意思無き人形。
それは手繰り寄せられ。
操られる。
その糸は悪意の一角。
炭治郎らが刀鍛冶の里で上弦の鬼からの襲撃が行われる日。
ここ、帝都の青山霊園でも新・上弦の陸となった人形遣いの鬼との戦いが行われる日でもあった。
******
現代で青山霊園となる土地。
本来の史実にはなかったが、何故か墓所の増設計画が続いている。
再び墓地として静寂を取り戻すには少し時間が掛かるだろう。
現在も追加された土地の整地や花木を植林。
一部には墓石の部品が置かれているものの組立には至っていない。
既に墓地として使用されているが、大規模な墓地となる事から管理所が設置。
界隈にはお墓参りや清掃代行等の墓地茶屋や花屋、石材店などが連なる予定との事。
また、帝都で政府上層部と異国の外交官との会談と来訪パーティーがあり…その警備で墓地の警備が手薄になる日は今夜。
それが潜伏している鬼との決着を着けるタイムリミット…制限時間である。
「…ハスミの情報からは以上だ。」
「…」
時は昼時。
帝都内の食堂、客席の一つで茶を啜っているアウストラリスから得られた情報で静止状態と化した煉獄槇寿郎。
更に彼が平らげた丼の山々が机の上に作られており、その様子に自身の長男とその元継子の事を思い出したのは言うまでもない。
因みに同じ様に食事をしていた客達から店の従業員らが目玉が飛び出す位に驚く始末。
店の店主に関しては、驚きつつも見事な平らげぶりに嬉しい表情と支払い大丈夫か?な不安な表情が入り混じっていた。
「代金の心配は不要だ、手持ちはある。」
「そ、そうか。」
閑話休題。
「決戦は今夜だ、油断はするな?」
「無論、承知の上だ。」
二人は代金を支払った後、店を後にした。
~数時間後~
時は夕刻を過ぎて夜の闇の始まりを迎えた。
帝都は夜の闇に包まれつつも電灯の明かりに灯され賑わいを収めていない。
未だ、電灯の設置が行き届いておらず夜の闇に閉ざされる地方の山奥や海辺とは泥土の差である。
しかし、今夜は違った。
異国の外交官を招いたパーティーが行われる事により、帝都民への外出自粛が行われていた。
現在、外出しているのは警備担当の警官や軍人、パーティーに招かれた上流階級の人間だけである。
但し、それは帝都の中心地だけであり…郊外の墓所には行き届いていなかった。
人目を隠す木々が生い茂る墓地へ忍び込む二つの人影が存在した。
「トラ、気配は?」
「この先からだ、姿を隠している工房もそこだろう。」
「そうか…」
霊園に生い茂る森の中へ二人は歩みを進めた。
日が落ちた森の中を奥へと進むと気配はより一層静寂に満ちた。
「槇。」
「判っている…トラ、得物は?」
「奴らを屠るなら拳で十分だ。」
アウストラリスは鬼を倒すのは刀ではなく拳と告げた。
だが、鬼の頸を拳だけで取るには不可能である。
しかし、アウストラリスは事前にハスミより日輪刀と同質の素材で出来た手甲を渡されていた。
それは扱い方次第で手刀と言う刃と化す装甲。
形は違えど、それもまた鬼滅の刀であった事に間違いはない。
「やはり、陶器の人形か…」
林の中を掻い潜り現れたのは陶器の人形。
感じられる気配も微々たるものだったので、一般の隊士なら手を焼いていただろう。
「槇、雑魚は俺に任せろ。」
「トラ、しかし…」
「この程度の数は俺一人で十分だ。」
アウストラリスは露払いをする為に一人残ると宣言。
相手の能力が未知である以上、分断を避けたいと槇寿郎は反論するが…
アウストラリスは提案を捻じ曲げなかった。
「話の最中に手を出すか…人形である以上は無駄な詮索だったな。」
話の最中に人形の一体がアウストラリスに飛び掛かったものの…
それは一瞬の内に退けられた。
アウストラリスは飛び掛かって来た人形の頭部を鷲掴みすると尋常ではない握力で握り潰した。
