家庭教師PRINCIPESSAユニ!   作:霧ケ峰リョク

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沢田綱吉のボスとしての在り方

「し、修羅開匣…………だと?」

 

 蝉の要素八割と人間二割、それをぐちゃぐちゃにかき混ぜて出来上がったかのような悍ましい変貌を遂げた男の姿を見て、隼人の表情は驚愕に染まる。

 修羅開匣――――それは(ボックス)アニマルを自らの肉体と融合して新たな力を獲得する狂気の技術。

 獣の特徴を獲得し、人体から死ぬ気の炎を放つその技術はあまりにも危険なもので成功率だって高くない。否、失敗して普通に死ねるのならまだマシな方で、場合によっては人間の原形を留めてないような悍ましい怪物となって自我を失う事だってあり得る。

 その狂気の手術をチカーラのリーダーである男は実行し力を獲得した。

 組織のモチーフとなった自分の愛用の匣兵器、嵐蝉(チカーラ・テンペスタ)と一体と化した男は自分の目的を邪魔した者達に殺意を込めた視線を向ける。

 

「よくもやってくれたな小僧ども……………ただじゃ済まさねぇぞ」

 

 怒りと殺意を剥き出しにし、男は人間の頃の面影が僅かにある目を釣り上げながら身体を震わせ音を鳴らす。

 

「ふぅん、さっきよりはマシになったんじゃない?」

 

 向けられる殺意に恭弥は飄々とした態度で男を見つめ返す。

 男だった蝉の怪物が纏う圧力はさっきまでとは比べ物にならない。にも関わらず、恭弥は淡々とそう呟いた。

 

「おまっ、修羅開匣の恐ろしさを知らないのか!?」

「知らないよ。恐ろしさとか興味無いし」

「興味とかの問題じゃねぇ!! 修羅開匣がどんなものなのか、知ってるのと知らないのとじゃ違うだろうが!!」

 

 淡々とマイペースを崩さない恭弥に隼人は焦りながら修羅開匣した男の強さを分析する。

 嵐属性の死ぬ気の炎の特性は分解。

 大空の七属性の中で尤も攻撃に特化した属性だ。

 加えて昆虫の、蝉のパワーを人体と融合した事で今のあの男は生きた匣兵器と言っても過言では無い。

 どのような能力を持っているのか、どのような戦法を取るのか、蝉と一体と化した身体でどんな動きが可能なのか。それを知らないで戦うのはあまりにも無謀が過ぎた。

 

「くそっ! こうなったらオレも加勢する! そうすれば勝てる確率が――――」

 

 この状況に焦った隼人はリングに嵐属性の死ぬ気の炎を灯し、自分も戦いに参戦しようとする。

 隼人が有する匣兵器は三人の作成者の一人であるイノチェンティが作り上げた代物だ。

 芸術家肌である為か、一見武器には見えないようなデザインが多いものの強力な匣兵器として、裏社会で高値で取り引きされている。

 この匣兵器を使えば状況も一変出来るかもしれない。そう考えたが故の行動だったが、隼人の腕は綱吉の手によって優しく止められる。

 

「大丈夫、オレが倒すよ」

 

 確かな自信と力強さを持って答えたその言葉に隼人は思わず言葉を失った。

 ボンゴレ10代目が修羅開匣の異質さを理解していない、とは思えない。

 だが隼人の目から見ても沢田綱吉が修羅開匣を使ってる奴よりも強いとは思えなかった。

 

「ねぇ、僕が相手するつもりだったんだけど」

「雲雀さんに任せても良いんですけど、残ってるリング何個あるんですか?」

「…………三個」

「ならオレが戦った方が良いです。ここで雲雀さんが使い物にならなくなったら後で困ります」

「本当に言うようになったね沢田綱吉。なら取り分を1割追加と採掘場の件、僕も噛ませてもらおうか」

「取り分は兎も角、採掘場に関しては言った事無かったんですけど…………まあ良いか。雲雀さんの協力があった方が色々と話が早いですし」

「ボス。私は?」

「凪はダメ。勝手にアレ使っただろ」

「バレた?」

「バレバレだよ。明らかに炎の純度と出力が高いし…………」

「隠してた筈なんですけどね…………気が付いたら持って来てましたし。それよりも沢田さん。一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫。任せて」

 

