鬼滅の刃:大正探偵録   作:madamu

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やっと続きかけた。


起:事件のあらまし

横浜の駅から一里未満。

 

横浜は東京との列車の往復も多く、又国外との窓口としても機能している。

学生、職人、遊牧的知層。

服装も下町とは違い、スーツ姿に山高帽といった紳士を気取る服装の男性もちらほらと。

それ以外でも袴の書生や学生服の若者、着物姿の女中は少しだけ派手なかんざしをしている。

 

本屋「藤枝堂(ふじえだどう)」はそこそこに賑わっている通りにある。

近所には学校もあり、学生たちの利用も多い。

一階は奥行きのあり、所狭しと本が積まれている。

二階は事務所となっており、そこには店主が詰めており、非常に出入りが多い。

 

店主は買い付けで東京に行くことも多く、店番は右腕の無い青年と左足の無い女中が主に行っている。

青年は1年と少し前、女中は3年ほど前から勤めている。

女中は昔犬に顔引っ掻かれたのか左頬から耳まで傷がある。

二人とも物腰は柔らかいが、大柄で威圧的な学生に物怖じすることは無い。

 

「旦那さん、お客です」

「どちら様だい?」

店の二階。

出版社への季節の手紙をしたためているところ、店員の青年「亮太」が声をかけてきた。

弥次郎は相手を聞いたが返事は予想通りでもあった。

「岩の方ですね」

 

 

「ご無沙汰しております」

目の見えぬ大柄の男が丁寧に頭を下げる。

「見違えましたね」

店の一階。奥の座敷に通して弥次郎は挨拶を受けた。

黒の隊服は一件見れば軍服のように見える。それは若年兵の印象を持たせることで都市部での行動を可能にさせる擬態であり実戦での有用性を持たせるための衣装でもある。

 

以前に鬼殺隊本拠地の産屋敷家に訪れた時、岩の呼吸の育手に紹介されたのが悲鳴嶋興冥である。

見上げるほどの大男ではあるが、決して礼を失することはなく今も広くはない座敷で身を縮こませている。

 

「もうすぐ柱になるそうで」

「いえ、これも隊の皆々様のご助力のおかげです」

悲鳴嶋の目元から涙がこぼれる。

悲鳴嶋の育手からは「異常に涙脆い」という話を聞いていなければ彼の涙に動揺していただろう。

 

そこから少し世間話をした。

最近は柱の数も少なく、各柱の出動回数が飛躍的に増えていること。

若い隊員も徐々に増えているので年長者はここが我慢のし時であること。

 

「今日いらっしゃったのはご助力が必要で?」

「はい。一つお願いがございます。帝都における…」

話の内容はそれほど難しいことではなく、バスの発着場を書き込んだ地図を都合して欲しいということであった。

来月に悲鳴嶋が隊長として東京北部の掃討作戦が実施されるので土地不案内な悲鳴嶋としては、バスや列車の情報を纏めておきたかった。

盲目ということで見て覚えることが出来ないので、一緒に行動する隊士たちに情報共有するための紙面資料を求めた。

 

「それでしたら一両日でお渡しできます。どちらにお持ちしましょうか」

「ありがたき。現在逗留しておりますのは品川の藤の家でして」

「あそこですか。庭先に梅のある」

「ええ、そちらに」

頷く悲鳴嶋。

 

弥次郎は二回ほど手を叩くと、片足の女中がやって来る。

不便の無いよういつも杖を突いているが、不思議と杖のつく音はしない。

「お佳さん、東京のバスの停車場の地図を手配して下さい。あるたけ用意して品川の梅藤に」

 

鬼殺隊の協力を行う「藤」の家は関東、東京にそれなりいるが主要な家には「渾名」が付く。

悲鳴嶋が逗留しているのは庭先の梅が有名なことから「梅藤」と呼ばれる屋敷だ。

元は商家だったが今では元武家の人間が住んでいる。

弥次郎の記憶では「吉宗公の頃に鬼によって族滅の憂き目にあい、一人残った男子がお家を継いだ」という家柄だった。

百年単位で恨みは残るのだ。

 

「地図の手配をするまで、少し話に付き合っていただけますか」

「どういった話でしょうか。私が聞いても差し支えないお話でしょうか。学はありませんのでお聞きするばかりかと思いますが」

突然の提案に悲鳴嶋はその巨体を少し縮め前に乗り出す。

 

