魔法少女、遊撃隊発足
さて。私は魔法少女として戦うか否か悩む時間を頂いたが、実のところ、なる他ない事は連さんやマーチから聞いての通りなのはわかっていた。
何故、ではハイなりますと言わないのかというと、覚悟が足りないからというほかない。
何か、何か最もたる決意を抱ける理由がほしいのだ。自分の身を守るためというと、たしかに重要な理由に足り得る。だから十中八九なる訳なのだが、なんか、ほしい。
「で、面談は以上となります。何か質問はありますか?」
「あの……本当に、魔法少女って公務員として採用されやすくなるのですか?」
「公務員として採用されやすくなるとかではなく、魔法少女そのものを職業とする場合、公務員として雇うことになります。過去の事例としては、最も長く就かれてる藤原様が、就職先として魔法少女を選択なされました」
そう。最もたる理由。それは、今後の将来設計であった。え、公務員として雇ってくれるんですか。ちらりと見た月給に目玉が落ちちゃいそうになりました。待遇が良すぎる。
その上、大学の中退時の学費も補助があるそうだ。上手い話すぎて笑いが出る。
なんでも、里見さんが大学中退で魔法少女になられたとかで、そういうアフターケアをしっかりサポートしているらしい。ただ、経歴上どうしても高卒からだそうで、大学生活を続けたい人にとってもそうだが、相談してバイトとして雇えるそうだ。まぁ時給は最低賃金になるわけだが。
ともかく、その待遇の良さに私はキリッと良い顔をする。これは、なるしかないのでは?
「なお、途中で魔法少女を辞められて、市役所勤務に就かれた方もいらっしゃいます。前職がこの職種であると、転職にも有利ではありますね」
「正社員になります」
二つ返事どころか、一つ返事で魔法少女になってしまった。
面談会場から出た私は、なんだか高級ツボをかわされたような感覚を覚えたからか、微妙な顔をしていたそうだ。というのも、入り口にて連さんが待っていたようで、一、二言目がこれだったのだ。
「お疲れ様です。何だか納得がいっていなさそうですね?」
「はい……何だか、ノリと勢いに任せて目の前の餌に飛びついてしまった気がして……」
「まさか、その場で魔法少女になるとは思わなかったよ。もうちょっと考えても良かったんだよ?」
連さんは苦笑してまぁ、そういうこともあるかと肯定してくれた。だが、ちょっと考えてほしい。今就職難な時代であり、バイト生活に追われる私は授業もボロボロである。なんなら、今日もバイトを休んでいる。そのうち首になりそうだ。
そんな危機的状況下に私は居るのだ。それはもう目の前の餌に齧り付き、なんなら食い尽くす勢いで我武者羅に咀嚼しますとも。その上で釣り上げられても満足だろう。
「しかし、これから君が魔法少女として活躍するのか」
「なんだか不思議ですよね」
不思議どころの話ではないが。仮に、魔法少女という職業が一般的にあったとしても、少女とつくからには男がなれる職業ではないはずだ。故に、何故こうなったのか、解せない。
それは連さんも思っていたようで、先程から苦笑しかしていない。何なんだ。もはや私の顔を見るだけで苦笑してるんじゃなかろうか。
「次は魔法力と戦闘力の測定だよ。魔法少女として活躍すると決まったからには、自身がどれほどの力があるのかを知っておかないとね」
「なるほど」
そう言って、次の施設に案内される。その時の表情もどこか苦笑気味である。顔か? 顔面偏差値が低いからか? 私はたしかにモブ顔だが、そこまで苦笑するか。ほっとけ、この野郎。
などと、卑屈になってみるものの、事実私が今日から魔法少女になります、よろしくお願いしますと魔法力、戦闘力測定施設の職員に言い放ったときの顔は正直に物語っていた。
何言ってんだこいつ。まさにその一言に尽きる。
いや仕方ないじゃん。なっちゃったもんはさ。
「ではまず、魔法力の測定からしましょうか」
まるでジムのインストラクターさんのような格好をしたお姉さんが機械を撫でた。筒状の物々しい機械ではあるが、安全性は大丈夫なのだろうか? と、心配になる私をよそに、お姉さんは準備をする。ブゥゥンと重低音のある起動音と同時に、筒内が緑色に点灯する。
「これは?」
「魔法力の測定器具ですが?」
なんで不思議そうな顔をしてるのですか。これどう見ても魔改造手術装置化何かでしょう?
