新たな悪意を携えて。
新たな悲しみを秘めて。
炭治郎が刀鍛冶の里に滞在している頃。
ある場所で異変が起きていた。
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寺と隣接する共同墓地。
そこへ花束と水の入った取っ手付きの桶を携えた一家が訪れていた。
「何時振りですかね、こうして三人で墓参りに訪れるのは?」
「半年ぶりだ…墓の掃除を任せきりにして済まなかったな、千寿郎。」
「いえ、兄上は柱の仕事がありますし家の事は俺に任せてください。」
「…」
煉獄家の次男、千寿郎の言葉から始まり杏寿郎は応対、槇寿郎に関しては無言のまま歩みを進めていた。
半年ぶりの墓参り。
今回は月命日であるが、一家揃っての墓参りは半年ぶりである。
「…」
「父上…」
「父上、兄上、どうされましたか?」
煉獄家の墓までもう少しの所で槇寿郎と杏寿郎は動きを止めた。
千寿郎はただならぬ様子に声を掛けたが、二人の表情は変わらなかった。
それもその筈、今は日中であり本来なら在り得ない名残が漂っていたのだ。
「父上、千寿郎を頼みます。」
「判った。」
杏寿郎は名残の元へと急いだ。
だが、遭って欲しくない光景が目処前に広がっていた。
「っ!父上!!」
杏寿郎の声に反応し槇寿郎と千寿郎は声の場所へと急いだ。
そして、二人はその場の光景に愕然とした。
「父上、これは…」
「…」
駆け付けた二人が見たもの。
煉獄家の墓石が破壊され遺骨を納める場所が荒らされていたのだ。
最悪な事に収められた骨壺の幾つかが投げ出された状態で放置されている状態。
その状況下で杏寿郎は冷静を保っているが、明らかに動揺し目を見開いた状態で言葉を紡いだ。
「父上……落ち着いて聞いてください。」
「杏寿郎…」
「母上の骨壺だけが無くなっています…どこにもありません。」
骨壺は真っ白な陶器の器。
槇寿郎の妻で二人の母親である瑠火の遺骨を納めた骨壺。
それには目印になる様に生前彼女が好きだった花の絵が描かれた紙が貼られていた。
余生が終わり墓に収められる時に傍に寄り添える為の目印だった。
その骨壺だけが見当たらなかったのだ。
「っ!?」
杏寿郎が周囲の破壊された骨壺を確認しても紙の貼られた骨壺は見当たらなかった。
煉獄家の墓所が人ではない何かに荒らされ、瑠火の骨壺だけが無くなった。
微かに残る気配、それが指し示す物は…
「恐らく、何者かが母上の骨壺を奪ったようです。」
それは何の為に?
理由は判らない。
同僚達がその場にいれば、何かの情報が得られたかもしれない。
だが、今は墓が荒らされた上に骨壺を奪われたとしか情報が得られなかった。
「父上、兄上。」
千寿郎も動揺し言葉を上手く話せない。
月命日の墓参りは彼らに絶望を与えたと言えるだろう。
その後、お館様にもこの出来事が報告された。
お館様の指示で同様の事件が起こっていないか調査を進めた所…
各所の墓所が荒らされると言う事件が多発している事が判明。
何かの前触れであり、危険性を考慮して柱と階級甲の隊士が調査に出る事が決定。
同時期に煉獄槇寿郎が消息を絶ってしまい、ある意味で大騒動となった。
>>>>>>
先の騒動から二日後。
鉄鬼の出現がほとんど無くなり、警戒しつつも通常の巨躯の鬼討伐へ向かっていたハスミ。
出現が確認されたと報告があった地区へと移動していた。
「…(ジ・エーデル、今度は何を仕掛けようとしている?」
鉄鬼の投入を継続し数で押せばこちらにもかなりの被害が出ていた。
それを止めたかの様に鉄鬼の出現が無くなった。
その代替として何を起こす?
