鋼の魂と共に   作:宵月颯

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切り時を間違えるな。

それは反撃の一手。

それは相手を屈服させる手段。


切り札は最後に

話し合いを続ける中で、突如引き起こされた地響き。

 

時折、聞こえる断末魔。

 

何かが潰れて弾ける音も聞こえた。

 

ただ言える事がある。

 

その正体は自ら目処前に現れたのだから…

 

 

「あれが魚神様…まるでダゴンじゃないの。」

 

 

そう称するしかない風貌の化け物。

 

海より這いより現れたるもの。

 

 

「岩柱、二人を連れて教会に居る音柱達と合流後…ここから脱出を。」

「クジョウ、お前はどうする?」

「奴を仕留める…ここから奴を絶対に出してはならない。」

「待ってください、ハスミさん!!」

 

 

私は静止を聞かずに炭治郎君に預けて置いた絡繰り箱を回収してその場から移動した。

 

奴を…仮名・ダゴンをこの場所から出してはいけない。

 

もしも防げなければこの国は滅亡する。

 

教会に通じていた別の坑道の奥にあった実験施設はその名残なのだろう。

 

ここにあの芋ひじき野郎の居た痕跡があったのは間違いない。

 

 

「…(そして、奴に神性的な要素はない。」

 

 

ここに来てから感じられない気配がある。

 

本来の奴らには奴ら特有の気配が存在した。

 

それがここでは一切感じられない。

 

指し示す答えは『奴らに神性がない』と告げているのと同じ事。

 

紛い物なら全力を持てば戦える。

 

 

「持って来た装備でギリギリ仕留められればいいけど…」

 

 

普段倒している巨躯の鬼位であれば携行している銃器だけでどうにでもなる。

 

だが、今回の相手は巨躯の鬼よりも数倍デカい相手である為に容易に倒す事が出来ない。

 

それでも奴の眼を教会から遠ざけなければならなかった。

 

 

「お前の相手はこっちだ!」

 

 

私は迷いを捨てて、RPGを取り出してダゴンの頭部に狙撃した。

 

奴はこちらの攻撃に気づき、そのまま追いかけてきた。

 

私は撤退が完了するまで囮を続けた。

 

だが、一人では限度がある。

 

流石の私も奴に投げ飛ばされた家屋の残骸を避けるタイミングを見逃してしまったのだ。

 

 

「!?」

 

 

その時だった、投げ飛ばされた筈の家屋は打撃と斬撃で吹き飛ばされたのだ。

 

 

「どうして…」

「勘違いするな。」

「我らは無惨様の命で奴らを一人残らず始末する命令を受けている。」

「敵の味方は味方でもなさそうですし、ご勝手にどうぞ。」

 

 

自身の主の命令を忠実に従う上弦達。

 

今回の目的は恋柱達の救助であって鬼の討伐ではない。

 

私は「但し、流れ弾にはご注意を。」と告げて彼らを放置し、攻撃を再開した。

 

が、その最中だった…

 

 

「しまった!?」

 

 

私は奴に拘束された後、海に叩き付けられる様に投げ飛ばされた。

 

その勢いは凄まじく、普通の肉体なら即死を迎えていただろう。

 

この身に流れる無惨の血がそれを阻害した事は確かだった。

 

 

「…(さっきの反動で動けない。」

 

 

海面に叩き付けられたショックで四肢が動かない。

 

自身の身体が海の底へ沈んでいくのが解る。

 

 

「っ!?(息が…」

 

 

肺までダメージが来ていた?

 

もう…息が続かない。

 

 

「…(ここまで来て。」

 

 

深く、深く、沈んでいく。

 

昏い海の底へ。

 

ゆらりと海に溶ける流れ出た血。

 

それは海底に沈む何かへと辿り着き、動き出した。

 

脈動を打つ様に海の底から血の主を携えて這い上がって行った。

 

 

「地震!?」

 

 

異洲磨村の外れにある教会。

 

岩柱達は音柱達を合流し、渡された手書きの地図を頼りに取られた恋柱達を担いで脱出しようしていた。

 

その最中、起こった地響きに反応した炭治郎達。

 

 

「…いや、地震にしちゃおかしいぞ。」

「宇髄、どういう事だ?」

「冨岡、伊黒、海の方を見て見ろ。」

「あれは!?」

「!?」

 

 

