罵倒する声。
唸る機械音。
遠い眼が三つ。
そして、新たな鬼の噂。
鬼狩りを続ける一方で遂に年が明けた。
私ことハスミがこの時代に流れ着いてから三年目の年明けである。
ジ・エーデルに関する碌な情報が手に入らないまま、鬼狩りを続けていた。
そして…
******
「黙って人の話を聞かないのか……このジジイが?」
私は炎柱、炭治郎君と共に炎柱邸を訪れた。
理由は煉獄家が所有する炎柱の書を閲覧する為である。
炭治郎君の記憶通りなら炎柱の書に記載されていた『始まりの呼吸』に関する部分は読めなくなっているだろう。
ま、成り行きに任せる事にしようとしたが…
人の話は全く聞かないわ。
炭治郎君や炎柱を一方的に罵倒するわ。
聞いててイライラしてきちゃった。
んで、流石の私も煉獄父の態度に二度目の堪忍袋の緒が切れた訳ですわ。
「お、お前は!?」
「どうも、この間は随分とお世話になりましたね?」
「…」
「前に炭治郎君の頭突きを喰らっても、まだ態度を改めない様で?」
顔は笑っているが、滲み出る気配が尋常ではなかった。
前回は酒が少し回っていたせいで油断した煉獄父だったが、今度は何が在ろうと対応出来ると踏んでいた。
だが、鬼殺隊で噂される巨躯の鬼退治専門の柱である事がどう言う意味を持つのか改めて思い知るのである。
「ちょっと、楽しいお話しをしましょうか?」
ハスミは絡繰り箱からあるモノを取り出した。
それは善逸用に脚力強化の修行で使っていたチェンソーである。
塩で湖の街からこんばんはwなアイスホッケマスクも常備していた。
「な、なんだそれはーーーーーー!!!!!」
「只の森林伐採用の電動鋸ですけど?」
ハスミが機材が出ている紐を引くとエンジン音が響き渡る。
これを使用した修行を見た事のある杏寿郎は青褪めた表情で父親に告げた。
「父上、念の為に言いますが…………………………………本気でお逃げください。」
だが、時すでに遅し。
煉獄父はハスミのチェンソー追跡に巻き込まれて逃走を開始。
その様子を残された三人が遠い眼で見送った。
「相変わらず、凄い人ですね。」
「うむ、鬼殺隊に入隊する前に無惨と遭遇しここに居る炭治郎と共に一夜掛けて生き延びた経緯があるぞ。」
「えっ!?」
兄の杏寿郎の発言に驚愕する弟の千寿郎だったが、二度も強烈な光景を見ているので言葉通りなのだろうと納得していた。
続けて兄に対して質問を続けた。
「あの…あの方本当に人ですよね?」
「正確には違うぞ、クジョウは鬼舞辻無惨によって鬼にされたが…半分人で半分鬼と言う稀な変化をしている。」
「えっ?」
「成り損ない故に人と同じ様に太陽の元へ出る事や鬼の様な力を振るう事が出来るんだ。」
「つまり…あの人は半人半鬼。」
千寿郎の言葉に少し動揺する炭治郎だったが、杏寿郎はそれを覆すように告げる。
「だが、俺達の仲間である事は変わりない。」
「…煉獄さん。」
「君や君の妹、そして彼女に救われた命だ…俺は君達を認めている。」
「はい。」
形は変わってしまったが、認められた事に炭治郎は安堵の表情で答えた。
その後、三人で炎柱の書の件で話し合いをしたものの…
炎柱の書の『始まりの呼吸』に関する部分は煉獄父によって損壊。
千寿郎が出来得る限りの範囲で修復する事に決定した。
更に杏寿郎は炎柱の書の件で逃げ帰ってきた自身の父と殴り合いをし、流れ流れで腹に抱えていたものを一気に吐き出す結果となった。
死去した母親の最後の言葉。
抱え込んでいる事を家族として告げてくれない不満。
派生であれ、生まれた呼吸は呼吸に変わりない。
それぞれの呼吸に変わりなどいない。
生まれた呼吸にはきっと意味があるのだと告げた。
殴り合いの後、煉獄父は酒瓶を持って自室に引きこもってしまったがその表情は何処かすっきりしていたそうだ。
一歩ずつだが、願いはまた一つ叶えられたのだ。
>>>>>>
先の出来事から数週間後。
京都・大阪方面への捜査指令が届いた。
人目に付きにくいビル街の屋上から街の様子を見ていたハスミと鎹鴉の叙荷の姿があった。
「叙荷、指示は何て?」
「京の街と大阪に顔はズタズタに切り刻んで内臓だけを抜いて殺害するって猟奇事件が起きているから調査してくれだってさ。」
「内臓か…犠牲者は?」