鬼の血鬼術で強化されているか生み出されている陶器人形の耐久は通常の攻撃では破壊出来ない筈だった。
それをアウストラリスは平然とやってのけたのだ。
「やはり頭部が弱点か。」
陶器人形の頭部に仕込まれた球体型の核を取り出したアウストラリス。
それを破壊すると目処前の頭部を破壊された陶器人形はピクリとも動かなくなった。
「ハスミ曰く、この手の対象は頭か体に弱点がある…例外もあるが倒すなら徹底的に潰すしかない。」
アウストラリスはそれだけを話すと姿を消した。
いや、周囲の人形が認識出来ない速さで移動し一体、また一体と破壊されていった。
その時間は僅か五分程度。
槇寿郎は思う、彼らは鬼殺隊と関りを持つ前は鬼以上の存在と戦っていた。
人の限界を超えた強さ、鬼を翻弄する異常さ、それが彼らの強みなのだと。
「槇、周囲の敵は粗方片付けたが……」
「恐らく、奴らは斥候だ。」
「やはり大元は別にいると?」
「その通り、奴らの守りが強くならない内に進むぞ。」
周囲の敵を片付けたアウストラリス。
槇寿郎と共に敵の動きを読み、先に進む事を話して奥へと向かった。
道中で監視を行っていると思われる人形を素早く倒し、目的の場所らしき所へと到着した。
「読みは確実だった。」
辿り着くと古びた火葬場が佇んでいた。
ここ暫くの間、使用されたのか独特の燃え滓の臭いと焼窯用の薪が積み上げられていた。
周囲の監視は粗方片付けていたので二人は周辺と火葬場の小屋と焼窯を調査を始めた。
調査結果は酷いモノだった。
「…酷い臭いだな。」
「人の遺体を焼くと出る臭いだ、恐らく遺体処理の為に使われていたのだろう。」
ここに潜む鬼は手当たり次第、骨壺や遺体を回収していたと思われる。
回収したものの喰える遺体ではないのも含まれていたのだろう。
証拠隠滅の為に火葬し残った骨を陶器の人形の材料にし作り上げた。
小屋の中に材料らしき人間の骨の一部が残っていたのも頷ける。
「この鬼は人の遺体から供給をしていた、己の食料と戦力を…な。」
「瑠火の遺骨もこうなったのか…」
奪われた妻の骨は恐らく陶器の人形の材料にされているのだろう。
槇寿郎は机に置かれた妻の骨壺の中身が取り出されているのを確認した。
「槇、どうやら家主が戻ってきた様だ。」
二人が小屋から出ると全身に布を被った鬼らしき存在が現れた。
布の奥に潜んだ眼には上弦の陸と刻まれていた。
「貴様が人形共の主か?」
「…私の工房に入るとは、鬼狩りは礼儀がなっていない様だ?」
「外道に礼儀は不要だろう?」
「ふん、せっかくだ…新たに生み出した私の人形の餌食になって貰おうか?」
上弦の陸は人形劇の様な糸を指先から出すと手元に手繰り寄せた。
林を潜り抜け、現れたのは百足の様に複数の関節が接続された殺人人形。
「悪趣味な人形だな。」
「貴様らには解るまい、この美しさが…」
「…」
「特にこの顔が美しいだろう、花の絵が描かれた紙札が張り付けられた骨から作り出したのだ。」
「!?」
「実に美しい骨だった、白く脆かったがとても繊細だった。」
上弦の陸は語った言葉に槇寿郎は怒りを覚えた。
「貴様…!」
「私は骨を陶器人形にする事で冥福を祈る……だが、教会の連中は神への冒涜としたがな?」
上弦の陸は語る。
当時、陶器人形師だった自分は冥福を祈る為の人形を生み出してきた。
死者の骨を陶器に混ぜこみ、生前の形を保った人形は遺族から感謝されていた。
だが、教会の連中はそれを冒涜とし私を死罪に追いやった。
死に際に人形を造る腕を斬られ失った私をあの方が拾い上げて下さったのだ。
「あの方への忠誠は絶対、私は鬼狩りから陶器人形を造ろう……栄えある最初の人形はお前達だ。」
上弦の陸は殺人人形を二人に嗾けたが、それは一瞬の内に終わった。
