鬼狩りを目指す者が集う。
七日間における生と死の牢獄。
真の意味で生と死を賭けた戦いが始まる。
最終選別の地、藤襲山。
一年中藤の花が咲き乱れる山。
鬼にとっては牢獄と化す場所。
鬼滅隊に志願する者はここで最終選別を生き抜き鬼狩りとなる。
生と死の狭間、夜と言う闇の世界で戦う為に過酷な試験となるだろう。
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藤襲山へ向かう前の事。
私ことハスミと炭治郎君は鱗滝さんより最終選別に向かう為の衣服と厄除の面を渡された。
鱗滝さんと同じ羽織は葵枝さんら竈門家の人達が修行中の私達の為に作ってくださったのだ。
自分達は祈る事しか出来ない。
無事に帰ってこられるようにと丁寧に縫われていた。
厄除の面は鱗滝さんが最終選別に向かう弟子に渡すお守りだそうだ。
炭治郎君のは日輪が描かれ、私のは睡蓮の花が描かれていた。
どうやら私が着ていた羽織から睡蓮が好きなのだろうと思ったらしい。
師匠ながら、弟子の事を良く見てくれているなと思った。
「では、行って参ります。」
「うむ、気をつけてな。」
「兄ちゃん、頑張ってな。」
「おう、竹雄…母さんと禰豆子達の事を頼むな。」
「任せてよ。」
狭霧山の山小屋の前で出発の挨拶を交わした。
「炭治郎、ハスミさん、気を付けて。」
「ありがとう、母さん。」
「はい。」
花子、茂、六太に『いってらっしゃーい!』と元気に手を振られながら私達は狭霧山を下山した。
炭治郎君は去り際に鱗滝さんに『鱗滝さん、いってきます!錆兎と真菰によろしくと伝えてください!』と告げた。
「炭治郎、何故お前が…」
炭治郎の告げた名前に反応し『…死んだあの子達の名を知っている?』と鱗滝は呟いた。
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狭霧山を離れて数日後。
私達は試験会場である藤襲山へと到着した。
名の通り、藤が咲き乱れる場所であり柱で囲った広場の前では他の育手の元で修行をしていたと思われる候補生達が集結していた。
その殆どが炭治郎君と同じ年代の男子が多く、女性は私と蝶を指先に止まらせた少女位だ。
人数はざっと二十一名。
鳥居の前に提灯を携えた少女達より最終選別の説明が始まった。
「皆様、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。」
「この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり外に出る事はできません。」
「山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中狂いて咲いているからでございます。」
「しかし、ここから先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。」
「この中で七日間生き抜く。」
「それが最終選別の合格条件でございます。」
「では、いってらっしゃいませ。」
少女達の説明が終わるのと同時に候補生達は山の中へ駆け上がった。
私は炭治郎君に後から追いつくからと話して最後に残る形で入った。
入る時に少女達に告げて置いた。
「逃げなさい、この山の奥から鬼とは異なる得体の知れない気配がする…場合によっては候補生達の全滅もあり得るわ。」
と告げてから奥へと進んだ。
「あの方は…」
「お館様に文を送りましょう、あの方の言葉が本当ならば何かが起こる筈です。」
少女達は狐の面を付けた女性の言葉を信じて鬼殺隊本部へ急ぎの文を出した。
だが、文を出したものの鬼殺隊の柱は各地の担当区域に出現した謎の鬼と交戦中との事で動ける柱がいなかった。
鬼滅隊設立史上最悪の事態が着々と候補生達の足元に忍び寄っていた。
「炭治郎君!」
「ハスミさん!」
「無事の様ね。」
飢餓状態の鬼を切りながら炭治郎君の気配を追い、ニ~三体切った所で合流する事が出来た。
「はい、所で何かあったんですか?」
「山の奥の方で鬼の他に妙な気配がしてね…炭治郎君も鬼と異なる妙な臭いがしない?」
「いえ、まだ何にも。」
「そう、となるとまだ動いていないって事か…」
「?」
鬼の気配に混じって異様な気配が動かずに山の奥地で陣取っていた。
基本鬼は群れない。
では、鬼と異なる何か?と推測した。
