音も無く静かに。
奴は知らなかった。
己の隠れ場所が一番危険な場所である事を。
狭霧山を下山し北西の町へとやって来た私達。
道中、秘蔵品を使ったので移動距離を稼げている。
炭治郎君は初乗りだったので放心状態だが期にはしていない。
河川に港が築かれた町は例の事件の噂で持ち切りだった。
町の茶屋で休憩を取りながら店の女将にそれとなく噂話を伺った。
「娘が行方知れず?」
「そうなのよ、家の中に居ても外に居ても夜な夜な町の娘さん達が攫われているの。」
「そうでしたか…」
「皆、嫁入り前の娘さんばっかりで…かどわかしにでもあったんじゃないかって。」
『かどわかし』とは現代における『誘拐』の事である。
鬼の仕業じゃないかと考える私を余所に女将さんはヒソヒソ声で話を進めてくれた。
「それと、ここだけの話……近くの監獄所に送られる罪人達がニ~三日前に化け物に喰い殺されたらしいのよ。」
「化け物ですか?」
「噂じゃ何処からともなく巨大な蛙の声が聞こえたって話しだよ…。」
例の超大型異形鬼か?
また調べる必要があるって事か…
「…早い内に町を離れた方がいいかもしれませんね。」
「そうしな、そうしな、そろそろ夕暮れだしどっかで宿取って朝の内に出た方がいいさね。」
「色々と教えて頂き有難うございます。」
おかわりのお茶を頂いた後、私は隣に座っていた炭治郎君に話しかけた。
「だ、そうよ。」
「今夜も出てきますかね?」
「帰りが遅くなりそうな年頃の娘さんに張り付いていましょう。」
「…分かりました。」
私達は非公式の組織であり政府の眼を欺きながら行動している。
静かに密かに事を進める事もまた私達に必要なスキルだ。
私は炭治郎君が話していた鬼への対策を練りながら熱めのお茶を一口啜った。
>>>>>>
その夜。
「い、いやああああ!!何か凄い変態が出たー!!?」
「だ、大丈夫ですから!」
「まあ、確かにそうよね。」
女の子の足元から自身のテリトリーに引きずり込むって本当に変態の所業だわ。
その変態こと沼の鬼と交戦中の私達。
沼鬼に連れ去られそうになったこのお嬢様と恋人を家まで送ろうとしたカップルが狙われたので助太刀した所である。
因みに血鬼術で作り出した沼の領域に入り込んだので問答無用で閃光手榴弾と破片手榴弾を投げ入れました。
凄まじい光と叫び声で這い上がってくる沼鬼。
ギリギリと歯軋りが凄いよね…
「何だ、お前は!妙なものを使いやがってっ!!」
「ただの爆弾ですけど?」
分身した三体の内、二体の頸を取って残りの一体の逃げ場を封じて置いた。
日輪刀で四肢切断しているので再生は出来ないし逃げる事も不可能。
「さ・て・と・ここからは私と少しお話しましょうか?」
「テメエの様な嫁の貰い手にも居ねえ女に話す事は…!?」
「何ですか?良く聞こえませんね?」
私は近くの木に奴を括り付けた後、普通の小刀で大事な急所を切ってあげました。
何故かって?日輪刀で切ったら終わりだからよ?
何度も再生させて切ってあげてぐうの音も出ない位に締め上げるだけですよ?
炭治郎君とカップルの片割れが大事な所を抑えて青褪めているのは気にしない。
女の結婚が十六歳が目安とか基準にして貰っては困る。
ハハッ、私はまだ優しんだよ?
知り合いの曹長だと海軍式罵り集・新兵訓練編の罵詈雑言の末に心根折ってますからね?
「はい、女の子に歳を聞いたらどうなるか…身を持って知ってくださいね?」
約、一時間後。
炭治郎君に被害に遭った三名を家に送り届けて戻ってきた頃に私は沼鬼の頸を切って始末しておいた。
「あ、お帰り。」
「今、戻りました…沼の鬼は?」
「無惨の呪いで情報は無し、異形の鬼についても収穫は無かったわ。」
「そうでしたか…」
「炭治郎君も気が付いているよね?」
それは藤襲山で感じた気配と独特の匂い。
瓦がバキバキと割れる音と共にそれは現れた。
「ハスミさん、あの建物の上に例の鬼が!」
「解ってるわ、試作品の試し所ね…炭治郎君、そのまま目を塞いで!!」
「は、はい!」
姿を隠せる超大型異形鬼。
私は隙を見て試作品の紫外線手榴弾を投げつけ発光させた。
その姿を見て私は苦虫を潰した表情で炭治郎君に告げた。
「炭治郎君、今度の相手は厄介よ。」
「どういう事ですか?」
「あの異形の鬼、合成された獣は蛙とカメレオンよ。」
「カメレオン?」
「アフリカ大陸やインドに生息する生き物で蛙の様に長い舌と周囲の背景に溶け込んで獲物を取る習性があるの。」
「それじゃ、姿を消す化け物って…!?」
「十中八九、奴の事よ。」
紫外線手榴弾で一時的に姿を視覚化させたけど早期決着が好ましい。
火傷した皮膚が修復し効果が無くなれば逃げ出してしまう。
取って置きの重火器を使うか…
出し惜しみしていたら町の人に被害が出てしまう。
茶屋の女将さんにはお世話になったしせめてものお礼をしておかないとね。
「炭治郎君、奴の注意を引き付けられない?」