入ると禍々しくも怪しい光が内部を照らし、時折噴出する水蒸気がスチームパンクチックであった。これ、私シ○ッカーにならない? イ゜ー! とか言わない? 大丈夫?
しかし、私はそれに入り込むしかなく、お姉さんの手の暖かさを背に感じながら、押し込まれるのであった。うへへ、ちょっとドキッとした。
でも今もドッキドキである。ふざけるない! どう見ても罰ゲームか秘密実験のモルモット状態だろこれ! 密閉された空間がそれほど恐ろしいものとは思わなかった。
「では、測りますねー」
そんなお熱測るみたいな軽い感じで始めます? ガチャンとレバーを下ろすと、水蒸気が一気に全身を襲った。絶対これ軽い気持ちで測定するようなやつじゃないよぉ!!
「ノォォォオオオオオオオ!!」
外国人のようなリアクションを取る私。笑ってくれ。めっちゃ怖かったけどよく考えると水蒸気だけですこれ。一種の蒸気サウナである。アトラクションと言ってもいいだろう。
そう、ただの水蒸気にビビり散らしていたのである。
「え!? え!? 大丈夫これ!? アヒィ! なんかかかりましたよこれ! ホァォ! 大丈夫ですか!? 大丈夫ですよ!? 大丈夫じゃないんですけど!?」
自分が何言ってるのかはわからない。ただ、何かヒヤリとしたり、何かが抜けたような感覚を覚えて全力で気味悪がる。小さい子なら絶対泣いてるって! 私が泣いてんだもん! 許して!
「木倉くん、とりあえず変身しなさい」
「ひえぇ!? へ、変身ですか!?」
そんなときである。私のマイホープ連さんがこの場を切り抜ける方法を教えてくれた。そうか、魔法力の測定なのだから、変身しなければならないのか。そういえば機械が物珍しすぎてインストラクターさんの話まっっったく聞いていなかった。
そう。敗因はそこである。人の話は話半分で聞くものではないという教訓を、私はこの場で得たのだった。
「なんかもう何某かよ、燃えろ!!」
完全にヤケでそう言い放ち、ぷりちぃな魔法少女の私へと変身を遂げる。すると、怪しい機械からビーッというビープ音が鳴り響き、扉が開いた。やっと出られる。もう私は閉所恐怖症を患ってしまったかもしれない。
外に出た私は、肺いっぱいに新鮮な空気を吸った。室内ではあるが、半年ぶりにシャバの空気を吸った人のような気分を味わう。全く、死ぬかと思った。そう思いつつも私は周囲を見やると、腹を抱えて倒れ付すインストラクターさんと、呆れた表情に変わってしまった連さんがそこにいた。な、何なんだ。私がどうしたというのだ。
そう。懇切丁寧に安全性を説いてくれたというのにも関わらず、私はただの水蒸気(厳密には違うが、全く体に害はない)に対してビビっており、あまりの馬鹿らしさにインストラクターさんは笑い転げていたのだった。
恥ずかしいのである。私はその恥辱にさめざめと涙を流す他なかった。怖かったんだもん。聞いてなかった私が10割悪いが、怖かったんだもん。
モブ男24歳がこんな口調をしている所はさぞ気色悪いことだろう。でも、幼児退行化してしまうのも無理はなくないか。体が溶けてま゜ーしか言えなくなってみろ、恨んでやるどころではないだろう。
それほどまでの恐ろしさに対し、結果はサクッと帰ってきた。まるで健康診断のようであった。
「えっと、ふふ、つまりはですねふふふ」
ちょっと気色悪い方向に壊れてしまったインストラクターさんが言うに、私は規格外の魔力を保有するらしい。機械が叩き出した数値は正常ではなくオーバーフローしていたそうで、おおよそこんなことは初めてなのだそうだ。
技術班のガイド達も現れ、一時的にもふもふ動物園と化した部屋だが、彼らも一様に規格外だと話してくれた。恐らく、私が魔法少女になれた理由としては、その膨大な魔法力が私をコーティングしているか、あるいは完全に身体を変えているからなのだそうだ。
「つまり、魔法力については申し分はなく、また、変身については前者ならば体に害はありません」
「後者ならどうなのです?」
「そちらは、正直なところ不明ですね」
恐ろしいことを半笑いで言うな。まだ引きずってますね? しかし、完全に体を変えているならこの視線の低さも納得できる。コーティングで背が縮むだろうか。
