鋼の魂と共に   作:宵月颯

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秘境の里。

里長との謁見。

刀は使われてこその刀。

飾り刀もあるだろうが、刀は斬る為の刀。

その境を忘れてはならない。


隠された里

前回から少し遡り、件の事件の翌日。

 

新手の敵によって刀を折ってしまった炭治郎。

 

刀の修理の依頼を鋼鎧塚宛に手紙を出したものの…

 

 

『お前にやる刀はない。』

 

『憎い、にくい、呪ってやる、にくい、憎い。』

 

『ゆるさない、ゆるさない、呪う、許さない、のろう、ゆるさない。』

 

 

と怨念が籠った殴り書きの手紙が半日後に届いたそうだ。

 

 

******

 

 

任務後の健診を終えた炭治郎は蝶屋敷の一室ですみ達と歌舞伎揚げを食べながら話をしていた。

 

 

「…どうしよう。」

「鋼鎧塚さんはちょっと気難しい所がありますからね。」

 

 

本来、鬼狩りの任務では刃毀れや刀が折れる事は多々ある。

 

当人の技量もあるが、鬼の頸は個体によって強度が違う。

 

刀に蓄積する疲労度も異なってくる。

 

柱ですら刀が折れる相手と対峙する事があるのだから猶更だ。

 

刀は守るべきものの為に使われてこその刀。

 

使う者も打つ者もどっちもどっちだと言う事だ。

 

 

「炭治郎さんは里に向かうんですか?」

「うん、案内役の隠の人が来る筈なんだけど……手違いで遅くなっているんだ。」

「そうなんですか…」

 

 

刀鍛冶の里。

 

その場所は複数に配置され、鬼殺隊でも場所は誰も知らされていない。

 

理由は鬼の襲撃を防ぐ為だ。

 

この為、移動手順も複雑になる。

 

一定の距離で最初の隠が次の隠に引継ぎを行う。

 

これを複数回行う事で漸く里に到着する。

 

定期的に道順、移動要員の隠、案内役の鎹鴉達も入れ替わるそうだ。

 

お館様の屋敷はこれと同じ要領で更に複雑に隠されているとの事。

 

ちなみにハスミさんにこの話した所…

 

 

『これ…探索と探知に長けた鬼がいたら即座にバレるわよ?』

 

 

と遠い眼をしていた。

 

 

『実際に前の記憶で探索探知の鬼がお館様の屋敷を発見してしまったのでしょ?』

 

 

炭治郎は前の記憶で実際に起こった事例を幾つか話しており、ハスミはそれを元に考察と推測した結果。

 

 

無惨はお抱えの上弦の鬼を三体…いや四体も一気に失った。

 

同時に刀鍛冶の里での事件後に禰豆子ちゃんが太陽を克服した。

 

あの無惨の性格上、あるか不確定の『青い彼岸花』よりも『太陽を克服した禰豆子ちゃん』を狙うのは必須。

 

柱による下級隊士への訓練が無事に行えたのも無惨が鬼殺隊本部の場所を発見する事に方針を変えたから。

 

正に偶然の偶然が重なったのね。

 

 

『問題は私やジ・エーデルと言う異物が居る事で流れが変わっている可能性がある事。』

『流れですか?』

『そう、炭治郎君が経験した流れが一部変わる可能性がある。』

『…』

『その事も頭の隅っこに置いて頂戴、いつか流れが変わる兆しが解ると思うわ。』

『はい。』

 

 

そんな事を考えながら蝶屋敷を後にし鋼屋敷で準備を整えた上で案内役の女性の隠と合流。

 

何度かの交代移動の末に炭治郎は刀鍛冶の里へと到着した。

 

 

「外しますよ。」

 

 

炭治郎は目隠しと耳栓、鼻が利くとの事で鼻栓をされた状態で刀鍛冶の里までおんぶされていた。

 

里に到着後はそれらを外された。

 

 

「すごい建物ですね!しかもこの匂い…近くに温泉がありますね?」

「はい、ありますよ。」

 

 

三~四階建ての家屋を見て興奮する炭治郎。

 

御自慢の鼻で近場に温泉がある事も察知した。

 

 

「あちらを左に曲がった先が長の家です、一番に挨拶を願います。」

「はい!」

「私はこれで失礼します。」

「ありがとうございました!!」

 

 

ここまで担いでくれた隠に礼を言う炭治郎。

 

それはやまびこの様に里に築かれた温泉まで聞こえて行った。

 

その温泉では…

 

 

「ん?」

 

 

独特の桃色と若草色のグラデーションに三つ編みに結った髪。

 

温泉の淵で少し涼んでいる女性の姿。

 

 

「今、感謝の言葉が聞こえた。」

 

 

彼女の名は鬼殺隊・恋柱の甘露寺蜜璃。

 

 

「誰か来たのかしら?」

 

 

彼女も刀の整備の為に里へ訪れていた。

 

今は蓄積した疲労を取る為に温泉に浸かっていた。

 

 

「何だかドキドキしちゃう。」

 

 

恋柱はその名の通り、いつもキュンキュンする話題に眼がなかった。

 

因みにこの温泉の効能は切り傷、火傷、いぼ痔、切れ痔、便秘、痛風、糖尿病、高血圧、貧血、慢性胆嚢炎、筋肉痛、関節痛、鼻炎、へその痒み、性格の歪み、思いやりの欠如、失恋の痛みである。

 

病名と痒み以外は関係ないと思うのだが…効能は一応あるのだろう。

 

蜜璃が『お肌がツルツルになるわ』と独り言を言っているので美肌効果もあると思われる。

 

様子を見る限り、程良い熱さの湯加減でいい感じに疲れが取れるだろう。

 

実際の入浴シーンは残念ながらこの文章には含まれていない。

 

 

残念だか含まれていない!

 

 

以上!

 

 

「あら?何の声かしら?」

 

 

入浴を続ける蜜璃は頸を傾げつつも温泉を堪能するのだった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

 

「フシュウウ…」

 

 

刀鍛冶の里の奥深くの林の中でひょっとこの仮面を付けた男が荒い息を立てながら小さな家屋に籠っていた。

 

 

「俺の刀を折った奴め…万死に値する。」

 

 

それは傍目から見ると禍々しいオーラが漂っており、近寄りがたい状態だった。

 

彼の名は鋼鎧塚蛍。

 

炭治郎の担当刀鍛冶である。

 

 

「フシュゥ…」

 

 

かつて刀を刃毀れさせた炭治郎を包丁四つ携え蝶屋敷近辺で一夜を掛けて追っかけ回した経緯がある。

 

そもそも戦闘専門の隊士を追っかけられる刀鍛冶と言うのもおかしいのだが…

 

その謎はある意味で解明不明の領域とも言えた。

 

 

=続= 





<独り言>


鋼鎧塚の『万死に値する』の万死がバンシィに聞こえた筆者は…何だろう。

刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?

  • 木乃伊事件(不死川、伊黒)
  • 集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
  • 船舶沈没事件(宇随、煉獄)
  • 不在担当地区防衛(時透、甘露寺)

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