魔法少女遊撃隊   作:黒助さん

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楽しくなってきました


魔法少女、晩餐

魔法少女、晩餐

 

 

 さて。

 広々とした机に並べられる食卓を前に色々と考えがまとまらないが、端的に言うと、私は死にかけていた。今、私は厳つい顔の御父様と御母様、その娘さん、そして連さんと私とで食事を楽しんでいます。正直味がしません。

 助けてと叫びながら空港へ逃げ込む準備は整っているものの、どうだろう。到着する先は土の中か海の中になりそうなほど、御父様はこちらを睨んでいた。いや、にこやかなんだ、表情は。だけれどその瞳の奥には明確な殺意が滲み出ており、私は地蔵のように固まってしまっていた。助けてほしいです。

 

『美味しい食事をご用意いただき、感謝します。郷土料理の手作りをいただけるとは』

『いえいえ、ご遠慮なさらず、食べてってください』

『……』

「……」

 

 のんびりと、連さんと御母様は食事を楽しんでいますが、私は割と限界です。無言でこちらを見るのはつまり、絶対に逃さないと暗に言っているようなものだ。

 

『あなた、どうしたの? ミキノスキーが気になるの?』

『そうだね。俺としてはこいつがエレーナを抱えてたのはなぜか、凄まじく気になるかな???』

「ヒェッ……」

 

 わからない。とても良くわからないのだが、にこやかにこちらを見ていらっしゃる……! と、殺られる!

 しかし身動きの取れない私は、とりあえず夕飯を完食しにこやかに笑っておく。分からないならわからないまま笑っておけばなんとかなるのだ。あいむじゃぱにーず。言葉が通じない今、この曖昧な笑みこそ無敵の盾である。

 

「何を笑ってるんだ? 馬の骨よ」

「……いえー、あー、ニホンゴガオジョウズナヨウデ」

 

 無敵の盾、崩壊である。

 たしけて。死にたくはないのである。

 そこに、先程まで黙っていたお嬢様、エレーナが口を挟んだ。

 

『お父様、何を話しているのかしら?』

『いやなに、魔法少女と聞いていたが男の子だとはなと、驚いたと伝えたのだよ』

 

 何かを喋っているが、おそらく嘘である。にこやかに会話する美しい二人の光景にしかし、かすかに感じ取れる殺気がこちらの肌にチクチク刺さるのだ。絶対嘘である。

 

「連さん……本当に誤解は解けているのですか?」

「はず……だけど……?」

 

 おいイケメン。疑問を持たないで。自信を持って。お願い。などと、そうして楽しい食事を済ませた私達は、お暇して予約していたホテルへと向かう予定である。長居は無用ではあるし、早急にここを離れたい気持ちがあったが、しかし、聞いておきたいことがあった。

 

「んんっ……えっと、アンドレエヴィチさん、聞きたいことがあります」

「なんだ? 馬の骨」

「うま……えぇと、私がここに来る前に、私達は襲われたのですが、あれは何者ですか?」

「襲われた!? ……娘にたどり着いたか」

「あの感じ、私とエレーナさんが狙われていたように思えましたが……何かご存知ですか?」

「……うむ。貴様の言うとおり、あれらは娘や、他の魔法少女を狙っている」

「なっ……!?」

「なぜですか?」

「彼等は政府に隠された秘密を暴く秘密組織、『赤き剣』と呼ばれている。日夜革命だの何だのとくだらん理想を立て、我々の裏を、ひいては国家転覆を狙うけしからん連中だ」

 

 恐らくだが、そこには暗殺やらなんやらと、おそロシアな黒い匂いがてんこ盛りなのかもしれない。実際のところはわからないが、ともかく、どうやら私達は所謂政治犯団体に狙われているようであった。なんとも恐ろしい。世界を救ってるだけなんで勘弁してほしいのだ。

 

「まぁ、それはさておいて。連中はどうやら魔法少女という世界の秘匿についても嗅ぎつけているようだ。世界中にこの事実がさらけ出された日には……」

「想像もしたくないですね。人々の不安を糧に、連中はより強大になってしまいます」

「なるほど」

 

 なるほど?