人形の頸は槇寿郎が切り裂き、躰はアウストラリスが粉々に砕いた。
核を破壊された人形の頸を抱えた槇寿郎は答えた。
「よくも俺の妻を……瑠火をこの様な姿にしたなっ!!」
「!?」
その怒りは烈火。
槇寿郎は戦う為の人形を失った上弦の陸を横一閃した。
「!?」
「炎の呼吸・壱ノ型 不知火っ!」
槇寿郎の一撃で林を突き抜け、整地中の荒地に吹き飛ばされた。
「ぐうぅううう…人間風情が。」
「その人間風情に押されているのは誰だ?」
土煙が収まる前にアウストラリスの拳の連撃受けて上空へと吹き飛ばされた。
「くそっ、もう一人は何処へ!?」
上弦の陸こと傀儡は上空へ殴り飛ばされた際にもう一人の鬼狩りを探すものの…
その姿は見えず、体制を立て直そうにも異常な拳圧で身動きが取れずにいた。
それが自身の最後である事も知らずに。
「行けっ!槇!!」
「!?」
アウストラリスの叫びと共に傀儡の頭上が紅く燃え盛る。
「炎の呼吸・玖ノ型っ!!煉獄ぅうううう!!!!」
「がぁああ!!?!?」
天より墜ちる炎の一閃。
それは全てを燃やし尽くす炎の一撃。
紅の刃先は同じ様に打ち上げられた奴の頸を切り裂いた。
「な、何故…」
「愛する者の死を悼むやり方をお前は間違えた……全てがお前の様な考えではない。」
愛する者を人形の材料とし形を残す者、灰燼と化し遺体をを天へと送る者。
埋葬のやり方は文化が違えども押し付けてはいけない。
奴は一方的に押し付けようとした。
そして墓を暴き死者を冒涜した。
墓を暴いた時点でお前は間違っていた。
「…」
「逝け、地獄でその罪を悔いろ。」
槇寿郎は傀儡に告げると落下し地面に激突する前にアウストラリスの跳躍で地面に降りた。
傀儡は一瞬涙を流した後、地面に落ちる前に塵と化し消え去った。
その様子を見届けた槇寿郎は先程の陶器人形の頸に語り掛けた。
「瑠火、帰ろう…杏寿郎達が待っている。」
やっと取り戻した妻の遺骨にそう答えた。
******
夜明けを迎えつつあった頃。
槇寿郎は朝日が差し込む場に佇む存在を視た。
妻である瑠火の悲しくも嬉しい笑顔を…
『貴方、ご立派でした。』
彼女の口元はそう答える様に動いていた。
一瞬の出来事、その後の眩暈で再度同じ場所を視た時には彼女の姿はなかった。
「槇、動けるか?」
「済まないが肩を貸してくれ、年甲斐もなく動き過ぎた。」
「判った。」
人の出が激しくなる前に二人は応援に来た隠達の補助により霊園を後にした。
その後、二人を見張っていた鎹鴉によって本部へと情報が通達された。
元炎柱・煉獄槇寿郎、協力者・アウストラリス、両名により新・上弦の陸を討伐。
奪われた遺骨の回収は隠によって速やかに行われた。
瑠火の遺骨と同様に陶器人形にされた遺骨に関しては…
元の形に回収する事は不可能なので陶器を再び砕いて骨壺へと収められた。
これにより刀鍛冶の里襲撃と平行して起こった墓荒らし事件は幕を下ろした。
=続=
=別に読まなくてもいい設定=
※傀儡
新・上弦の陸に選ばれた人形遣いの鬼。
元は異国の地(フランス)で陶器人形を造る人形師。
当時、遺族の了承を得て死体の骨を使って陶器人形を造っていた。
だが、当時の背景から異端と見做され教会から悪魔とされ処刑。
陶器人形を依頼した遺族達も巻き込まれない様に彼一人に責任を押し付けた。
処刑の際に両腕を斬り落とされ失血死しかけた時に異国を旅していた無惨によって鬼になった。
以降は陶器人形を使って蒼い彼岸花の捜索を行っていた。
本人の戦闘能力は高くないが、自身の生み出した無数の人形を操る事で戦力を高めていた。
今回、早期決着が付いたのは攻撃手段である陶器人形を失った為。
早い話、お手製人形が無ければほぼ雑魚。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)