地震に似た現象と同時に入江の海の中心が渦巻いていた。

 

それは何かが這い上がろうとしている様子でもあった。

 

 

>>>>>>

 

 

異洲磨村の戦闘場では。

 

海より這い上がるモノと共に脱出したハスミは答えた。

 

 

「血鬼術、今回ばかりは使わせて貰う必要があるみたいね…」

 

 

ハスミの発言に上弦の壱と参は息を呑んだ。

 

血鬼術は発現条件が困難な上に種類も様々だ。

 

だが、人を喰らっていない成り損ないの鬼が血鬼術を発現させている。

 

これはある意味で素質があったのでは?と言えるものだった。

 

 

「…(禰豆子ちゃんが発現させられたのだから私もやれる事はやらなければならない。」

 

 

ハスミの発現した血鬼術は鉱石物質を操るもの。

 

異洲磨村の海岸一帯はとある物質を含んでおり、鉱山跡地にもとある鉱石の残骸が残っていた。

 

それらを術で集めて構成すれば、あるモノが完成する。

 

 

「血鬼術・鋼人………大物には大物と相場が決まっている。」

 

 

周囲の鉱石と物質を構成させ、生み出したのは鋼鉄の巨人。

 

彼らからみれば妖怪ダイダラボッチを想像出来るだろう。

 

 

「…(格闘戦ならゲシュペンストに象った方がやりやすい。」

 

 

相手は紛い物のダゴンでも油断は出来ない。

 

また海の中に引きずり込まれない様に注意しないと…

 

残存していた異洲磨村の住民は全てダゴンを呼び起こす際の犠牲となった。

 

その為、炭治郎らの撤退が完了した今…奴と戦うには好条件の場となっていた。

 

能力自体は公衆の前で見せる様なものでない。

 

だからこそ、この村の地形は目隠しに最適なのだ。

 

 

「さてと散々追っかけ回してくれたわね……今度はお前がタタキになる番よ?」

 

 

ハスミの発言はある意味で処刑宣告。

 

目処前の在り得ない状況に対してダゴンは焦りの行動を見せた。

 

自分こそが有利な状況であると確信し過ぎた結果だった。

 

 

「!?」

「…(カイ少佐、貴方の直伝…使わせて貰います。」

 

 

同質量同士の衝突、だが…耐久性に関してはこちらが有利であり奴が海の底へ逃げない限りはこの戦場で戦って貰おう。

 

 

「…(動きをトレースし柔軟に俊敏に、物質構成を変えながら奴を仕留める!」

 

 

その構えは柔道の構えだったが、滲み出る恐怖を本能で察した奴は無防備に突撃を開始。

 

だが、その判断は間違っていた。

 

相手の胴着を掴み取り、相手の力と質量で投げ飛ばす動作。

 

所謂、背負い投げである。

 

 

「まだこんなもんじゃないわよ!!」

 

 

続けて連続殴打からの回し蹴りが炸裂し、ダゴンの顔面と顎を砕いた。

 

回し蹴りの時点で頸椎損傷をさせているが、回復能力もある程度あったらしく再び起き上がった。

 

 

「…(ここまでダメージを与えても回復する…何か促す物があるのか?」

 

 

ハスミは頭部ではなく肉体の方へ攻撃を開始し、とあるモノを探し当てた。

 

 

「あれか!」

 

 

巨人の腕によって切り裂かれた奴の肉体から出始めたナニカ。

 

ハスミはそれを逃さず、巨人の腕で奴から抜き取った。

 

 

「!?!?!??!?」

 

 

ナニカを抜き取られたダゴンは奇声を上げ、その肉体を維持出来ずに塵となって崩壊した。

 

 

「これが原因か…」

 

 

ハスミは抜き取った物体を確認した後、それを破壊した。

 

サラサラと砂になったそれは力を失い巨人の手から流れ落ちて行った。

 

紛い物の禍々しい魚神様は塵となって母なる海へと帰って行ったのだ。

 

 

「ジ・エーデル・ベルナル……必ず見つけ出してこの手で始末する。」

 

 

それが、巻き込んでしまった私なりの懺悔なのだから。

 

 

******

 

 

夜明けと共に異洲磨村の周囲を覆う霧は晴れ、日の光が辺りを照らし始めた。

 

上弦の鬼達は夜明けを迎える前に撤退した様だ。

 

