無性に食べたくなる物。
それが空腹となった亡者を誘う。
前回の滞在から四日目。
唐突にアレが食べたくなった。
うん、作ろう。
******
二日前の日中、蝶屋敷の食堂にて。
「アオイちゃん、居るかな?」
「ハスミさん、どうしたんですか?」
「明後日のお昼だけ食事を無しにして貰いたいのだけど?」
事前に食堂で取る食事のキャンセルを行う為に尋ねて来たハスミ。
「珍しいですね、任務ですか?」
「そうじゃないわ、その日は個人的に自炊しようかと思って。」
「自炊…ですか?」
「そうよ、それで断りを入れようと思ったの。」
「それは構わないですが、ハスミさん…何を作るんですか?」
「ライスカレーだけど?」
ハスミの発言に一時停止する蝶屋敷の四人。
「「「「…」」」」
その様子にハスミが一声かけた。
「アオイちゃん…すみちゃんときよちゃんとなおちゃんも止まっているけど?」
「ハスミさん!ライスカレーを私達にも貰えないでしょうか!?」
「一度に多く作るから別に大丈夫だけど…」
「是非、お願いします!!」
「…(四人共目が輝いているけど、そんなにカレーライスが好きだったのかな?」
カレーライス、最初はコルリと呼ばれ…万延元年にあの福沢諭吉が「増訂華英通語」に掲載した事で後の日本の国民食とまで上り詰めるきっかけとなった。
しかし、当時まだライスカレーの普及に至らず見た目の関係で広まりが遅かった。
明治に入ると軍関係の学校の食堂メニューに加えられた。
それから数年後に有名な和菓子メーカーやホテルがライスカレーを食堂に加えた事で広がり始める。
更に国産のカレー粉や即席カレールウの原型もこの頃から完成し、主に軍関係で広がり始めた。
今から数年後にはある食堂がライスカレーを販売し始めた事で爆発的にカレーの普及が起こる事となる。
そんなカレーの歴史を思い出していたハスミは現実に戻った。
「じゃあ、明後日のお昼頃に炊いたご飯を人数分用意しておいてね。」
「判りました。」
「人数が増えたら明日までに私の鎹鴉に伝えて頂戴、仕込みの関係もあるから。」
「はい。」
アオイちゃん達の期待の圧を最後に私ことハスミは蝶屋敷を後にした。
「取り敢えず、材料を集めないとね。」
私は武装バイクに搭乗し任務先の横浜へと向かった。
それから翌日。
横浜の方面で出現したカマキリとネズミの巨躯の鬼を討伐。
早朝、横浜の市場でカレーに必要な香辛料をインド人の商人から数種類程購入し手に入れたのだった。
「後は肉類と野菜に果物……乳製品はあるかな?」
その後、横浜から帰路である帝都の市場にも足を運んで必要な材料を手に入れる事が出来た。
お館様への報告を行った後、私は鋼屋敷へ帰宅。
お風呂を済ませた後に仕込みに入る事にした。
因みに定期訓練をしている隊士達は出払っており、今は訓練が休業状態である。
なので、料理に没頭出来る時間が出来たのである。
「まずは炒め玉葱と肉の仕込みからするかな。」
カレーを作る際に炒め玉葱と肉の仕込みは一晩寝かせ派なので今日中に終わらせて置く。
夜中にルウの素を作って翌日のお昼に間に合わせる形にした。
作り置きの合わせ香辛料は風味が落ちてしまうので作るギリギリに行う。
これは謎の食通少佐からの秘伝なので仕込みは大事にしている。
まあ、呼吸を使って食材を切っている時点で手早く出来るのは有難い。
「粗熱を取った後に平らに伸ばしてトレーに入れて冷やしてと。」
肉は一口大にした後に下味を付けて、香辛料にヨーグルトを混ぜたものを入れて漬けて置いた。
今夜は緊急の任務が入らなければ、時間通りに作れるが…
そうもいかないと思うので進める工程は進めて置く。
>>>>>>
翌朝。
特に任務が入らなかったので無事にカレーを煮込む事が出来た。
軽く朝食と取った後、ニ~三時間位日向ぼっこしつつ仮眠してお昼前に起きた。
厨房でカレーの入った寸胴鍋に火を再度通して温め直す。
味見もしてあるので後は蝶屋敷に届けるだけである。
「これで完成と…」
私はアオイちゃん達に渡す分のカレーを容器に移して籠に入れた。
カレーだけでは味気がないので副菜と飲み物も用意。
お昼手前の時間になりそうなのもあり、私は歩みを速めた。
「「「わぁ~」」」
丁度、忙しい時間が終わった頃に蝶屋敷に到着。
カレーの匂いに気が付いたすみちゃん達から可愛いワクワクな表情を見せて貰えた。
「アオイちゃん、ご飯は大丈夫?」
「はい、準備万端です!」
私はアオイちゃんと共にカレーの配膳と副菜、飲み物の用意。
食器運びはすみちゃん達が積極的にやってくれたので助かりました。
「お約束のカレーをどうぞ。」
合図と共に更に可愛い声が食堂に響いた。
「「「「頂きます!!」」」」
四人の様子を見る限り、甘めのカレーにして置いて正解だった。
辛すぎると食べ辛いのもあるので。
「辛くないね。」
「うん。」
「甘くておいしいね。」
「///」
定番の福神漬けとらっきょは普通に食べているので大丈夫そう。
飲み物はラッシーがおすすめだが、この時代ではヨーグルトの普及が余り進んでいない。
なので冷やしたレモネードにして置いた。
「カレーの容器は後で取りに来るからゆっくり食べてね。」
「判りました、ありがとうございます。」
私はカレーを楽しむアオイちゃん達の邪魔にならない様に食堂を後にした。
鋼屋敷に戻ると任務帰りの炭治郎君達かまぼこ隊が帰って来ていた。
「お疲れ様、へとへとみたいね?」
「ハスミさん、只今戻りました…」
「何かあったの?」
「三日連続で任務を振られて漸く戻ってきました。」
「俺も…限界。」
「…腹減ったぜ。」
私は三人に先に風呂入ってと告げてから厨房に向かった。
入り方は炭治郎君に教えてあるので特に問題はないだろう。
数十分後、汚れを落として落ち着いた三人にライスカレーを提供した。
「これってライスカレー?」
「旨いのか?」
「ハスミさんのライスカレー、久しぶりだな。」
「炭治郎は知ってるのか?」
「うん、狭霧山で修行している頃にハスミさんが作ってくれたんだ。」
「へえ~。」
「ライスカレーだけじゃ足りないと思うから他にも作って置いたわよ。」
「天ぷら!じゃねえか!?」
「似ているけどフリッターって言う異国の揚げ料理よ、ライスカレーに合う食材にしてあるから。」
正直に言えばカロリーの暴力であるが、激務でお腹を空かした彼らには丁度いいだろう。
頂きますの合図と同時に高速で掻っ込む三人。
「うんめぇ!!」
「生き返る!」
「すっごく美味しいです!」
その後、数杯分のカレーと副菜を完食した三人は程良く眠くなり隣の部屋で眠ってしまった。
部屋は日光遮断が出来る部屋なので禰豆子ちゃんも一緒に眠っている。
「さてと、片付けでもしますかね。」
私は三人が食べ終えた食器の片付けを始めた。
後日、このカレーの噂を聞きつけて柱VS下級隊士達によるライスカレー争奪戦が開催されるのはまた別の話。
=続=
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