「炭治郎君、貴方の言う手腕が発達した異形の鬼を倒した後…私はその気配を追うわ。」
「だったら俺も…!」
無茶をする炭治郎君に対して私は正論で静止させた。
「まずは様子見、私が偵察して一緒に倒せるのなら協力してくれればいい。」
「わ、判りました。」
私は戦闘を行う際に必ず偵察と調査と考察と対応策を練る。
土壇場だったら戦闘中に調査し弱点を見つけるだけだ。
無用な犠牲を出す事はしないしさせない。
私は自身の命がある限り、出来得る事をするだけ。
炭治郎君の無茶ぶりは二年間の修行生活で身に染みて理解しているし。
神様レベルで本人無自覚のド天然タラシである事も危惧していた。
「…(竹雄君も禰豆子ちゃんもこの炭治郎君の天然タラシで頭抱えていたものね。」
私は軍属時代の同期だった幼馴染を思い浮かべてしまった。
飲んだら即気絶確定の特製栄養ドリンクが懐かしいわ。
「この腐った匂い…ハスミさん、奴が来ます!!」
「っ!?」
炭治郎君の嗅ぎ取った鬼の匂い。
それは鱗滝師匠やその弟子達の因縁の相手。
通称、手鬼である。
「また来たな、俺の可愛い狐が…」
無数の手に捕まれた候補生らを救助し逃がしてから私達は体制を立て直した。
かなり怯えていた様子だったし逃がした二人は再起不能だろう。
「狐小僧、今は明治何年だ?」
「今は大正時代だ!」
炭治郎が答えるとこの某御大将ボイスの鬼は叫び狂った。
「アァアアアアア!!!?!?年号がぁ!?年号が変わっている!!」
憤激し足で地面を抉る様に地団駄を踏む。
「まただ!!また!!俺がこんな所に閉じ込められている間にアァアアア!!許さん!許さんんん!!」
怒りで己の腕を血が滲むまで掻き毟っていた。
「鱗滝め、鱗滝め、鱗滝め、鱗滝めっ!!!」
「お前が鱗滝師匠が捕まえたと言う鬼か…!」
「そうさ、忘れもしない四十七年前…アイツが鬼狩りをしている頃だ。」
「四十七年前…江戸時代の慶応の頃ね。」
恐らくこの鬼は蟲毒と同じ原理でここまで異形化したのね。
鬼も人の変化前…鬼同士の共食いで飢餓を補う事で無数の無惨の血が巡り、より強い力を増す事が出来る。
奴はこの藤襲山と言う壺の中で生き残った呪詛そのもの。
「何人喰った…?」
「五十人近くだ…十三、お前と女で十四と十五だ。」
「まさか!?」
「俺が喰った鱗滝の弟子達の数だよ…そこの餓鬼とお前で丁度十五人目だ。」
奴は『鱗滝の弟子は必ず俺が殺して食ってやるって決めているんだ。』とニタニタ口元を隠しながら笑っていた。
その中で真菰と錆兎の最後も聞かされた。
狐の面は奴にとっての目印、これまでに十三の兄姉弟子が奴に喰われたのだ。
「炭治郎君、遠慮はいらないよね?」
「はい。」
呼吸が鋼の様に固く鋭くなる。
呼吸が清らかな水が熱く燃える。
互いの呼吸の方法は違えどそれは目処前の鬼を倒す為に剣技が煌めく。
「私から行く……鋼の呼吸、壱ノ型・裂鋼っ!」
鋼の如く地面を抉り地中に奥の手を隠した手鬼の手腕を土塊ごと切り裂く。
その反動で吹っ飛ばされた手鬼の頸を隙の糸が張り詰めた。
「水の呼吸、壱ノ型・水面切りっ!!」
水面の一閃が手鬼の頸を切り裂いた。
鬼を前にしても怯まず呼吸も乱れない。
彼らにあるのは覚悟の違い。
恐れず前へと進む決意の表れだった。
「…(借り物だけど打刀サイズの刀では私の呼吸に合わない。」
かつては連撃による手数を増やす剣戟を使っていた私だったが…
鬼化の影響によって力の反動が強くなってしまいかつての剣戟が使えなくなってしまった。
極端に言えば鬼化の過程で生まれた鋼の呼吸は巨大な太刀や巨剣による一撃必殺の為の呼吸。
火器はその補助に当てる戦法にすべきだろうと私は思った。
そんな考えをしていた横で炭治郎君が頸を切られ消え逝く手鬼の手を握り祈った。
次に生まれ変わる時は人間でありますようにと…
「!?」
手鬼が消えたの同時に響く地響き。
「ハスミさん!」
「構えて炭治郎君、来るよ……私が感じていた気配の源が。」
こちらに向かって広がる気配と異様な匂い。
それは先程の手鬼達とは比べ物にならなかった。
「あれは…!」
眼で目視した異形。
それは先の手鬼よりも大きく異形で湧き出る不快な気配。
一言で表すなら化け物と表現してもいい存在。
詳しく表現するなら狼と猪を掛け合わせた四足歩行の化け物。
それが獲物を見つけるのと同時に口元からだらしがない位の涎を垂らしていた。
地面に落ちた涎は地面を溶かし草木へ飛び散り腐食させていた。
