二周目提督あふたー   作:ベリーナイスメル/靴下香

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時雨日記あふたー1

 ○月△日

 

 MI作戦が終わって、提督のプロポーズを皆して喜んで。

 あの場にいた皆、当然僕もだけど揃って確信したんだ。

 

 これからの幸せに揺るぎはないって。

 

 提督がいる。皆が生きている。

 あぁ、これがきっと提督が言っていた当たり前なんだって心の底から理解できた。

 遠く、遥か遠くにあったはずの当たり前。僕たちも、きっと提督でさえ手を伸ばし続けて、それでもそれは手に入らないものだと憧憬に終わって。

 望んで手を伸ばし続けた日常だからこそ、手に入いれたと理解できた。

 

 多分、僕達は世界で一番幸せな艦娘なんだろうね。

 そんなことを夕立に話してみたら迷いなく当たり前だよなんて言われちゃって、思わず頬を掻いちゃった。

 そうだね、そうだ。

 

 僕は今、とても幸せ。

 

 

 ○月△日

 

 作戦の事後処理は大変だった。

 流石に大規模作戦の後だったし、他鎮守府との連携だなんだとかもあったから尚更。

 

 でもそんな中提督は墓場鎮守府の皆を集めた。

 

 一つだけわがままを聞いて欲しいって。

 

 何を言ってくれても僕の全ては提督のためにあるんだからなんて思ったりもしたけれど、その時の表情を見て思わず真面目に頷いちゃった。

 すごく、真剣で。まるで今から戦いにでも臨むかのような。

 

 他の皆も同じだった。

 皆を引き連れて前を歩く提督の背中から感じる雰囲気。

 自然と背筋が伸びた。雑談だとか緩んだ空気は欠片も生まれず、ただ提督に続いた。

 

 そうして着いた波止場。

 特に何も言われなかったけど、出撃するのかななんて思った時。

 

 提督は静かに海へと瓶を流した。

 

 少しだけしか見えなかったけれど、中には紙が入っていたと思う。

 ボトルレター、っていうやつなのかな? だとするのなら誰に宛てた手紙だろう。

 

 それを、三つ。

 

 一つ一つ、ゆっくりと、時間をかけて。

 

 流し終わった提督は、軍帽を脱いで胸に、黙祷を捧げて。

 

 この行為に、どんな意味が込められているのか。

 それは多分誰にも理解は出来なかったと思う。けど、これが提督にとってとても大切で、しなければならない行為だというのは理解できた。

 だから僕たちは図ったわけでもなく揃って提督に続いて黙祷する。ここへ来て間もない元呉鎮守府の皆でさえ、何かを感じ取って。

 

 どれくらいの時間そうしていたのか。

 少なくとも流れていったボトルが見えなくなった頃、提督は何かを呟いて僕たちに向き直って言ったんだ。

 

 ありがとう、これからも改めてよろしく。

 

 そう言った。

 

 そう言った提督の顔は、きっと初めて見たもので。

 まるで憑き物が落ちたかのような、憂いが全く無いような。

 

 すごく、すごく澄み切った笑顔だった。

 

 たっぷりその顔を堪能した後、僕を含めた何人かが鼻血と一緒にその場へ蹲っちゃったのは、やっぱり余談だね。

 

 

 ○月△日

 

 過ぎた糖分は身体に毒だって言うことは知っていたけど、初めて実感したよ。

 

 ううん、確信はあったんだ。

 本命はきっと僕か龍田、次いで鳳翔さんあたり。

 ある意味誉れみたいなものだからそれは全然、覚悟の上だったしむしろそうなれたことに喜びを感じるべきなんだろうけど。

 

 甘かった。

 それが墓場鎮守府全員の認識。

 

 ある程度人目のあるところだったから尚まずかったんだろう、龍田はしばらく再起不能になった。

 そして次に鳳翔さんが厨房に引きこもってしばらく出てこなくなった。

 僕はと言えば、打ちどころが悪かったんだろう倒れた時の傷は入渠しなければ治らなかった、そして修復完了したというのにしばらく出られなかった。

 

