良くある結末である。
突撃、お宅の家庭事情
無限列車事件から一か月が経過。
暦は既に年越しの準備期間に入っている。
そんな私は鋼柱邸の暖房設備の改築中である。
「ふう、こんなものかな?」
鋼柱邸の裏側は主にこの空調管理室の他に離れの銃器管理用の武器庫や火薬精製の研究小屋も備えている。
危険ではあるが、普段はただの倉庫として偽装してある。
今回は空調&温度管理室のボイラーの点検だ。
炭治郎君は炭や薪を使わないのか?と言うが、安全な太陽光パネルを屋根に風車に偽装した風力発電を屋敷に通しているので大丈夫である。
このボイラーは屋敷中のパイプを伝って夏は冷水を通して冷房に、冬は温水を通して暖房にしているのでエコなのだ。
更に現代のドイツでも利用されている理想的なボイラーでもある。
ちなみに沸かした温水はお風呂にも利用中。
寒い冬に薪を利用したお風呂もいいが、時短で入浴出来るお風呂はいいものさ。
同時に炭治郎君の作ってくれた炭は基本炊事場用に使用しているので無駄にはしていない。
ここまではいいのだが…
「この屋敷、たまり場になりつつあるのは気のせいかな?」
天気が良かったので炬燵布団を干して電気炬燵を出したのだが、その便利さの噂によって釣られた数名が居る。
「はぁ、出たくない。」
「ぬくい。」
「こりゃあ、派手に便利だよな?」
「うむ、中々抜け出せん。」
柱が数名程、炬燵を囲んで出てこなくなった。
順に時透、冨岡、宇髄、煉獄の四名。
ご丁寧に台所から蜜柑まで出してきている始末だ。
物凄く、表情がたれぱ〇だ状態なのは気にしない事にする。
断りも無く人の家の…それも干したてほやほやの炬燵布団を掛けた炬燵でぬくぬくして蜜柑食べるって…
「…炭治郎君、撃っていいよね?」
「だ!駄目ですって!?」
武器庫からP90を取り出した私ことハスミに対して全力で静止させる炭治郎君。
うん、腕力は戻ったみたいだね…お姉さん安心した。
「ハスミさんの気持ちは解らなくもないですよ?」
「しのぶさん、判ってはいましたけど…静かすぎません?」
「それは置いといて、折角の楽しみを横から取るのはどうかと思いますし。」
炭治郎君が暴走しかけた私を抑えている間に栗花落カナヲと共に訪ねてきた胡蝶しのぶ。
ここまでの経緯を観察するとしのぶは結論を告げていた。
「しのぶさんは何の御用で?」
「炭治郎君達の様子見を兼ねて噂の炬燵を見に来ただけですよ?」
「断りを入れているだけでもマシだと思うしかないわね。」
「ちゃんとお見舞いの品も持ってきてますのでお茶にしませんか?」
「そうするわ…ボイラーの点検も終わった事だし。」
~半刻後~
鋼柱邸の一室、先程の炬燵を置かれた部屋とは違う部屋に来客であるしのぶ達を通して一服していた。
こちらの部屋は先程の温水を通したパイプによる暖房設備でホカホカになっている。
「しのぶさん、カナヲちゃん、足元寒かったら横の籠に入った膝掛けを使ってね。」
「わざわざすみません。」
「…(コクリ。」
ローテーブルの横に置かれた籠。
カナヲは籠の中に入っていた花柄の膝掛けに興味を持った様子だ。
「カナヲちゃん、その柄が気に入ったの?」
「///」
「カナヲ、正直に答えて大丈夫ですよ?」
カナヲが籠から取り出した花柄の膝掛けは白の下地に紅い花が描かれている。
花は寒椿であり、最近見頃を迎えたばかりの花だ。
「とても綺麗だなって…思った。」
「良かったら、残りの生地で作って蝶屋敷に持って行ってあげるわよ?」
「えっと…」
「カナヲ、良かったですね?」
「はい、師範。」
「後でカナヲちゃんの分の他にアオイちゃんやなほちゃん達の分も見繕って置くわね。」
「いつもすみませんね。」
私は『日頃からしっかり働いているあの子達へのご褒美ですよ。』としのぶにヒソヒソと話して置いた。
「話の筋を折ってしまったけど、用件は炭治郎君達の事だけではないのでしょう?」
「ええ、ハスミさん……先の任務で上弦の弐と交戦したと聞きましたが?」