入江の先の海に沈められようとしている隕石の塊。

 

それはハスミが使った血鬼術の触媒であった。

 

 

「沈めてしまったが、良かったのか?」

「過剰な戦力は余計な戦乱を招くだけよ。」

「人目に付け難いこの場所ならば、隠し通せると?」

「そうね、今の人の技術では水深数千と言う海の底に到達する事は出来ない。」

「お前が決めたのならそれでいいのだろう。」

 

 

冨岡らに異洲磨村の入り江に沈めた隕石の塊の件について問われた。

 

ハスミは余計な力は余計な戦いを招くだけだと告げて引き続き血鬼術を使って隕石の塊を沈めた。

 

 

「沈め終わったので村から出ましょう、忌まわしき村は静かに消した方がいいので。」

 

 

ハスミは宇髄と相談し、異洲磨村の急斜面になっている崖に爆薬を仕掛けて異洲磨村を埋める事にした。

 

住民無き村と忌まわしい風習の痕跡を消す為とは言え、致し方ない。

 

村から脱出した後、異洲磨村は爆破され静かな入り江が残るだけとなった。

 

せめてもの鎮魂の意を込めて慰霊碑とお経を上げて彼女らは去った。

 

この日を持って異洲磨村は地図上から消滅。

 

それはある意味で人類に静かな平穏を与えた瞬間でもあった。

 

 

~後日~

 

 

公式の記録で異洲磨村は局地地震による土砂災害によって全滅した事にされた。

 

後にあの海域を通る船舶に支障が出なくなった事で異洲磨沖は平穏を取り戻した。

 

そして娘子の失踪も無くなり、周辺の村々に活気が戻っていった。

 

事件に関わった柱達はお館様に事件の真相を説明し鬼の仕業ではない事を告げた。

 

更にお館様より事件中に鋼柱が目覚めさせてしまった血鬼術に関してはお館様の指示で使用禁止が決定された。

 

 

~更に数日後~

 

 

蝶屋敷にて…

 

 

「ん~おいしぃ!」

 

 

病室の一室でお見舞いの甘味(水羊羹)を取っていた甘露寺。

 

何時もの食欲も戻って来たので頃合いを見て機能回復訓練後に現場復帰する予定だ。

 

 

「一時はどうなる事かと思ったわ。」

「甘露寺さんが無事で良かったです。」

「そうね、何事も無くて良かったわ。」

「しのぶちゃんやハスミさん…皆に迷惑かけちゃったね。」

「甘露寺ちゃんが気にする事はないわ、なってしまったのは仕方がない事だから…」

「そうです、私達もそんな事が起こるなんて予想も付きませんでしたし。」

 

 

救助が早かった事で症状が出ていた甘露寺や娘達は調合された解毒剤によって完治。

 

経過観察で後遺症もない事から娘達はそれぞれの村へと返された。

 

甘露寺は最も症状が重かったので大事を取って現在も療養中である。

 

 

「伊黒さん達は?」

「男衆は全員、交代交代で甘露寺ちゃんの担当地区の見回りをしているわ。」

「甘露寺さんは安心して休んでくださいね。」

「うん、早く戻れる様に頑張るわね。」

 

 

開けられた病室の窓から夏の風が入り込み、風鈴を鳴らした。

 

チリンと。

 

 

=続=




IFルート・異洲磨村編その七(終)。


<補足>

異洲磨村はジ・エーデル・ベルナルが興味本位で作り出した実験場。
その過程で彼の手を離れた後、技術を学んだ一部の人間達が悪用。
その結果、異洲磨村は魚神を祀る村となり周辺の村々から娘達が失踪する伝説が生まれた。

娘達を使った実験は魚顔となった村民が血族を増やす為に必要だった為。
実際、ジ・エーデルが例の神話を元に制作した薬品が残っており利用されていた。
薬品自体は男性は誰でも適合出来るが、女性の適合者は一握りである。
…薬を阻害する成分を入れない限りは神話通りの薬品である事は間違いない。

魚神様の正体は魚神様と言う偶像を作る為に造った紛い物。
体内のコアを抜き取れば自然消滅するが、肉体維持の為に生贄=生きた生物の細胞が必要だった。

刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?

  • 木乃伊事件(不死川、伊黒)
  • 集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
  • 船舶沈没事件(宇随、煉獄)
  • 不在担当地区防衛(時透、甘露寺)
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