 そしてその間に古鷹が犠牲になって。

 ドミノ倒しって言うのかな? それからは次々と……というか新人の蒼龍と鈴谷まで。

 

 これは地獄だと僕ははっきりわかったね。

 なんてことさ、敵は深海棲艦に非ず身内に居た。

 

 一歩近い。

 

 そうなんだよ、提督、あのボトルレターの後から一歩近いんだよ。おまけじゃないけど自然に触れてもらえる。

 

 これは由々しき事態だよ。墓場鎮守府の終わりは提督からなんて笑えない。

 どれくらい危険かなんて、あの天龍が一日だらしない顔しながらベッドから動けなかったなんて言ったらわかるかもしれない。

 

 望んでいた距離感や関係であったことに違いはないよ? まったくもって理想を描いてる。

 問題だったのは望んでいたはずなのにも関わらず僕たちの心が弱すぎたってこと。

 

 あんまりにも提督が強すぎる。

 

 だって……だってさ! 反則だよ!? 何あの笑顔!? 空母棲姫の爆撃なんて目じゃないよ!?

 そのくせ、そのくせさ!? ボディタッチ! セクハラだよ! もっとして!?

 

 お、落ち着こう……深呼吸をしよう……。

 

 意外ではないけど無事だったのは夕立。そして意外に無事だったのが金剛さん。

 大井さんなんかはそうだね、まだ大丈夫っていう感じかな? あ、艦学の皆はもちろん全滅。

 だからじゃないけど、辛うじて哨戒だなんだっていう出撃任務はなんとかなってるけど……いつまで大丈夫でいられるだろう。

 

 ふふ、チキンレースさ、僕達大丈夫じゃない人が大丈夫になるのが先か、今なんとか大丈夫な人たちが大丈夫じゃなくなるのが先か。

 雨は……いつか降るさ……僕たちの火照った心を癒やしてくれるさ……。

 

 

 ○月△日

 

 誰だい!? 癒やしてくれるって言った人は!!

 

 

 ○月△日

 

 っぽい! 時雨に代筆お願いされたっぽい! 今日も元気な夕立っぽい!

 

 えぇっと、今日の晩御飯は……じゃなかった。

 いろんな作戦後の処理が終わって通常運営に戻ったっぽい。相変わらず出撃任務は控えめになっちゃってるから夕立はちょっと暇っぽい。

 提督さんが言ってたけど、しばらくは海域維持に務めるみたい。海域開放を目的にして開放しても、それを維持できる戦力が足りないみたい。

 いい機会だから他の計画を進めていくよって提督さんは笑ってたけど大丈夫かな?

 

 そんな中、えっと、ドロップ? って提督さんは言ってたけど、浜風と磯風が艦学に入学するっぽい。

 これから一緒にがんばろうねってご挨拶した所だったからちょっと寂しいけれど、頑張ってきて欲しいっぽい!

 

 あとは……そう、呉から来てくれた皆。

 あんまり夕立に難しいことはわからないけれど、夕立達第一艦隊がしたみたいに、各地へ提督さんと回るって話があるっぽいぃ……うう、提督さんの出張は寂しいっぽい。

 訓練なら夕立がしてあげるのにな……私達じゃダメなのかしら? 

 

 こんな感じっぽい? あんまり時雨の日記にたくさん書いてもだめだよね!

 

 

 ○月△日

 

 夕立、ちゃんと日記書けるじゃないか、驚いた。

 

 ともあれ、提督の出張は決定されちゃった。

 名目的には各鎮守府の練度向上って話だけど……それなら第一艦隊や第二、第三艦隊出すほうが良いのにね?