「さてと、次は戦闘力だから、そのままの格好で次の会場に行ってね」
「分かりました」
凛とした声を響かせ、私は返事をする。何ともたまらない声である。もはや私が神話上のナルキッソスそのものだとでも自称できるくらいには、今の自身が可愛く美しいと思える。行動と言動が伴わないのは目を瞑っていただこう。
しかし、そんなこんなで次の会場へと歩き進む連さんと私は、なんとなく視線を感じた。
「あの。何か視線を感じるんですけど」
「まぁ、新しい魔法少女だし、美人だしね。何より男の子がそうなるとは思わないだろう?」
「そう、ですね……」
うんまぁ、今の私が来日したパンダなのはわかった。物珍しいからと見やがって、見世物じゃないぞ! ただまぁ私の中の男の子ならチラチラ見ながら作業するだろなと思う次第である。わかるぞ、男諸君。いつだって我々は淡い童貞の性を持つものだ。尚、彼女持ちは吊し上げ対象だ。
「さてと、ついたよ」
「ここが、戦闘力測定施設……」
そこでは、数名の魔法少女がマジカルなステッキより魔法を出したり、何某かの武器を持って戦っていた。甲高くも力強い声が室内に響いている。とても華やかな戦闘の様だった。
すると、またもジムのインストラクターなお兄さんが現れる。ジム感覚で戦闘訓練をしているのか。
「君が新しい魔法少女だね。話は聞いているよ」
「よろしくお願いします」
そう言うと、私はこちらへと中に案内される。その先には、ミラーっぽく作られた何かがおいてあり、上から釣り降ろされるかたちでそこにあった。どうやら、3Dに動くことを想定された訓練場らしい。
「さて、ではあれと戦ってもらうよ。怖いことは特にないから安心してね。ただし、実際の戦闘はもっと恐ろしいから、それを想定した動きで対応すること。ま、あくまで測定だから、気軽に頑張ってね」
「う、うす」
「何か男の子っぽい返事だね……」
うるせぇ男の子だって言ってるでしょ。
そうして、連さんとインストラクターさんが離れると、機械が始動する。私は同時に、意識を集中させた。アレラと戦うのだ。私の苦手な暴力的行為を繰り広げて。
思えば、なぜ苦手なのかを思い出した。殴る蹴るの痛みを受けたことがある。今もまだ実家で学生生活を送る妹との喧嘩である。そこで、不甲斐なくもボコボコにされたことから、私のトラウマとなっていたのだ。
しかし、それとはもう決別せよ。ここからは仕事の時間である。そう考えると、割と頭の中はスッキリしていた。来るなら来い。全力で相手になってやる。
ガコォンという音とともに豪速で相手が動き出した。前言撤回である。怖すぎんだろ! 来ないで!!
「ひぇぇぇえええ!」
そして、恐ろしさのあまりに突き出した拳が、その標的を貫いた。瞬間、的は砕けちった。なにこれ脆い。僅かに確かな感触があるものの、まるで豆腐を殴り潰したような有様であった。
すると、もう二三体敵が現れると、私は臨戦態勢を取る。奴らは空中を動いていた。あれとはどうやって戦うのだ? 手をこまねいていると、スピーカーからマーチの声が響いた。
「ミキ! 飛ぶのみゃ!」
「飛ぶのですか!?」
「ジャンプして、空中を蹴って方向転換みゃ!」
「んなことできるかぁ!」
実際にやってみた。できちゃったのであるこれが。正確には空中ではなく、空中に自動で展開された魔法陣を蹴ったのだが、まさかこれほどうまくいくとは思わなかった。そして、そのまま殴りかかると、これまた簡単に敵は粉々となった。
続けてマーチが叫ぶ。
「ミキ、戦闘では色々想像すると戦いやすくなるみゃ! 着地も、優雅に降りるイメージをすれば人気者の淑女になれるみゃ!」
「別にどうでも良いてすが!?」
などと言っている場合ではない。着地、どうしよう。優雅なイメージと聞いて想像をするが、それよりも早く頭に浮かんだのは、少年漫画のヒーローであった。
瞬間、ドンッという強い振動を伴う音とともに、私は着地をしていた。三点着地である。もはや少女漫画とか、幼児向けのアニメみたいなそれではない。バトルモノの少年漫画だこれじゃあ。
「えぇ……」
「な、なんで不服そうなんですかマーチ! 格好いいでしょう!?」
まって。格好いいでしょう? お前の想定通りにはならなかったけど、格好いいでしょう??
