鋼の魂と共に   作:宵月颯

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目処前の標的を追って殲滅した。

後は残された脅威と戦うだけ…

ただ、それだけだった。



乱入する脅威

 

 

 

******

 

 

その戦いの場には言葉は無かった。

 

夜の闇に響き渡る銃声音と一定の感覚で聞こえる呼吸音。

 

時々、轟く爆撃音。

 

花街の家屋は既に奴の巨体によって区画の半分が全損していた。

 

戦場ではよくある事、それだけだ。

 

家屋は直せばいい、命あっての物種である。

 

 

「…」

 

 

前よりも耐久性が上がっている。

 

それでも油断はしない。

 

ただ目処前の巨躯の鬼を打ち貫き切り裂くだけ。

 

それだけでいい。

 

 

「キシャァアアア!!!」

 

 

奴は狙っていたのだろう。

 

この花街を訪れる客人や遊郭の人々を喰らう為に。

 

地の底で頃合いを見ながら這い出る時を。

 

だが、誤算だったわね。

 

お前が空腹で我慢が聞かずに這い出てくる時を待っていた。

 

その空腹ではお前の巨体は維持出来ずに若干残る理性も失い暴れるしかない。

 

さあ、お前が求める餌はココだ!

 

但し、喰われるつもりもないけど?

 

 

「っ!」

 

 

ダラダラと体液を口腔から垂れ流し、目処前の餌に喰らいたい。

 

膨大な空腹の余りにそれだけが本能によって支配されていた。

 

巨大なワームと化した蚯蚓型の巨躯の鬼は更なる突撃攻撃を繰り出す。

 

クワセロ、クワセロ、クワセロ!!と言葉を発したい様に。

 

 

「そろそろ茶番は終わりだ。」

 

 

巨躯の鬼に向けて言葉を発したハスミは自らの日輪刀を抜いた。

 

自身よりも重心が重い巨刀。

 

それを片手で振り回して構えを取った。

 

再度の突撃を開始した巨躯の鬼は無数の牙で埋まった口腔を開けて彼女を呑み込もうとした…

 

 

「腹を減らしてだらしなく口を開ければ喰えると思ったのか?」

 

 

口元から漏れる呼吸は鋭く鋼の如く。

 

 

「鋼の呼吸……参ノ型・覇鋼。」

 

 

相手の突撃に逆らう様に巨刀の斬撃が巨躯の鬼の巨体を横一閃に真っ二つにした。

 

それは巨体に潜んでいた核となる鬼の頸をも切り裂く。

 

魚の三枚おろしの様な見事な断面図となった巨躯の鬼の死骸が崩落した花街に遺された。

 

グズグズと音を立てて消えていく巨躯の鬼の死骸。

 

消化器官には消化途中だった遺体の残骸が漏れ出ていた。

 

恐らくは巨躯の鬼の移動道中で運悪く喰われたのだろう。

 

 

「…」

 

 

ハスミは死骸に向けて合掌し死者の冥福を祈った。

 

 

「上弦の鬼が高みの見物?」

 

 

ハスミは背後から感じ取った気配に対して告げた。

 

その言葉を返したのは無限列車事件で戦った上弦の壱。

 

 

「戦いの邪魔になる者をお前が片付けるのを待っただけだ。」

「…(遠回しに言えば正々堂々と戦いたいか、こっちが貧乏くじを引いた感じもしなくもないけど。」

「あの方より貴様を確実に捕らえよと命じられた。」

「黒死牟の他に来ていたのは感じ取ったけど、上弦の鬼が成り損ないの鬼相手に二対一で戦う気なのかしら?」

 

 

倒壊しかけた木製の電柱に立つ猗窩座に対してハスミは答えた。

 

 

「俺は女の相手はしない…っ!?」

「戦場に出れば、老若男女問わず関係ない……貴方の発言は侮辱にしか聞こえない。」

 

 

ハスミは拳銃で威嚇射撃をし猗窩座の頬を掠める程度に放った。

 

戦場は男だけのものではない、巻き込まれれば女子供老人すら兵士と成り得る。

 