「主に若い女の子、若しくは顔立ちが美人って評判の女性だってさ。」
「まるでジャック・ザ・リッパーみたいね、ま…あっちは娼婦が標的だったけど。」
「お嬢、その話も後で聞かせてくれよ。」
「あれは未解決事件の上に伝承話、あんまりいい話じゃないわよ?」
「異国の話なら俺様大歓迎だぜ!」
「君は本当にそう言う話に首突っ込むの好きだね?」
「俺様、異国文化が大・大・大好きだもん。」
叙荷のアレは物珍しさに眼を輝かせる旅行者と同じタイプだね。
「さてと、事件の情報を集めますか…」
大阪、京都間を行き来し情報を集めた結果。
事件発生の間隔は週に二回の三日置き。
真夜中や人通りの少ない場所での犯行。
大阪もそうだが、京都の五条橋下の遊郭でも同様の事件が起きていた。
警察も犯人の手がかりになりそうな証拠は発見出来ておらず八方塞がりの状況らしい。
被害が広まる一方の為に大阪、京都の警察間で合同捜査に踏み切ったとの事だ。
で、京都に在住する藤の家紋の家の一人が警官をしているとの事で秘密裏に被害に遭ったご遺体を見せて貰う事になった。
ちなみに検死解剖後のどキツイご遺体様です。
「…成程。」
調査した結果、内臓部分は抉り取られたのではなく内臓だけが強力な力で吸引された為に内壁が壊死し捲れていた。
これは人の手で出来る犯罪ではない。
恐らくは鬼の仕業だろう。
「生きたまま内臓を吸われたのか。」
今の死者の顔は既に眠ったようにされているが発見当時は酷い形相だったそうだ。
私は藤の家の警官に礼を告げた後に裏口から警察署を後にした。
「生き肝を喰らう悪食の鬼か…だとすると。」
私はピックアップしていた鬼の出現する可能性のある場所へと向かった。
>>>>>>
「よくも、私の邪魔を…!?」
「おやおや?急に黙って、どうかしました?」
夜の帳に響く筈の銃声音。
それは拳銃に付けられた遮音性の筒で遮られた。
放たれた銃弾は鬼の首を掠めて地面に突き刺さった。
「その眼帯は、お前は……成り損ない!?」
「被害者たちの生き胆を喰らっていたのはお前か?」
案の定、京都の五条橋下の遊郭で新たな被害者の生き胆を喰らおうと襲っていた。
木を隠すなら森の中。
遊郭の暗い路地裏で絡み合った姿を見れば、下種な考えの人はお外で褥事と思うだろう。
だからこそ発見が遅れてこのような状況に陥ったのだ。
「美が失くなれば捨てられる女子を喰らって何が悪い?」
「たとえ若さとか美しさが失くなっても愛し続ける人もいる。」
「偽善者め。」
「どっちが?」
「まあいい、お前を喰らえば私は十二鬼月に!?」
「そう言う無駄な妄想は地獄で。」
鬼が動くのと同時に鬼の首は既に切り裂かれていた。
「!?」
被害者を襲っていた鬼は遊郭の遊女に擬態した元陰間の鬼だった。
陰間とは男娼…つまり美少年版の娼婦の事。
使い物にならなくなったのか年齢が訪れて棄てられたのだろう。
生きる為に必要な知識や技術を身に付けなければ生きられない時代。
この時代、一部を覗けば誰でも生まれを憎みたくなるだろう。
それだけ人の心は荒み始めているのだ。
「くそ…もっと力を付けて、吉原の十二鬼月を…」
「吉原?」
陰間の鬼は最後に呟くと静かに消えていった。
襲われた女性は気絶はしているものの無事である。
協力者である警官を鎹鴉で呼び出して保護して貰った。
今回の切り裂き魔事件は逮捕直前の犯人が首を切って河に身を投げた事にして貰い、終わりを告げた。
公式記録で『切り裂き魔事件終息・犯人死亡』と翌日の朝刊に掲載された。
「叙荷、お館様に急ぎ報告を。」
「事件解決したって言うのに、お嬢…一体どうしたんだ?」
「吉原の遊郭に十二鬼月が潜んでいる、しかも音柱の管轄でくノ一の奥方達が現在進行形で潜入している。」
「そいつはヤベェ話だ。」
「今回の事件の詳細と一緒に、急げ!」
「あいよ!超特急で行ってくるぜ!!」
叙荷はハスミの指示を聞くと東に向かって飛び去っていった。
「炭治郎君、君の言う事件は早期に起こるわ。」
これは遊郭事件が始まる一ヶ月前の事だった。
=続=
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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