【外伝】となりの黒騎士くん   作:クロカタ

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二日目、二話目の更新です。


音が消えた日 2

 沈黙怪人に声を奪われた。

 仲間同士での声掛けもできなくなってしまったし、今後声が戻るかどうかも保証はない。

 

「———!!!?」

 

 動揺を露わにさせるきららの背を軽く叩き落ち着かせる。

 葵は無駄に図太いので特に取り乱した様子はないけど、むしろこの状況ではきららの反応が正常だ。

 

『ッ、音と認識するだけで奪えるのか! なんて奴だ! お前たち、こちらで指示を出す!!』

 

 声を失ってしまったことについてはどうしようもない。

 この後のことは考えずに今は怪人の討伐にだけ集中し、社長の声に耳を傾ける。

 

『シミュレーション通りの戦術だ! レッド、イエローは前衛! ブルーが後方で援護!! 敵に不審な反応が見られたらすぐに警告を出す!!』

 

 社長の指示に合わせ私ときららは前に飛び出す。

 背後から放たれた葵の援護射撃が沈黙怪人へ突き進む。

 避ける素振りすらみせずにそのまま直撃した沈黙怪人は痛みに悶えるような叫び声を上げる。

 

———!!

 

 生物らしい(・・・・・)反応をする沈黙怪人に僅かに気勢が削がれる。

 ———ッ、真に受けるな!!

 あれはこの都市の音を食い尽くした怪人だ!!

 そう自分に言い聞かせ、手にした鈍色の剣を沈黙怪人へと叩きつける。

 

「ア、アァ!?」

 

 肩から脇まで斬りつけた断面から緑色の血が迸る。

 動かない、というより無抵抗に攻撃を受けた沈黙怪人は怯えた声を漏らし、懇願するような瞳を向けてくる。

 

「……いな……おと」

 

 血を吹き出しながらゆっくりと私に手を伸ばしてきた。

 

『馬鹿モン!! 迂闊に触れるな!!』

 

 直感に似た何かが警鐘を鳴らす。

 咄嗟に後ろに下がると同時に遅れて攻撃を仕掛けたきららの斧が沈黙怪人の腹部に叩きつけられ、大きく吹き飛ばされた。

 

———なに、今の悪寒は。

———いや、それより今の怪人は危険だ。

 

 ビルの一つに激突した沈黙怪人を見てそう確信する。

 今一度攻撃を仕掛けようと、きららを見ると叩きつけた斧を見て困惑したような反応をしている。

 

『肉質そのものは脆弱だが、その骨格の硬度は凶悪そのものだ……!! このIQ一億の私のスーパー頭脳から導かれる結論は———あのか弱い姿は擬態ということに他ならない!! とんだ策士だぞあの怪人はァ!!』

 

 ビルの中から沈黙怪人がゆっくりと歩み出る。

 肩とお腹から血を溢れだすその姿は一見して致命傷に見えるが、そこから覗かれる骨格はまるダイアモンドのような硬質な輝きを放っていた。

 

「あらあら、バレちゃいました」

 

———喋った!?

『レッドの声だと!?』

 

 私の声ってこんな感じなの!?

 ……いや、我ながら可愛い声してるな……って、そうじゃなくて!!

 怪人の傷が恐るべき速さで再生していく。

 瞬く間に完全回復してしまった怪人を見て、先ほどのはやられたフリだったということを再認識する。

 

『再生能力、そして取り込んだ音を自分のものに……音という概念の奪取、それが奴の能力か?』

 

「ふふふ、お強いんですね。じゃすてぃすくるせいだーって。わたくし、いささか滾ってきましたわ」

 

『レッドよりレッドの声を使いこなしている……!?』

「「———ッ」」

 

 ねえ、おかしくない?

 私より私の声使いこなしている呼ばわりされていることに納得いかないんだけど。

 なんできららも葵も戦慄しているの?

 

「わたしの名は、音喰怪人シャクテル。———それじゃあ、下手な芝居はやめて戦いましょうか」

 

 沈黙怪人の尾が大きくしなり地面を打ち鳴らす。

 コンクリートの地面が爆ぜ、沈黙怪人———音喰怪人シャクテルが目の前に移動してくる。

 

「「!?」」

「あは」

 

 ———衝撃。

 振り回された尾の一撃を食らったと遅れて認識しながら剣を地面に突き刺し、無理やり着地。間髪入れずにシャクテルに斬りかかる。

 きららの腕に尾をまきつけ地面に叩きつけていた奴は私を見るなりその口を開け———、

 

「アアアア!!!!」

 

 歌うような声を発した。

 それは衝撃波を伴って私の全身を打ち付ける。

 痛ぅッ、超音波!? なんて威力!!