不安が過るばかりだ。
「あれは…水柱?」
「クジョウ、何故ここへ?」
移動先の地区を担当する冨岡と合流したハスミ。
冨岡はハスミの来訪に関して少し驚いていたが、すぐさま通常に戻った。
「この地区に巨躯の鬼が出現したと聞いて駆け付けたのだけど?」
「そうか。」
「……主語抜けてますけど?」
「す、すまなかった…援軍感謝する。」
「及第点、ですかね。」
冨岡の主語や語るべき部分を抜かした話し方に対してハスミは軌道修正を行った。
ちなみに軌道修正で使った方法は連続で関節技を叩き込む事である。
冨岡は過去にやられた連続関節技が相当効いたのか顔を青褪めながら主語を付けて答えた。
「出現した巨躯の鬼の情報は?」
「まだ掴めていない。」
「成程…叙荷から教えて貰った場所まで向かうしかないわね。」
ハスミは冨岡と共に巨躯の鬼が出現したとされる場所へ移動。
道中、巨躯の鬼の移動跡と思われる跡を発見し移動方向へと向かった。
所が…
「どうなっている?」
「…」
移動先にあったのは既に事切れた巨躯の鬼の死骸。
消失具合から少し前に倒されたらしい。
頸は一撃で両断されており、上弦の鬼が徘徊していると思われたが…
「「!?」」
首元が切られた感覚と鋭い殺気。
冨岡とハスミは帯刀している刀に手をかけたが…
それは無意味と化した。
「はや…!?」
「っ!?」
上弦の壱を超える速さと恐るべき殺気。
二人は刀を手にする前に損傷を負った。
冨岡は両大腿部の裂傷。
ハスミは片腕ごと切り裂かれたのだ。
そして負傷した二人の前に現れた侍装束の男性。
顔は目元以外は布で隠されていたが、特徴的な眼だけは認識出来た。
「…」
「…上弦の鬼なのか?」
「刻まれた眼の数は零…恐らくは上弦の零と呼ぶべきと思う。」
瞳に刻まれた文字は夜天の零。
史実になかった上弦?の零の出現。
それは変異が起こった証でもあった。
「夜天の零、お前の目的は何だ?」
「…」
「沈黙か、こちらに情報は渡さないと?」
「…」
「それとも無惨に発言するなとでも命令されているのか?」
何度かの応対をするも夜天の零は無言のままでこちらと対峙していた。
「クジョウ、動けるか?」
「動けるけど、片腕を吹っ飛ばされているし攻撃力が半減するから期待はしないで欲しい。」
「判った。」
水柱…上手く止血しているけど、今回の相手は悪すぎる。
こちらの警戒を意図も容易く突破した。
何とか朝を迎えるまで持ちこたえないと。
「君達は呼吸は出来ているね、だけど…それは疲れる呼吸だ。」
「疲れる呼吸だと?」
「命を削り死に至る呼吸の事だよ。」
「…(全集中の呼吸の事を言ってるのか?」
「大丈夫だよ、僕が止めてあげるからね。」
優しい声でそう告げると視界が赤く染まった。
一瞬の内に肺へ突きの攻撃が行われたのだ。
「水柱!?」
「あがっ!?」
倒れ伏す冨岡と叫ぶハスミ。
夜天の零は続けて言葉を紡いだ。
「君はどうして動いていられるのかな?」
「半分鬼で半分人…鬼舞辻無惨は私の事を成り損ないの鬼と呼ぶ。」
「そうか、君がね?」
「…」
「普通よりも頑丈なのだろう?なら楽しませてくれるかい?」
「ふざけるのも大概にして貰うわよ!」
片腕切断と言うハンデの中でハスミは冨岡を守りながら夜天の零と交戦。
防戦一方の末、その攻防は夜明けまで続いた。
その過程でハスミは瀕死に近い損傷を受けた。
「楽しかったよ、また相手をしてくれるかな?」
「…」
夜天の零は再戦の言葉を残して襖の先へ消えた。
続けて夜明けを迎えた事に安堵しハスミは意識を手放した。
切り刻まれ地面に転がった片腕と腹部損傷によって出来た血だまりの中で。
そして損傷部分に広がる銀色の膜が二人の命を繋いでいた。
「お嬢、お嬢!?」
朝日を迎えたのと同時に飛んできた鎹鴉の叙荷と寛三郎。
それぞれの相棒の元へ降り立つも相棒の返事は無かった。
「義勇、寝ているのか?」
「じーさん!?寝ているんじゃなくて気絶しているんだよ!!」
「義勇、無茶ばかりするのう。」
「あーもう!俺、応援呼んでくるからここは任せたぜ!!」
叙荷は寛三郎を残して待機している隠の元へと急いだ。
暫くの後。
救援に駆け付けた隠によって二人は救助された。
水柱・冨岡義勇、両大腿部の複雑裂傷と肺と背中に損傷。
鋼柱・クジョウハスミ、片腕切断と肺と腹部複雑損傷。
蝶屋敷へ到着後には二人の出血は止まっていたが、損傷部分は未だに鋼柱の血鬼術で修復途中。
今回の襲撃で二名の柱が戦線離脱する事となった。
=続=
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)