「いえ、口にして誰かに説明することで理解が深まることがあります。壁に向かって話でも面白くない。相づちがあれば少しは気も紛れます。よろしければ四半刻ほどお時間を頂けますか」

「この身が役に立つのであれば拝聴いたします」

 

了承を得ると、弥次郎は手を叩く。

今度は店員の亮太が来る。

「悪いがお茶のお変わりをお願いしますよ。岩の方にも」

亮太は「承知しました」と答えた。

 

 

遺体が発見されたのはカフェーの店員が店の支度に朝来たからだ。

昨日の朝8時45分。

発見時間が正確なのは、近くの新聞売りが街頭の時計で時間を確認したのと店員が店から転げ出たのがほぼ同時だったからだ。

 

被害者は「小倉白」(おぐらしろ)で20歳の女給。なじみの客からは「白あん」と言われていたらしい。

名前通り、肌は白く、人目を引く美貌ではないものの、不快にさせない快活な女性だったとのことだ。

 

カフェ―は「喫茶」をさせる店と「遊びの相手探し」をする性風俗店としての二通りがあり小倉白のいた店は後者に分類される。

店が終わるのが20:00~21:00のあいだ辺り。

女給全員の夜の予約が付けば少し早めに店じまいをする。

 

小倉白はこの店で働き始めた2年前より、客との金銭的逢瀬が少し減っていた。

彼女自身は赤城山のあたりから15歳で上京し、流れ流れて浅草のカフェーにたどり着いた。

 

被害者はカフェーで働いていた当初は美貌よりも愛嬌で客を捕まえていたが、歳が20に近づくにつれて相手をするのが馴染客だけとなり、困窮と言わないまでもカフェーで働いた当初の大金と言えるような稼ぎは無くなっていた。

 

金銭的逢瀬をする者としての「岐路」に立たされていたのだ。

後は本格的な「娼婦」の道だが、大正の現在ではその道は公序風俗の取り締まりで大ぴらに出来ない。

それこそ、東京外の地方の方が「女郎」という文化は夜の闇にまだ残っていた。

 

小倉白の遺体発見現場はカフェーのフロアで、テーブルには埃避けの布、椅子は部屋の隅に整列。

開店前の整った状態で、異物として死体とその脇の椅子が一脚あるだけだった。

首が切断された激しい出血が想定される遺体の損壊具合から判断する血だまりの大きさは想像通りであった。

 

だが、奇妙なのが血だまりがあっても、店内に血が飛び散っている様子が無い。

鬼が斬撃なのか力任せなのか、「首を胴から放す」のであれば血だまり以外の血痕があってしかるべき。

 

この異常な状況が起きたのが確認されたのが遺体発見の8時45分。

昨晩店を片付けた店員は22:00には店の施錠をしたらしい。

 

ただ、施錠といっても表と裏の扉に鍵を閉めただけで「コツ」がわかっている人間であれば解錠は可能だ。

それが鬼の血鬼術が絡んでくれば鍵など無いに等しい。

 

小倉白の交際関係はいま警察が追っている。

明日には報告が来るはずである。

 

今現在の状況証拠では「鬼の仕業ではない」と弥次郎は考えている。

悲鳴嶋も話を聞き終わると「同意です」と答えた。

 

別の場所で殺害し、遺体をカフェー店内に置き去りにした。

鬼の仕業にするため首を刃物なりで落とした。

死後の出血なので脈は止まり、飛び散ることは無い。

 

だがこの場合、犯人は「鬼」の存在を知っていることになる。

 

「こう考えてみると、藪から蛇が出てくるかも知れません」

悲鳴嶋の言葉に今度は弥次郎がうなずき同意を示す。

 

「調べるまでは行いますのでもしもの時はお呼びします」

弥次郎の言葉にうなずきながらも悲鳴嶋は岩の呼吸の育手から聞いた弥次郎の実力を思い出していた。

 

ただ一人の嵐の呼吸。

一呼吸で4体の鬼の首を飛ばした剣士。

そして一度の戦闘で22体の鬼を滅し、人生において80体以上の鬼を斬った。

22体を滅した戦闘で肺に傷を負わなければ「嵐柱(らんばしら)」として今でも鬼滅隊を率いていた人物。

 

当代の炎柱「煉獄槇寿郎」からしても「呼吸を使わぬ剣の腕なら、今日明日にでも帝都警察の剣戟師範に付ける人よ」と評価されていた。

 

間もなく岩柱となる若者は目の前の書生風の男の実力を訝しく思うことなく信頼していた。

 

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