言葉通りの戦場を見たハスミは侮辱であると猗窩座に答えた。

 

彼の言葉に対して黒死牟は六眼を伏せて答えた。

 

 

「失言だったな、猗窩座。」

「…」

「その者の言う通り、性別問わず覚悟を決め…戦場に出ている者に対して侮辱に当たる。」

「話の分かる人ね、身なりから察するに元武将?だったのかしら?」

「…とうに昔の事だ。」

「こちらも失言でしたね、失礼した。」

 

 

互いに、一度刀を交えている事から相手の力量を見極めての発言。

 

ハスミは自身の発言により目元を一瞬動かした黒死牟の動きで真実だと見極めた。

 

それは対人戦だけではなく兵を動かす為の戦術の知識を持ち合わせていると判明した為である。

 

 

「…堕姫、上弦の陸と戦っているのはあの時の柱共か?」

「言わずとも、そちらも気配で分かるのでは?」

「猗窩座。」

「判っている、杏寿郎との戦いは目処前の女を捕らえてからだ。」

 

 

ハスミは『炎柱、めっちゃストーカーされとるやん。』と心の中で思いつつ猗窩座の心を揺り動かす言動を告げた。

 

 

「そうして貰えるかしら?炎柱はまだ燃え上がり始めた火種程度だから。」

「杏寿郎が火種だと?」

「彼はもっと成長する…本当の意味で煉獄と言う焔を巻き上げる様に。」

「何故、貴様が答える事が出来る。」

「彼が改善すべき点を遠回しに告げたからよ、その答えに辿り着いた時…炎柱は貴方が求める至高の果てに達する。」

 

 

彼が目指す炎はただ燃えるのではない、不死鳥の様に再生と浄化を司る炎なのだから。

 

まあ、どっちかと言えば彼は燃え盛る虎の方が似合っているけど。

 

 

「その時、貴方は彼と対等に戦えるのか見物だけど?」

「成程、上弦の壱がお前を認めた理由が判ったぞ。」

「どういう事かしら?」

「お前もまた戦いを喜ぶ狂人に過ぎないからだ。」

「そうね、狂人呼ばわりは失礼だけど…間違ってもいない。」

「?」

「私は私、ただそれだけよ。」

 

 

判っている。

 

心の何処かで戦いを喜んでいる自分が居る事を。

 

あの人と繋がった日にそれを自覚した。

 

守りたいが故に自分自身が狂人へと変貌していくのが理解出来た。

 

それは生きる事こそが戦いだからだ。

 

但し、相手の命を軽んじる事はない。

 

目処前の戦闘狂を覗いてはだけど…

 

 

「まあ、私自身が狂人呼ばわりされる日が来るとは思わなかったけど…」

「油断するな、猗窩座。」

「!?」

「音柱じゃないけど苛烈に行きましょうか?」

 

 

若干笑いながらハスミは隊服の上に着ていた羽織と白い和服を脱ぎ捨てた。

 

脱ぎ捨てた白い和服のみは地面をめり込ませる様に沈んでいった。

 

先程まで巨躯の鬼相手に錘を付けた状態で戦っていた事になる。

 

そして音柱と同じ袖なしの隊服だけの姿なった。

 

 

「日の出を迎えるまでどちらが撤退するかの我慢比べをね?」

 

 

=続=





※蚯蚓の巨躯の鬼

全長二㎞、胴回り二mの巨躯の鬼。
活動エリアを絞るなら鳥取砂丘の様な砂漠地帯が好ましいが現在の日本列島にそのような場所は限られているので地盤が緩くなったエリアに放たれた。
空腹時以外は地面の中で休眠しているが、空腹時は街一つ呑み込む事が可能な食欲を引き出す。
ジ・エーデルは最初帝都に放とうとしたものの主人公が同行した鬼狩り達が遊郭へ向かっている事を察知しそちらへ移動させた。
彼曰くどちらの勝敗構わず面白可笑しく引っ掻き回せれば良かったらしい。

刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?

  • 木乃伊事件(不死川、伊黒)
  • 集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
  • 船舶沈没事件(宇随、煉獄)
  • 不在担当地区防衛(時透、甘露寺)

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