結城龍馬は、
米国のサンフランシスコにある、刑務所の中で、過ごしていた。
困ったもんだ。今日は月明かりが眩しすぎて眠れない。
いつものように決められた労働をして、
炭水化物とタンパク質を寄せて固めただけの、
夕食とも言えない夕食を終え、労働日報を書いて床に就いた。
この監獄では、することをしたら、
さっさと寝ちまう他無い。
だから、俺はいつも労働と食事から戻ってきたら、
さっさと毛布にくるまってしまうのだが、
今日はそれができなかった。雲のない空、
そして今宵は満月。鉄格子の形に切り取られ
床に映った月明かりを見ていたら、目が冴えてしまったのだ。
今日もその日のような静かな夜だ。俺は眠気がやってくるまで、
月明かりでわずかに煌めいている蜘蛛の巣をじっと見つめていた。
どこから侵入してきたのかわからないが、いつの間にか蜘蛛が入り込んできて
大きな巣を張っていたのだ。わざわざこんなところに来て
巣を張らなくても、お前にはもっといい場所があろうにと思った。
その蜘蛛は少しの間だけ同居人だったが、虫がかからないとわかったのか、
巣を放置してどこかへ居なくなってしまった。
あまりに立派な巣で壊すには忍びなく、そのままにしている。
そういえば、アイツは、蜘蛛が嫌いだったな。
思い出した瞬間に大きなため息が出てしまった。
また思い出しちまうなんて。
蜘蛛だけじゃない、何か虫が出るたびに、
俺に泣きついては逃がせ追い出せと言う、女だった。
そして俺が虫を追い出した頃にはケロッとした様子で、
別のことを楽しそうに語っていた。そうだ、あの時も。
「見て、キレイな満月!」
「おいおい…夜に窓を開けっぱなしにすんな。
また虫が入るだろうが」
「それより、龍馬君も見てよ。ほら、テニスボールみたい!」
「…月をテニスボールに例える奴は初めて見たぞ。
月は白の軟式用のゴムボールじゃねーんだぞ」
「日本では黄色でしょ?」
「そりゃ…そうだが」
「ねぇ、あれって手が届かないかしら?
手で握れそうじゃない?」
「…やれやれだな」
気が付いたら俺も手を伸ばしていた。
あの日、あいつがやっていたように。鉄格子に阻まれた月の光に、
勿論手なんか届くはずがない。俺は自分の手をじっと見つめた。
何一つ守れなくて、何一つつかめなくて、その癖今も無駄に動き続ける、
ふがいない自分の右手を。そして俺は月明かりに背を向け、
目を閉じて毛布にくるまった。それでもあの光は、
ろくな明かりもないこの牢獄を、ろくでもない俺を、煌々と照らし続けていた。
困ったもんだ。今日は月明かりが眩しすぎて眠れない。
後日、そんな、罪を犯した俺は、
仮出所が、決まってしまう。
そして、米国からの追放が決まり、
日本に帰りざる負えなくなったのだった…