 

「———ッ」

 

 拘束から逃れたきららがシャクテルの首に斧を叩きつける。

 ガキィン!! という金属音が響くが、奴は僅かにその表情を顰める。

 

「貴女の攻撃、嫌いだわ」

 

『イエローの攻撃は骨格に対して有効だ!! 関節と首を狙え!!』

 

 社長の指示にきららが再度斧を振り上げ攻撃を仕掛ける。

 奴は防御……すらせずにそのまま攻撃を受け止め、あんぐりと口を開けなにかを食べる素振りを見せた。

 

「ごちそうさま」

「ッ」

 

 その言葉にきららが横薙ぎをシャクテルの首に叩きつける。

 しかしその一撃はシャクテルの青色の外皮を切り裂くこともなく、受け止められた。

 触れた“音”すら響かせないままに停止した武器に私もきららも驚愕する。

 

「隙だらけ」

「ッ」

 

 動きを止めてしまったきららにシャクテルが迫る。

 

「ぽ」

 

 シャクテルが発した声。

 それはとてつもない衝撃波として形になり、至近距離にいるきららの身体をボールのように吹き飛ばした。

 

———きらら!?

 

 建物に激突し、白煙の中に消える彼女。

 無事だろうけど……!!

 

「貴女は、あと」

「!」

 

 剣を振り下ろした私を一瞥し、尾で薙ぎ払った奴は葵の方へと向かう。

 冷静に銃を放ち近づかせないように正確無比な射撃を撃ち込むが、シャクテルがなにかを食らった素振りを見せた瞬間———葵の持つ銃からエネルギー弾が止まる。

 

「……!?」

「そんなうるさい武器とめちゃいました」

「!」

「貴女、面倒そうなので先に始末です」

 

 一気に距離を詰めたシャクテルが、予備の銃を取り出した葵の肩を掴む。

 すぐに助けに向かおうと動こうとするが、奴の目の前にいる葵の身体が崩れ落ちたことで思考が停止する。

 

 ———葵?

 

 きららのように吹き飛ばされたわけでもなく、尾の一撃を食らったわけでもない。

 ただ、触れられただけで気絶するように膝から崩れ落ちてしまった彼女の身に何が起こったのか、理解できなかった。

 

『ブルー心肺停止!! 生命維持すらも機能していません!!!』

『なっ!? すぐに遠隔で蘇生措置を!!』

 

 葵が、死んだ……!? 

 そんな、嘘だ……死んで死ぬような子じゃ……。

 

「さて、ようやく貴女」

 

 ッ。

 尾を地面に叩きつけた加速でこちらに迫るシャクテルに剣を構え、迎え撃つ。

 尾と剣がぶつかり火花が散る。

 

「ほらほら、もっとがんばって」

 

 パワーで上回られている……!

 だけど、技量ならこっちのほうが上!!

 尾の横薙ぎを避け、下からの切り上げを叩きこむ。

 やわらかい肉を切り裂いた剣がシャクテルの骨格を打ち据え、カィィン!! という音を響かせる。

 

「あーんむっ」

 

 なにかを(・・・・)食べた……?

 血を吹き出しながらも口を開け、咀嚼したシャクテル。

 いくら傷つけても瞬時に再生されてしまう。

 

 ———っ、普通に攻撃しちゃだめだ!

 骨と骨の継ぎ目を狙って断ち切らなきゃ!!

 

 剣を引き戻し、シャクテルの骨の関節を見極めた振り下ろしを繰り出す……が、その一撃は音もなくシャクテルの青い皮膚により阻まれてしまった。

 なっ、さっきまで普通に切り裂けていたのにっ!?

 

「私を斬る音を食べちゃった」

 

 あれほどまでに柔らかかった沈黙怪人の表皮に刃が通らないことに動揺する。

 まさか、さっきのきららの攻撃はこれで……!?

 

「貴女の声、本当かわいい」

———っ。

 

 沈黙怪人の華奢な手が私の胸に伸びる。

 

「貴女の心もちょうだい」

 

 ッ、超音波———ッ!?

 衝撃が来ると身構えた私の心臓に位置する場所に、シャクテルの指先が軽く触れた瞬間———、どくんっ! という音が身体の内側から響いた。

 

———ッ!!?