 いや、提督の出張に着いていきたいってわけじゃないよ? 着いていきたいけど。

 

 でも納得せざるを得なかったかな、これは元呉の皆に対する荒療治だ。

 少し失礼な言い方になっちゃうけれど、あの人達は軽い。

 

 珍しいこともあったと言えばそうなんだよ。

 フラワーズ、取り分け那珂が厳しいことを言っているなんて。

 でもその御蔭であの人たちの軽さ……ううん、慢心とも言えるかな? そんな部分があったと気づけたのは。

 大井さんも、それは気づいていたんだろう反論しなかった。

 

 ここに来て、救われた。

 そうさ、ここは艦娘にとっての楽園、だから救われる。だけどそれだけじゃダメだ、僕たちはそれでも墓場鎮守府の艦娘だから。

 分かってる。被害者なんて言い方はあまり好きじゃないけれど、それでもあの人達は被害者だ。

 救われた後、何を為すかが大切で、提督の意志を海へ示し続ける者。

 

 このままゆっくり傷を癒やして、力をつける。

 間違いじゃないんだろうその方法は、だけどそれじゃあきっと誰も救えない。救われた者であり続けて、一生誰かを救えない。

 乗り越えなくちゃいけないんだ、過去を受け止めて前を向く力をつけなくちゃいけないんだ。

 

 だから、荒療治。

 

 それはあの深海棲艦が姿を変えたんだろう浜風と磯風にだって言えるだろう。

 形は少し違うけれど、浜風と磯風は気負いすぎているって思う。

 元々の性分だってあるんだろうけど、それでも、だ。

 深海棲艦だった頃の記憶は無いはずなのに、最初から提督に対して物凄く忠義というか……愛情っていうか……そんなのが深すぎる。くっ、あの悩ましボディめ……!

 

 あ、いや、うんそれは置いておいて。

 

 僕が言えたことじゃないのは分かってるけど、あんまり盲目的過ぎても良くない。

 天龍や僕、龍田……他の人達だって。

 何かを乗り越えた上で、あの提督だからこそ盲目的に信じられる、全てを預けられる。

 深海棲艦だった頃の記憶が無いのなら尚更、多くのことを知った上で提督へそういった気持ちを向けて欲しい。

 

 ……なんて、書いていて思ったけど。

 やっぱり墓場鎮守府は何かを乗り越えなければならないらしいね。

 提督はそのことを良く思ってはないみたい。

 実際出張の話は最初司令長官……いや、もう今は元帥か。軍から依頼って形で出されたときは首を横に振った。

 けれど、最終的に頷いた。

 どうして最後に頷いたのかは、わからないということにしておくね。

 

 唯一言えるなら、すごく那珂が頑張ってくれた、っていうことくらいだ。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 日記を閉じて、勝手に出てきた溜息。

 

 MI作戦が終わってから、早くも色々なことが動き出した。

 そんな色々に目を向けたらまだまだ大変だなんて思うけれど、一つだけ大きく違うことがある。

 

 温かい。

 うん、そうなんだよ。不安が全く無いんだ。

 新しい子達には申し訳なく思ったりもするけれど、かつていつも胸の中に巣食っていた怯えはもう取り払われた。

 

 どんな形、どんな軌跡を辿ろうとも、提督がいる。

 

 もう、あの時みたいにはならない。そう強く強く信じられる。

 二度と無様は晒さない、そう僕は誓った。

 

 それに。

 

「ふふっ」

 

 そっと唇を撫でて思い出す。

 大丈夫じゃない僕は、もう大丈夫になったことを思い出す。

 

 本当に、今の日々は幸せの真っ只中で。

 幸せという当たり前を、守られることがとても嬉しくて。

 永遠という言葉は何処にも存在しないって分かってる。

 ついこの間起こった奇跡はもう二度と起きないと確信している。

 

 だから、だからこそ。

 

「あぁ、幸せだな……」

 

 今を精一杯生きる。

 精一杯幸せという当たり前を守り続ける。

 

 そう、僕は提督の命だから。

 

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