こんな化け物が他の候補生の元へ向かったら試験処か大パニックを引き起こす。
「この匂いは…?」
「炭治郎君、アイツから無惨の気配がする……もしかすると奴と関係があるかもしれない。」
炭治郎君の話になかった余りに巨大な異形の鬼。
恐らくは私と言う異物が入り込んだ事で生まれた存在。
確実に無惨にとっての不確定要素を倒す為だけに生まれた自我無き化け物。
「覚悟は?」
「もう出来ています、行きましょう!!」
「判ったわ!」
流石に油断は出来ないので仕込んでおいた手榴弾のいくつかを奴の口に目掛けて放り込む。
奴は咀嚼して破壊しようとしたが、圧力による爆破の影響で奴の口元が木っ端微塵に弾け飛び夥しい血が流れていた。
「ガァアアア!?!?」
続けて炭治郎君と連携し半々で奴の四足の筋を狙う。
俗に言う動き封じである。
足の顕を切られた事で奴の巨体は地面に転がり再び奇声を上げた。
「ハスミさん、一緒に奴の頸を!」
「ええ!!」
二人は型の中で最も重い剣技を奴の頸に向けて放った。
「水の呼吸、捌ノ型・滝壺っ!!」
「鋼の呼吸、参ノ型・覇鋼…!」
双方共に上段から打ち下ろす剣技であり威力はその倍である。
その剣圧が異形の鬼の頸の肉と骨を抉り砕き切り落とした。
日輪刀が弱点なのは変わらないが、大きさが大きさなので二人以上でなければ切れなかっただろう。
「ハスミさん、この鬼は一体?」
「判らない、ただ一つ言える事は炭治郎君が経験した過去以上の何かが起こり始めているかもしれないって事だけね。」
「何かとは?」
私は首を横に振って不明だと知らせた。
動かなくなった異形の鬼の死体を観察するとある事が判明する。
素体に使われた動物の死骸が日本古来の種ではない。
毛並みや大きさから外来種の可能性が高い。
そしてこの異形の鬼はその外来種の動物と鬼となった人間を掛け合わせたキメラの様なモノ。
そこに自我はなくただ人間を襲い喰らうだけの化け物。
しかし、この藤襲山に出現したのは何故か?
「調べる必要があるかもね…」
私は死骸となった異形の鬼の一部を幾つか検体として保存して保存用のケースに入れた。
日光に当てれば消えてしまうので細心の注意が必要である。
>>>>>>
ハスミと炭治郎の活躍により緊急事態は避けられた。
この初日のドタバタの後、残りの最終選別の試験終了まで静かに終わった。
手鬼や超大型の異形の鬼を倒したからだろうか?
弱い鬼が間を置いて襲い掛かってくるだけで特に気にしなかった。
雨の日も晴れた日が交互に巡り、七日目を迎えた朝に生き残り達は最初の広場に集結した。
その数は僅か五名、残りは死んだか試験続行不可として下山していた。
何事も無く階級と隊服の支給がなされ鎹鴉(内一匹は雀)が一羽ずつそれぞれの肩にや手元に降り立った。
そして刀の材料になる玉鋼を選ぶ段階になって顔に傷のある少年が少女の片割れに悪態をついたので…
「ねえ、君…話聞かなかったの?」
「な、何だよ?」
私は持っていた刀の鞘で傷の少年の弱点にフルスイングしておいた。
「っううううう!!!!!?」
「人の話は静かに聞く事、女の子の顔に怪我をさせない事、これ常識よ。」
傷の少年にフルスイングした所を同時に抑える顔を青褪めさせたタンポポ頭の少年と炭治郎君を余所に。
そのまま私は殴られて口を切ってしまった案内役の少女にハンカチを渡した。
「少し切れてるし後で腫れるかもしれないから御家に帰ったら薬を塗って患部を冷やして置いてね。」
「…ありがとうございます。」
それから傷の少年に女の子に謝罪させ各自で玉鋼を選んだ後、藤襲山から下山した。
「炭治郎、試験合格おめでとう。」
「ハスミさんも合格おめでとうございます。」
私達は互いに試験合格を喜び合い狭霧山へと帰路を向けた。
これからが本番であり戦いの始まりでもあった。
=続=
※鋼の呼吸
鬼化した主人公が編み出した呼吸。
名の由来は所属部隊の名称から一文字拝借した。
鋼の如く固く、動じず、力強く、精神支柱が折れない人物が扱う。
鬼化の影響で鬼特有の腕力もあり、この呼吸も大太刀や巨剣を武器として使用する事で効果を発揮する。
派生となった呼吸は現在の所は不明。
=今回使用した型=
*壱ノ型・裂鋼(サキガネ)
文字通り対象を切り裂く剣術。
*参ノ型・覇鋼(ハガネ)
重い剣圧と剣撃を相手に与える一撃特化に近い剣術。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)