 

 次の瞬間、猛烈な苦しさが胸を襲い呼吸もできなくなる。

 

「ッ、……ッ!?」

「いい音色。貴女の“こどう”」

 

 こどう……鼓動、だって?

 まさか、心臓の音を奪われたの!! 葵が受けたのはこれか……!!

 致命傷。

 確実に死へと向かう攻撃を食らい崩れ落ちそうになる。

 

『レッド!! 私の声が聞こえているか!? レッド!!』

———ッ。

 

 こんな、ところで死ぬわけにはいかない。

 視界も狭まり、なにも考えられなくなりそうになる。

 社長の声も遠くなっていく。

 

 

 

 ———まだだ

 

 

「あぐ!?!?」

 

 

 シャクテルの喉に伸びた手。

 最早、執念ともいえるほどの感情で無理やり身体を動かし———シャクテルの喉に爪を立て、握りつぶさんばかりに掴み取る。

 

「!? なっ、あがっ!?」

 

 私のスーツに搭載された武装の一つ“レッドネイル”。

 武器を失った時の保険とも言える指先に展開された赤色の半透明の刃は沈黙怪人の喉を握りつぶす。

 

「ご、が、がぼ!?」

 

 驚愕の表情で緑色の血を吐き出す沈黙怪人。

 再生を阻害するため喉を潰したままの状態で首を掴む。

 

「ど、どぉて……」

「私たちが、戦うって決めたからだ」

 

 心臓が音を取り戻し鼓動を刻む。

 声が戻り、沈黙怪人の声は醜悪な……本来の声へと戻っていく。

 徐々に力が戻っていくごとに首を貫いた沈黙怪人を地面に押し付け、引き寄せた剣を地面に突き立て縫い付ける。

 

「私たちはジャスティスクルセイダー。お前たちの敵。この事実がある限り、私達がお前たちに屈することは絶対にない」

 

 心臓を止められようとも、どんなに絶望的な状況だろうとも、私達のやるべきことは絶対に変わらない。

 自分で選んで決めたことだから。

 そう言葉にすると、ビルの一画から雷が落ちたような轟音が鳴り響き、そこから電撃を纏わせたきららがやってくる。

 

「イエロー」

「おう」

 

 先ほどの一撃でマスクとアーマーを破損させたきららは、斧を引きずりながらやってくる。

 彼女の怒気を現すように斧からは夥しい電撃を迸らせている。

 

「アァァァ!!」

 醜悪な雄たけびを上げ尾を振り上げるが、それも後方から嵐のように放たれたエネルギー弾が殺到し中の骨格ごと消滅した。

 

「一瞬死んでた。許さん」

「ア、ァ……ア」

 

 起き上がり大型の銃を構える葵。

 引きずっていた斧を振り上げるきらら。

 そして、未だに喉を押さえつけたまま、視線をそらさない私を見て———シャクテルの瞳が恐怖に染まる

 

「さっさと、くたばれ化物が」

「ひっ!? 助け———」

 

 それから先の言葉を言わせる隙もなく、きららが振り下ろした斧はシャクテルの首を骨格ごと断ち切り止めを刺した。

 胴と首を切り離されたシャクテルは、ばしゃり、と弾けるように液体へと解け消滅した。

 

『……私が言うのもなんだが』

 

 異様に静かになった社長のいる通信先。

 その中でやや引いた様子の社長が声を漏らす。

 

『お前らも、黒騎士のこと言えんぞ……』

 

 いや、だってこっちも死にものぐるいだったんだもん。

 でも今なら黒騎士君が問答無用で怪人を倒そうとしてきた理由もよくわかる。

 怪人という存在は一つの油断ですべてを台無しにするような存在だ。

 それらと戦い、勝利していくには———理不尽に、無慈悲に相手を滅ぼせる戦い方をするしかない、ということだ。

 

「あぁ、死ぬかと思ったぁ」

 

 でも今回は二回目の戦いにかかわらず本当に大変だった。

 こんな戦いがこれからも続くと考えたら憂鬱な気持ちになってしまう。

 剣を投げ出してその場に座り込んだ私に、きららも苦笑する。

 

「私も死ぬかと思った。間近でロケット食らったような衝撃だったもん」

「私も。てか心臓止まっていたし。なんなら一時的に死んでいたようなものだった」

 

 葵は……うん、あと少し遅かったらガチで命を落としていたやつだもんね。

 ちょっとした臨死体験をしたわりには特に堪えた様子もなくけろりとしているけれども。

 