そう心で抗議するも、的はなおも動く。マーチの言うとおり、想像するとうまく戦えるのだろうことは理解した。私の中の、封印されし中学2年生が顕在化する。お前、黒歴史だから二度と現れてほしくなかったけど、恐らく戦闘には、妄想にはもってこいの私だ。
「まぁいいです。何回でも、クレバーに抱きしめてあげましょう」
そう言い放ち私は飛びかかる。さきほどよりも速く移動し、相手の速度を上回る。想定していたよりもずっと早く攻撃を繰り出し、これを撃滅した。自身のパンチがリボルバーの弾丸のように貫いて、粉々にする。これは、何とも言い難いことなのだが、強過ぎませんか。
「しかし、接近攻撃しかないのですか……」
「そうみゃ。ミキ、魔装具がないんだみゃ。いうなれば、あれ全身がそうなんだみゃ」
何だかマイク越しに話されている。だが、私は気にせず最後の目標に飛びかかると、ライダーキックをかまして破壊する。着地は地面を滑るようにして勢いを流し、正面を捉える。地面は滑れるような場所ではないので、魔法陣がうまく自身の足元に生まれてそうさせていた。体が軽い。何だか天才アスリートのような挙動ができるようになっていた。
「終了です。お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
軽く流した汗を拭いつつ、出入り口へと向かう。そこには、目を輝かしたインストラクターさんと、微笑む連さんと、ドヤ顔のマーチがいた。
マーチ、君どこにいたのよ。
「結果についてですが、申し分ない戦闘力をお持ちです。前線で戦えるレベルだと判断いたしました」
努めて冷静にこう答えるインストラクターさんはしかし、熱い期待の眼差しを私に向けていた。なんというか、私その目苦手です。昔から緊張するようなことは苦手で、極力避けていた私だ。期待の眼差しなんてものは、吸血鬼に対する日光のようなものである。もはや凶器だ。
「この分ならすぐにでも担当区に配備されても申し分ない結果を出せますね」
「確かにそうでしょうね」
しかし、残念なことに、君が期待するようなことはない。なぜならば私は一つ返事で遊撃隊とやらの発足メンバーになってしまったのだから。正直なところ、不安しかない。各地区に担当として割り振られたほうが守る範囲も仕事の範囲も分かりやすいというものだ。しかし、遊撃隊は現状、謎すぎて何も想像がつかない。何もわからないというのは恐怖でしかなかった。
故に不安なのだが、君はきっとそこまで知らないのだろうな。前線は勘弁してほしいのである。
「まぁ、結果としては申し分ありません。魔法力は再度調査の対象とはなるのでしょうけれど」
「後は、支部から司令が来るタイミングでそれに従ってもらう形かな」
そう言うと、QRコードを差し出してくるマイホープ連さん。なるほど、そうやって連絡手段を得るわけか。スマホでそれを取り込むと、新しいアプリケーションが作成された。どうやら、見た目的にはデリバリーバイトのマッチングサービスのような風貌を醸し出したアプリである。怪しさ満点ではあるが、偽装なのだろう。会員番号を頂いたのでそれを登録し、私は晴れて魔法少女となった。
なんというか、とても機械的でかつ現代的だ……。夢もへったくれもない。事務的なそれに逆に面白くなってしまった。
「随分現代チックでしたね」
「ファンタジーチックなものよりはUIがしっかりしているから良いだろう? 分かりやすくなければ、急行できないこともあるしね」
それは確かに。
一理あるなと納得する私。すると、私のスマホが震えだし、ポップアップに指令の連絡が入ったのを確認した。なるほど、確かにバイト感覚にできるし、一般的な仕事として偽装する形を取れている。凄いな。
指令の詳細を知るべく、私はアプリを開いて確認した。
「指令が来ました……ここどこです?」
しかし、場所がわからない。聞き覚えのない名前だなぁと考えていると、マイホープ連さんが青ざめた。どうなされたので?
「……幹之助くん」
「は、はい」
「パスポート、ある?」
「……はい?」
以前、「それはもう目の前の餌に齧り付き、なんなら食い尽くす勢いで我武者羅に咀嚼しますとも。その上で釣り上げられても満足だろう。」なんて自分でも言っていたが、これはないだろう。
そう、私の目の前には白銀の世界が映し出されていた。いや、そこにあった。真っ只中に自身がいた。
「なんでやぁぁぁああああ!!」
私は今、ロシアにいる―――
誤字脱字ご感想いただけると幸いです。