「やってみます!」
「合図をしたらこっちに引き寄せて!」
大きさが大きさである事と早期決着が望まれる現状。
この時代で炸薬兵器を使う羽目になるとは思わなかったが致し方ない。
既に奴には追尾用の発信機を取り付けてある。
何処へ逃げようとも無駄な事だ。
「炭治郎君、今よ!」
私は準備が整った事を炭治郎君に告げると町外れへ引き付ける様に合図を送った。
今までの行動で解決策がある事を察してくれた彼はそのまま異形鬼を引き付けてくれた。
更なる合図と同時に私は彼を避難させてこちらへ口腔を開けて呑み込もうとする奴の口に目掛けて放った。
「脳天ごと弾け飛べっ!!」
今回使用したのはFIM-92 スティンガー。
携帯式防空ミサイルシステムで主にヘリや低空飛行の戦闘機、輸送機、巡航ミサイルなどの破壊に使用。
別名『毒針』の異名を持っている。
因みに1ユニットは現代の日本円のお値段で換算すると400万人の諭吉さんが必要。
お高いですよね…
グスタフカールでも良かったのですが、今回はコレにしました。
某有名な宇宙忍者怪獣とやり合った武器だそうなので。
とまあ、ご説明している間に異形鬼の口腔内に入り込み見事に脳天ごと爆散しました。
余波が凄いので着弾と同時に私も撤退してます。
勝敗は奴が上空に跳躍してくれた事が私達の勝利に繋がった。
「炭治郎君、頸…行くわよ?」
「は、はい!」
頭は吹き飛ばしたが肝心の頸は残っている状態なので二人で切断し、完全に沈黙したのを確認した。
「今回で二匹目か…」
「ハスミさん、この鬼からも無惨の匂いがします。」
「私も奴の残滓を感じ取ったわ。」
「藤襲山で遭遇したのと同じなのでしょうか?」
「恐らくは…合成された生物が違う点から何かの実験を行っているのかもしれない。」
「実験?」
「こんなのが何体も出れば、鬼殺隊だけじゃなく国一つが滅ぶ。」
「!?」
「奴は神経質で臆病で隠匿ヒッキー型…世間を騒がせてまで異形鬼を作る理由はない筈よ。」
「なら、どうして?」
「何者かが無惨の血と鬼を手に入れて実験をしている、もしくは無惨の協力者が現れたの二択に絞られる。」
「無惨の協力者?」
「後者を選択するなら研究資金が潤沢で生化学面に精通した協力者の可能性が高い。」
炭治郎君、人間は誰もが正しい訳じゃない。
場合によっては鬼と言う不老長寿の立場に魅了されて協力する輩も出てくる。
鬼殺隊が政府非公式で在り続けるのはそう言う側面の人間が現れる事を危惧したお館様の采配だろう。
暗黒時代を迎える前の時代。
不穏な空気と気配はこの国を静かに包み込もうとしていた。
******
翌朝、二体目の異形鬼を遮光処理し人目に付かない位置まで移動させてから鎹鴉に文を持たせた。
これも鬼殺隊本部で調査して貰う為だ。
町を離れる際に和巳さんと里子さんに再会し彼らからお礼の言葉を貰った。
彼らも無事に祝言を上げられそうだと炭治郎君が安堵した顔で見ていた。
二人と別れた後、私は炭治郎君に話した。
「炭治郎君、これだけは覚えて置いて。」
「は、はい…」
「死ぬ筈だった相手を助けた場合はそれ相応の対価が必要になる……あの異形鬼はその代償かもしれない。」
「まさか…偶然じゃ?」
「この世に偶然なんてない、あるのは必然だけ…そうなる流れ無理矢理変える場合はそれ相応の必然に立ち向かうしかないの。」
「…」
「炭治郎君、結末を変えたいのならどんな困難でも諦めずに立ち向かいなさい。」
私は『その為にここへ呼び寄せられたのだから。』と告げた。
炭治郎君は言葉の意味を考えながら次の目的地である東京府・浅草へと私と共に歩みを進めた。
その道中で沼鬼に捕まって喰われそうになった娘さんの一人である志摩崎悠雨と再会。
彼女も実家のある東京へ帰る途中であり、お礼がしたいので近くに来たら会いに来て欲しいと父親の名刺を頂いた。
彼女は御付きの方が運転する自動車で早々に町を離れて行った。
「炭治郎君、もしかしたら手がかりを掴めるかもしれない。」
「えっ?」
「その為には彼女の力が必要だけど…」
私は貰った名刺の内容を見て炭治郎君に告げた。
暫くしてからの事だが、ハスミらは今回の事件の折に町で知り合った和巳さんと里子さんが無事に祝言を上げたと茶屋の女将さんから文を受け取った。
=続=
※志摩崎悠雨(シマザキ・ユウ)
今回、炭治郎らが沼鬼から救出した十六歳の女子。
本来の流れでは沼鬼の餌食となっていた娘の一人。
服装は緑色の着物に袴と橙色柄の七宝焼きの髪飾りを付けている。
父親は東京方面で志摩崎製薬会社を営む華族。
この町にやって来たのは静養先から実家に戻る時の中継地点として利用していた為。
西洋文化や噂の鬼狩りに興味を持つお年頃。
刀鍛冶の里編後、新・上弦が引き起こした事件でどちらに向かいますか?
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