「私のことは不死身のブルーと呼んで欲しい」

「顔が青ざめているからブルーゾンビ、略してブルゾン葵でいい?」

「キレそう」

 

 だんだん葵の扱い方も分かってきた。

 下手に構わず結構雑に扱っていいんだな、この子は。 

 

『———っ、主任!! ジャスティスクルセイダーのいる場所に接近する反応あり!!』

『なんだと!? いや、この反応は……』

 

 社長とスタッフさんたちの慌てた声が聞こえた直後に頭上から黒い何かが地上に落ちてきた。

 私たちの前にやってきたのは、黒いスーツを纏った戦士———黒騎士であった。

 ほぼ夜にしか活動しない彼の登場に私達も戦慄する。

 

「……」

 

 く、くくくく黒騎士くん!?

 ジャスティスクルセイダーの姿で会うのは二度目だけど、これって大丈夫かな……!?

 怪人と間違えられて攻撃されるようなことがあったら、命がいくつあっても足りないことになるんだけど……!!

 

「怪人を倒したのは、お前らか?」

「え、あ、うん……」

「そうか……」

 

 敵視はされていないようだけど、どう声をかけていいか分からない。

 やっぱり素直に協力も求めるべきかな……!?

 

『お、おおおお前ら!! 友好の証として名乗りを上げろ!?』

「はぁ!?」

「マジで言ってます!?」

「理解不能!!」

 

 社長!? 名乗りって、まさかアレのことを言ってる!?

 予想外のことにテンパっているのは社長も同じなのだろうが、あの名乗りをやるのはリスキーすぎる。

 さすがに抗議しようと声を上げようとすると、私達のチェンジャーからご機嫌なメロディーが流れ始める。

 

「こ、これは!?」

『BGMは任せろ!!』

「あんた気合いれすぎでしょ!?」

 

「え、え、なんだ? 音……?」

 

 くっ、引くに引けなくなった。

 突如としてなりだしたご機嫌なメロディーに黒騎士くんが不思議がっている姿を見て、私達も腹をくくる。

 仕方ない。

 彼が私たちのことを知らないことは事実。

 なら、多少バカらしくとも名乗りという形で知ってもらおう。

 

「イエロー、ブルー! やるよ……!」

「うぅ……」

「仕方なし……」

 

 やけくそ気味の掛け声に二人が応えたところでジャスティスクルセイダーの名乗りを始める。

 肩幅ほどに足を開き、掌を突き出し、ポーズを取る。

 

「燃える炎は勇気の証! ジャスティスレッド!」

「流れる水は奇跡の印! ジャスティスブルー!」

「轟く稲妻は希望の光! ジャスティスイエロー!」

 

 何度も強制的に練習させられ無駄にスムーズにできるようになってしまった口上。

 マスクの中で羞恥のあまり泣きそうになりながら私たちは三人で並ぶようにさらに決めポーズをとり、声を合わせた。

 

「「「三人合わせて! 三色戦隊ジャスティスクルセイダー!!!」」」

 

「……」

 

 ……。

 ……、……。

 おかしいな、シャクテルは倒したはずなのに全然音が聞こえなくなったなー。

 当の黒騎士君は……もう反応に困るように、しきりに視線を左右に揺らしている。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 沈黙、というかこの奇妙過ぎる空気に耐えかねたのか彼はその場を跳躍し、消えてしまった。

 残ったのは未だにポーズをとったまま硬直する私達と、人気のない都市に吹く風だけであった。

 

『が、がはは! まあ、なんとかなってよかったな!! はははは!!』

 

 ……。

 

「社長、首を洗って待っておけ」

「次に首を飛ばすのはあんただ」

「金崎令馬。お前を殺す」

『———アッ』

 

 あの社長、今日という今日はもう許さん。

 ぷちり、と通信を切った私たちは確固たる目的を定めながら本部へと向かうのであった。

 




【沈黙怪人→“音喰怪人シャクテル”情報開示】
・音そのものの概念を食らう怪人。
・直接触れることで心臓の鼓動する音を食らい、心臓そのものを停止させてくる。
・怪人随一の再生能力を有していることに加え、骨格も非常に硬い。
・一度攻撃を食らえば、生じる“攻撃音”を食らい耐性を獲得してくる。
・尻尾での打撃、超音波、声を用いた攻撃など、純粋な戦闘力もジャスティスクルセイダー以上。

【攻略法】
・能力を司る喉を潰し、その隙に首を断つ。
・なにもさせずに一撃で葬ること。

今回の更新は以上となります。
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