 つまりは、バレることで混乱を招き、人々の不安や恐怖、暗い感情が集まりやすいと言うことか。

 

「そうだ、連。よって、私達がするべきことは2つ。一つが近日来ると言われているミラーの大軍を迎撃し、人命を守ること。もう一つが魔法少女の絶対保護だ」

「前者はそのために彼を連れてきましたが、後者は準備がいりますね」

 

 難しい顔をする連さんだが、要するに私達は、人間に捕まらずにミラーを撃退していかなければならないのだ。なんというか、四面楚歌というか……人と戦うことも覚悟しなければならなさそうであり、流石にうんざりである。いざとなれば魔法少女に変身し、記憶を消して逃げると良いと話しているが、私としてはその状況自体が悩みの種である。

 対人戦は嫌だ。暴力的なことはノーセンキューである。

 

「とにかく、支部と連携し、保全を優先できる環境をお願いしておきます。そちらも連絡のほど、お願いします」

「うむ。ではそろそろいい時間だ」

 

 そう言うと、執事さんがそばに立ち、一言話すと出口の方へと向かっていった。どうやら、車を先に回してくれるようだ。流石、本物……。

 ふと、メイドさんはいないのか気になっちゃう私。正確には私の中のオタク君が電気的刺激を受けたように反応した。目だけでちらりと見回すが、どうやらこの部屋にはいなさそうである。残念。

 そうしてメイドさん探しをしていると、ふとお嬢様のミーシャさんがこちらを見続けていた。何何、そんなに眺められると照れるぞ、私が。もしくは御父様に沈められてしまうぞ、私が。

 

「連。いや、遊撃隊の二人よ。此度の応援、感謝する。ようこそ、ロシアへ」

 

 そういって、御父様は私達を車へと案内した。そうして私達は、極寒の地に招待される初日を、それはもう満喫したのであった。1言叫んでも良ければ、お家に帰りたいと叫びたいままに、私は車へと乗せられるのでした。

 

 そして、車を出そうとした時である。お嬢様がこちらに向かって駆け寄ってきたのだ。何か伝えることでもあるのだろうか? そう思い、窓を開けようとすると扉を開かれた。

 

「へ?」

『お、お嬢様。何をなさっているので?』

『見送りに付き合うわ。歓迎があれじゃあ可愛そうでしょう?』

 

 にこやかにそういう彼女にドキドキしつつも、座席を譲る私。本当に入ってきた。何がしたいのだろうか。

 

『お気になさらなくてもよろしいのですよ? それにもう夜ですし』

『いいのよ。爺や、出してちょうだい』

『ふぅ、御父様に怒られますよ』

『大丈夫よ。もうそんなに子供じゃないのだから。いいわよね?』

「ハハッいえすいえす」

 

 よく分からないのでとりあえず肯定しておこう。彼女はくすりと笑うと、私のとととと隣に!?

 

「はぇ!?」

『どうしたの? 急に姿勢が良くなって』

 

 非常に、非常にドキドキする。またも美少女が私の隣に座るという、一見どころかどう見てもギャルゲそのものの展開に心拍数は跳ね上がった。私は瞬きで連さんに応援を求む。このままじゃ私の中のオタク君が息できない!

 

『彼は女性への耐性がどうやら低いようなんだ、お手柔らかにね?』

『ふぅん……?』

 

 なんですかね、その挑発的な視線は。流し目で得意げに嗤う彼女に、冷や汗が伝う。いやちょっとこちらにより過ぎじゃないですかね?

 

『ねぇ、ミキノスキー?』

「ミキノスキーです」

 

 いや違いますけど。食卓にて自己紹介を済ませたとき、どうやらそれっぽい名前に変えられてしまったのだ。今の所ロシアの方々は私をミキノスキーと読んでいる。にしても近くない? 寄ってくるので少し反対側へとズレる。

 

「あー、僕が翻訳するよ」

「あ、あ、ありがとうございます、連さん」

 

 苦笑する連さんに感謝しつつ、何が狙いなのかを聞き出したい私は、慎重に探りを入れる。これは、刺すか刺されるかの攻防なのだ。冷や汗が背筋に伝うのを感じた。

 

「ミキノスキーは、日本出身よね? どんなところなの?」

「えぇっと、平和な国ですよ。ただまぁ魔法少女がいるとは思わなかったのですが」

 

 寄ってくるので少し反対側へとズレる。話しながら距離を詰めてくるのは何なんだ? 何だか綺麗なお手手を太ももに這わせたりするもんだから、私は飛び上がって逃げ出す一歩手前まで驚いてしまったじゃないですか。移動中の車から飛び出すというのは流石に死ぬのでやめましたが。

 

「ふぅん? ねぇ、彼女とか、いるの?」

「はい?」

 

 遂に追い詰められた私。しかし、どういう意図なのかがまるでわからない。得意げな表情を浮かべる美女に、私は狼狽えを見せるのみである。彼女? girlfriend? Why?