 それどころか隼人達には分からない話を四人は始める。

 臨戦態勢を取る敵を前にしてこの余裕。最早頼もしさすら感じるくらいだ。

 

「てめぇら…………俺の事を余程怒らせたいようだな?」

「既に怒ってるだろ。いや、そんな事よりもオレ達がダメージを受けてない事がそんなにおかしいか?」

「何?」

「誤魔化さなくて良いよ。お前がオレ達に攻撃を仕掛けてるのは気付いているから」

 

 淡々と事実を告げる綱吉に隼人は、綱吉と共にこの船にやって来た者達を除いた全員が呆気に取られた。

 

「蝉の鳴き声に見えない嵐の炎を乗せて相手を破壊するのがお前の修羅開匣の能力なんだろ?」

 

 その言葉に男は驚愕して目を見開く。

 

「な、何故…………!?」

「さっきから五月蝿い音をずっと鳴らしてるんだ。それが無意味な事だとは思えない。まあ、オレ達に耳障りな音を聴かせ続けて他の音を隠すって考えもなくはないんだろうけど、嵐属性の死ぬ気の炎なら単純に攻撃の為に音を出してると考えた方が自然だ。なら身を守る為に死ぬ気の炎で防げば良い。大雑把だけど確実に防ぐ事が出来る」

 

 確かに、その通りだ。

 蝉の鳴き声に嵐の炎を乗せて気付かない内に蓄積させ、敵を破壊する能力に対抗するには相手の炎が身体に到達しないように死ぬ気の炎を纏わせて防げば良いのだから。

 だがそれが難しいのかを隼人は理解していた。

 死ぬ気の炎を灯し続ければ当然生命力が減っていく。

 強力な力である事は違いないがその分下手に取り扱うと最悪死に至る可能性もある危険な力なのだ。それを一定の出力で死ぬ気の炎を灯し続け、更には自分達の身を守る事にも使っている。にも関わらず綱吉は平然とした顔でリングに炎を灯し続けている。

 死ぬ気の炎の総量は勿論のこと、使い方も今の自分達とは比べ物にならない程上回っていた。

 

「だ、だが防いでばかりじゃあ俺には勝てねぇぜ!! それに俺の身体には嵐の炎が――――」

 

 自身の攻撃を防がれた事実に動揺する男だったが、すぐに自身の優位性を語って平静を保とうとする。

 しかしその言葉が最後まで語られる事はなく、綱吉は攻撃を仕掛けていた。

 

「メテオアクセル」

 

 何時の間にか額に死ぬ気の炎を灯し、(ハイパー)死ぬ気モードへと移行した綱吉の右拳が男の腹部に突き刺さる。

 

「ぐへぇっ!?」

 

 死ぬ気の炎を右手に収束させた拳は嵐の炎と修羅開匣し蝉の外殻を手に入れた男の防御を容易く貫く強烈な一撃と化し、男を壁に叩き付けた。

 

「が、ぁ…………て、てめぇ、正気か…………?」

 

 腹部に受けたダメージによろけながら男は呟く。

 

「嵐の炎の特性は分解。匣兵器によっては触れるだけでダメージを受けるようなものもある。だけど、ダメージを受ける事を覚悟していればお前をぶん殴れる」

 

 嵐の炎によって右手にダメージを負いながらも、綱吉は表情一つ変える事無く男を見据える。

 男は傷を負いながらも向かって来る綱吉を見て後退る。

 

「て、てめぇ…………正気か!?」

「正気ね。こんなもの(死ぬ気の炎)を使える時点でオレもお前もとっくの昔に存在しないだろ」

 

 煌々と燃え上がる大空の死ぬ気の炎、そこに込められた覚悟はこの場に居る者達とは比較する事すら烏滸がましいと思ってしまう程だった。

 

「すげぇ…………」

 

 死ぬ気の炎は覚悟によってその力が変動する。

 子どもが灯す炎が弱く、大人が灯す炎が強いというわけでは決して無い。だが総じて子どもが灯す炎は大人よりも弱いものとなってしまう。

 理由としてはいくつか挙げられるが子どものいう覚悟が上辺だけのもので、大人が言う本当の覚悟を持っていないから。しかし、沢田綱吉のリングに灯る炎は大人が放つそれを遥かに凌駕していた。

 

   +++

 

 出発前の出来事。

 

「イタリアってさ、今どういう所なの?」

 

