雲一つない綺麗な星空。お父さんの仕事の手伝いをしていて分からなかったけど、今日はこんなにも天気が良い日だったんだ。
「星が綺麗やなぁ」
そんなきざったい台詞を呟くロバートさんは、外装が真っ赤に塗装されたフェラーリを軽快なリズムで運転している。片腕でハンドルを操り、今にも口笛を吹き始めそうだ。
「まったく、お父さんにも困ったッチよ。こんな夜遅くまで可愛い娘を働かせるんだから、深夜残業手当の他にも特別手当が欲しいッチよ」
右側の助手席に座る私は、フロントガラス越しの夜空を望みながら、愚痴を言う。
「そうやなぁ。近年の労働問題は深刻化が増すばかりやからなぁ。……っていうか、ユリちゃんは立場でいったら師匠と同じやさかい。自分で給料決めてもいいんやないか。ユリちゃんは『極限焼肉』の一号店オープンから、ビラ配りや声だしずっと頑張ってたやん。ちょっとくらいボーナスもろても師匠もスタッフも、だぁれも文句言わへんと思うで」
確かにロバートさんの言う通り、私は『極限焼肉』という焼肉店を立ち上げてから、道場にも行かずにお父さんの仕事を手伝ってきた。だから私も経営陣の一人だと言い張れるだろう。でも別に私はお金が欲しいわけではなかった。ただ愚痴を言ってみたかっただけだった。
「そんなのムリムリ。お父さんって実はかなりの小心者なんだから。いつまた道場と同じように経営不振に陥るのか、不安でしょうがないんだよ」
「あの裸一貫で山籠もりするような師匠がねぇ……」
「そうそう」
私はいつものように適当にお茶を濁す。そう適当が一番なんだ。
「着いたで」
私が今日泊まる予定のホテルの前でフェラーリは止まった。
「うん! やっぱり一人っきりのビジネスホテルは何かこうワクワクするッチ! 何か面白い事起きる気がするッチ!」
いつもお兄ちゃんとかお父さんとかと一緒だから、一人だと何か胸がドキドキする。
「ユリちゃん、けったいな事言うもんやあらへんで。ワイはこのホテルから不穏な空気を感じとる。師匠に誓って下心は全くない。ワイの知己がおるホテルに今からでも来うへんか?」
「あ! そうやってアタシに変な事するきでしょ! もうロバートさんのエッチ!」
「だから師匠に誓うって言うてんねん」
ロバートさんは困り果てた顔で頭をポリポリと掻く。実は私も薄々感じてはいた。このホテルに潜む何者かの気配を。
「大丈夫だって! アタシだってKOFの出場者なんだよ! 何かあったら……」
私は左足を軸にして右足で思いっきり遠心力をつけて、ロバートさんのお腹の前で止める。
「これでだいじょうぶい!」
ロバートさんは「はいはい」と私の右足に軽く手刀の要領で右手を押し当て、私の右足を下ろさせる。
「師匠は店で寝てるし、リョウは山籠もりの真っ最中や。よってあまりもんのわいがユリちゃんを守るしかないのや」
「もう何度言わせるの! お兄ちゃんやロバートさんに守られてばかりのアタシは過去! 自分で! 一人で! もう闘えるの!」
イライラが込み上げて来る。もう私は二度と守られる自分でいたくない。そうしないと、あの誘拐された日の出来事が恐怖と共に私の頭にフラッシュバックする。なんでお兄ちゃんもロバートさんもそれが分からないの。
「ユリちゃんが強いのはワイもリョウも師匠も重々承知している事実や。でもな」
ロバートさんが自らの拳を強く握り、その拳で胸を軽く叩く。
「極限流の強さとは拳だけやない。ココも重要なんや」
(続けるかなぁ)