にと念を押して置いた。

 

この時代の専門職の人なら現像出来ると思うが念の為だ。

 

 

「俺はここで。」

「冨岡さん、色々とお世話になりました。」

「狭霧山へ向かう道中は危険かもしれませんが、そこの彼女が居れば何とかなるでしょう。」

「ハスミさん…女性の方にこんな事を頼むのは筋違いでしょうがよろしくお願いいたします。」

「大丈夫です、狭霧山までの守りは引き受けました。」

「ありがとうございます。」

 

 

葵枝さんから礼を受けた冨岡はその場を去り、私は引き続き同行する事にした。

 

冨岡が去った後の様子を花子ちゃんや茂君達が『早いね。』と感想を話していた。

 

竹雄君に関しては『早っ!?』と普通の反応をしてくれた事にお姉さん安心したよ。

 

荷物を積載した荷車を押し進めながら私達は狭霧山へと歩みを再び進めた。

 

 

=続=

刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?

  • 木乃伊事件(不死川、伊黒)
  • 集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
  • 船舶沈没事件(宇随、煉獄)
  • 不在担当地区防衛(時透、甘露寺)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。