 マフィア関係者であり日本に避難して来る少年少女達の顔写真が貼られた書類に目を通しながら綱吉はユニに問う。

 

「どう、とは?」

「日本が平和…………とはとても言えないけど避難する以上、イタリアよりはずっとマシだとは思うんだ。だから事前に知っておきたくて」

「…………先ず前提として、私や沢田さんの命を狙ってやって来るヒットマンは今の裏社会から見ても上澄みです」

「その理由は?」

「曲がりなりにもボンゴレの警戒網を突破してるからです。それだけなら素性を隠したりする等である程度は対策出来ますが……………」

「前例が参考にならなさ過ぎる。どいつもこいつも素性を隠すとか出来ないような、ううん、他人と協調する事が出来るとは到底思えないような狂った連中だった」

 

 本当にこの短い時間で起こったことが濃密過ぎる。

 普通の人なら一生に一度起こるだけでも胃もたれするレベルの濃密な体験をここ最近だけで沢山体験してしまったという事実に綱吉は思わず顔を覆う。

 

「と、なるとイタリアはもっと魔境だったりするのかな?」

「いえ、そういうわけではありません。むしろ最近の日本、というか沢田さんの周囲の方が魔境かもしれません」

「全く嬉しくない事実だ…………」

「本当に心の底からそう思います。話を戻しますが、イタリアでは死ぬ気の炎を使えるようになった人達で跋扈してます。逆に言えば、死ぬ気の炎を使えるようになったばかりの実力が伴ってない人達の方が多いんです」

「…………死ぬ気の炎はそんなすぐに使いこなせる様な力じゃない。オレはすぐに使いこなせたけど」

「沢田さんには超直感がありますからね。本来なら死ぬ気の炎を使いこなすには相応の修行をしなければいけません。リングの炎であっても同様です。けど、それをせずともリングに炎を灯せるなら使える強力な武器があります」

「こうして見ると匣兵器っていうのがどれだけ厄介な代物なのか、よく分かる。ああ、成る程…………そういう事か」

 

 死ぬ気の炎と匣兵器、この二つの有用性は綱吉もよく知っている。

 だがユニから説明を聞いてこの二つの本当の厄介な点を今理解した。

 元々居た強者が更に強くなる――――事ではない。それはそれで脅威だし綱吉自身、死ぬ気の炎と匣兵器を使わなくても強かった者と戦った事があるから分かっている。が、それ以上に厄介な点がある。

 

「実力の伴ってない人が沢山、匣兵器で武装して強くなったのか」

「――――はい。現在のイタリアではそんな人達で溢れています」

 

 本来ならば歯牙にすらかけないような雑魚であったとしても、リングに死ぬ気の炎を灯す事さえ出来れば当人の実力は兎も角強くなる。

 死ぬ気の炎は覚悟の力、それがどんなに歪んだものであっても炎さえ灯せば力となる。

 

「更に付け加えるのならチンピラの集団がリングと匣を手に入れて、下剋上と称してマフィアや要人に襲撃を仕掛けたり暴れまわってるのが今のイタリアです」

「…………バカなオレが言うのもあれなんだけどさ、そいつらバカじゃないの?」

「沢田さん。力を持っちゃいけない人というのは居るんです。そして、そういう人達に限って力を持って、何も考えず己の欲望のままに振る舞うんです。ちゃんと考える事が出来る人も居ますが、いきなり強大な力を与えられて自制出来る人はそう多くないんです」

「そっか…………」

 

 悲しげな顔をして語るユニに綱吉は目を伏せる。

 

「ここに来る人達、マフィアの関係者なんだよね」

「はい」

「きっと皆、オレと同じような目にあうんだよね」

「多分、いえ…………間違いなくそうなります」

「ならオレが守らなくちゃダメだね。守ってくれるのがオレみたいな頼り無い奴だからあまり嬉しくないかもしれないけど、守る人が居ないのは辛いからね」

 

 自分よりも強い相手と戦う恐怖を知っている。

 今までの自分の価値観では測れないような狂人を知っている。

 知らない他人を食い潰すことになんの躊躇いもなく実行する悪人を知っている。

 そして、どうしようもなく終わってしまっている人と戦って来た。

 自分の手を汚したこともあるし、目の前で死なれた事だってある。

 痛くて辛くて怖くて、気が付けば後戻り出来なくなっていた。

 その事実に後悔しているわけじゃない。自分で選んだのだから。

 でも、ここに来る人達は違う。

 マフィア関係者であったとしても、マフィア関係者であるからこそこれを知らない。知っていても自分で体感していないかもしれない。

 