しのぶさんの言う通り、無限列車事件後の二週間目に私は上弦の弐と遭遇し交戦した。
本人は偶然だったらしく、ある程度戦った後に撤退。
私としては取り逃がしてしまったが正しい。
その事でお館様からお咎めは無しで上弦の弐の情報公開とその対応策を練る様にと指示されている。
で、調査の結果。
炭治郎君から聞いていた通り、奴は数百人規模の宗教団体・万世極楽教の教祖だった事が判明した。
流石に一般人扱いされており、巷で有名な教祖であると知れ渡っている以上は下手に手を出せない。
オマケに一部の政府高官からも贔屓にされているので余計なのだ。
「そうだけど?」
「詳しい話を聞かせて貰えませんか?」
「…しのぶさん、あの変態の事を知っているの?」
「はい、私の姉の仇ですから。」
「…判ったわ、こっちで判明した範囲だけでいいかしら?」
「お願いします。」
私はしのぶの心情を考慮し上弦の弐の情報を整理した上で答えた。
「正直に言えば、奴の血鬼術は呼吸を使う鬼殺隊にとって天敵よ。」
「天敵ですか…」
「奴は自身の血を媒介に周囲の水分を利用して氷にする血鬼術、その氷が体内に入れば瞬く間に呼吸を封じられる。」
現時点で上弦の弐が現在のポジションに居られるのも教祖としてのカリスマ性だけではなく血鬼術もあってだろう。
「呼吸で戦う鬼殺隊にとっては呼吸を封じられれば、どんなに鍛えても普通の人間と同じ状態…だからこそ対策は必要だと思ったわ。」
「それは私の毒や貴方の鉄砲や爆薬でと言う事ですか?」
「そうね、もう一つ問題は奴の解毒速度よ……中途半端な毒の濃度では奴に解毒されてしまう。」
「高濃度の毒が必要と?」
「それは追々調べていきましょう、奴に確実に仕込む手段も含めてね?」
「判りました。」
それから周囲が聞けばガタブルする発言がいくつかあり、締めくくりにハスミはしのぶに答えた。
「そう言えばハスミさん、呼吸を封じられたのならどうやって退けたのですか?」
「あ…あの変態糞野郎なら顔面に銃弾数十発叩き込んだ後でナパームで黒焦げにして股間に数回蹴り入れて置いてやったけど?」
「まあ、それだけではないのでしょう?」
「勿論、菫外線手榴弾と破片手榴弾を収束させたお土産爆弾をお見舞いしてやったわ。」
「それでその後はどうなりました?」
「両目に目掛けて五寸釘をぶっ刺して顔面殴打したらヒーヒー言いながら逃げるし、頸切ろうと追いかけたら敵の血鬼術でかく乱の上に撤退されちゃったのね。」
追跡時に陣代高校の用務員さんよろしくのチェンソーで追っかけたのは言わないで置く。
「それは残念でした……後でお土産爆弾の使い方を教えてくださいね?」
「勿論よ、丁度…妨害用の強力な臭気剤と麻痺煙幕も試したばかりだったからそれもね。」
禍々しい気配を出しながら、ニコニコと物凄く物騒な会話を続けるハスミとしのぶ。
カナヲは?マークを浮かべながら良く分からずに静聴していたが、隣の部屋から盗み聞きしていた炭治郎達は顔を青褪めさせながらガタガタしていた。
順に炭治郎、宇髄、煉獄、冨岡、時透は心の中で先程の会話に対して呟いていた。
「…(ハスミさんの爆弾攻撃がしのぶさんにも浸透している。」
「…(胡蝶まで爆薬使うのかよ、俺の派手さが遠ざかっちまう。」
「…(う、うむ…いくら鬼でもその場所の蹴りは痛いぞ。」
「…(ガタガタガタガタ。」
「…(何か楽しそう。」
教訓、敵に回してはいけない人材に危険物を渡してはならない。
~年末まで二週間~
鋼柱邸から離れた訓練場にて。
「おーい!」
「あっ、玄弥久しぶり。」
「炭治郎も元気そうだな。」
訪ねてきたのはモヒカンの様なヘアスタイルの少年、不死川玄弥。
風柱こと不死川実弥の実弟である。
「今日も鉄砲の訓練?」
「ああ、鋼柱…ハスミさんがいつでも訓練していいってお墨付き貰ったし。」
「悲鳴嶼さんはいいとして…玄弥のお兄さん、相当怒っていたから大丈夫かなって。」
「思い出させるなよ、あれで兄ちゃ…兄貴が血管切れる位に喧嘩し始めたし。」
心配した顔で話す炭治郎とゲッソリと表情を青くした玄弥。