 

「……い、いませんけど……」

「なら、知り合いに魔法少女は?」

「あー、2人とか、あと幾人か?」

「へぇ? 私はそんなに見たことがないわ。やっぱり、日本って魔法少女が多いのね」

 

 そういう彼女は少し楽しそうである。魔法少女の知り合いはあまりいなさそうな彼女は、少し寂しそうに見えた。そうか。寂しいのかもしれない。

 彼女は一人で戦っている。日本だって各地区に一人だが、狭い範囲での担当となる。とすると、隣町の魔法少女とは面識ができやすい。一方で、ロシアについては広い範囲となる。1つの市に一人とはいえ、2つの市に一人であったりもすると聞く。それだけ、ミラーの侵攻は少ないのだろうが、懸念事項が残るともいえる。

 そんな状況下なのだ。不安と、そして魔法少女の仲間に会えた嬉しさとか、あるのかもしれない。そう考えると私がその相手となることになんとなく申し訳無さを感じた。すんません。私、男です。

 

「で?」

「はい?」

「その子達と比べると、私のほうが美人でしょ?」

 

 前言撤回。この子、魔法少女の中で順位付けしたいタイプだ。女の子って怖い。

 

「えーーーっと、まぁ」

「あ、どうして即答じゃないのかしら? どうして目をそらしたのかしら?」

「へぁ!? なんでそんな近く!?」

『私を見て』

「んーーー!!」

 

 めっちゃ見てます! 顔を手で固定しないで! おててやわこいですね! 良い匂いしますね! 助けて!!

 

『そ、そのへんにしておいてあげないか?』

『あら? 残念。せっかくの玩具よ?』

『あ……あはは、感心しないよ……』

 

 そこで、連さんが彼女を止めてくれた。おかげで助かったというか、少しもったいなかったというか。ともかく、マイホープ連さん、てんきゅーです。

 

「やっぱり、アジア系の男性って幼い顔つきだわ。私と同じ、それか年上とは思えないもの」

「そ、そうなのか……」

 

 ……これは私の平均的なモブフェイスをディスられているわけではないよな? 訝しく思う私をよそに、執事さんが1つ咳払いをして話し始める。

 

『お嬢様。そろそろ目的地につきます』

『爺や、もう少し回り道しても良かったんじゃないかしら?』

『しかし、外は危険な状態です。御客人を危険に晒す訳にはいきません』

『……そうね。つまらないわ』

 

 何を話したのかはわからないが、彼女は私から離れると、ガラス窓に頭を預け、つまらなさそうに外の景色を眺め始めた。何某か注意されたのだろうか。その姿を見ると、やはり私の推測はあっていたのかもしれない。同じような魔法少女の仲間にそう会えなかったりしているのだろう。

 何か声をかけようか迷っていると、車が停止した。どうやら目的地に着いたようである。なんともタイミングの悪いような、良いような?

 

『それでは、ありがとうございました』

『いえいえ、御主人の命ですから』

『明日以降の作戦会議にて、またお会いしましょう』

『伝えておきます』

 

 一言二言会話をして、連さんは用意されたレンタカーに乗り込む。私もそれに続いて後部座席に入るところで、1つ彼女に声をかけた。

 

「あの!」

『なにかしら?』

「……また今度、遊びにいきましょう。魔法少女同士の仲間として!」

 

 女の子を遊びに誘うなんて人生で初めてである。少々こっ恥ずかしかった私は返事を聞かずにそのまま乗り込んで出発をする。すると、連さんはクスクスと笑っていた。

 

「な、なんで笑ってるんですか」

「いやぁ、あんな目にあっておいて、デートのお誘いをするなんてってさ。しかも、中学生のような反応だ」

「初々しい反応だったみゃ! みゃっみゃっみゃっ!」

 

 この野郎。

 とりあえず、カバンの中に手を突っ込むと、この私を嘲笑するUMAの頭をグリグリと痛めつける。ぎみゃーー! という断末魔が聞こえたかもしれないがただの幻聴だ。この野郎。

 

「べ、別にいいじゃあないですか……」

「ははは、悪い悪い。いやぁ、青春だなぁ」

「デートではありませんよ。ただ、なんだか寂しそうでしたので」

「優しいな、君は」

「離゛し゛て゛み゛ゃ゛あ゛……」

 

 そうして、私達はホテルへと向かうのだった。とりあえず、チェックインしたらもうめっちゃ寝る。心が疲れてしまったよパト○ッシュ……。

 

 

 

『ねぇ、爺や。彼は何て言ったのかしら?』

『また今度、遊びにいきましょう。魔法少女同士の仲間として、と言っていましたね』

『ふぅん?』

 

 執事から、幹之助が最後に言った言葉を聞いた彼女は先程と変わらず、外の景色つまらなさそうに眺める。だが、その口元は笑っていた。

 

『……ふふ、デートが楽しみだわ』

 

 その一言に波乱の予感を含めながら―――




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