「沢田さん…………」

「一応言っておくけど打算もあるよ。ここでボスが命を張らなきゃ皆ついてきてくれないだろうし」

「辛くありませんか?」

 

 ユニのその言葉に綱吉は一瞬黙り込む。

 少しの時間、本当に1秒にも満たない僅かな時間で考えて回答する。

 

「頑張るだけだよ」

「…………そうですか」

「そろそろ時間だし準備しなくちゃ。オレ、先に行ってるね」

 

 綱吉はそう言うと書類を纏めてから立ち上がり外に出る。

 その後ろ姿をユニは悲しげな目で見ていた。

 

「私はきっと、地獄に落ちますね」

 

   +++

 

(本当、何やってるんだろうな)

 

 右手が嵐の炎によって傷を負い、じくじくとした痛みが綱吉の神経を伝って脳を刺激する。

 嵐の特性である分解が人体に作用すると勝手に崩壊して傷が発生する。

 大空の炎の特性ですぐに打ち消したが、それでも痛いものは痛い。その痛みが綱吉の思考を元に戻す。

 

(かっこつけてるってわけじゃないけどさ。ダメツナのオレがやったってあまり意味ないだろうに)

 

 こんな所で命をかけて見栄を張ったところで、並中での学生生活を見れば失望される。

 はっきり言ってしまえばこんなのは無意味な行いだ。

 期待されてる分、失望される反動が強いだけだ。

 

(何でこんな事をやってるんだっけ?)

 

 リングに死ぬ気の炎を灯しながら綱吉は前に一歩踏み出す。

 

(そうだった――――オレが守らなくちゃ、誰も守らないから)

 

 マフィア関係者といえど命の危機に晒される事なんて滅多に無かっただろう。

 仮にあったとしても、恐ろしい敵が命をかけて殺しに来るなんて経験はしたいものじゃない。

 ユニだってそれで避難した。避難して、大怪我を負った。

 幸いなことにその傷はもう完治したけれど、その時に見た彼女の弱った姿が脳裏から消える事は無かった。

 

「さて、殴り飛ばされる覚悟は良いか?」

「く、来るなぁ…………!!」

 

 恐怖に顔が歪んだ蝉人間は綱吉に向かって嵐の炎を噴射する。

 それを大空の炎で打ち消して前にまた一歩踏み出す。

 修羅開匣によって増した防御力も、嵐の炎の鎧も、向上した身体能力その全てが今の沢田綱吉を遥かに下回っていた。

 加えて心が折れた今、負ける通りは無い。

 

「まあ、でもこのまま殴ったら痛いのは事実だ」

 

 そう言って綱吉は腰に付けていた白いⅩと装飾された黒色の匣に死ぬ気の炎を叩き込む。

 中から出て来たのは恭弥が手に入れた雲ハリネズミ(ポルコスピーノ・ヌーヴォラ)と同時期に手に入れた武器タイプの単純な匣兵器。

 

黒籠手(ダークガントレット)

 

 大空の炎が灯った黒色の無骨な籠手が綱吉の右手に装着される。

 

「これで痛みを気にせずお前を殴れる」

「っ、クソが…………ッ!!」

 

 蝉人間は先程雲ハリネズミによって吹っ飛ばされた窓から外に飛び出し、逃げようとする。

 その後ろ姿を睨みつけながら綱吉は黒籠手に死ぬ気の炎を収束させ、拳を振り貫くと同時に開放する。

 

「ストライクアクセル!!」

 

 黒籠手から大空の死ぬ気の炎の炎塊が放たれる。

 その速度は蝉人間の飛行速度を遥かに上回る回避する余地を許さない。

 

「ち、ちくしょぉおおおおおおおっ!!」

 

 背後に迫るストライクアクセルの一撃に蝉人間は死ぬ気の炎で防ごうとする。

 しかし苦し紛れの行動が実を結ぶ事無く、大空の死ぬ気の炎は蝉人間を飲み込んだ。




もしこのツナの前でユニちゃんが死んだらどうなるんだろうね?
大丈夫ヒロインだから殺さないよ本当だよ。

ちゃんとくっつけるからそこだけは信じて。
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