これは無限列車事件から一週間後に起こった騒動。
その日、ハスミは玄弥の修行内容で岩柱こと悲鳴嶼より相談を受けた。
ハスミは剣技に限定するのではなく、形を替えてみたらどうかと話した。
その後、玄弥には木製の様々な得物を使用して貰って自身に合う戦術を試して貰った。
結果、玄弥は鉄砲などの銃器に才がある事が判明したのだ。
これに関して首を突っ込んできたのが風柱だったのである。
風柱は弟を鬼殺隊から除隊させたいようだったが、岩柱の説得とハスミの弟を野放しにした場合の危険性を告げるも頑固として了承しなかったのである。
で、ハスミがブチ切れて『そんなに野放しにしたいなら、君の弟君を私の弟君にしちゃうけどいいかしら?』と発言。
その場の地形が変形を起こす位の柱同士の素手バトルが勃発。
『さっさとくたばれや、この大猿女!!』
『黙れ、このわんわん犬が!』
『誰が犬だぁ!?』
『犬じゃないわね、屑虫の方が良かったかしら?』
『けっ、今に吠え面かかせてやるぜぇ!!』
『減らず口は上弦の壱と対戦した私に勝てたら言いなさいよ?』
と口汚い言い争いも起こしていた。
暫くしてからお館様の鴉によって仲裁が入った。
玄弥の処遇は可能性があるのなら別の戦術で隊士を増やしたいと言うお館様の指示によって風柱の介入を禁止し岩柱と鋼柱の元での修行が決定した。
風柱はお館様より『弟を危険に晒したくないのは解るが、少し頭を冷やしなさい。』と釘を打たれた。
現在、玄弥はお館様の命令によって特注の日輪銃を扱える様に日々訓練しているのである。
「炭治郎君、もしだったら貴方も投擲の練習をして置く?」
「いつもの修行じゃなくてもいいんですか?」
「戦場は常に空気が変わりやすいから、他の技術を学んでおいて損はないわよ?」
「はい、判りました。」
正直言うと炭治郎君の投擲技術はずば抜けている。
神楽をしているからだろうが、刀の技量に合わせて投擲の技術も向上していた。
これはある意味で戦局を変えてしまう切り札になる日が来るだろう。
「炭治郎君…炎柱の継子の件、正式に受けるのでしょう?」
「はい、ハスミさんには何時もお世話になっているのにすみません。」
「それはいいのよ、貴方には貴方の目指す道があるのだから止める事はしないわ。」
「ハスミさん…」
「まあ、行くには…私の出す卒業試験を合格してからの話だけどね?」
卒業試験とは?
これは私がかつて修行していた『梁山泊』と呼ばれる場所でやった卒業試験と同等の内容である。
時間内に指定された行程を全て出来れば合格と言う至ってシンプルな説明だが、問題はその内容だ。
それは砂時計が流れ切るまでに指定された道筋を通り、最終場で待ち構えている私を倒す事。
現時点で卒業者は出ていない。
面白半分で他の柱達もやっているが、誰もが時間切れで成功していない。
戦術に呼吸を使っている以上は長期戦に耐えられなければならないからだ。
砂時計の時間は約十三時間で落ちる様に設定してある。
これはヒノカミ神楽の一晩中踊り続けると言う点を応用した為だ。
成功した場合『透き通る世界』、『疲れない呼吸・応用版』、『新たな呼吸の型』のいずれかを習得出来る様になっている。
寿命を短くしてしまう痣者にならない様に配慮はしているが、どう足掻いても痣の発現者は出てくるだろう。
この件で珠世さんにも話をし痣者の延命方法を模索している。
決戦前に見つかればいいのだが、そうはいかないだろう。
「私も半分鬼じゃないし、偶に炎柱邸に行きたい時は事前に言ってね?」
「…ハ、ハイ。」
「炭治郎、が…頑張れよ。」
「…ありがとう、玄弥。」
同じ様に卒業試験を受けて鬼殺犬のゴンタとゴンスケに噛み付かれてギャーギャー騒いでいる善逸と罠に嵌って気絶した伊之助の姿を余所に炭治郎は顔を青くしながら力なく答えた。
通算十回目の不合格の事であった。
=続=
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)