人を鬼にする血。
だが、それは万能ではない。
限られた確率の中で。
それを覆す要因も存在する。
前回から一時間が経過した。
猗窩座改め狛治の様子を伺うハスミ。
その姿は人そのもので間違いないだろう。
但し、片目だけは鬼化のままである事を覗いては…
「猗窩座いや狛治だったわね、貴方は何処まで覚えている?」
「…」
ハスミの問いに対し狛治は暫く考えてから答えた。
自身が最も信頼していた家族を奪われ、その怒りで犯人達を血祭りに上げた事。
そして守るべき者も居場所も失った事を自覚した時に無惨に鬼にされた事。
今に至るまで人を喰らい強き者と戦うだけの時間を過ごしていた事。
「成程ね。」
「妙に納得が早いな?」
「まあ…貴方の事情を知るまでは、江戸の出で罪人って事だけは判別出来る程度だったけど?」
「!?」
ハスミは狛治が話していない部分をいとも簡単に判別していた事を告げた。
その言葉に狛治は驚きの表情を見せた。
「理由は簡単でその両腕の入れ墨が決定打よ。」
「これか?」
狛治は現在も袖のない異国風の衣装を纏ったままなので腕に入れられた三本線の入れ墨に視線をやった。
ハスミは続けて理由を告げた。
「その入れ墨は江戸で罪を犯した証、種類はあるけど三本線は罪の回数を示し、当時の江戸を追放された者を示すのよ。」
「当時?」
「現在は幕府も無くなって政府制に政治転換、今は警官って言う奉行所の役割を持った人達に代替わりしているし……入れ墨も徐々に廃れつつあるわ。」
「成程、無惨がお前を恐れた理由が判ってきた。」
「相手の身のこなしや言葉遣いに服装や雰囲気は色んな情報を得るのに打って付けなのよね。」
元国際警察機構&某壁際のいぶし銀が率いる元諜報部隊の出身を舐めないで頂きたい。
血も涙もない生きるか死ぬかのスパルタ訓練を受ければ、例外を除けば誰でも嫌でも身に付く。
「それで、貴方は無惨を裏切った後…どうする気なの?」
「俺一人でも無惨を追う…元鬼だった俺が。」
「今更、鬼狩りと仲良しこよしは出来ないと?」
「…そうだ。」
「でしょうね、お館様は兎も角一部は反対するわ。」
「…」
「ただ、鬼殺隊は貴方を野放しに出来ない状況でもある。」
「?」
「貴方は鬼から不安定ながらも人に近い存在に戻れた一例よ?そんな驚異の相手をお館様や無惨が逃がすと思う?」
「お前は違うのか?」
「それもそうだけど…今回は貴方と言う検証結果が出た事が問題なのよ。」
鬼を限りなく人に近い存在に戻せる事例が出た。
それは現在の戦況バランスを崩す兆しでもある。
炭治郎君も間違いなく縋るでしょうね。
それでもこれは呪いであり祝福。
今の状態では完全な人には戻れない。
判断出来るのは鬼としての捕食行為を失わせる程度だろう。
「叙荷、見ているのでしょ?」
ハスミは軽くため息を付いた後、隠れて監視している自身の鎹鴉を呼んだ。
「お嬢、そりゃもうバッチし!」
「…お館様にこの事を伝えて。」
「他に内容は?」
「元上弦の参の降伏と私の血で鬼から半鬼状態に戻った事も含めて頂戴。」
「そこまでしゃべっちまって大丈夫なのか?」
「それだけ、今回の事は波乱を呼ぶ……まどろっこしい事はお館様に一任するわ。」
「ほいよ、じゃ…ちょっくら行ってくるぜ!!」
ハスミは必要な要件を叙荷に話し伝えると叙荷は飛び去って行った。
「随分と口が軽い鴉だな?」
「それを覗けばいい子なのよあの子は?」
狛治は叙荷の様子に遠い眼をしハスミは軽く毒づいてからフォローをした。
「俺はこのまま鬼狩りの元に連れて行かれるのか?」
「その流れにした、それに私が監視すると付け加えてある。」
「お前の監視…だと?」
「妥当な判断だと思ってくれないと困るわ、別の柱が監視に付くとしても安全は保障出来ないわよ?」
炎柱に預ければ、毎日の様にあの大声と生活の末に酒柱と大乱闘は確実。
蟲柱に預ければ、研究と称して血抜きや肉体の一部欠損は免れない。
風柱に預ければ、即頸切断。
と、ハスミは他の柱に預けた場合の狛治の処遇がどの様になるかを説明した。
「…」
ハスミは久々に他人の顔芸…顔を青褪めさせた狛治の様子を見ながら彼の返答を待った。
「…判った、その後の処遇はお前に一任する。」
「素直で宜しい。」
ハスミは答えるであろう返答に静かに返した。
「それに貴方も無惨と戦うなら修行が必要でしょ?」
「修行だと?」
「何事も鍛錬は必要、戦うべき相手はそれだけの存在なのでしょ?」
「確かにな。」
「だから君に相応しい相手が鍛錬相手をしてくれるわ。」
「?」
狛治は鍛錬相手の正体を気にしつつもハスミの発言に冷や汗を掻いていた。
「取り敢えず…鍛錬の件は他の上弦を細切れを通り越して挽肉にしてからだけど。」
「…(上弦相手にその言いようが出来るお前が恐ろしいのだが?」
先程の状況から上弦の伍と肆の末路を想像した狛治だった。
******
先程から数刻後、鬼殺隊本部にて。
「これはこれは…」
「お館様?」
「どうかなさいましたか?」
本部内の広間で叙荷からの手紙と言伝を聞いたお館様とご子息達。
「ハスミが上弦の参を確保したそうだよ?」
「「え?」」
お館様は那田蜘蛛山事件後の柱合同会議後にハスミの治療で眼の視力は回復している。
この為、叙荷の手紙も自身の手で読み返せているが…柱達の前では失明したままにしていた。
手紙を読み終えた後、遠い眼とチベットスナギツネの様な表情でお館様は答えた。
在り得ない様な表情で声を上げる御子息達。
「それに厄介…いや、夜明けの兆しも見つかったみたいだね。」
「夜明け?ですか。」
「うん、炭治郎達と彼女はどこまで奇跡を見せてくれるのかな?」
最後に御子息達に聞こえないような声で呟いた。
「…あの未来を変えるのは並大抵の事じゃないからね。」
=続=
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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木乃伊事件(不死川、伊黒)
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集団失踪事件(悲鳴嶼、胡蝶、栗花落)
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船舶沈没事件(宇随、煉獄)
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不在担当地区防衛(時透、甘露寺)